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なぜだろう(琉依視点)


「もうパパ煩い!!」


 居間に響き渡る声は日常茶飯事。


「そうやってすぐ怒鳴る癖も治した方がいい。もう16なのになんでそう落ち着きがないんだ」

「15の時も14の時も同じこと言ってますけどー!!」

「もう少し女性らしくだな」

「そういうの女性差別よ!!パパは古い人間なんだからその固い頭を柔軟にしてよ!!」


 夕食を食べながら父さんと優菜の親子喧嘩を聞いている。


「ねえ琉依、最近優菜の友達の美香ちゃんと良い感じなんでしょー?」

「そういうんじゃないよ」


 母さんはいつも親子喧嘩を止めるわけでもなく加わるわけでもなく気にせず僕に話しかけてくる。


「優菜は良い感じって言ってるわよ」

「優菜は楽しんでるだけだよ。美香ちゃんは……妹みたいだよ。優菜と同い年なんだから。5つも下なんだよ?」

「ラブロマンスに年なんて関係ないわよ」

「そうは言っても」

「あー!!優菜!!お味噌汁が溢れちゃうじゃない!!」

「え?溢れてないわよ」

「溢れそうだったわ!!食べ物を粗末にしてはいけないのよ!!」

「それが言いたかっただけでしょ!!ママ煩い!!パパ嫌い!!頭を柔らかくして私の理想のパパにする!!」

「優菜ー!!口喧嘩は良いけどご飯食べてる時に暴れないの!!」


 優菜が父さんに掴みかかるのを母さんが止めようとする。母さんは親子は喧嘩して絆を深めるものだとかよくわからないことを言って大抵は我関せずだけど手が出たり暴れたりすると一緒になって騒ぐ。

