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ゼロの日曜日(美香視点)


「そういうわけで連絡遅くなってごめんねー」

『良いよ良いよ。お父さん平気?』

「うん、多分ー。怪我した以外は元気なの」


 翌朝9時、私は優菜に電話をかけた。昨日はびっくりしてどうしようってなって、そうだ、優菜に電話しなきゃって思ったらお母さんに約束は午後なんだから遅くに電話するより明日にしなさいって言われて今日電話をしてる。


「優菜ー琉依さんのことどうしよう……」

『ま、2週間ってのは単なる目安だからさ。過ぎても彼女はまだできないよ。っていうかここにきて美香以外の子と付き合うわけないし』

「どういうことー?」

『こっちの話。とにかく安心して店番してなよ。あ、琉依兄に代わる?』

「んー……良い。声を聞いたら会いたくなっちゃうから」

『可愛いこと言っちゃって。じゃあ琉依兄には私から言っておくね』

「うん」


 そう言って電話を切った。目安かー……目安ってどういう意味だろう。琉依さんに新しい彼女ができちゃったら嫌だ。どうしよう。どうしたら良いの?









 結局どうすることもできなくてタイムリブートな日曜日になっちゃった。明日には琉依さん新しい彼女ができるのかな。


「美香」


 嫌だな。お母さんに目安ってなにって聞いたら月曜日に新しい彼女ができるかもしれないし火曜日かもしれないし、いつ新しい彼女ができるなんてわからないのって言われた。私も15時におやつにしようとしてももっと早くお腹が空いて食べたいって言う時もあるし昼ご飯が遅くてもっと遅くにおやつを食べたい時もあるでしょ、だから15時っていうのは目安なのって。でもそれだと今日新しい彼女ができちゃうかもしれないわって言ったらそうかもしれないねって言われたから私はもっとどうしよーってなってる。


「みーか」

「ほえ?」


 お店のレジの横に座ってぼーっとしてるとお母さんに呼ばれてることに気付いた。


「美香お花配達してきてくれる?」

「えー配達なんてしたことないよ?だってお母さんとお父さんが駄目って言うから」

「方向音痴だから普段なら行かせないけど今日は別。お父さん動けないからお店出てこれないしお兄ちゃんは外せない用事があっていないし美香をお店に1人でいさせられないし。だから美香が配達係よ。優菜ちゃんの家がある駅で降りて1分もかからないでつくからいくらなんでも迷わないでしょ。優菜ちゃんの家って駅からどっち側?」

「どっちって?」

「優菜ちゃんの住所わかる?」

「うん、年賀状書くねって前に聞いたから」


 自分のお部屋から優菜のおうちの住所をメモした紙を持ってきてお母さんに地図を書いてもらって花束を持ってもうすぐ雨が降りだすからって傘を持たされて電車に乗った。

 電車を降りてここを右、まっすぐ、3つめの家ってメモを見ながらたどり着けた私は無事にお花を届けることができた。お金をぴったりでもらって鞄にしまう。よし、帰ろうと思ってふと思う。琉依さんに会えるかな。ここまで来たんだもん、優菜のおうちにもたどり着けるはず。

 そう思った私は優菜のおうちに向かった。けどどう歩いてもまた同じ場所に来てしまって逆に歩いてみると今度は駅に戻ってきてしまった。そうだ、駅から歩けばたどり着くはずと思ってもどこにも優菜のおうちがない。どうしよう……もう諦めて帰るしかないかなって歩いてるとまた駅に戻ってきた。これはもう帰った方が良いってことかしらって思っていると駅前に琉依さんの姿を見つけた。その時雨が降りだしたけど琉依さんに会えた感動で傘をさすのも忘れて喜ぶ。やったーなんでかわからないけど会えたー!!嬉しいと思って駆け寄ろうとしたら琉依さんが琉依さんのそばにいた女の人を傘に入れてあげて女の人が琉依さんを抱き締めた。

 そんな……タイムリ……なんとかは……ゼロってぎりぎりで大丈夫なはずじゃなかったの?ぎりぎりで駄目な日じゃない。それともやっぱり目安は目安だから琉依さんに新しい彼女ができるのは今日なの?もうわけわからないよ。

 こっちを向いていた琉依さんと目が合った私はどうしようってパニックになってとにかく逃げなきゃって思って後ろを向いて走った。


「美香ちゃん!!」


 琉依さんの声が聞こえて声を聞いたら会いたくなっちゃうの、もう遅いの、琉依さんはもうあの女の人の彼氏になっちゃったのって思いながら走る。


「待って美香ちゃん!!」

「ひゃあ」


 急に左手を掴まれて転びそうになったけど大丈夫だった。びっくりして閉じていた目を開けると目の前に琉依さんがいた。


「る、琉依さん?」

「美香ちゃん……美香ちゃんは僕のことが好きなんだよね。美香ちゃんのことは可愛いと思うし気になる存在ではあるけどそれが恋愛感情かはわからない。美香ちゃんは妹みたいな感じもするし。だから好きになるかわからないけどそれでも良かったら付き合ってみよう」


