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新しい命(琉依視点)


 ついに待ちに待った結婚式。美香のウエディングドレス姿はまさにお花の妖精さんのお姫様だ。可愛いし綺麗だしみんなに見せるのはもったいない……でも見てほしい……でも……って言っても見せなきゃ結婚式にならないんだったって思いながら挙式をして披露宴が始まった。みんなにどう、美香可愛いでしょって思って思いながら各テーブルに回る。

 美香の高校と短大の友達と話してから鏑木社長と奥さんと高梨さん夫妻に挨拶する。


「鏑木社長、ありがとうございます」

「こんなに素敵な奥さんで幸せだね」

「はい」

「これからは毎日美香ちゃんが家で待っていてくれる生活だね」

「ええ、そうなんです、そうなんですよ。僕も毎日定時で帰って美香とラブラブ生活です」

「あら、でも優菜ちゃんがいるんでしょう」


 楓さんに言われて嬉しくて幸せでふわふわした気分が一気に落ち込む。


「いさせませんよ。30分離してるんですから」

「琉依さん20分じゃないのー?」

「そうだね、20分だよ」

「優菜さま久しぶりに拝見しましたわ。結婚されたなんて驚きました」


 遥さんは優菜がまだ僕に付き添って来ていた時に会ったことが会ったみたいだ。優菜のことだ、優菜からバチバチさせていたに違いない。申し訳なくなる。


「はは、もうスピード婚で」

「琉依さまとパーティーに出席されていた頃よりもさらに美しくなって……やはり結婚したからですわね」

「本当に。美香ちゃんも優菜ちゃんもすごく綺麗」


 優菜があんな我儘娘でも遥さんや楓さんくらいの年上の人には若いわねって思うくらいなのかも。少なくとも本当に優菜の結婚のことを祝福してくれてるみたいで良かったって思う。


「遥さん楓さん、たくさん相談に乗ってもらってありがとうございました。私専業主婦頑張りますね」

「ええ、応援していますわ」

「頑張ってね、美香ちゃん」


 そして坪井さんたち飲食店をしてる人たちからは特別割引きするから食べにきてねって言われて美香は節約する気いっぱいだから言わないけど仕事を頑張った期間ですごく稼いだし今も会社は上向いててるから割引してもらわなくてもって思うけどせっかくの厚意を無駄にするのも悪いと思った。美香も今まで以上に節約にこだわってるし。

 そしたら飲食店以外の店をやってる人たちからも友達価格にするからこれからもご贔屓にって言われる。

 そのあと美香の実家のお花屋さんの常連さんとも話す。


「とても綺麗ね美香ちゃん」

「えへへーありがとうございます杉本さん!!」

「あんなに小さかったのにこんなに綺麗になって。赤ちゃんの時を思い出すわねー」

「ほんとほんと。元気いっぱいいらっしゃーいって駆け寄ってくれたかと思ったら躓いて大泣きしたり」

「あったわねー。お母さんに怒られて余計に泣いちゃって飴をあげたらピタリと泣き止んじゃって可愛かったわー」

「むむー……そんなことあった気がします」

「美香はずっと可愛いんだね、可愛い」


 小さい時の美香のエピソード可愛い。なんて可愛いんだ。癒される。そんな素敵な話を聞かせてくれた常連さんたちと話したあとはお色直し。美香の鮮やかなオレンジ色のドレス姿にまたみんなに見せたくないけど見せたいどうしようって思うけど美香に入らないのって聞かれて見せないと式が進まないんだったと思って中に入る。ケーキ入刀して結婚式って感じがして良いと思いながら幸せを噛み締めていたらハッとする。次は厄介な翠さんたちだ。


