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新居(琉依視点)


 あれから2週間後、優菜に下手な地図を書かせるより住所をそのまま教えられた方がわかりやすいと言って聞いた住所を元に浩一さんと住んでるという家に行く。たどりついたそのマンションのチャイムを鳴らすと父さんと竜二さんのようだけど優しそうな人が出てきた。


「あの……初めまして」


 この人が浩一さんなんだな。小さな声で言う浩一さんは話に聞いてた通り見た目は父さんや竜二さんに似てるけど気が小さくて控えめな人みたいだ。


「初めましてー!!美香です!!優菜の親友でーす!!琉依さんは優菜のお兄さんです!!」

「初めまして。琉依です」

「すみません」


 挨拶をすると謝られてしまった。なぜだろう。


「なにやってんのー?早く上がってよー」


 そう思ってると優菜が出てきて美香の腕を引くからお邪魔する。


「わー広いおうちね」


 美香の言う通り村岡くんが住んでるところよりもさらに広い立派な部屋だ。でもそこまで物はない。いや、優菜の物らしきものはたくさんある。優菜が乗せてもらってると聞いたから車も持ってるし使うところには使う人みたいだ。28才だとコツコツ貯めていればこういう生活ができるんだなとふむふむと考えてしまう。


「そりゃそっちと比べたらどこも広いわ。ねえ美香ジュースじゃなくてお茶で良い?浩一さんが淹れるお茶美味しいのよ」

「うん!!良いわよー」

「浩一さんジュースじゃなくてお茶ー」

「うん」

「急須だー。私のお母さんみたーい懐かしいー」


 僕が考えてたら浩一さんがキッチンでお茶を淹れてくれていて美香が隣に行って見る。


「優菜、こういうのは優菜がやるんじゃないの?居候してるんじゃないんだから」

「良いのよ浩一さんが好きでやってるんだから」

「でも」

「あの、良いんです」

「そうですか?」


 奥さんになるつもりがあるのか、あいかわらず親子丼しか作るつもりがないそうだしって言おうとしたら浩一さんに止められてしまう。

 兄として妹にガツンと言わないとって思うけど浩一さんが良いなら仕方ない。浩一さんが淹れてくれたお茶を飲む。


「わー美味しい!!」

「浩一さんはお料理されるんですか?」

「いえ、できませんが……こういうのだけです」

「そうなんですね」


 確かに美味しいお茶だ。浩一さんはスーパーかコンビニで買う派なんだな。まあ、僕は食べないって選択肢があったけど外食か買ってくる人も多いだろう。残念ながら結婚後もそうなるだろうけど。


「ねー浩一さんは優菜の旦那さんになるんだからもっと仲良くしましょーため口で良いー?」

「あ、はい」

「浩一さんも敬語じゃ駄目ーね、琉依さん」

「そうだね、親戚になるんだから敬語止めましょうか浩一さん」

「あ……はい、あ、うん」

「うむむ……」


 僕が言うとぎこちなく答える浩一さん。それを見た美香が難しい顔をする。


「あの、琉依さん」

「浩一さん、呼び捨てで良いよ」


 美香にどうしたのって聞こうとすると浩一さんに話しかけられる。妹の結婚相手……予定だから義弟になるけど年上だからやっぱり少し話しづらい。でもお互いタメ口で呼び方もフラットにした方がずっと話しやすい。


「えっと、あの、えっと」

「……琉依くんでも良いよ」


 そう思って言ったけど浩一さんの方が戸惑ってるみたいでそう言う。


「はい、あの、すみません」

「え?」

「どうしてすみませんなのー?」


 さっきも謝られたけどなんでだろう。美香が聞くと浩一さんは言う。


「僕みたいな8つも上でこんな顔をした男なんかに妹を嫁がせるのは嫌かと……」

「そんなことないよ。妹はこんなだからもらってくれるだけで十分」


 そういうことか。父さんに断りを入れた理由は本心だったみたいだ。浩一さんの人となりが少しわかった。


「ちょっとー!!こんなってなに!!」

「困った妹だってことだよ。今までの悪事を浩一さんが知ったらどう思うと思う?」

「どうせもうパパが話してんでしょ」

「え、知ってたの?」


 父さんが言うわけないと思って仮定の話として言ったのに聞いていたの?


