元気にさせたい(美香視点)
「もう無理ー!!」
優菜と琉依さんのおうちで宿題を始めて5分。私はペンを放り出した。
「早すぎ!!あり得ないくらい早すぎ!!ほら、シャキッとして!!」
「もー優菜煩いー!!」
「まだ1問目なんだけどな。どうわからない?」
そう優しく聞いてくれる琉依さんだけど私はお勉強という言葉を聞いただけでも逃げたくなるくらいお勉強が大嫌いだからわからないとか考えるまでもなく嫌なの。
私がそう言うと琉依さんと優菜は顔を見合わせて苦笑いする。
「ね、重症でしょ」
「うん。まずはその抵抗感をどうにかしなきゃだね」
「えーん!!お菓子ー!!」
「早すぎ!!」
「5分に1回って言ったのにー!!」
「許可した覚えはない!!」
「でもでも優菜!!やる気が出ないからなにもできないのー!!」
「あらあら、困っちゃうわね。それなら先におやつを食べてからやる気を出したら良いんじゃなーい?」
そう言ってくれたのは優菜のお母さん。優菜にそっくりの華やかなお母さんだ。
「アップルパイを作ったの。これを食べたらやる気になれるわよ」
「わーい!!優菜のお母さん優菜と大違いで優しい!!」
「悪かったわね、優しくなくて」
怒った優菜が怖かったけど優菜のお母さんがアップルパイを乗せたお皿を渡してくれて一口食べるとほっぺたが落ちそうなくらい美味しくて怖い優菜がどうでもよくなっちゃった。
「美味しー!!お母さん天才です!!」
「ふふふ、ありがとう。ねえ美香ちゃん、私もお勉強大嫌いだったけど今はいろんなことを覚えるのとっても好きなのよ」
「そうなんですかー?」
「ええ。日本のこと知るのとっても楽しいの」
「私は楽しくないですー」
「あら。ふふ、じゃあお勉強自体を楽しむんじゃなくてこうやってご褒美でおやつを食べるとか自分にご褒美をあげたら頑張れるんじゃないかしら」
「ご褒美ー?」
「美香ちゃんはなにが欲しいの?」
「んー……」
なんだろーって考えてると琉依さんと目が合う。そうだ。
「琉依さんにすごーいって褒めてほしいー」
「あらあら、可愛い」
「たくさん褒めてあげるよ」
ひゃー!!きょとんとしてた琉依さんが優しく笑って言ってくれてすごく体が熱くなる。
アップルパイを食べたあと、やる気になった私はお勉強も琉依さんの彼女になるのも頑張らないとって思った。優菜に駅まで迎えに来てもらった時ただ宿題をするわけじゃなくてちゃんと琉依さんとの距離も縮めないといけないのよって言われた。だから今日は覚えてる、数字は5ってもう一度口にして気合い十分にしてお勉強を再開した。
琉依さんは優しく教えてくれながら褒めてくれたけど優菜よりよくわからない説明で頭がこんがらがっちゃった。でも今日はここまで頑張ってみようって言われたページの1ページ先まで進めてみたら琉依さんがすごいすごいって褒めてくれた。集中できて偉かったねって。お勉強はやっぱり嫌いだけど琉依さんのことはもっと大好きになった。
琉依さんは今週水曜日と木曜日に学校に行くというから金曜日にまたお勉強を見てもらうことになった。だけど日曜日がタイムリミックスだから時間がなくて土日はお店のお手伝いがあって金曜日までにどうにかしなきゃって優菜に言われた。琉依さんに木曜日に会えますかって聞いてみたら学校帰りに待ち合わせようって言ってくれたから優菜と琉依さんの大学に行くことになった。
「じゃあ私は行くね」
「うん、頑張ってね」
優菜も一緒に琉依さんのお友達に会う予定だったけど優菜は大学まで私を送ってくれると帰っていった。優菜はこれから彼氏さんに会いに行くんだって。別れてくるんだって。どうしてって聞いたら私は知らなくて良いのって言われてしまった。優菜が泣きそうだったからついていこうかって言ったら馬鹿って言われた。私はちゃんと琉依さんとの仲を深めるのよって。だから私は優菜と別れて大学の前でうろうろしている。
ここで待っていれば良いって言われたんだけどどうしたら良いんだろう。そうしてうろうろしていると私がいる正門からたくさんの女の人が集まっているのが見えた。その中に琉依さんがいるのが見えた私は嬉しくなって手を振ろうとしておかしいなって思う。なんだか琉依さんがいつもと違う。笑ってるのに楽しそうに見えない。