「美香ちゃん、琉依さんが嫌になったらうちに来るのよ」

「翠さん、嫌にならないよ」


 ほら、テーブルに言ってすぐに意地悪なことを言ってくる。酷い酷い。


「嫌にならないけど遊びに行くわねー」

「優菜ちゃんと一緒に住めることになって良かったわね」

「うん!!加代子さんも遊びにおいでー」

「一緒に住むんじゃないよ。何言ってるの」


 一緒に住むんじゃないのに加代子さんめ。意地悪だ。


「けど20分だか30分だか離れてるだけならすぐ行けるわよね。自転車ならもっと近いじゃん」

「わー!!そっかー!!佳代子さん頭良い!!」

「ちょっとちょっと、それじゃ余計に行き来しやすくなっちゃうでしょ」


 なんてことだ。余計なことを言って佳代子さんも意地悪だ。竜二さんが昇のためだけに戻ってきたり浩一さんを見るために戻ってきたりするけど佳代子さんの誕生日にはただのアイスクリームを送ってこられただけなのは佳代子さんが意地汚い怪力女だからだ。ただのって言っても竜二さんはちゃんと女の子に人気のアイスクリームを選んでたしこの2人はお互い思い合ってるはずなのにな。早くどうにかならないかな。


「なによー良いじゃない」

「ふふ、美香ちゃんあのね、私も自転車乗れるようになったのよ」

「わー本当に?桜ちゃん電車にも乗れるようになったし頑張ったねー」

「昇さんが車の運転は危ないけど自転車ならって。それでも心配しながら練習に付き合ってくれてこの前はサイクリングしたの」

「おー楽しそうだねー!!」

「昇にも聞いてるのにこっちからものろけられた……」


 昇と桜さんはなんだか中学生みたいな初々しい付き合いをいまだに続けてる。いや、中学生というのはおかしいな。社長と婚約者としてパーティーに行ってるし普通の中学生カップルは自転車に乗る練習はしない。不思議カップルだ。でもへたれだけど男気がある昇と積極的な不思議お嬢様の桜さんはかなり順調に交際してる。昇に僕を反面教師にしてると言われたけどどういう意味だろう。僕が美香にっていうみたいに桜さんにベタ惚れだから僕と同じようだと思うんだけど。


「沙織ちゃん沙織ちゃん、お料理美味しいー?」

「うん、美味しいし美香ちゃんとっても綺麗!!」

「ありがとー。沙織ちゃんのお嫁さん姿も楽しみねー」

「まだ中学生だものね。沙織ちゃんも素敵なレディになってあの人たちとは違う良い人と結婚するのよ」


 翠さんがそう言って関さんたちがいる隣のテーブルを見ると当然沙織ちゃんも見ようとして佳代子さんに止められる。


「見なくて良いのよー。沙織ちゃんには目に毒だから」

「酷い言い方だな……別に何もしないよ」

「悪影響なのよ。だから沙織ちゃんは誰とも目を合わせては駄目よ」

「えっと……はい!!」


 別に目を合わせたぐらいでどうもしないのに。この人たちはパートナーだったり好きな人だったりする人たちのことをいったいなんだと思ってるんだか。中学生になった沙織ちゃんはやっぱり幼さは変わらないけど落ち着いて少し大人びた感じもする。この小さなお嬢様はこの意地悪集団のそばでどんな大物に成長するんだろう。将来が心配だ。


「沙織ちゃんどうかしたのー?」

「う、ううん、なんでもないの。私も素敵な方と結婚したいな」

「琉依さんみたいな人が良いわよー」

「「「それは駄目よ」」」


 美香の言葉に翠さんと加代子さんと佳代子さんの声が重なる。そんなに口を揃えて否定しなくても良いのに。


「琉依さんなんて陰気で面倒な男なんて絶対駄目よ」

「爽やかな好青年にしなさいね」

「付き合ったら私たちに会わせてね。約束よ、や、く、そ、く。良いわね」

「あ、あの……」

「あらあら、3人とも、沙織ちゃんが戸惑っていますわ。沙織ちゃんは沙織ちゃんが素敵だと思った方とお付き合いしたら良いのよ」


 桜さんの言う通り沙織ちゃんが戸惑ってる。これは過保護すぎる。桜さんを秘蔵っ子にしていた時よりも酷い。桜さんより年が離れてるからかな。将来沙織ちゃんがこのお節介な人たちに反抗して出し抜いたら面白いのに。いっそなにも言わずに結婚しちゃうとか。翠さんたちが卒倒するかも。そんなことを考えてたら翠さんに睨まれた。怖い。早く退散しよう。