 また始まったと思っていると電話が鳴る。この状況で誰も気付かないから僕は黙って立ち上がって電話を取る。


「はい、佐々木です」


 反応がなくてなんだろうと思っていると少しして聞こえた小さな声は聞き覚えのあるもの。


『えっと……あの……えっとー……』

「あれ?美香ちゃん?」

『あ……はい。……美香です」

「優菜に用事?ちょっと待っててね」


 電話の相手は美香ちゃんだった。優菜を呼ぼうと子機をそばに置いて優菜に声をかける。


「優菜ー美香ちゃんから電話だよ」

「今それどころじゃないの!!」

「あとでかけ直してもらう?かけ直す?」

「琉依兄も煩い!!適当に言っといて!!」


 困った妹だな。将来が心配だと思いながら子機を耳に当てる。


「美香ちゃん?ごめんね、優菜今父さんと喧嘩してるから」


 そこまで言って美香ちゃんがかっこいいなー声もかっこいいなーって呟いてるのを聞いてなんだかやっぱりくすぐったい。


「もしもし?美香ちゃん?聞こえてる?」

「ほえ!?」


 声をかけ続けてると不思議な声が聞こえて面白くてつい笑ってしまう。


「ごめんね、優菜今父さんと喧嘩してて今それどころじゃないって。あとでかけ直させようか」

『あ、えっと、そうなんですね。んー……でも用事があるわけじゃないので大丈夫です。夜に電話してって言われたのでかけてみただけで』

「そうなの?もう、自分でお願いしたのに自分勝手でごめんね」

『いえいえ!!』


 やっぱり優菜の将来が心配だ。良いところはたくさんあるんだけど。


「優菜は無茶苦茶な子だけどこれからも仲良くしてあげてね。じゃあまた」

『あ、あの!!』


 美香ちゃんにはずっと優菜と友達でいてほしいなと思いながら電話を切ろうとすると美香ちゃんが慌てたような声で言う。


『あ、あの……少しお話しても良いですか?』

「え?うん、良いよ」


 優菜に伝言かなと思ったら違った。


『あの、明日ってなにかありますか?』

「んー明日は家族で用事があるよ」

『あ、そうなんですね』

「どうかした?」

『あの、会ってお話ししたいです』

「え?あ、うん。えっと、土曜日はどう?」


 意外と積極的な美香ちゃんに少し驚いてしまった。思わず言ってから土曜日の予定がなかったことを頭の中で確認する。


『土曜日……あの、土日はお店が忙しいのでお手伝いしないと』

「お店?」

『私のおうちお花屋さんなんです』

「そうなの?じゃあ日曜も駄目だね。えっと、あ、月曜日会社に行かないといけないんだけどお昼一緒にどう?」


 美香ちゃんの家は自営業をしてるんだな。花なんて今まで無縁だった。そういえば優菜が最近花を時々買ってきて母さんが楽しそうに飾ってるけど美香ちゃんの影響だったのか。


『良いんですか?』

「うん」

『嬉しいです!!そしたら優菜にも伝えてくださいね』

「……ん?優菜に?なんて?」

『え?一緒にお昼ご飯食べに行くから待ち合わせしよって』

「え、もしかして優菜も一緒?」

『大勢でご飯楽しいですよね。琉依さんのお友達どんな人たちなんですか?』

「あれ?もしかして昇たち……あ、そういうことか」


 2人でランチでもと思って言ったのに仕事の休憩時間に昇たちとご飯を食べてるところに一緒にどうかと言われたと思われたみたいだ。それにしても美香ちゃんは僕のことが好きなんだよね。不思議だ。


『琉依さん?』

「ううん。なんでもないよ。うん、みんなのことは会った時にね。じゃあ優菜にあとで連絡させるよ」

『はい!!楽しみにしてますねー!!』


 電話を切って振り返ると優菜たちの喧嘩は父さんの離脱で収まったみたいだ。


「美香なんだってー?」

「優菜……自分から電話してって言ったのに自分勝手は駄目だよ」

「良いじゃん。元々琉依兄と喋らせてあげようと思って電話してって言ったのよ」

「そうなの?ねえ、美香ちゃんは僕が好きなんだよね?」


 僕は椅子に座りなおしてそう聞く。


「そうだけどなに?」

「会って話したいって言われたから来週の月曜日仕事の途中でランチ一緒にどうって言ったんだけど……」

「あらあら、琉依ったら断られちゃったの?」

「違うよ。昇たちと一緒だって勘違いしたみたい。大勢で食べるの楽しいですよねって。優菜も一緒に」

「え、なんで私もなのよ!!」

「みんなで楽しくだと思ったんだろうね。まあ良いよ。優菜月曜暇なんでしょ?」

「暇だけど!!もう!!本当に馬鹿なんだから!!」


 僕は2人きりで会おうと思った自分が不思議だった。付き合った子は誘って会うこともあったけど付き合ってない子と自分から進んで2人になろうとは思わなかったのに。不思議だ。









「ねえ、どうしてだと思う?」

「だから知らねえって」

「ねえねえ、兄として会いたいと思ったのかな」

「どうだろうね」

「ねえねえねえ」

「あーもう!!琉依さん鬱陶しい!!」


 月曜日、会社で昇、小林くん、木村くんに美香ちゃんのことを話していた。


「好きなんじゃねえの?」

「んー恋愛のそれとは違うと思うんだよね」

「でも可愛いんだよね?」

「そうだね。あんなに肌が出てたらどんな変態が寄ってくるかわからないから止められて良かったよ。可愛かったけど」

「一番の変態はお前だ」

「っていうかもう完全に好きじゃないっすか……」

「いや、止められて良かったのは兄としてだからさ」

「あーあのさ琉依、川原のことは気にしなくて良いんじゃね?」

「んー……」


 川原さんは僕がこの前別れた元カノだ。いつも通り振られたことには特になにも思わなかった僕だけど最後に言われた言葉は忘れられないんだ。


『琉依は誰にでも優しいけど誰のことも幸せにできないよ』


 これまで平手打ちされたこととかはあったけどあんな風に言われたのは初めてだった。泣いてるのか怒ってるのかわからない表情だった。なぜか引っ掛かってモヤモヤが残った。


「明莉さん美人だけど気取ってなくて名前通り明るくて良いですよねー」

「木村、村岡が木村にはうちの大学一の美人は無理ですって言ってたよ」

「村岡のやつー!!」

「まあ、いつもみたいにすぐにさっぱり忘れちまえよ。お前の得意技だろ」

「解決したらどうでも良くなるだけだよ。あ、もうあと少しで美香ちゃん来るよ」

「全然仕事にならなかった……」

「昇、午後やれば良いよ。美香ちゃんに会ったら琉依もやる気が出るかも」

「ねー早く行こうよ」


 外に出て少し待っていると美香ちゃんと優菜が来た。美香ちゃんはこの前買ったロングスカートをはいていて可愛い。その美香ちゃんが優菜に抱きついていて楽しそうにしていて可愛い。