どうしたんだろうと思っていると琉依さんが女の人に隠れてしまって見えなくなってしまった。そうかと思ったらいなくなってしまったみたい。女の人たちがキョロキョロしてる。
どうしよう、琉依さんの様子も気になるしどこに行っちゃったんだろう。探そうと思ってまたうろうろし始めると後ろから名前を呼ばれて振り返る。
「あ、木村さん!!」
「よ、美香ちゃん」
木村さんの隣には知らない男の人がいた。
「こいつは村岡だよ」
「あ、琉依さんのお友達ですね!!仲良くしましょー」
お勉強を教えるのが上手な村岡さんだと思って駆け寄って手を握ろうとするとスッと避けられてしまった。
「聞いた通り頭の悪そうな人ですね」
んーいきなり悪口を言われたのかと思ったけど初めましてなんだからそんなことないよね。もう一回。
「仲良くしましょー」
「嫌です」
「えー!?」
「村岡はいつもこんなだから気にしなくて良いよ」
「そ、そうなんですかー?」
「人見知りなんだよ」
「なーんだ!!そうなんですねー!!私人見知りしませんよー!!仲良くしましょー!!」
「なんなんですか、馬鹿すぎる」
「あはは、良いじゃん面白くて。で、なにしてたの?」
「あの、琉依さんがあの中にいたんですけどどこか行っちゃったんです」
そう言って女の子たちを指差すと木村さんはああ、と言う。
「琉依さんがいるとこわかるよ」
「えーそうなんですか?」
「こっちこっち」
木村さんが手招きしてくれてついていく。大学の塀に沿って歩いていくと別の門があった。
「琉依さーん、いるのはわかってるんですよー」
「大人しく出てきてください」
木村さんと村岡さんが門に向かってそう言うと門が開いて琉依さんが出てきた。
「あれ?美香ちゃんも?」
「えっと、こんにちは」
なんだか疲れてるみたいな琉依さん。どうしちゃったんだろう。
「また囲まれてたんですね」
「ゼミが今日っていうのはわかるからね。疲れたー村岡くん癒してよー」
「嫌ですよ気持ち悪い」
「あの、琉依さんお疲れですか?」
「うん、まあね」
「あれ琉依さんのファンクラブの女子たちなんだよ」
「ファンクラブ?」
「そえそう。琉依のファンで写真撮ったり騒ぐからそういうのから逃げて隠れるのがこの北門なんだよ。ほとんどの学生が使わなくて手入れが行き届いてなくて生い茂ってる草が良い感じで隠れ場所になってるんだ」
北門からまた人が出てきた。知らない人が2人と昇さんと小林さんだ。その知らない人の1人が教えてくれた。その人は私に顔を近付けて言う。
「初めまして、可愛い子羊ちゃん」
「ほえ?子羊?」
「この人は関さんでこっちが竜二さんだよ」
ひゃー!!小林さんが教えてくれた竜二さんに睨まれた。でも琉依さんのお友達と仲良くならなきゃ。
「初めまして美香です。関さん、竜二さんよろしくお願いします」
「よろしくね」
関さんは優しそうな人だな。竜二さんはちょっと怖いけど。
「ほら竜二も」
「……本当に高校生か?中学生だろ」
「もー竜二さん、いくら幼いからってそんなこと言ったら駄目っすよ」
「昇」
「あ?」
どうしよう!!琉依さんが腕を昇さんの首に回して絞めてるみたい!!止めた方が良いのかな。
「気にしなくて良いよ。いつものことだから。竜二もレディに向かってそう言うこと言わないの」
「はいはい。よろしくな」
わあ!!竜二さんはやっぱり良い人みたい!!怖い顔してるけどなんだかさっきより雰囲気が柔らかくなったみたい。
さっきまで昇さんとじゃれてたみたいだった琉依さんがまた疲れたみたいで村岡さんに寄りかかり始めた。
「琉依さん暑苦しいので止めてください」
「暑いし疲れたし村岡くんのデレたところがみたいなー」
「そんなことしたことないです」
「そんなことないよー。普段素っ気ないのにたまに優しくしてくれるじゃん。それが欲しいの」
「意味がわかりません。離れてください」
「わーもう、乱暴だな」
なんだかいつもの琉依さんと違ってるけどお友達と一緒だからかな。でもどうしてそんなに疲れてるんだろう。
「あの、琉依さんがいつもより元気がないのはどうしてですか?」