「桜ちゃんの言う通りよー。好きな人ができたら教えてね」

「う、うん……」

「どうかしたのー?」

「ううん、なんでもないの」

「そっかー」


 関さんたちのいるテーブルに行くとほっとする。


「やっとここまでたどり着いた。聞いてよ、翠さんたちが酷いよ」

「いつものことでしょ」


 関さんが言うとみんなにも言われる。


「僕たちの悪口言わないと気が済まないなんて悪いやつらです!!あ、桜ちゃん以外」

「おい、俺の婚約者なんだからな」


 木村くんは昇の婚約者になっても桜さんのことを可愛いとか良い子だとか言って昇の嫉妬心を刺激してる。木村くんは思ったことを素直に言ってるだけだけど。


「わかってますってー。ただ可愛いって言ってるだけじゃないですか」

「あのへたれな昇が焼きもち焼いてるね」

「うっせえ!!小林だって緑川とか浜口家に呼んだら加代子さんを慕うから妬いてたじゃねえか」

「そんなことないよ。優しい奥さんだって言ってくれて嬉しいと思っただけ。でも昇もまだ桜さんとは婚約してるだけだからうちに来てももてなせないって言ってるなら早く結婚してよ」

「そのうちな」

「あの小さいのが今度の秘蔵っ子なんだろ」

「そうですけど竜二さん、指差すからかこさんたちが睨んでますよ」


 竜二さんが沙織ちゃんを指差すから翠さんたちが一斉に睨んできた。僕は慌てて竜二さんの手をおろす。


「竜二、レディに小さいのとか言わないの」


 関さんがやんわり注意するけどそういう問題?


「小学生だろ、レディじゃない」

「小学生でもレディだよ」

「竜二さん!!沙織ちゃんは中学生なのよ」

「あ、美香、情報を言ったらまずいよ、翠さんに怒られる」


 美香が頬を膨らませて言う。可愛いけど昇たちに沙織ちゃんの情報を言うとまずい。今のところ桜さんの次の秘蔵っ子で沙織ちゃんって名前くらいしか知らない。


「そうなのー?」

「聞かなかったことにするので問題ありません」

「そうそう、村岡の言う通りなにも聞いてない。見た目小学生だから小学生のガキだろ」

「昇もガキって言わないの。女の子なんだから」

「じゃあチビだな」

「竜二さん、かこさんが秘蔵っ子の耳塞いですごい形相で睨んでます。竜二さんの隣にいる俺にも被害が及ぶのでやめてください」

「昇、桜さんが見たことない顔で昇のこと見てるよ」

「げ……俺は見てない知らない」

「翠さんは村岡くんを一番警戒してるっぽいよ」


 みんなを睨んでるけど僕が好きな村岡くんの危機だから一応忠告しておこうと思って声を潜めて言う。村岡くんは表情を変えないけど僕には嫌悪感たっぷりなのがわかる。


「なんで俺なんですか」

「うーん、情報を言えないから詳しく言えないけどフランス料理のレストランの関係者だから」

「……無関係です。俺イタリアンなので」

「まあね。けど気を付けなね。あの子にってことじゃなくてレストラン関係で親に何か接触するんじゃないかって警戒してるから」

「知りません。無関係です。これからも無関係です」


 村岡くんは昇みたいにパーティーなんて行きたくないっていうからあんまり来ないけど本当にたまに村岡くんが親しくしてる人のパーティーに来るからそこで沙織ちゃんと接触して沙織ちゃんのお父さんと知り合おうとするんじゃないかって翠さんたちは警戒してるけどそんなことするはずない。そもそも村岡くんは小さい子、特に女の子は苦手なんだから。橘さんと話すなら直接話すだろう。だけど翠さんたちは桜さんのことがあるから油断しないで厳重警戒状態だ。