「なにが?どうせプロポーズして受けて本当に良いのかって今までがなんだって話してるでしょ。悪事なんてしてないけど」

「なんだ、そういうことか……。とにかくそういうことだから謝るべきなのはこっちの方だよ」

「いえ……」

「ねー浩一さんはどうして優菜のプロポーズ受けたのー?美人さんだからー?親子丼が美味しかったからー?」

「え、いえ……」

「えー違うのー?」

「あ、違うわけではなくて……女性にはいつも怖がられてるので怖がらずに話を聞いてくれてしかもこんな僕にあんなに怪我しながら親子丼を作ってくれたんだと思ったらつい……」

「ついってなによー!!好きでしょ!!浩一さん親子丼で胃袋を掴まれて私に惚れたんでしょ!!」

「う、うん、そうだね」


 優菜が浩一さんに掴みかかってる。親しげなやり取りを見てほっとする。優菜がこれまでの彼氏とどんなだったのかわからないけど浩一さんならこのお転婆な優菜を受け入れてくれるだろうと思える。そう思ってると美香と目が合う。美香も優菜の様子に嬉しそうだ。と思ったら美香がなにかに気付いたみたいにハッとする。


「浩一さん敬語じゃ駄目って言ったのにー!!」

「あ、すみません……」

「だめー!!」

「ご、ごめんね」

「うん、良いわよー」

「浩一さん、妹をよろしくね」


 浩一さんなら安心して優菜を任せられる。もちろん厄介者を押し付けて悪い気はするけどどうにか頑張ってほしい。


「はい……いえ、うん」

「うんうん、でもどうせ一緒に暮らすんだから頼まなくても良いんじゃない?どうせ嫁いでも同じ家に住むんだし」

「なに、優菜」


 今おかしなことを言われた気がして聞き返す。


「だから同じ家に住むんだし。ってことで美香、私も結婚するから家を決めるわよ」


 同じ家に住むだって!?


「わーい!!やっと一緒に住めるのねー!!」

「ちょっと待って!!」

「ひゃー!!」

「どういうこと?なんで一緒に住むの?」

「なんでも何も決まってるから。美香が琉依兄と結婚して私も結婚したら一緒に住むって」

「そんなの聞いてないよ!!駄目だよ!!」

「琉依さんあのね、優菜がいつ結婚できるかわからないから琉依さんには内緒だったの。ごめんね」

「な……新居を決めないってこういうことだったの……」


 あのカレーはそう言うことだったのか。確かに優菜がって言ってた。美香にとっての悪いことじゃなくて僕にとっての最悪なことだった。


「うん、ごめんね」

「でも駄目!!絶対駄目!!」


 美香がしゅんってした顔をする。でも、うん一緒に住もうだなんて言えない。絶対駄目だと反対する。


「駄目じゃありませんー」

「しかも優菜結婚してないよ。いくら浩一さんでも優菜はカレーが甘口か辛口かで別れるくらいだし。婚約破棄になるかもしれないよ」


 一緒に住むだなんておかしな話をなしにするために説得を試みる。


「しませんー。浩一さんは私に合わせてくれるからー。甘口と辛口どっちが良いかって先に聞いてくれるしー」

「そんなんでこの先うまくいくとは思えないよ。お茶だって浩一さんに淹れさせて奥さんになるなら優菜がやるんじゃないの」

「はい男女差別ー。得意で好きな人がやれば良いのよー」

「だいたいなんで一緒に住むの。意味がわからない」

「だってその方が楽しいじゃない。私と美香は親友だし琉依兄は私のお兄ちゃんで美香が琉依兄と結婚するんだから家族になるでしょ。家族が一緒に住んで何が問題なの?しかも世の中じゃ他人同士でもルームシェアしてるわよ」

「無理無理。なんでようやく結婚できるのに優菜に邪魔されなきゃなんないの」

「別にいちゃつくのは邪魔しないわよ。こっちもイチャイチャするし」

「ゆ、優菜ちゃん……」

「ね、浩一さんも一緒に住みたいよね。私と美香は大親友なのよ。引き裂く気?」

「う、でも……」

「ほら、浩一さんも困ってるよ。浩一さんだって新婚早々僕と美香と一緒に住むなんて嫌でしょ。優菜と2人で生活したいでしょ。僕らお邪魔だよ」

「むー私お邪魔なのー?」

「優菜は浩一さんと会ったばかりなんだからよくお互いを知るために2人でいた方が良いに決まってるんだよ。僕と美香がいたら邪魔になっちゃうからやめようね。はい、この話なし」


