キャンプ(美香視点)
「優菜ー久しぶりー!!」
「久しぶりって3日に1回連絡してるじゃない」
「でも会うのは久しぶりよー!!」
お義父さんの車を運転してきてうちまで来てくれた優菜に駐車場で抱きつく。
「もう……たった5ヶ月ぶりじゃん」
「高校生の時は毎日会ってたもの!!ねえ優菜運転してきたのねー!!すごーい!!」
「ふふん、すごいでしょ」
「ねえ本当にここからも運転してくの?怖いから僕が運転したいんだけど」
「いやー。琉依兄だって得意じゃないじゃん。私に任せてよ」
「本当に平気……?」
「大丈夫大丈夫ー」
そうして優菜の運転する車の助手席に私、後ろに琉依さんが乗って出発した。
「ひゃー!!遊園地のアトラクションみたーい!!」
「優菜!!代わって!!」
「えーなにー?」
「代わって!!」
スリルのあるドライブだったけど途中で琉依さんと交代してキャンプ場についた。みんな揃っていて私たちが最後だったみたい。
「あれ?優菜ちゃん運転してくるんじゃなかったの?」
「かこさん聞いてよー琉依兄に無理やり代わらされちゃってー」
「当たり前でしょ。危なすぎるんだから」
「まあ、優菜ったら偉そうにしてたのに運転できないのね」
「そんなことないわよ!!琉依兄が大袈裟なだけ!!翠さんなんて実技ぼろぼろのくせに!!」
「まあ、失礼だわ。そんなことないわよ」
「まあまあ、2人とも来てすぐ喧嘩しないで」
翠さんと優菜が喧嘩しちゃって関さんが間に入る。
「関さんは翠さん贔屓だからお呼びじゃないのよ!!」
「そんなことないよ」
「うるせえ!!早くしろ!!」
「昇さんの方が煩いって」
「そうだわ。人に偉そうだと言うのに自分の方が偉そうよ」
「そうだそうだ!!昇さん偉そう!!」
「だー!!うるせえなー!!」
「あ、そうだ加代子さーん、電話の本当に良いのー?」
「ええ、良いのよ。修平に直接聞いてみて?」
加代子さんにももっと仲良くしたいって電話で言ったら翠さんに聞いてるって言って良いって言ってもらえたからタメ口で話すことになった。それで昨日小林さんにもタメ口で良いわよって言ってもらって本人に良いですかって聞こうと思ってた。
「小林さん小林さーん、もっと仲良しになりたいのでタメ口で良いですかー?」
「うん、良いよ」
「やったー!!これでもっと仲良しー!!」
「美香ちゃん」
「翠さんなーに?」
小林さんに良いって言ってもらえて喜んでたら翠さんに手招きされる。
「宗一郎さんにも聞いてみたら良いわよ」
「わー!!関さん良いですかー?」
「もちろん良いよ」
「美香ちゃん美香ちゃん、みんなに聞いてみたら良いわよ」
佳代子さんに言われてよーしって言ってまず昇さんに聞いてみる。
「昇さん、もっと仲良しになりましょー」
「3年前が懐かしいな……」
「良いですかー?」
「おう」
「やったー!!木村さん、もっと仲良しになりましょ」
「良いよ」
「わーい」
「本当美香ちゃんって琉依さんの心へし折るの得意だよね」
「ほえー?……あー!!」
木村さんが視線を向けた方を見ると村岡さんの隣でしゃがんで背を向けてる琉依さんがいた。
「琉依さーんどうしたのー?お腹痛いのー?」
「ううん、大丈夫だよ。気にしないで村岡くんとももっと仲良しになったら良いよ」
「そうなのー?……じゃあ、村岡さん!!仲良くしましょー」
「嫌です」
「えー!?」
「って言ってもどうせするんですよね。なんでも良いです」
「わーい!!」
「琉依さん!!みんなともっと仲良しになれたわよー!!」
しゃがんでる琉依さんの前に回ってしゃがんでそう言う。
「良かったね」
「うん!!琉依さん元気ないのー?」