「昇の二の舞にならないように気を付けないとね」

「関さんは翠さんを止めてください」

「そうですよ!!関さんがそんなだから翠さんやりたい放題なんですよ!!」

「翠さんがボスだからな……」

「俺が言っても翠聞かないから」

「翠さんに効くのは美香ちゃんじゃないかな」

「ほえー?」

「美香ちゃん、翠さんに極悪から小悪くらいになってくれって言ってくれない?」


 木村くんが言うと美香はコテンッて首をかしげる。


「翠さん優しいわよー?」

「うーん、駄目だね」

「美香に言っても意味ないだろうね。あ、そろそろ母さんたちのとこに行こう」

「うん、そうねー」


 最後は家族のテーブルだ。先にお義母さんたちの席に行く。


「美香、我儘言って琉依くんを困らせないようにね」

「優菜ちゃんと一緒に住むんでしょ。優菜ちゃんと旦那さんにも迷惑かけないようにね」

「あの、お義父さん、一緒に住むわけじゃないんですけど」


 お義父さんにも言われてしまう。一緒に住まないのに……。


「でも行き来するそうじゃないですか。共働きの優菜ちゃんと旦那さんの家の掃除とかもするんですよね」

「そうなの!!任せてって言ったの!!」

「美香本当にやるの?浩一さんも良いって言ってるのに」

「大丈夫!!だって毎日たくさん時間があるもの!!これからはたくさんおうちのことをする時間があるわ!!」

「張り切って厄介なことにならなきゃ良いけど」

「むー!!お兄ちゃんの意地悪!!」

「美香ちゃんなら出来るよ。頑張ってね」

「真奈美さーん!!ありがとう!!」

「正式に決まったら実家からさらに離れてしまって、すみません」

「別に気にしなくて良いのよー」

「そうそう。琉依くんたちの職場と近いとか優先することがあるんだから」

「それにお店が忙しいからそうそう会えないですよ」

「いずれは慶太と真奈美ちゃんに任せるけど美香に会うと疲れるしなー」

「孫ができたら会わせてちょうだい。美香がいると騒がしいし」

「お父さんお母さん酷い!!ぷんぷん!!」

「とにかく無事に結婚してくれて安心したよ。同棲で嫌になってたらどうしようかと思った」

「そんなことありませんよ。美香と結婚できて幸せです。美香も幸せ?」

「もちろん!!琉依さん好き好き!!大好きだもの!!」

「僕も好きだよ。愛してるよ」


 あー幸せだ。美香がすごく大きな愛情を僕に伝えてくれるから僕も伝える。


「相変わらず仲が良くて良かったわね」

「そうだね。美香の一番の親孝行は琉依くんみたいに良い人と結婚してくれたことだよ。良かった良かった」

「慶太も真奈美さんと結婚してくれたし子育ても一段落ね。あー苦労した」

「僕と真奈美がいるから3日くらい休んで旅行にでも行ってくれば?」

「そうね、それも良いかも」

「私たちが新婚旅行するとこにしたら良いわよー!!」

「そうだね、温泉もあるし疲れもとれそう」

「お土産買ってきてねー」

「なんでよ。新婚旅行で行くんでしょ」

「あーそうだったわー。じゃあ別の温泉があるとこにしたらー?」

「まあ今度考えておくわ」


 最後の最後に母さんたちがいるテーブルに行く。


「うーん……」

「優菜?どうしたの?」

「やっぱり結婚式良いわね。ウエディングドレス着たいし私ならお色直しは2回だわ」

「優菜とっても綺麗だと思うわよー私も見たーい」

「私も私もー。優菜も早く結婚式したらー?」


 ウエディングドレスを着たいと言ってた優菜が浩一さんと結婚できるだけで良いって言ってなんだか一気に落ち着いたなっていう気分になったんだけど。


「入籍するだけで良いとか言ってなかった?」

「結婚式をしないとは言ってないわよ。今年は無理でも来年にはしたいなー。ね、浩一さんも私のウエディングドレス姿見たいでしょ」

「うん、見たいよ」