 これで話は終わりだと思ったのに優菜が食い下がってくる。


「そんなことないわよ。琉依兄と美香がいてもお互いを知ることはできるんだから。しかも今一緒に暮らしてるし」

「こんなに良いマンションなんだからずっとここに住んだら良いでしょ」

「嫌よ。高校生の時から美香と約束してたんだから。ずっと一緒に住むことを心待ちにしてたのよ。ね、美香」

「うん!!そうよ!!優菜と一緒に住むの楽しみにしてたのにー!!琉依さん駄目なのー!?」

「な、泣かないで、待って、ずるいよ。僕も浩一さんと作戦会議するから待ってて」


 美香が今にも泣きそうになるから慌てて宥める。もう、なんでこんなことになるんだよ、優菜は本当に厄介なことしかしない困った妹だ。

 そう思いながら浩一さんと作戦会議をしようと立ち上がる。浩一さんに寝室に入れてもらう。


「はあ……本当に優菜には困る。一緒に住んでそう思わない?」

「い、ううん、そんなことないよ」

「浩一さんは寛大だね。父さんにも聞いてるのに気にしないなんて」

「えっと……」


 作戦会議のはずだったけど改めて浩一さんと話すチャンスだと思った僕は聞いてみる。


「浩一さんは僕より年上だからやっぱりどう接しようっていうのはあったけど優菜には年上が良いとは思ってたから8才上なことは全然気にしないよ。20才以上と付き合い始めた時は別の理由もあって戸惑ったけど。浩一さんも年下の義理の兄はやりづらいと思うけど年齢は関係なく負い目とかも感じないで普通にしてね。父さんに聞いてるけど浩一さんって女性や小さい子に怖がられるからそういう人といるのが苦手なだけで人見知りとかそういうのではないんでしょ?」

「あの……えっと」

「年下は年下なんだから仕事の後輩と話してるとかとでも思ってもらえれば良いよ」


 僕がそう言うと浩一さんは息をはいた。


「ありがとう」

「ううん、どうして父さんに聞いてたのにプロポーズを受けたの?」

「さっき話した通りだよ。佐々木さんの話を最初に聞いた時も僕は姉が弟の僕もこきつかってばかりだから身内に困ってるのは同じだと思っただけ。女の人が普通何人と付き合うものかもどのくらいの期間付き合うものかもよく知らないから親として大変なんだなって思うくらいで」

「すごい大変なんだよ、家に押しかけてくるの」

「そうみたいだね。だからそれ以外にはなにも思ってなくて。佐々木さんに優菜ちゃんをもらってほしいって言われた時はどうして僕みたいな男にって。その時に初めて写真を見せてもらったけど綺麗な人だなって思った。綺麗だけど無邪気に笑う優菜ちゃんはとても素敵だって。でも写真を見て余計に優菜ちゃんにはもっと良い人がいると思って断ったんだ。けど佐々木さんに食い下がられて会ったら怖がられるだけだと思いながらあんまり必死に頼まれるから断れなくて。それで会ったら写真とは違って上品でお酒がなくなったらすぐに注いでくれたり気が利く子だなって」

「それは猫を被ってるからなんだよ。ほら、一緒に暮らして優菜以上に気の利かない人はいないってわかるでしょ」

「比べる対象が姉と姉と同じタイプの母だけだからわからないんだ」

「な……そっか」

「僕からしたら僕を怖がらずに普通に話してくれるだけで十分なんだよ。だけど僕にはもったいない人だからってやっぱり断った。でも優菜ちゃんのことが頭から離れなかった。8つも下で綺麗で僕には過ぎた人だってわかってるのに」

「好きだけど断ったってこと?」

「うん。だから佐々木さんにもう一度だけ会ってほしいって言われて僕の方が本当にもう一度だけ会いたいと思ったんだ。それで傷だらけになってまで僕のために作ったって親子丼を出してくれてなんで僕のために作ってくれるんだろうって思いながら食べたら本当に美味しくて、そう言ったら結婚してくださいって言われて心底驚いたよ。でもこんなに若くて綺麗な子が自分なんかに一生懸命ご飯を作ってくれてプロポーズしてくれたんだって思ったら優菜ちゃんにはもっと良い人がとか思っていたことが全部気にならなくなって気付いたらはいって答えてた」