そうだ、久しぶりに運転して疲れちゃったのかも。元気にさせなくちゃ。そう思って琉依さんの手を握ってチュッて頬っぺたにキスしてみる。
「琉依さん元気出してー!!」
「元気出た!!」
「ほんとー?やったー!!」
勢いよく立ち上がる琉依さんにびっくりしたけど元気が出たみたいで嬉しい。
「なんだこいつら」
「キムチのせいで胸焼けがしてきた」
「いや、こいつらのせいだろ」
「「万年バカップルめ……」」
「優菜ー木村さんなーに?」
優菜と木村さんがこそこそ喋ってどういう意味だろうと思って聞いてみるけど2人に何でもないって言われちゃう。
「さー昇!!僕元気!!早くやろう!!」
「はあ……とりあえずやるか。じゃあ俺らでテント立てるから女子はハンモックでも立てて寝そべってろよ」
「私テントやりたーい!!」
はいはーいって手を上げると佳代子さんも私もーって言う。
「怪力女はともかく美香ちゃんじゃ無理だろ」
「ちょっとー!!怪力女ってなによー!!」
「私やりたーい!!琉依さーん!!」
「んー……じゃあ美香は僕を手伝ってくれる?」
「わーい!!」
それで私は琉依さんのお手伝いしながらテントってこうやって立てるんだーすごーいって思った。佳代子さんは昇さんに言われるようにてきぱきやっててすごいなって思った。優菜と翠さんと加代子さんんはハンモックを立てて寝るんじゃなくて3人でテントを立ててるみんなの写真を撮ってた。
「よし、完成だな」
「怪力女すげー!!」
「煩いひ弱なキムチー」
「なんだとー!!竜二さんに言いつけてやるー!!」
「竜二さん出せば良いってものじゃないんだからね!!」
「本当騒がしい……。おい、次だ次。ぼさっとしてたらあっという間に夜になっちまうぞ」
「昇さん次はなにするのー?」
「魚を釣りに行くのと薪を調達してくるのと留守番とに分ける。から、とりあえず女子は「私お魚釣りしたーい!!」……琉依、お前釣りな」
「うん、美香、頑張ろうね」
「頑張るー!!」
上手くできるかな、頑張ろっと。
「優菜もやろー!!」
「えー私留守番で良いのに」
「えーやろうよー!!」
「仕方ないわね……」
「じゃあ留守番は翠さんと加代子さんとかこさんで良いよな」
「えー3人もなにかしないのー?」
「留守番も大事なんだよ。まだ机とか椅子も立ててないし野菜とか切ってないだろ」
「私がやるわ。かこ薪集めたいって言ってたから翠さんと行ってきたら?」
加代子さんがそう言うと木村さんが言う。
「翠さんが……薪……」
「木村さん?私が薪を集めてなにか問題が?」
「いえ!!何でもないです!!」
「翠さんが薪集めとか面白いですねー!!」
「かこ!!」
「ひゃー!!ごめんなさい!!」
翠さんに怒られちゃう佳代子さんが関さんの後ろに隠れる。
「とにかく薪は僕と翠とかこちゃんで行ってくるよ」
「じゃあ留守番は加代子さんと小林ってことで……俺は琉依と美香ちゃんに任せられねえから釣りについてくとして、あとは木村と村岡か」
「「留守番で!!」」
「加代子さんと小林で平和に平凡にできるから駄目だ。どっちか釣り、どっちか薪だ」
「どっちが良いんだ」
「どっちかと言うとどちらが良いんでしょう……」
「村岡さん一緒にお魚釣りましょー!!」
「……どっちが良いのかわからないのでそれで良いです」
「じゃ、木村は翠さんとかこさんな」
「ちょっと昇さん!!薪で良いじゃないですかそこ!!」
こうして誰が何をするかを決めた私たち。
「昇さん昇さん、何を持っていけば良いのー?釣竿とー」
荷物のそばに行ってどれー?って言うと昇さんが教えてくれる。
「あとはクーラーボックスだな」
「昇さん、クーラーボックスが2つあるわよー?両方?」