「そうでしょうそうでしょう。私は綺麗だから着飾るとよりその美しさが引き立つのよ。普段のおしゃれだって似合ってるんだから良いじゃない」

「う、でも……」

「優菜、浩一さんを困らせちゃ駄目だって言ってるでしょ。やめてって言ってるんだからやらなきゃ良いじゃん」


 落ち着いたと思ってもそこは優菜だ。浩一さんを困らせまくってる。僕は浩一さんとすっかり親しくなった。立場は義理の弟だけどお兄さんな感じで頼りになるし話しづらいかもって思ってたけどすごく話しやすい。浩一さんの物腰の柔らかさとかおおらかなところとかほっとする。浩一さんも僕にいろいろ話してくれる。優菜が肌を露出する服ばかりで女の子ってそういうものなのとかヒヤヒヤするんだけどとか。だから僕は浩一さんの代わりに優菜にガツンと言うんだけど煩いとか言って全然話を聞かない。ね、困った妹でしょって言ってる。


「好きなおしゃれしてるだけなんだから良いじゃん」

「もう……わからず屋」

「べーだ」

「そうだお義母さんお義父さん、私のお母さんとお父さんが私もお兄ちゃんも結婚したから2人で温泉に行く話してたわよー。お義母さんとお義父さんも温泉旅行してきたらー?」

「あら、良いわね」

「そうだな」

「美幸さんといつ行くか決めましょ」

「ちょっとちょっと、別だよ別。父さんと母さんは2人で行ってよ」


 どうしてそうなるんだ。母さんは父さんと2人で行くに決まってるじゃないか。


「えーそうなのー?」

「夫婦水入らずで旅行しなよ」

「アンナ、桐真さんと美幸さんも夫婦でゆっくりするために行くんだから」

「わかったわ!!康介と2人で温泉旅行!!楽しみね!!」

「お土産は温泉まんじゅうが良いなー」

「そうね、温泉まんじゅうとかたくさんお土産を買って4人が一緒に住む家に持っていくわね」

「だから母さん、4人一緒に住むわけじゃないんだってば」

「琉依さん今日何回も同じこと言ってるー」

「みんなわざとでしょ。意地悪なんだから……」

「あー琉依、もう時間じゃない?」

「うん、そうだね」


 こうしてたくさんの人に祝福されて僕と美香は結婚した。夫婦になった僕たちはすぐに新婚旅行に行って誰にも邪魔されない至福の一時を過ごした。さすがに新婚旅行中に電話してくる人もいないしもう少しで住める新居にはどうせ優菜と浩一さんも一緒になるだろう。断固阻止したいところだけど無理なんだろうな。








 そして数日後引っ越しをした。商店街のみなさんとは美香が泣いて商売どころじゃないけど買いに来る近所の人とも仲良くしていたからみんなで送別会状態になった。年賀状を送りますとか言ってお世話になったみなさんにさよならした。

 そして新生活が始まったわけだけどやっぱりどちらかの家で過ごすことになった。諦めずにいずれはそれぞれちゃんと家があるんだから過ごしたいと浩一さんと話してる。

 だけどこの生活も楽しくないわけではないし良いこともある。専業主婦になった美香が基本平日休みの優菜と節約クッキーパーティーをこっそり開催してみたり。美香が節約してるけど優菜がやりたいっていうからこっそりなのって言ってたけどどこに対してこっそりなのかはよくわからない。むしろ節約生活は体だから贅沢しても良いんだけど美香が節約なのって言ってチラシで安いお店を調べて買いに行ったりしてるから何も言わないでいる。野菜を育てるのには失敗したそうで残念がってたけど野菜じゃなくて庭にはたくさんのお花を植えて楽しく育てるのを見てると嬉しくなる。美香は毎日たくさんのご飯を作ってくれてテーブルにはいろんな料理が並んでる。美香の作る料理はどれも美味しくてアパートのキッチンより遥かに広くなったキッチンで楽しそうに料理をしている美香を見てると嬉しくなる。村岡くんが作ってくれたワゴンは調味料置き場とかとして変わらず置いて使ってる。