 突然のことに頭がついていけなくてとりあえず下を向くと手が握られたままで思わず手を引いてしまう。


「あ……ご、ごめん」


 私は頭を横に何度も振る。


「ちょっと待ってて」


 琉依さんはそう言うと駅に向かって走ると私がいつの間にか落としていた傘を拾って戻ってきた。


「もう濡れちゃってるから意味ないかもしれないけど」

「あ、ありがとうございます」

「えっと……それでさっきの……」

「あ……」


 動揺しながらさっきの言葉を頭の中で繰り返す。そっか、お試しだ。私のことを好きになるかわからないけど付き合ってもらえるんだ。あれ?さっきの女の人は?


「あの……さっきの女の人は……?」

「同級生だよ。告白されたけど断って傘を持ってなかったから傘をあげて帰そうと思ったら抱き締められただけ。それだけだよ」


 なんだ……そっか。間に合ったってことで良いのかな。ぎりぎりで。


「美香ちゃん?付き合ってくれる?」

「えっと……えっと……はい」


 ぎりぎりで彼女になれたみたい。お試しだけど。そうだ、お試しの……仮の彼女だ。うん、仮彼女になれたんだ。これから頑張って本物の彼女になりたいな。


「くしゅん」

「え、大丈夫!?」

「は、はひ」


 くしゅん、くしゅんとくしゃみが止まらなくなった私。琉依さんが慌てて私に触れようとした瞬間、私はなぜか肩を震わせてしまった。

 き、緊張するー!!私琉依さんの彼女になれたんだ!!仮だけど!!初めて好きになった人とお付き合いできたんだ!!仮だけど!!


「とりあえずうちに行こう。風邪引いちゃう」

「え、大丈夫……くしゅん……ですよ」

「大丈夫じゃないよ、来て来て」


 うう、鼻がむずむずすると思いながら傘をさしてくれる琉依さんの隣を歩いているとすぐにおうちについた。あんなに迷ったのに不思議。


「琉依遅かったわ……ね……あらあら美香ちゃん?どうしたの、そんなに濡れちゃって」


 おうちに入ると優菜のお母さんに驚かれてしまった。


「優菜ータオル持ってきてー」

「えーなんでー……え、美香!?なにしてんの!?」

「話はあと。美香ちゃんお風呂に」

「そうね、美香ちゃんあがって」

「はい美香、これ使って。下着とか服とか私の持っていくから。湯船ちゃんと浸かるのよ。今着てるのは洗濯するから今度会った時に渡すね」

「えっと……くしゅん、ありがと……くしゅん」

「あら大変、早く入らないと」


 優菜にタオルを頭から被せて拭いてもらいながら歩く。


「なにがどうなってるの?」

「えっと……くしゅん、彼女になったの」

「え、なにそれ!?」


 あ、仮って言いそびれた。そう思ったけどお風呂場に着いた私は優菜に琉依さんに聞くと言って脱衣場に押し込まれてしまった。

 どうしようと思いながらとりあえず服を脱いでシャワーを浴びて湯船に浸かる。そして思う。優菜は琉依さんのことを心配して私に琉依さんを元気にしてほしいって言った。だから私が琉依さんの彼女になったことは優菜にとって嬉しいこと。仮の彼女だなんて言ったら琉依さんを本当に元気にさせることができないんじゃないかって不安になるかも。それに優菜は私のことも大好きでいてくれるから本物の彼女にはなれなかった私を心配するかも。私も優菜が大好きだから不安な思いも心配もさせたくない。それにそれに、琉依さんも仮だなんてみんなに言わないかもしれない。だから仮彼女は私と琉依さんだけの秘密にしよう。

 そう思ってお風呂から出て優菜が置いておいてくれた着替えに着替えて居間に行く。


「美香ー!!良かったね!!」


 そう言ってぎゅっと抱き締めてくれる優菜に嬉しくなる。絶対仮だなんて言えないって思う。


「こんなに可愛い彼女ができるなんて琉依は幸せねー」


 そう言って私の髪を撫でてくれるお母さん。お母さんにも仮だなんて言えない。


「あら?髪が濡れてるわ。ちゃんと乾かさないと駄目よ」

「えっと、ドライヤー使って良いのかわからなかったのでタオルでパンパンってしました」

「あら、気を使わなくて良いのよー!!ほら、戻って乾かしてきたら?琉依がやる?」

「「え?」」


 私と琉依さんの声が重なる。琉依さんが私のそばに来ようとした瞬間にどうしようもなく緊張した私はビクッとする。


「自分で大丈夫れすー!!」


 そう言って洗面所に走った。どうしちゃったんだろう、私。さっき琉依さんが触れた左手を見てみると身体がぶわっと熱くなった。胸もドキドキが止まらない。私いったいどうしちゃったの!?