「小さい方は馬鹿用って書いてあんだろ」
大きいクーラーボックスと小さいクーラーがあって昇さんの言う通り小さいクーラーボックスの方にはペンで馬鹿用って書いてあった。
「馬鹿用ってなーに?」
「琉依だ琉依」
「どうして琉依さん?」
「馬鹿な琉依が暑くて倒れたら使うんだよ、これでな」
そう言って氷のうも出してくれる。
「暑いの駄目だろ。熱中症が酷くて病院沙汰になったら琉依病院行けねえからそうなる前にこれでどうにかするんだよ」
「んー……?病院行けないの?」
「おっと、泣くんじゃねえよ?」
昇さんは少し離れたところで優菜と村岡さんと話し込んでるみたいな琉依さんを見て言う。
「泣かないわよー」
「約束だぞ、めんどくせえから」
「うん、約束」
「優菜が怪我したって話は知ってるな?」
昇さんが顔を近付けて声を潜めて言うから私は静かに頷く。
「あれがあってから琉依は病院って単語を聞くだけでも平静でいられなくなったんだ。平静ってわかるか?落ち着いていられなくなるってことだ。救急車のサイレンも駄目だし近所の診療所だろうが大きな病院だろうがあの時のことを思い出して平静でいられなくなる。だから病院に行くようなことにならないようにしてんだよ。って言っても飯はほっとくと食べねえし暑いの駄目だしすぐへばるんだけどな。だからこうやって氷のうを……ってなんで俺はいつまでも琉依の面倒見てなきゃなんないんだ?ついいつも通り持ってきちまったけど。それやるから持って帰ってけよ。俺もう琉依の面倒見ねえ。……よし、泣いてねえな」
私は泣かないように唇を噛みながら何度も頷いた。琉依さん私に話してくれた時も平静じゃなかったのかな。それなのに私に話してくれたんだ。
「ちょっと!!近いんだけど!!そういうもっと仲良しにはならなくて良いんだけど!!」
そう思ってたら琉依さんに抱き寄せられる。
「うるせえな。早く行くぞ」
「美香となに話してたの?」
「馬鹿の話だ」
「馬鹿ってなに?」
そう言って私を見てくる琉依さんに笑って言う。
「琉依さんの話よ」
「えー僕馬鹿じゃないんだけど」
「お前それ持ってこい」
「いやいや、みんなで持ってよ」
結局琉依さんが大きいクーラーボックスと釣竿を2つ持ってくれて私と優菜はなにも持たないで足元気を付けてって言われて気を付けながら川に行った。
それで昇さんが上手にお魚を釣っててすごかったり琉依さん網で掬うの上手だったり村岡さんが全然喋ってくれないのにたくさん釣れててすごかった。
そしてたくさんお魚を釣って戻ると翠さんたちも戻ってきてた。
「んじゃあ料理するか」
「昇さん火付けてー」
「付けるの見たーい!!」
「あ?普通にこうするだけだけど」
私と佳代子さんが見たいって言ってたら昇さんがライターを取り出した。
「がーん!!それじゃない!!」
「そうよ!!こうやってよ!!」
佳代子さんが木の枝で擦るように手を擦る。
「あー?これで良いだろ」
「いやいや、せっかく拾ってきたんだからやってよ」
そう言って佳代子さんに渡された昇さんがため息をついてからやってくれた。
「わー!!すごいすごいすごーい!!ね、優菜」
「そうね、さすが慣れてる」
「女の子には慣れてないのにねー」
「これを見たらガラの悪い昇さんのポイントが高くなるかもしれないですね、翠さん」
「けどこれだけでは仕方ないわよね。日常生活で特に必要なことではないもの」
「おい!!人にやらせといてお前らなんなんだ!!」
そうしてお魚や野菜を焼いて食べる。
「美味しー!!琉依さん美味しいね!!」
「うん、美味しいね」
「これは村岡さんが釣ったお魚ねー」
「なんでわかるんですか、昇さんかもしれないですよ」