 僕の美香のポスターやクッションたちは書斎に飾ってある。優菜が自分たちも出入りするのに普通に玄関にあるとか壁一面にあるとかあり得ないって言うし僕もそれは夢があるけどそこまでするとは考えてなかった。書斎という名の僕の仕事の本とかパソコンとかを置く部屋でアパートのリビングの半分くらいの部屋だからアパート暮らして美香に囲まれてた生活気分がいつでも味わえてこれはこれでかなり素敵なスペースでお気に入りの部屋だ。っていっても美香と考えて新しい家具やインテリアを揃えてどの部屋も素晴らしいんだけど。仕事を家でする気はないけどプログラミングの本とか仕事関係の本とかは読むし将来子供にここはお父さんのお仕事する書斎だよって言ってみたらかっこいいお父さんって感じで尊敬されちゃうかもでそれもわくわくしてる。

 会社には新たに10人入ってそのうち4人がシステムエンジニア候補だ。候補っていうのは僕はあえてプログラマーだけど本人の希望でシステムエンジニアというよりずっとプログラマーでやっていきたいっていう人もいるから。でもとりあえずみんなまとめて僕が教えてる。横山くんが教えるのが得意だから僕のサポートもしてくれてる。横山くんも含めて先に入ってた4人はもう十分やっていけてる。昇がいずれはウェブ専門とかゲーム専門とか部署を分けて人を増やしていくっていうんだけど僕は平社員という名の統括責任者だって言うんだ。役職はつかないって言ってるのに、平社員だから定時で帰っても良いし休日出勤もなしだけどやることは責任者っていう意味がわからないことになってしまった。だから最終確認とかも僕がしないといけない。でも昇たちは僕が自分以外を信用できないんじゃないかって心配してたけどそんな心配ご無用だ。だって横山くんや堤くんが確認してくださいっていうのをよく見ないで完璧だよさすがだねって言ってるもん。そう言ってももっとちゃんと見てくださいって突き返されちゃうんだけど。僕は信頼してるから大丈夫なのにそれじゃ意味ないんですって言われちゃう。まったく、真面目で良いことだね。僕が新人4人に美香の話をしようとすると堤くんがハリセンで叩いてきてまだ時間じゃないですとか言ってきたり。まったく、みんな僕に容赦なくなって和気あいあいとして良い雰囲気の会社だな。そう言って昇が会議してる間とかに新調した昇の社長椅子に座って休憩時間外に休憩してると緑川くんと浜口くんが目敏く昇にチクるんだ。そしたら昇にすごく怒られる。木村くんと小林くんはちょっと楽になったって自分の仕事に専念してる。仕事はそんな感じ。

 浩一さんは剣道が得意だけどアウトドアもするんだっていうから優菜が仕事の土日とかに美香と3人で行ってる。優菜はここでも、ほら浩一さんも暇しないで遊べて近くに住んで良かったじゃないとか言ってる。確かに休みが合いづらい浩一さんと優菜がそれぞれに休みを満喫できるのは良いことかもしれないけど浩一さんは優菜と遊びたいのに。そう思って浩一さんがほとんど有給を使ったことがないって言うから優菜が土曜日休めたタイミングで僕と浩一さんで仕事を休んでキャンプに行った。