「うーん……僕からしたらどうして優菜なんかをこんなに優しくて良い人が好きになってくれたかなって感じだけど」


 どうやら浩一さんは優菜の話を聞いても身を引くほど優菜に惚れてくれたようだ。なんだか身内のことなのにドラマを見てるような気分になってきた。この人が優菜の運命の人で良かったと思った。


「浩一さん、優菜は父さんと年中仲が悪いから父さんに話してないから聞いてないと思うんだけど」

「うん?」

「優菜は性格悪くて偉そうで最悪なんだけど100%優菜が悪いわけじゃないんだ。浮気した彼氏に外見と違って中身は可愛くないから浮気するんだって言われたことがあってね。しかも外見は可愛いからこのまま付き合っても良いって言われたそうなんだ」

「世の中にはそんな酷い人がいるんだね……」

「そうだね。優菜の自業自得なとこもあるし僕だって優菜は悪魔のようだと思うけどだからって浮気されて良いとは思わない。優菜には小さい時からそれも本人のせいなところもあるけど辛い思いをさせてきたこともあって優菜には良い人と結婚してほしいって思ってたんだ。だから相手が浩一さんで安心したよ。浩一さんなら優菜を傷付けないと思うから。だからもう一度言うね。優菜をよろしくお願いします」

「はい。必ず幸せにします。優菜ちゃんには昔のことは聞いてるよ。いじめられてたって。だけど琉依くんがいつも守ってくれてたとも言ってた。琉依くんは優菜ちゃんにとってヒーローなんだって。僕が琉依くんの代わりになんてなれないと思うけどこれからは僕が優菜ちゃんを守るよ」