「んーなんとなくですー」
「意味がわかりません」
みんなで賑やかに食べるの楽しいなって思いながら食べる。
「翠、疲れたでしょ。大丈夫?」
「ええ、平気よ。薪拾いも楽しかったわ」
「それなら良かった。薪を拾う翠も魅力的だったよ」
「まあ、本当に?宗一郎さんもかっこよかったわ」
「赤くなってるよ」
「ひ、火が熱いからよ」
「修平、家で魚を焼くのとここで焼くのとで全然味が違うわ」
「そうだね」
「釣ったばかりだからかしら。それとも火力?」
「どうだろ、今度うちで実験してみようか」
「ええ。ふふ、文系なのにここ最近実験ばかりね」
「本を読んでるだけじゃなくて実際にやってみないとわからないものだからいいんじゃない?」
「確かにそうよね」
翠さんと関さんも加代子さんと小林さんも楽しそうだなー。そう思って何気なく佳代子さんを見たらなんだかぼーっとしてるみたい。
「佳代子さ、かこさんどうしたの?」
混ざっちゃうと思って言い直すと佳代子さんはハッとしたようにして私を見た。
「甘いものがほしいなーって思って。ねえ、何かないのー?」
「ねえよ」
「頭の中甘いものばっかだな怪力女」
「煩いキムチのくせに」
「そうだそうだーよく喋るキムチめー」
「女帝も煩い!!」
「この人たち言うことが幼稚すぎません?」
「村岡も同じようなもんだろ」
「心外です。昇さんだって同じです」
佳代子さんどうしちゃったのかなって思ったけどいつもと変わらないみたい。気のせいだったのかな。
食べ終わったあと後片付けをみんなでして、それからテントで眠ることになった。
「なんか高校の時みたいだね」
「そうねー!!卒業旅行懐かしいわねー」
優菜に言われて真紀ちゃんと晶子ちゃんと行った卒業旅行を思い出す。
「遅くまで話してたよね」
「そうねー」
「じゃあ今もみんなで話そー。美香ちゃんなにか話してー?」
佳代子さんに言われて考える。
「んーなんの話が良いー?」
「なんでも良いわよ。今考えてることとか」
「楽しかったことでもそうではない話でもなんでも良いわよ」
加代子さんにも翠さんにも言われて最近……結構前から考えてることを話すことにした。
「私保育士になるのやめた方が良いかなーって思ってるわー」
「え、なんでよ。止めるの?」
「んーどうしようかなって」
「保育士の勉強してて嫌になっちゃったのー?」
「ううん、そんなことないのよ。勉強して、実習もして、保育士になりたいって気持ちは変わらないし頑張りたいって思うけど本当にそれで良いのかなって。毎日お部屋をピカピカにしてお洗濯してご飯4品作ったりしなくて良いのかなー」
「あら、お茶会やパーティーで話を聞いてそう思ったのね」
翠さんが言う。あれから私は何度かお茶会にも誘われて行ったりパーティーにも何度か行ってる。そこで年上の人たちと話すとそういう話をしてる。初めてのパーティーで七菜子さんと百合子さんが話してた通り忙しい琉依さんを放ってて良いのかなって思った。
「琉依さん忙しくて私がお風呂に入ってる間に寝ちゃってたりベッドに入るとすぐに寝ちゃってたり、すごく疲れてるの。でも私がお料理を作ったりお掃除をしてると手伝ってくれてるの」
「2人でやろうって決めてたのでしょう?2人で協力してこれからもやっていけば良いのよ」
「でもね加代子さん、今2人で協力してやってることだけじゃなくて、もっと私はやらないといけないことがあるんじゃないかなって思うの。遥さんは毎日旦那さんの健康に気を付けてバランスの良いご飯を作って下ろし立てみたいなシャツを着れるようにしてたり今は私が平日は学校だから土日にお茶会をしてくれるけど基本的には平日に人を誘ってお茶会やランチ会をしてるそうだし」