「キャンプ楽しかったわねー」

「疲れたけどね」

「浩一さん昇さんみたいだったー」

「そうだね、さすが慣れてるだけある」


 浩一さんも学生時代の友達とよくキャンプをするっていうだけあってすごく手慣れてた。


「でも琉依兄も浩一さんもこの生活良かったでしょ」

「うーん……まあ2人きりはそれでそれで楽しかったと思うけど。っていうかやっぱり結局どっちかの家に集まってるね」


 キャンプから帰ってきて休もうと言って優菜と浩一さんの家で休憩中だ。


「だから一緒に住めば1つの家で住んだのにさ」

「でもずっとじゃ嫌だからやっぱり遅くてもそれぞれの家に帰るっていうのが良いよ。治安がよくて良かったよね」

「だから一緒に家にすれば寝室が別なんだから良いでしょって」

「まあまあ、もう買っちゃって住んでるんだから喧嘩しないで」

「はーい」

「なんで僕まで注意されるかなー。浩一さん、お茶もう一杯」


 最近こればかりだ。やっぱり義弟といっても兄に怒られてる気分だ。怒られてるっていっても浩一さんは優しいから注意して宥められてるだけだけど。そして浩一さんの淹れてくれるお茶は美味しい。本当に優菜の運命の人が浩一さんで良かった。


「あ、私もアップルジュース!!」

「私もーオレンジジュースおかわり!!」


 浩一さんが僕たちのコップをおぼんにのせてキッチンに行く。


「っていうか琉依兄奥さんがやるもんだとか言ってたくせにいつも浩一さんに頼んでるじゃん」

「美味しいんだから良いでしょ。まああれだね。なんだかんだでメリットはあるから良かったのかもね。美香は和食以外のお料理がすごくすごく上手で優菜は親子丼しか作らないからそれだけ上達して美味しいし浩一さんはお茶淹れてくれるのがうまいし」

「琉依兄だけなんの役にも立ってない」

「そんなことないよ。日用品とかたくさん買う時荷物持ちしてるでしょ。それに優菜はもっと他の料理も作れば?」

「んーお菓子でも作ろうかな。ママのアップルパイが食べたくなってきたし自分で作れたら良いかも」

「それ練習するなら主食を練習しなよ」

「もう、ぐちぐち煩いな。やっぱり琉依兄は煩くてやんなっちゃう」


 すっかり実家にいた時と変わらない状態になってしまってる。実家にいた時も毎日優菜に困ってた。


「ふふ、仲良しで良いわねー」

「ただの兄妹喧嘩よ」

「だから兄妹喧嘩しないでって言ったんだけどな。はい」


 そう言って浩一さんが持ってきてくれたお茶を飲む。浩一さんもお茶を飲んで言う。


「けど慣れたらなんだか普通だね、この生活も」

「ほら、だから言ったでしょうよ。私が今日みたいに土曜日休めることもあるけど基本的には平日休みだし土日に美香がご飯作ってくれるんだから浩一さんにとっても良かったでしょ」

