第94話 化け物と呼ばれた男
大量のコボルト達は、連携して俺を攻めてくる。俺は、投石や爪での攻撃を躱し、コボルト達を斬り裂いていく。
連携して攻撃して来るが、刀を持つ俺の方が、コボルト達よりリーチは長い。だから俺は、油断していた。コボルトの蹴りを腹にまともにくらい、石壁に叩き付けられてしまう。
「グッ!」
痛みと衝撃で、呼吸が乱れる。
コボルト達の目が、蘭やアーレイを見ている。
「やらぜるがあああああああ!」
殺す、殺し尽くしてやる。
『━━━コロ━』
身体に力が入る。
痛みも薄れていき、自分の身体が嘘の様に軽くなる。俺は蘭達の前に立ち
「ごいやあああああ!!!」
吠える。コボルトのヘイトを俺に集める為に。
━━ドクン
刀が脈を打ったような気がした、刀から大量の熱気を感じ
「紅夜叉ああああああ!!」
刀身が紅く光ると同時に、頭の中に声が響く。
『トナエヨ━━フレアイグニッション』
「フレアイグニッション!!」
刀から大量の紅い炎を出し、残ったコボルト達を纏めて焼き払う。なっなんだこの威力……
「ふはっ! 危なかった。まさか、僕にまで攻撃が届くなんて思わなかったよ」
師匠が、笑っていた。
「いっ今のは、俺が?」
「洋一君の力と、刀の力がシンクロしたんだろうね。洋一君の、レベルが上がったから出来たんだよ。まさか彼奴と同じ技とはねえ。とりあえず、君は休憩だよ。これ以上続けてやると、君の中の者が暴れ出しかねないからね。自覚あるよね?」
不意に言われた言葉。さっきの紅い力はそうか、魔神の力か。もう漏れ出してるのか、ファンキー爺いの封印があるんじゃなかったのか?
「魔神の力ですか?」
「そう、あの紅い力だね。この空間じゃなかったら、邪神の一味に気付かれてたよ、気づかれた方が面白いと言えば面白いんだけど、今はちょっと邪魔だしね」
あのピエロ野朗か……。
「師匠、師匠なら邪神を倒せるんですか?」
「クラスによるかなあ? 制限を解除すれば、創造神でも道連れにできるよ。創造神以下なら、余裕で勝てるんじゃないかな?」
ファンキー爺いを道連れにすれば倒せるってだけでもすごいな。
「あれ? じゃあ俺、対神に関しては師匠より強い?」
「へえ。それは面白い」
師匠から放たれた殺気で、息が止まりそうになる。冷や汗と震えが止まらない。
「まだまだだね」
師匠はニヤリと笑う。怖いよ!
「ぶはっ! 死ぬかと思った……。やめてくださいよ!」
「葵、私がアーレイを庇わなかったら、アーレイが余波で、死んでたよ?」
蘭がアーレイを庇う様にしているのは師匠のせいか。
「あれ? やり過ぎたか、ごめんごめん。さっきの洋一君の一撃で、スイッチ入りかけちゃった。テヘペロ」
アーレイを見ると、顔面蒼白になっている。大丈夫かな?
「アーレイ大丈夫か?」
「おっ」
「おっ?」
俺を見ながら怯えている。さながら、化け物を見た様に。
「御主は、化け物じゃ! 御主もそこの変態も化け物なのじゃ! 怖いのじゃ! ここから出して欲しいのじゃ!」
化け物か、まあ化け物だろうな。身体は子供にされて、魔神の呪いを受けているんだから、人間と呼べるかどうか、怪しいもんだしな。
「アーレイ! 洋一を悪く言わないで!」
蘭が庇ってくれるが……
「アーレイ? ごめん俺「ひっ近寄るな! 化け物! 化け物! うわああああん!」
アーレイは俺に向けて、石を投げてきた。頭に当たり血が流れる。頭の傷よりも、アーレイに化け物呼ばわりされた方が辛く、痛い……。
「ふう。これ以上は邪魔だね」
師匠は指を慣らし、アーレイをその場から消した。
「師匠、アーレイは?」
「化け物呼ばわりされて、傷つけられても彼女の心配かい?」
「いやまあ、その……」
アーレイが悪い訳じゃないからな……。
「洋一? 大丈夫、きっとアーレイも分かってくれるから」
「蘭ちゃんも、1度退出だ」
師匠が指を鳴らすと、蘭も消えてしまう。
「洋一君、君がこれから言われるかもしれない現実の1つだ。何故なら君は魔王の加護を持っていて、それに加えて魔神の因子が身体に入っている。君だって街中に、爆弾を持ったテロリストがいたら怖いだろ? それと同じ。わかるよね?」
師匠の厳しい指摘……だけど爆弾を持ったテロリストがいたら俺でも逃げ出すな。
「さあどうする? これから先、もっと酷いことを言われるかもしれない。護るべき人に裏切れて、殺されるかもしれない。それでも君は人を護るのかい?」
俺は師匠の言葉に、答えが見つからない。簡単な問題ではない、きっとこの話しは師匠が通ってきた道のりだから。
「愛すべき人に殺されるかもしれない、君の愛すべき人が、自分の大切な者を殺すかもしれない。そんな時、君は選ばなければならない」
師匠はどれほどの厳しい道を、歩んできたんだろう。
「それでも決めるのはいつも自分自身さ。だから選んだ道からは逃げられない」
師匠の言葉が胸に刺さる。
「俺は……。化け物でいいです。皆んなを護れるなら、俺は化け物になりますよ」
そうだ俺は化け物でいい、蘭を皆んなを護れるなら。
「洋一君も、彼奴と同じ道を選ぶんだね。だけどきついよ? 君が想像する倍以上はね。さて蘭ちゃんを戻そうかな。向こうで暴れたりしたら大変だしね?」
蘭は、暴れないと思うけどなあ。アーレイに対して、かなり怒っていたけど。
「このわからずや!」
蘭が戻って来るなり、怒声をあげた。
「らっ蘭? その大丈夫か?」
蘭は俺と葵を見て、ため息をついた。
「いきなり戻さないでください」
蘭の機嫌がめちゃくちゃ悪い。
「ごめんりんこ! 蘭ちゃんが、暴れそうかなって思ったからね。こっちの話も済んだし」
蘭がキレてる理由は、アーレイが説得に応じなかった事と、師匠が説得の最中に無理やり戻したからだな。
それにしても蘭は感情豊かになったな、言葉が通じる様になったからか、余計に強く感じる。
「蘭、ありがとうな。アーレイを許してあげてくれよ? 怖がるのは当たり前だよ。アーレイは、親を魔神の因子で無くしてるからな。それに魔神の力を使う俺を、みちゃったしね。あれ? そういや、アーレイのお母さんって、なんで生きてんだ?」
「今更!? って洋一は、お化けが怖くて、ちゃんと話しを聞いてなかったか……。あの人はアーレイの義理のお母さん。フェネシアさんは、アーレイのお母さんのお姉さんよ。子宝に恵まれなかったから、親を亡くしたアーレイを引き取ったたみたいだよ」
めちゃくちゃ重い話だった……なんとか明るくしなければ
「おっお化けなんて怖くねーよ! 勘違いしないでよね!」
「男のツンデレって、殺したくなるね」
師匠のツッコミは、怖過ぎんだよ!