「遅かった?」


 僕に気付いた美香ちゃんが嬉しそうに笑顔になるのも可愛い。優菜がなぜかひきつった顔をしながら言う。


「ううん、そんなことないよ。美香ちゃんこっちまで来てもらっちゃってごめんね」

「いえ、全然大丈夫です!!」

「へーこの子がいらっしゃいましたちゃんですね」

「いらっしゃいましたちゃん?」


 木村くんが美香ちゃんにグッと近付いて言うから慌てて襟を引っ張る。


「こんにちは。僕たち琉依の友達で仕事仲間だよ」


 すぐにそう言う小林くんに視線を向けた美香ちゃんに3人を紹介する。


「美香ちゃん、彼が小林くん、こっちが木村くんで、昇だよ」

「初めまして。藤井美香です。よろしくお願いします。えっと、小林さん、木村さん、のぼ「加賀美!!」へ?鏡?」


 忘れてたと思って急いで叫ぶと美香ちゃんが鞄から手鏡を出して僕に渡そうとしてくれる。


「はい、どーぞ」

「じゃなくて加賀美。昇の名字。美香ちゃん男の子下の名前で呼ばないんでしょ。加賀美で良いよ。……痛っ」

「ったく、なんで今からそうなんだよこの陰気な引きこもり野郎が」


 昇に勢いよく殴られて頭を抱える。昇は手加減してくれないから本当に痛い。


「別に良いじゃん。加賀美さんなんて言われたら誰のことかわからないよ」

「だよなー。僕も昇さんのこと加賀美さんって呼ぶ大学の教授と話してていつも誰のことだっけってなるし」

「それは木村っちが馬鹿なだけ。不意に言われたらわからないだけ。一緒にしないで」

「くそっ。あいかわらずムカつく」

「まあまあ、優菜ちゃんも悪気はないんだから」

「いや、大有りだろ」

「美香、昇さんは名前で良いよ。どうせ竜二さんも名前で呼ぶんだから」

「竜二さん?」

「うーん、仕方ないなー」


 竜二さんは厳かな感じがすると言って神崎って名字で呼ばれたくない人だから名前になるし仕方ないな。なんで僕、美香ちゃんに名前で呼んでもらえるのは僕だけが良いって思ったんだろう。


「だからなんで今からそんなんなんだよ……」

「ところでさっきびっくりしてたのはどうしたの?」


 あれ?僕が頭を抱えてる時びっくりしてたの?


「昇さんみたいにお喋りする人周りにいなくてびっくりしちゃいましたー。でも優しそうです」

「昇話し方とか乱暴だからね」


 そっか。美香ちゃんは男の子と仲良く話したことがないし昇みたいな粗暴なやつなんて見たこともないんだろう。


「昇、美香ちゃんと喋っちゃ駄目だよ」

「だからそれはなんなんだって。まったく、先が思いやられる」

「美香は高校女子校だし中学までも男とあんま喋ったことないんだって。でも美香、昇さんは琉依兄の高校からの友達で親友なのよ。それに周りと仲良くするのは恋愛の常套手段の1つよ」


 こそこそ話してるつもりの優菜だけど確信犯で僕たちにも聞こえる声で話すから丸聞こえだ。


「あ、常套手段って意味わかる?」

「な、なんとなく」

「ま、とりあえずよくある使える手段ってことよ」

「うん、わかったー。昇さん、仲良くしましょー」

「お、おう……」


 なんだか面白くないけど無邪気な感じの美香ちゃんは可愛い。

 そして僕の知り合いが料理人をしている洋食のお店に向かう。歩いてる時に優菜と美香ちゃんが楽しそうに話していた。また数字だ。なんの数字なんだろうと思いながら着いたお店で注文してから木村くんが美香ちゃんと優菜に聞く。