「遥さんは社長夫人だということもあると思うわよ。お呼ばれすることもあるけどお誘いする方が多いもの」
「それに人によるのよ。家事はお手伝いさんを雇ってってする人もいるだろうし」
「私自分でやりたいの」
「それはそうよね、琉依兄は美香の手料理が好きだし家事も2人でやりたいんだし。ほら、人それぞれなんだから良いんじゃない?」
「でもでも、何をしたら良いのかわからないの」
「琉依さんの立場って微妙よねー。平社員って言い張りながら琉依さんのプログラミングの腕でやってるわけでしょあの会社。社長は昇さんって言っても会社の顔って言ったら琉依さんだし、そう考えると社長夫人の遥さんを参考にしてみよーっていうのもわかるけど」
「昇さんは華やかなパーティーなんて行きたくないって言ってるから今は副社長の修平が代理ということになっているし、琉依さんも平社員と言いつつ会社の重役ポジションでパーティーに参加してるわ。今はというか今後もそうでしょうけど」
「昇さんが積極的にパーティーに行きだすはずないし昇さんだもん、結婚相手だってそういうのが好きじゃないって人になるだろうしね」
「昇さんも接待だったりはしているのよ。パーティーは性に合わないと言ってるだけで。だからそこは修平と私で良いけれど」
「美香ちゃんがおそらく気にしていることは加代子がやるから気にしなくて平気なのよ。社長がやらないから副社長、その奥さんがって、なにも不思議ではないわ」
「そうそう。そういう意味では琉依さんずるいわよね。琉依さんが中心なのに平社員だから別に何も気にしなくて良い立場なんだもの。だから美香ちゃんも気にしないで保育士なったら良いわよ。せっかくできた夢なんだから。一生懸命頑張ってるんだし」
佳代子さんがそう言ってくれる。だけどそれで良いのかな。私だけ好きなことして良いの?
「加代子さんは今どんな風に過ごしてるの?」
「そうねえ……だいぶ前に修平が漬物にハマりだしたのだけど、いつもと違ってまともなハマりものだと思って私も凝りはじめて今でもぬか漬けを作ってて、修平がうどんを麺から作ることに興味を持ち始めた時があって、私がそれ良いわねって思って今でも足で踏んだりって作ってたり、普通よ、普通」
「いや、加代子さん普通じゃない。普通すぎるのが小林さんのウリだったのにそれじゃ普通じゃないわ」
「そう?あとは掃除も洗濯も普通にするし……。お茶会をしてるつもりではないけど人は訪ねてくるわね。着付けを教えてほしいって言われて。それでそのままお茶してお話しして」
「琉依さんの立場がなんなのかは一度置いて、社長夫人、経営者の奥さんがどんなことをしているのかというと、それもまた人それぞれなのよ」
「わ、微妙に翠さんスイッチ入ってるかも」
「かこさん、長くなりそうだね」
「コホン……パーティーなどに出席して会社関係者にご挨拶したり身内の方とお話ししたり、まったく関わらないで家で旦那さんの自身のサポートをすることに専念する人もいるわ。子供ができたらそれだけではないけれど。例えば昇さんはまだ相手もいないけれどパーティーにも出席しないで家庭のことに専念するか共働きするかだと思うわよ。今は従業員はいないけれど今後は増えていくんじゃないかしらね。そうなると社員を家に招いてということもあるでしょうけどそれをするかどうかも人それぞれ。昇さんは自分は苦手だけどパーティーには代理を立てるくらいだからそういうことも修平さんに頼むことになるかもしれないわね。そうしたら加代子がもてなすことになるだろうけど加代子ならそれもそつなくこなせる。だから立場的に何をするかを考えるのは副社長の修平さんと加代子であってあくまで平社員の琉依さんと美香ちゃんはそこまでそうしたことを気にしなくて良いのよ。美香ちゃんは琉依さんのことだけ考えていれば良いの。それで琉依さんのことだけどあの人はご飯を食べなくてもやっていけるしあれば何でも食べるのだから品数がどうかなんて気にしないわ。美香ちゃんの手料理ということしか重要じゃないもの」
