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鷹と一緒に異世界転生!〜相棒任せの異世界大冒険〜  作者: 貝人
第五章 怪異が統べる妖の国
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第93話 本当の勇者はもういない


 俺達は、師匠に試練のキューブの中に放り込まれた。

そこは洞窟だった。暑くもなく寒くもない、何故か光がある洞窟。


 辺りをキョロキョロと見回していると、師匠が目の前に現れた。


「先ずは、ゴブリン100匹を刀だけで倒してね。後ろにいる味方を護りながら」


「味方って蘭? 蘭はもちろん護りますけど」

 

 師匠が俺の背後を指差す。


「ここは何処なのじゃ?」


「「アーレイ!?」」


 振り返ると、アーレイがいた。何故? まさかアーレイを護りながら戦うのか!?


「粗チンが吸い込まれて、びっくりしてたら……そこの変態に、いきなり投げ込まれたのじゃ!」


 アーレイが、師匠を指差し怒っている。俺を盾にしながらじゃかっこがつかないぞ。


「しっ師匠……なんてむちゃくちゃな……」


「あはは、洋一君には護りながら戦う難しさを覚えてもらわないといけないからね。それじゃスタート!」


 師匠が剣で地面を叩くと、魔法陣が現れ、懐かしのゴブリン達が大量に出てきた、その数は100を超えている。


「「「「「「「ぐぎゃっ! ぐぎゃっ!」」」」」」


「ぐぎゃっ!」


「洋一、真似してないで早く刀を構えなよ! アーレイを護りながら戦うんだからね!」


 ゴブリンの真似をしてたら、怒られた。前を見るとゴブリンの山。ゴブリンの後ろには師匠がいて、奴等に退路は無い。だからか、全員がこっちに向かってくる。


「わわわわわ、粗チン! どうするのじゃ!」


「アーレイと蘭は、もっと後ろに下がってろ! ゴブリン狩りじゃああああ!!」


 俺は半ばヤケクソになりながら、刀を抜き放ち、突撃する。以前の様にグロいからと、戸惑っている余裕が無い。


 1匹目を刀を横なぎに、振るい斬り裂く。迷わず首を飛ばす。次々と襲いくる、ゴブリン達を斬り裂いていく。身体はゴブリンのドス黒い血で濡れていく。


 斬る、突くを延々と繰り返していくと、ゴブリンの数が減り、最後の方になると、ゴブリン達が怯えた目で俺を見ている。


 まるで化け物を見る様に。


 見るな、見るな、そんな目で俺を見るな!!


 気付けば涙を流しながら、刀を振るっていた。血の匂いで吐きそうになるのを堪えながら。


「洋一君、君は修羅になれないんだね。それもまた君の強さの一つだけど、まだまだゴブリンはいる。君が躊躇えば、後ろの2人がゴブリンの餌食になるよ? さあ! まだまだゴブリンはまだ来るよ!」


 師匠がなにを言っているかはわからない。ゴブリン達の鳴き声と悲鳴で……。


 俺はそれからも殺し続けた。時にはゴブリンに噛みつかれたが、噛み付いたゴブリンを、強引に振り払い、斬りつける。


 何度も何度も、繰り返すうちに、生きているゴブリンはいなくなった。大量のゴブリンの死体を残して


「洋一!」


 蘭が側に来て、血だらけの俺に回復魔法をかけてくれた……。


「葵! いきなりなんでこんな事を!」


 蘭が師匠に対して怒っている、きっと俺が弱いから心配させたんだな。


「? 強くなりたいんでしょ? 修行だよ。別に痛めつけたい訳じゃないし、心に傷を負わせたい訳でもないよ」


「それでも、こんなやり方……」


「蘭ちゃんさあ、甘いよ。敵はいつも、正々堂々来る訳じゃない。時には大軍に襲われる事もあるし、奇襲だってされる。そんな時に、甘えた考えや、敵に一々同情してたら、本当に護りたい者を護れないんだよ。わかるよね?」


 師匠の言葉に、蘭はなにも言えなくなっていた。


「蘭、ありがとう。大丈夫だから、それに師匠の言葉は正しいよ……」


 俺は力なくそう言い、蘭を撫でる。


「変態めええ! 粗チンが可哀想なのじゃ! 御主は勇者じゃない、悪魔じゃ!」


 アーレイの言葉を聞き、師匠は笑った。何処か悲しそうな顔で。


「そう、君の言う通り。僕は、勇者じゃない。助けられなかった命の方が多い。僕の職業は魔剣士のままだしね。真の勇者ってのはね、偉業をなし人々が認め、人々が称えた者の事を言うんだよ」


 師匠は何処か遠くを見つめている。


「師匠?」


 師匠は首を振り


「ああ、大丈夫だよ。少し昔を思い出しただけだよ。僕が知る限り、勇者は一人しかいない。万の軍勢を一人で叩き潰し、世界の為に戦った彼しかいないんだよ。彼は、人望も厚く、誰よりも優しく強かった、強かったけど……」


「その人が、来てほしかったのじゃ……」


 師匠の目つきが、一瞬、ほんの一瞬だが鋭くなった。


「ははは。僕もそう思うよ。ただ彼はもうどの次元にもどの世界にもいない」


 師匠の友達はもうこの世にいないんだな。


「むうう!」


「アーレイ、もうやめろ。師匠、休憩も終わりにして続きをしましょう」


「良いの? まだ休憩しててもいいんだよ?」


「大丈夫です! 強くなりたいし、蘭や皆んなを護りたいから。それに師匠は、なんだかんだ言いながら優しいですからね」


 師匠は俺達に背を向けた。


「ビシビシしごくから、覚悟しなよ!」


 その声は何故だか震えていた。


「蘭、俺が死にかけたら回復宜しくな。俺、頑張るから」


「洋一、私は……私は!」


 蘭は、俺を心配してくれている。自分が強くなれば俺を護れると思っている。だけど、それじゃあ蘭の事は誰が護る?


 俺しかいないだろうが! だから俺は蘭に笑顔でこう言う。


「大丈夫だ、蘭! 俺に任せとけ!」


 俺は立ち上がり刀を構える。師匠はニヤリと笑い、俺達から離れた場所で、剣で地面を叩く。ゴブリンよりひと回り大きく、灰色の体毛に覆われた二足歩行の犬が現れる。


「次は、コボルトだよ。二足歩行の犬型の魔物だ。ゴブリンより知能もあるし、連携もしてくる」


「やってやりますよ! 強くなりたいから!」


「君なら、きっと強くなれるよ。勇者と同じ心を持つ君ならね」


「心?」


「さあ無駄話は終わりだ!」


 大量のコボルト達が現れた。犬歯を剥き出しに威嚇してくる。ちょっと怖いじゃねえか……。


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