 髪の毛を乾かしてまた居間に戻るとお母さんに夕食どうって聞かれた。


「あの、私お使いの途中で……もう多分怒られちゃうと思いますけど早く帰らないと」

「美香は馬鹿のくせに本当に真面目ねー」

「仕方ないわね。じゃあ琉依が送っていくから気を付けて帰ってね」

「本当に気を付けて帰るのよ美香ー」

「どういうこと?」

「帰ったら連絡してよねー」

「ちゃんと家まで送るよ」

「いやー心配だからさ、わかった?美香」

「う、うん」

「美香ちゃん、行こう」

「あ、はい」


 どういうことだろうと思いながらおうちの外に出て車のそばに行く。するとこの前と違って助手席のドアを開けられてびっくりする。


「美香ちゃん?」

「あ……えっと……助手席ですか?」

「彼女だからね」

「そ、そうなんですね」


 琉依さんは仮だけど本物の彼女みたいに接してくれるんだ。そう思うと頑張って本物の彼女になろうという気持ちでいっぱいになる。

 走り出す車の中は静か。なにか話さないとって思うけど何を話せば良いのかわからない。


「えっと、お父さん大丈夫?」

「え?あ、はい。安静にしてれば明日には動けるって」

「そっか」

「はい」


 緊張するー。


「あのさ、次いつ会えるかな。お店のこともあるししばらく無理?」

「んーと、明後日は大丈夫だと思います」

「じゃあ明後日会える?」

「あ、はい……あ、宿題ですね!!」


 どうして会う約束をするんだろう、私は会えて嬉しいけどと思っていると金曜日の代わりだと思い付く。


「え?宿題?」

「優菜もまだ終わってないですよね。もうすぐ夏休み終わっちゃいますし明後日で頑張らないとですね!!きっと無理なので優菜の書き写すの頑張らないと!!」

「え……まさかまた優菜と?」

「え、優菜宿題終わりました?」

「いや、まだだと思うけど」

「じゃあ一緒にやった方が良いですよー!!写せるし!!」

「んー……ま、いっか。でも写すのは駄目だよ。教えるから自分でやってみようね」

「むー……頑張ります」

「うん」


 また無言になってしまった。どうしよう。ドキドキが琉依さんにも聞こえてたら恥ずかしいな。

 結局そのあと何も話さずにおうちについてしまった。琉依さんはお店の近くに車を停めると車を降りて助手席を開けてくれる。


「お母さんお店だよね」

「え、あ、はい」


 そう言ってお店に歩いていってしまう琉依さん。どうしたんだろうと思いながらついていく。雨はもう止んでいた。


「あら、美香おかえりー」


 お店にいたお母さんが私に気付いた。


「た、ただいま」

「優菜の兄の琉依です。帰りが遅くなってしまってすみませんでした」

「あら、わざわざ送ってくださってありがとう」

「雨に濡れてしまったのでうちでお風呂に入ってもらってもらったんですけど風邪を引いてしまったらすみません」

「まあまあ!!ご迷惑をかけてしまってごめんなさいね!!美香、ちゃんとお礼言ったの?」

「えっと、えっと、ありがとうございました」


 私ったらお礼を忘れちゃってた。お礼を言うと琉依さんはニコッと笑ってからまたお母さんを見る。


「着替えは妹のを貸してうちで洗濯してますので今度お返ししますね」

「何から何までありがとう。本当に優しいのね」

「いえ。……あの、美香さんとお付き合いさせていただくことになりましたのでよろしくお願いします」

「あらー!!上手くいったの!!こちらこそ馬鹿な娘ですけどよろしくお願いしますね」


 なんと、琉依さんは私のお母さんにも本物の彼女みたいに言ってくれた。これはお母さんやお父さんやお兄ちゃんにも仮だなんて言えない。

 帰っていく琉依さんを見送ってから優菜に電話をした。


『なにもなかった?』

「なにもってなにー?」

『なにもないなら良いのよ』

「うん。あ、あのね、明後日また一緒に宿題しようね」

『はあ?』

「琉依さん優菜も宿題終ってないって言ったよ。一緒に頑張って終わらせようね」

『なに言ってるのよ。付き合ってるんだから2人でやんなさいよ』

「だって優菜も一緒の方が一緒に教えてもらえるし写せるし、写すのは駄目って言われたけど」

『2人になりたくないわけ?』

「うーん……でも緊張しちゃって車の中でも全然喋れなかったし、それにみんなで一緒の方が楽しいよ」

『あんたは……まあ良いや。じゃあ明後日ね』

「うん、じゃあねー」


 びっくりしたけど彼女になれて嬉しい。仮だけど。スキップしながらおうちに入ってお茶を飲んでたお父さんに抱き着いて彼女になったのーって言った。あんまり我が儘言ったら駄目だよって言われた。そのあと帰ってきたお兄ちゃんにも彼女になったのよーって言った。どこが良かったんだろうって呟きながらお部屋に入っていっちゃった。

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