「土日に限らず基本美香ちゃんが作ってるけどね」

「親子丼があるでしょ」

「優菜、せめて中華丼とか練習してみたら?」

「だからお菓子作るってば」

「だから主食」


 またさっきの話を繰り返してると隣に座る美香がお腹を押さえ始めた。


「あれ?美香?美香!?どうしたの!?」

「ん、痛……いし……気持ち……」

「気持ち悪いの!?どうしよう!!美香!!大丈夫!?」


 どうしよう!!美香が苦しんでる姿を見て慌てて背中を擦るけどどうしたら良いのかわからない。そうしてると優菜が美香の手を引いてトイレにつれていく。


「美香、美香……大丈夫……?じゃないよね……どうしたら……」

「琉依さん……」


 僕もついていって後ろでパニックになる。辛そうな美香になにもできなくて辛い。どうしたら良いの。


「ちょっと浩一さん、琉依兄邪魔だから向こう行かせて」

「え、あ、うん……」

「邪魔ってなに、美香が……どうしよう……美香」

「煩いなー!!あっち行って!!」

「る、琉依くん……」


 優菜に怒鳴られて浩一さんに肩を引かれる。美香のそばにって思うのに体から力が抜けて浩一さんに支えられてリビングのソファーに座る。


「美香……どうしよう……美香」

「琉依くん、大丈夫だよ」

「もし美香病気だったら……美香がいなくなったら……どうしよう……僕……」

「琉依くん……」

「浩一さん……僕……駄目だ……美香がいないと」


 美香がいなくなったら生きていけないよ。どうしよう。どうしたら良いの。


「わからないけど……お医者さんに見てもらおう……琉依くんここで待って「そうだよね……!!」琉依くん?」

「そうだそうだ!!病院に行かなくちゃ!!そしたら治してもらえる!!」


 そう言ってトイレにいる美香のところに行く。


「美香!!病院行こう!!早く早く!!」

「琉依さん駄目よ!!病院怖いもの!!」

「平気だよ!!美香が大変な病気だったら!!病気……だったら……どうしよう!!」


 そうだ、治らない大変な病気だったらどうしよう!!どうしたら良いんだろう!!


「ちょっと、大丈夫だから車乗ってよ」

「優菜!!病院は駄目なの!!」

「早く病院行こう!!」

「あ、う……痛……い」


 うずくまる美香を抱き上げる。辛そうな美香に胸が締め付けられる。


「浩一さん車運転して」

「うん、わかった」


 優菜が浩一さんに言って急いで外に出て車に乗り込む。横に寝かせた美香の頭を撫でながら病院に行って検査を受ける間生きた心地がしなかった。お医者さんの前に座ってどうか大変な病気じゃありませんようにって祈りながら言葉を待つ。


「おめでとうございます」

「……ほ、ほえー……?」


 病名を伝えられると思ったのにおめでとうってなに?そういう名前の病気?首をかしげる僕と美香にお医者さんは言う。


「ご懐妊ですよ。赤ちゃんがいます」

「ご、あ、あ、赤ちゃんー!?」

「あ、赤ちゃんが……?」


 僕と美香が驚いているとお医者さんはもう一度笑顔で同じことを言う。


「赤ちゃん!!赤ちゃん赤ちゃん赤ちゃん!!琉依さん!!」

「美香!!赤ちゃんだって!!」

「嬉しい……赤ちゃん……ここに……私と琉依さんの赤ちゃんがいるのね」


 美香がお腹にそっと触る。この美香のお腹に赤ちゃんが……。僕と美香の子がいるんだ。


「美香、ありがとう……」

「琉依さん泣いてるわ」

「美香もだよ」


 美香、ありがとう、ありがとう。嬉しくて涙が止まらない。


「だって、嬉しいんだもん……」

「うん、嬉しいね」


 嬉しくて堪らない。さっきまで美香が病気なんじゃないかって思っていたけどそうじゃなかったんだね。赤ちゃんが僕と美香に自分の存在を伝えてくれたんだね。美香に悪阻だったねって、病気だと思ったって言うと美香がハッとして病院大丈夫?って聞かれる。優菜のことがあった高校1年以来病院に来たことはなかった。まさかこんな形で来ることになるとは思わなかった。さっきは美香のことで必死でそれ以外なにも考えてなかったけど今は感じてるのは恐怖じゃない。この子のことを知られて嬉しい気持ちだ。


「大丈夫だよ。病院は、お医者さんはこの子がいることを教えてくれた。それにこの子が成長していく様子も病院で見れるしこの子が生まれるのも病院だよ。病院は怖いものじゃないよね」

「そっか、そうよね!!全然怖くないわよ!!」


 それから駐車場に行って車で待っていてくれた優菜と浩一さんに美香が赤ちゃんなのって言う。2人ともおめでとうって言ってくれた。でも優菜はでしょうねって言う。優菜と浩一さんがいなかったらもっと大騒ぎで大変なことになってたって言われてそうだって思った。僕はパニックになっていたし美香も僕が病院が怖いと思って気にしてくれてたしあれじゃ一向になにもできない状態になってただろう。それになんとか病院に行くことにしてもあの状態で僕は運転できなかっただろう。2人がいてくれて良かった。



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