「夏休み2人で結構遊んでるの?」

「んーそんなでもないかな。そもそもこの馬鹿が夏休み前半補習で学校だったし。全教科赤点って見たことも聞いたこともない」

「私はいっつも見てるわよー?自分ので」

「馬鹿ね」

「美香ちゃんは勉強苦手なんだね」

「琉依兄、これで勉強だけできたらびっくりよ」

「優菜は誰にでもキツいよな」

「美香をからかうの面白いのよ」

「もー!!優菜の意地悪ー!!」


 2人はいつも楽しそうに話してる。やっぱり妹が2人みたいな気がする。


「美味しー!!今まで食べたお料理で一番美味しいです!!」


 美香ちゃんがハンバーグを一口食べて本当に美味しそうに食べる。


「大げさだな」

「そんなことないですよー!!こんなに美味しいお料理を作れる人とお友達なんて琉依さんはすごいですねー!!よく食べにくるんですかー?」

「え、えっと、うん、まあね」

「へー!!そうなんですねー!!」


 ドキッとした。ここは僕の知り合いがやっているだけで来たことは一度もない。ただ評判は良いらしいから美味しいんだろう。僕は食べることに無頓着だ。パソコンを触ってて気付いたら朝が夜に変わってばかり。ほとんど家にいない母さんが一応作っておいてくれるおにぎりは夜ご飯に食べるということが多々ある。みんながクスクス笑ってるのを見ながらとりあえずあんまり親しくはないけど無駄に多い人脈が生かされて良かったと思うことにした。


「そうだ、夏休みの宿題琉依兄に教えてもらったら良いじゃん」


 宿題かー。僕は教えるのはあまり得意じゃないんだけど美香ちゃんには教えてあげたいと思った。そう思うのはなぜだろう。やっぱり妹の成績が心配だからかな。


「えー?宿題なんてやらなくて良いわよー。優菜見せてー」

「嫌よ、自分でやりなさいよ」

「意地悪ー」

「さすがに宿題は自分でやらなきゃだね」

「けど琉依さん教えるの下手だからなー」

「そういうの関さんが得意なんだけどな」

「村岡も得意だよ。ねちっこいけどね」

「あいつに教わるなんて屈辱的だった」

「まー関さんでも村っちでもいっかなー」

「僕教えられるよ!!ね、任せて!!」


 なんだかどんどん僕に教わらない方向に話が進んでいくから僕は慌てて言う。なんで焦ってるのかは自分でもわからない。


「お勉強したくなーい……」

「ほら、琉依兄と一緒にいられるんだから良いじゃん。宿題もできて一石二鳥」

「一石二鳥って意味わからないものー」

「嘘ー。国語のテスト出てきて合ってたじゃん。そこだけ。5点」

「むしろなんでそれだけできたんだ……」

「っていうか高校の問題で出るか?」

「サービス問題だったのかもね」

「じゃあ美香ちゃん、明日は勉強しよ」


 とにかく約束を取り付けた僕は安心して息を吐く。


「んーわかりました。優菜も一緒に頑張ろうね」

「はあ?」


 え!?どうして!?優菜の言葉と同時に僕は絶句する。


「お菓子も持っていくね。優菜なにが良い?あ、迎えに来てくれる時に駄菓子屋さんに寄っていかない?」

「なんで私もなのよ!!」

「え!?優菜もう宿題終わったのー!?」

「違うわよ!!もう馬鹿ね!!」

「どうして怒ってるのー?」

「琉依兄と2人っきりのチャンスでしょうが!!」

「えー2人きりなんて無理よーお勉強できない。あ、そっかー。お勉強しなきゃ良いのね!!」

「お、なんだか乙女な発言」

「教科書の文字を見てるだけでも眠いのに琉依さんの優しい声を聞いてたら余計に眠くなっちゃうもの。ガミガミ煩い優菜がこの前のテスト前みたいに隣でいっぱい喋っててくれないとお勉強できないわよ」

「ガミガミ煩くて悪かったわね!!良いわよ、明日はみっちり隣で違う違う全部違うって言うから!!」

「5分に1回お菓子タイムにしてねー」

「馬鹿ー!!」


 なんだか面白くないと思った。なんでかな。





「ねえ、なんでだと思う?」

「好きだからじゃねえの?」

「でも……」


 わからないけどとりあえずお店の前で美香ちゃんと優菜と別れた僕は店内に引き返した。美味しそうに食べている美香ちゃんは可愛かった。もっとたくさんあんな顔を見てみたい。そう思った僕は知り合いの料理人に美味しいと思うお店を紹介してほしいと頼んだ。料理人は舌が肥えてるに違いない。そんな人が勧めるお店は美味しいに違いない。僕は無駄に多い人脈がまた広がっていく予感がした。この人は裏でなにを考えてるのかと疑う人が増えるのはストレスだけどあの笑顔をまた見たいと思う気持ちの方が大きかった。これは兄としてなのかそれともなんなんだろう。





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