「じゃあ翠さんも加代子さんもそんなに作ってない?」
「作ってるか作ってないかで言うと作っているけれど……」
「私もそうだけれどそれは私が食べたいからよ」
「ええ、そう、私も加代子と同じよ」
「それにそんなに予定が立て込んでる日は前の日に作りおきをしておくとか」
「ねえ美香?そもそもあの狭い家でそう何品も作れないんじゃない?テーブルにも乗らないんじゃ」
「琉依さん病院行けないって言ってるわりに自己管理適当だけどそれで今まで何事もなかったんだから毎日3食食べるようになっただけで十分じゃないかしらねー」
「うん……優菜ー琉依さん病気になったらどうしたら良いのー?」
「適当に寝かせて市販薬飲ませてたら一晩でケロッとすんのよ。流行りで周りが感染してても琉依兄だけバリアでもしてるみたいにかからないし。まあなったらなったで意識朦朧としてるのに病院がなんて考えないよ」
「そうなの?」
「そうよ。それに琉依兄ここ数年はそこまで気にしてなさそうだよ」
そうなんだ……。けど体調を崩しちゃって優菜のことを思い出してそれでもっと辛くなっちゃったら琉依さんたくさん苦しくなっちゃう。そんな姿を見たら救急車も呼べないしどうしたら良いのかわからなくなっちゃう。そうならないようにしないと……でも保育士になって今よりもっと忙しくなるのに今できてないことができるの?
「琉依さんは私にどうしてほしいと思ってるのかな」
「美香ちゃんがやりたいことをやることが琉依さんの望みよ」
「ええ、美香ちゃんが保育士になることが琉依さんも望んでいること。それは美香ちゃんが保育士を目指して一生懸命頑張ってるからよ」
「逆にいえば美香ちゃんが保育士にならないって決めても美香ちゃんがそうしたいなら反対しないと思うわよー」
「まあ反対しないだろうけどなんで、どうして、僕何かしちゃったのかなとは言うよね、琉依兄だし」
「美香ちゃんがどうしたいのかをもう一度よく考えてみたらどう?ああ、楓さんとは話した?」
「レセプションパーティーで会ったわよね」
「楓さんとはそのあと1回だけ他のパーティーでも話したけどあんまり時間がなくて」
「パーティーでは人が多いからあまり話せないもんね。それに楓さん忙しいから」
「けど美香ちゃんがお願いしたら時間を作ってくれるのではないかしら。聞いてみたらどう?」
「忙しいのに良いのかなー……」
「大丈夫よ。みんな美香ちゃんの力になりたいの」
「そうなのー?どうして?」
「それが美香ちゃんの魅力だからよ」
そうなのかな。みんながよく考えたら良いわよって、おやすみって言う。私は目を閉じて私がしたいことってなんだろう、どうするべきなのかなって考える。そうしているといつの間にか眠っていてふと目が覚めるとまだ暗くて夜中だった。もう一度目を閉じようとして佳代子さんがいないことに気付いた。どこに行っちゃったんだろう。
そう思ってそっと起きあがってテントから出てみる。辺りを見渡してみて少し離れたところに人がいて近付いてみる。
「星が綺麗なのよー。そっちは見える?」
佳代子さんの声だと思ったら続いて聞こえてきた声に驚く。
『こっちだって星は見える』
竜二さんの声だ。そっか、携帯が置いてある。スピーカーにしてるんだ。
「だよねー」
『けどそっちの方が綺麗だな』
「田舎だからね」