「代わりじゃなくて浩一さんのやり方で守ってくれれば良いよ」

「うん」

「あ、しまった……作戦会議してない」

「あ、本当だね」

「そうだ、こうしよう。浩一さんは優菜に思ってることを普通に言ってよ」

「思ってること?」

「うん、浩一さん怖がられて結婚できると思ってなかったんじゃない?」

「そうだね、もしできたらって考えたことがないわけじゃないけど」

「そう、それを言ってよ。優菜もグッとくるはずだよ。僕は駄目?攻撃をするよ」

「駄目……攻撃?」

「必殺技なんだ。あ、それから優菜の手を握って言ってね」

「え、それは……」

「2週間も経ってるんだから手を繋ぐなんて序の口でしょ。優菜が襲わないわけないし」

「な……な……」

「僕たち明け透けな兄妹だからそういう話聞いてもなんとも思わないよ今さら」

「そ、そうなんだ……」

「じゃあよろしくね」


 そう言ってリビングに戻る。


「お、どう?一緒に住む気になった?」

「なってないよ。一緒には住まない」

「えーそんなー!!優菜と住みたーい!!」

「駄目だよ。美香は僕と2人で住むマイホームを買おうね」

「むー……」

「優菜ちゃん……」

「これは譲らないわよ」

「あの……」


 浩一さんが僕に助けを求めてくるような視線を向けてくる。頑張ってって心の中だけで言う。すると浩一さんは優菜の隣に座って手を握った。よし、いけ、頑張れ。


「僕は奥さんができたら、そんなことあるのかなって思ってたけどもし奥さんができるなら2人で穏やかに暮らしたいって思ってたよ」

「残念でした。私と結婚する時点で穏やかな結婚生活は送れませんよーだ」

「今は優菜ちゃんと賑やかで楽しい結婚生活ができると思ってるよ。だけど僕が思ってるのは優菜ちゃんと2人きりで過ごす毎日だよ」

「私が思い描いてるのは4人での生活なの」

「もう、優菜、融通が利かないことしてるとフラれるよ」


 浩一さんが浮気をしないというのは確信できるけど優菜は性格が酷すぎるから嫌になっても仕方ない。それでも浩一さんなら別れないと思うけど優菜にはそう言う。


「そんなことないわよ。そういう琉依兄が美香にフラれるよ」

「え、そんなことないよ。ね、美香」


 なんで僕が美香にフラれるんだ。そんなことあるわけない。美香の頭を撫でると見上げてくる。


「んー優菜と一緒に住むなら結婚できないー?」

「そ、そんなことないよ」


 う、そんなに目をうるうるさせられたら一緒に住もうと言いそうになってしまう。


「琉依くん琉依くん……」

「あ、ごめん浩一さん。とにかくこれはこっちも譲れないよ。僕たちはそれぞれ普通に結婚生活を送りたいんだから」


 危ない。浩一さんに呼びかけられなかったら言葉にするところだった。


「んー……優菜と高校生の時に約束して楽しみにしてたのにー」

「ごめんね。僕は美香と2人が良いんだよ。いずれは子供もできてその子と一緒に暮らそうよ。優菜はいないけど絶対楽しいよ。それじゃ駄目?」

「琉依さん……」


 必殺技を繰り出すと美香の目が揺らぐ。


「駄目……じゃないわ」


 やったー!!


「ちょっと美香!!裏切り者!!」

「ひゃーごめんーだって琉依さんが……」

「もー!!」

「優菜ちゃん……」

「あーもー!!仕方ないわね!!」


 僕の駄目?攻撃は効果覿面だ。こうして一緒に住むだなんておかしな話はなくなった。

 安心してそれまで通り過ごす。その間優菜は浩一さんのご家族に挨拶をして婚姻届を提出した。浩一さんの家族が良い人たちで助かった。こんなスピード婚があるのかと僕はモヤモヤするけど。でも優菜は小西優菜になったそうだ。まあ、父さんも母さんも浩一さんならって喜んでるから良いけど。

 そんなある日、優菜から美香に電話がかかってきた。美香がスピーカーにして携帯をテーブルに置く。なんだろう?


『良いこと考えたの!!一緒に住なくても隣に住めば良いのよ!!』

「は?」


 まだ諦めてなかったの!?僕は優菜のめちゃくちゃには苛立っては駄目だって冷静になる。深呼吸だ。


「わー!!良いわねー!!」

『マンションの隣が空いたの。だから美香たち越してくれば良いじゃんって』

「嫌だよ。そう言ってどっちかの家に入り浸るんでしょ。同じことだよ」

『そう言うと思った。ちゃんと夜は自分の家に戻るんだから良いじゃん』

「それは当たり前でしょ。浩一さんは?」

『琉依くん……どうしよう』


 浩一さんの困り果てたような声が聞こえて優菜に苦労をかけられたと思って申し訳なくなる。


「優菜に言い負かされちゃったか……。とにかく駄目だよ。優菜昇とか竜二さんに言われたでしょ。浩一さんは優菜にはもったいないくらいの人だって」

『だからなにー?』


 だからなにときたか。困った妹だな。昇たちに優菜が結婚すると言ったらどんなやつなんだってみんなが怖いもの見たさで浩一さんを見学しに行くというおかしな出来事が起きた。竜二さんまでわざわざ戻ってくるくらいだし村岡くんも積極的だったそうだ。木村くんと村岡くん、昇と小林くん、関さんと竜二さんという組み合わせで浩一さんと優菜が住む家に行って浩一さんを調査したそうだ。結論は浩一さんはなんかすげえやつだってことになったそうだけど僕も知ってるよ、浩一さんはすごく良い人だってって思った。


「だから浩一さんの言う通りそれぞれ暮らそうよ。たまに遊びに来るくらいは良いんだから」

『そんなの駄目よ。諦めないんだからね、ね、美香』

「う、うん……」


 また美香が目をうるうるさせる。困った。負けそうだ。これは一旦落ち着いて考えた方が良い。


「わかった。じゃあ一旦保留ね」

『保留ってなによ。決定でしょ』

「僕は戸建てが良いと思ってたんだよ。ってことでこの話は持ち越しね」

『仕方ないわね、じゃあ明後日うちに来て』


 そういうわけで浩一さんに電話して美香がどうしても一緒に住みたそうで負けそうだって言ったら浩一さんも一緒に住むのは反対だけど行き来しやすい距離に住むくらいならって言うから戸建てで良さそうなところを探そうと知り合いの不動産会社をしてる南さんに連絡をして至急調べてもらった。仕事を午後休みにしてすぐに南さんのところに行って詳しく調べてもらって資料をもらった。会社は移転して前のところとはずいぶん違う60人以上が仕事ができる広いオフィスになった。採用第三段は一気に10人くらい雇おうと面接中だ。と、今は仕事のことじゃなくて家のことだ。資料をもらった僕は翌々日にそれを持って優菜と浩一さんの家に行く。