「女の子に囲まれるのが嫌いなんだよ、琉依さんはさ」
「写真も嫌いですしね」
「写真……」
「そ、女子たちの間で流通してるんだよ!!芸能人みたいでしょ」
「まあ琉依は存在感あるからね」
「目立たないようにこっそり人目を避けてたのに見つかって揉みくちゃにされて大変だったよー」
「どうしたってお前は目立つもんな」
「琉依は目立つのも嫌いなんだよ。嫌いなものばっかり」
そう言って笑う関さん。そっかあ、琉依さんはかっこいいから人気者で、人気者は大変なんだな。でもこの前の優菜のことを思い出す。琉依さんは琉依さんでいろいろあるんだって。目立つのが嫌なのに目立って騒がれてそういうのに疲れちゃってるんだろうな。あ、だからおうちにいるのが好きなのかな。琉依さんも大変なんだ。さっきの女の子たちに囲まれてる時の顔も今の疲れてる顔も見てると私も悲しくなる。そうだ、優菜は私を見てると元気になれるから琉依さんには私が良いって思ってくれたみたいだし、きっと私に琉依さんを元気付けてほしいって思ったのかも。
「琉依さん!!私琉依さんに元気になってもらいたいです!!」
「へ?」
「なにかしてほしいことないですか?飲み物は?食べ物は?」
「えっと……じゃあお昼食べよっか」
「はい!!美味しいものを食べたら元気出ますよね!!」
大学の近くのイタリアンのお店に来た。よし、今日の数字は3。頑張らなくちゃ。
「このお店も琉依さんのお友達がやってるんですか?」
「うん、まあね。このパスタがお勧めだよ」
「へー!!そうなんですね!!」
「それ俺がい……た……」
メニューを見ていた顔をあげると村岡さんがなぜか膝を擦ってるみたいだった。
「どうしたんですか?」
「なんでもないよ。村岡くんこのお店によく来るんだって。村岡くんイタリアン好きなんだよ。ね、村岡くん」
「そうですね。それは事実です」
「そうなんですねー。じゃあこれにします!!」
私は琉依さんが勧めてくれたパスタを頼んだ。
「美香ちゃんは食べ物なにが好きなの?」
琉依さんに聞かれて考える。1番は選べないなー。
「なんでも好きです。パスタもピザもカレーも、あと中華も。琉依さんは?」
「僕もなんでも好きだよ」
「そうなんですねー!!一緒ですね」
「うん、一緒だね」
あ、甘いものも大好きって言い忘れちゃった。まあ良いや。そう思っているとみんな楽しそうに笑ってて不思議だなと思ったけど楽しいなって思った。優菜も一緒だったらもっと良かったのに。帰ったら電話してみようかな。
すごく美味しいパスタを食べて、今まで食べた中で一番美味しいって言ったら更新するの早いねって琉依さんに笑われてしまったけどすごく美味しかった。
駅まで送ってくれたみんなに手を振って家に帰って20時まで待って優菜に電話をした。
「優菜大丈夫ー?」
『大丈夫大丈夫。別れたら綺麗さっぱりどうでも良くなっちゃったわ。いつも通り』
「そうなのー?」
でも優菜はいつもと違って今度こそ本当に運命な気がするって言ってたのに。
『結局別れたら今までと同じね。浮気されて別れるっていうのは初めての体験だったけどこれも1つの経験だね』
さっきは私は知らなくて良いって言ってたけど教えてって言ったら教えてくれた。優菜の彼氏さん……元カレさんは他の女の子と付き合ってたんだって。
「酷ーい……」
『平気平気。もう終わったことだからさ。今度から美香を参考に馬鹿っぽく振る舞ってみようかな』
「なにそれー良いことなのー?」
『良いことだよ。それじゃあ明日は勝負だから頑張れ』
「うん、頑張るねー。なにを頑張れば良いのかわからないけどー」
そう言って電話を切ったと同時にものすごい物音がして驚いてお店に行くとお父さんが脚立のそばで倒れていた。
「お父さーん!!死なないでー!!」
「美香……死なないから騒がないで」
「足を踏み外しただけよ。今の時間からやってる病院あるかしら」
「明日で良いよ」
「そう?じゃあ美香、お兄ちゃんと店番しててくれる?」
「私も病院行くー!!」
「美香は病院で大人しくできないから駄目よ。お留守番」
「たいしたことないから大丈夫だよ。美香は煩いからお留守番してて」
「酷い酷い!!心配なだけなのにー!!」