『そうだな。なにもない』
「なにもないけどキャンプ楽しいわよ」
『お前なんてなにもできないだろ』
「そんなことないわよ、私がどれだけ活躍したと思ってるの。キムチより大活躍よ」
『そうか、お前の馬鹿力が役に立ったんだな』
「馬鹿力じゃないわよ」
『じゃじゃ馬なんだから馬鹿力で合ってる』
「いーだ!!そっち行って暴れ馬してあげようか」
『即送り返すからな』
「129行ってからにしてね」
『そんな所ない』
「あるじゃない。都心の流行りもの見たい見たーい」
『来るな。それにお前新手の誕生日プレゼントの催促だろ』
「ふふふ、12月9日今年の誕生日は何を買ってもらおうかなーアイスにしようかな」
『じゃじゃ馬がじゃじゃ豚になるぞ』
「なりませんー。その分動いてるんですー」
『それ以上に食ってるだろ』
「大丈夫で……あれ?美香ちゃん?」
「あ、えっと、ごめんなさい」
「どうしたのー?」
『お前が煩いから起こしたんだろ』
「テントから離れてるわよー。じゃ、竜二さんアイスよろしくねー」
そう言って電話を切った佳代子さん。
「ごめんなさい電話してたのに」
「良いの良いのー。どうしたの?眠れないの?さっきのこと?」
佳代子さんがおいでって言ってくれて隣に座る。
「ううん、それは……考えてるけど目が覚めたら佳代子さんがいなかったからどこかなって」
「そっか、探してくれたのね。良い子良い子」
よしよししてくれる佳代子さん。夜ご飯の時翠さんと加代子さんを見ながらぼーっとしてた佳代子さんを思い出す。
「あのね、佳代子さん聞いても良い?」
「なんでも聞いて良いわよー」
「佳代子さんは竜二さんとどうなりたいの?」
「んー……そうねえ」
「翠さんと加代子さん見て羨ましい?」
「羨ましいかあ。そうなのかなー。良かったなーとは思うわよ」
「佳代子さんも竜二さんとって思わないの?好きなのよね」
「好きだけど竜二さんにとって一生妹だからね。琉依さんはいつか変わるって言ってくれるけど琉依さんの勘が当たるのはその人自身が頑張ったり動こうってするからよ。翠さんも玉砕覚悟で言ったら上手くいったの。私にはできないよ」
「じゃあ他の人を好きになってみたり……とか」
「お見合いはあるのよ。でも竜二さんどこからか聞き付けてそういう時だけ自分から連絡してきてそいつはなよなよしてそうだから駄目だとかそんなやつ弟と呼べないとか認めないとか意味不明なこと言ってくるんだもの。好きな人が反対してるのに好きでもない人と結婚するのも馬鹿らしいでしょ。好きになってくれないのに私が他の誰かと親しくしようってするとそうやって反対するの。子供の時からね。そんなんじゃ他の人なんて考えられないわよ。でも私には竜二さんとの今の関係を変える勇気もないし好きになってくれない人を追いかけていくこともできない。今まで通り妹として見てくれるだけで放っておかれて翠さんも加代姉さんも優菜ちゃんも、もちろん美香ちゃんも、みんなみんないないところで生活していく勇気なんてないもの。笑っちゃうよね、そんなキャラじゃないのに。でも2、3日の旅行なら良いけどずっとあんな遠くでみんなと離れて暮らすなんてできない。今まで通りみんなと会ってお喋りしたりお出掛けしたりお茶のお教室をしたり弟の面倒を見たり……面倒見てるのは僕だって生意気なこと言われるけど……とにかくずっとこのままで良いのよ。そしたらみんな結婚していって子供が生まれてお母さんになってって、取り残されちゃうけどキムチがいるし。キムチも一生独身だし」
「佳代子さん……」
それで本当に良いのかな。竜二さんも気付いてないだけで佳代子さんが大事で一番の女の子なはずなのに。モヤモヤしてよくわからない。