「僕の知り合いの不動産会社の人に調べてもらったよ。僕と美香がここに住むから優菜と浩一さんは4駅先のここに住んだら良いんじゃない?」


 そう言って資料をテーブルの上に置く。


「琉依兄の人脈使ったのね。それなら隣とかすぐそばの家を探したら良いじゃないの。調べ直してもらおうよ」

「無理だよ。浩一さんにも条件を聞いて値段とか職場までの距離とか考えたらここしかなかったんだから」


 嘘だけど。仕方ないでしょ。近いと通いまくるのがわかるんだから。


「本当にー?私がもう一度調べてって言うわよ。これじゃ電車の移動時間と駅から家を考えて1時間もかかるじゃない。せめて同じ駅の歩いて20分の距離にしてもらうわ」

「ないよそんなとこ」

「誰よその不動産。南さん?久米さん?」

「南さんだけど……」

「じゃあ行くわよ」


 なんてことだ。ないって言ってるのに。そんなことしたら見つかっちゃう。わからないけど。そういうところがあるのかないのか調べてもらってないんだから。

 でも優菜は立ち上がって鞄を持ち始める。まさか今すぐ行くの?


「え、今から?」

「当たり前でしょ。1時間とか意味ないじゃん。私が直接言う」


 そんな馬鹿な。優菜が急かすからみんな慌ててマンションを出て、僕は急いで南さんに電話して今から行くから同じ駅の歩いて30分の距離にある家を2つ探してほしいことと優菜と美香が20分って言うけど誤魔化して30分のところを探して条件は美香と優菜の意見を聞いてほしいけど家の距離感とかは僕に話を合わせてほしいと頼んだ。そうして南さんの会社につく。


「南さん!!頼もー!!」


 なんだその道場破りみたいな言い方は。そう思うけど南さんは気にせず柔和な態度で話す。


「やあ優菜ちゃん、久しぶりだね。結婚するんだって?」

「結婚するんじゃなくてしたのよ。もう小西優菜」

「え、そうなんだ。へーこの人が旦那さんなんだね。初めまして南です」


 南さんは僕が言わなくても結婚の話を噂で聞いたと言ってたから話が早いと思ってもう結婚してるとかは言わずにすぐ調べてほしいって頼んでた。


「あ、初めまして小西です」

「噂になってるよ。優菜ちゃんがついに結婚するって言うから」

「南さん、良いから早くして。歩いて20分で2軒」

「承知しましたっと。他に条件はありますか?」

「美香は?なんかある?」


 南さんに聞かれた美香が僕を見てくる。


「一緒に住まないならなんでも良いよ。美香が優菜が大好きなのは昔からだしね」

「やったー!!琉依さんありがとう!!」


 うん、これで良いんだよね。30分だろうが行き来しまくるに決まってるけど。でも美香が喜んでくれて嬉しい。美香はキッチンがこういうのが良いとかお庭が広いところが良いとかいろいろ言ってくれる。だいぶ思ってたのと違うけど美香と過ごす新居だ。僕もちゃんとこだわろうと思ってスーパーが近くにあるところが良いんじゃないとか言ったり通勤時間を考えたりして候補を決めた。

 そして見学に行ってみる。ここが駄目だったらまた後日にしようと思いながら2つの物件を見てみると条件を全部クリアしてるし良さそうだと思った。


「良さそうだけど20分じゃないわよね」

「そうねー。優菜が計ってた時間だと30分かかったわよー」


 きたと思いながらそれっぽいことを言う。


「美香と優菜は歩くのがゆっくりだからだよ。お喋りしながらのんびり歩いてたでしょ」

「まあ確かにそうよね」

「僕と琉依くんだけだったらきっと20分でついてたよ」


 浩一さんも言う。わからないけど僕たちが急いではや歩きしたら20分でつきそうだから真っ赤な嘘ではない。浩一さんと目を合わせて頷く。


「そうなのねー。じゃあ良いのかしらー。それにとっても素敵なおうちだし!!」

「そうね、良いかも」

「浩一さんも良いよね?」

「うん、良いよ」

「よし、じゃあ南さん。ここでお願いします」


 よし、決まった。まだ審査があるけどそれが通ればここが僕たちの新居だ。ここで美香と生活していくんだと思うと胸が高鳴った。




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