「もう、美香ちゃんが泣かなくて良いのよー。よしよし」
「だって……」
「ねえ美香ちゃん」
「……なーに?」
「向こうも星が見えるんだけどこっちほどよく見えないんだって。同じように空を見てるのに見てる景色は違うのねー」
「どういう意味ー?」
「竜二さんの考えることはよくわからないってこと!!さ、寝よう。明日もキムチいじりしよーっと」
佳代子さんはそう言ってテントに戻って、入る前に今のことはみんなには内緒って言った。本当に良いのかなって思ったけどなにもしなくて良いのって言われちゃった。そのまままたいつの間にか眠っていて優菜に起こされて着替えて外に出る。
「美香ー!!」
外に出るとすぐに琉依さんが走ってきて抱き締めてくれた。
「おはよー琉依さん」
「おはよう美香」
それでいつも通りキスをする。
「美香がいないから寂しかったよー。美香も寂しかったよねー」
「んー寂しくはなかったわよ?」
「強がる美香も可愛いねー」
「ほえー?あ、でも琉依さんのこと考えてたわー」
「僕もだよ!!」
「あと竜二さんのこととか」
「なんで竜二さん!?竜二さんのことなんて考えなくて良いよ!!」
佳代子さんと竜二さんのことを考えてたんだけどって思ってたら昇さんが琉依さんの頭を叩く。
「朝からうるせえんだよお前は!!こっちは寝てねえんだぞ!!」
「そんなの知らないよー痛いよー!!」
「琉依さん大丈夫ー?」
頭を押さえる琉依さんをよしよししてあげる。
「うん、大丈夫。美香のおかげで」
「良かったー」
「ふぁー……朝から胸焼けする」
「優菜ちゃん寝不足ー?寝不足はお肌の大敵よ」
「かこさんそれ言ってみたいだけでしょーかこさんも朝から元気ね」
「翠、眠れた?」
「ええ、大丈夫よ。宗一郎さんは?」
「俺も寝れたよ、普通にね。ね、小林」
「はい」
「それ持ってきて良かったわね修平」
「だね」
「あー!!関さん小林さんそれなんですかー!?耳栓ですか!?耳栓ですね!!」
木村さんがいきなり大きな声を出してびっくりしちゃう。琉依さんと手を繋いでどうしたのー?って聞く。
「関さんと小林さん耳栓してた!!琉依さんのお経みたいな美香美香美香って声でこっちは眠れなかったって言うのに!!」
「木村は寝てたろ、被害被ったのは俺と村岡だ」
「そうですよ。琉依さんのお経が止んで寝たかと思ったら木村のいびきが煩くて関さんと小林さんはなにしても起きないし昇さんと俺は寝てないです」
「僕ずっと美香のこと考えてた!!夢でも美香と一緒にいたよ」
「私も琉依さんの夢を見たわよー」
「一緒だね」
「そうねー!!」
「ま、とりあえず朝飯食って早く帰るか」
「そうですね、疲れました」
「朝の運動しよーっと。キムチ相手してよ」
「絶対嫌だ!!」
今日もみんな元気だな。昨日聞いた琉依さんのことも夜にみんなに相談したことも佳代子さんに聞いたこともすっきりしてないけどこれからもっと考えようって思った。琉依さんのためにできること、私は何をしたら良いのか、佳代子さんと竜二さんのために何ができるのか。
朝ご飯を食べて片付けをして昇さんから小さいクーラーボックスを譲ってもらった私が琉依さんに昇さんから引き継いだのって言ったら琉依さんが笑ってありがとって言って頭を撫でてくれた。
帰りは初めから琉依さんが運転して優菜をおうちまで送っていったらお義母さんとお義父さんに、琉依さん和食も食べるって早く言えば良いのねって言ってたくさんの和食料理を作ってくれていてお昼ご飯を一緒に食べさせてもらってから電車で私たちのおうちに帰った。あっという間だったけど楽しかったり、いろんな話をしたり、聞いたり、たくさんのことを考えたキャンプだった。