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幸せな誕生日(琉依視点)


 今まで特別じゃなかった自分の誕生日は去年から特別なイベントの1つになった。今日は僕の誕生日。美香ちゃんにお祝いしてもらえる素晴らしい日だ。朝起きると美香ちゃんから誕生日おめでとうございますってメールがきていて朝から幸せな気持ちになった。毎日美香ちゃんに囲まれてるから幸せなんだけど。あーやっと美香ちゃんに会えるー。本物の美香ちゃんに会えるー。もちろんこの美香ちゃんも大好きだよってベッドに置いてある美香ちゃんの写真付きクッションをぎゅーっと抱き締める。

 よし、行こう。美香ちゃんにメールを返して顔を洗って着替えて壁一面に張られたポスターに手を振って行ってきますって言って家を出る。

 電車に乗って待ち合わせの駅で待っていると美香ちゃんが来てお誕生日おめでとうございますって一番に言ってくれた。メールでも言ってくれたのにって思いながらありがとうって言った。

 歩いて公園まで行って桜が綺麗だねって話したり会社から桜並木が見えるんだけど昇がなんか窓から桜見てて本当に意外だなーって思った話とかをした。高校の時にはお花見なんて興味ないって感じだったのにどういう心境の変化なんだろ。僕の勘だと昇は桜にちなんだ子とこれから出会う気がする。桜まんじゅうを売ってる和菓子屋さんの子とか。試しに昇にお花見するから和菓子買ってきてって言ったらなんで俺がって文句言いながら買ってきてどうだったって聞いたら何がって言われて店員さんどんな人だった?って聞いたらおばあさんだったけどなんだって言われた。残念、別のお店だったのかな。

 僕と美香ちゃんは桜の木の下にレジャーシートを敷いて座る。


「琉依さん、お誕生日おめでとうございまーす」

「ありがとう」


 3回目だ、何回言ってもらえても嬉しいな。そう思いながら美香ちゃんから匂袋をもらう。


「わー!!良い香りだね」

「ストックのお花ですよ」

「花言葉は永遠の恋だね」

「そうです!!すごいです!!琉依さんわかるんですかー?」

「美香ちゃんみたいに1つの花のいくつもある花言葉を1つ1つ覚えられてるわけじゃないしまだまだ全然だけどね」

「でもすごいです!!さすが琉依さんですねー!!」


 美香ちゃんが褒めてくれるとすごく嬉しい。村岡くんが美香ちゃんに褒められるとなんかムカつきませんかって言ってたけどそんなことないよ。純粋な美香ちゃんが素直に手放しで褒めてくれるとすごく嬉しい。それに美香ちゃんがすごく可愛い。美香ちゃんに褒めてもらえると何でもやる気になれる。


「ありがとう。これいつもより大きいんだね」

「はい、お部屋に飾ってください」

「そっか、匂いも……」

「琉依さん?」


 あの部屋は美香ちゃんに囲まれた素晴らしい部屋だ。だけど美香ちゃんはいつも匂袋を持ってるから美香ちゃんからすごく良い香りがする。美香ちゃんと一緒にいるように癒される部屋は完璧だと思ってたけど香りがなかった。これで美香ちゃんを感じられてもっと幸せになれる。本物の美香ちゃんがいるって思いながらクッションの美香ちゃんにキスをしてぎゅって抱き締めてそれからそれから……。


「おっと、危ない……」


 危険な妄想をするところで慌てて思考を現実に戻す。


「危ないですか?危なくないですよ?甘くて良い香りです」

「うん、甘くて危険な香りだね」


 目の前で首をかしげてる美香ちゃん。可愛い。こんなに可愛い美香ちゃんとあと少しで……いやいや、今は考えちゃ駄目だ。そうだ、もっと美香ちゃんに合わせたスキンシップの妄想をしなきゃ。匂袋の匂いをスーっと嗅いでみる。美香ちゃんの手をにぎにぎしてもう片方の手で美香ちゃんの頭を撫で撫でして……。


「琉依さんのお部屋ってどんな感じなんですかー?」

「んー?どんな?」

「家具とかいっぱいですか?ドライフラワーとか飾る場所ありますか?」

「え、作ってくれるの?」


 ふわふわした思考を切り替える。


「琉依さんが良ければですけど」

「ありがとう!!嬉しいよ!!」

「えへへー。じゃあ作りますねー」


 あー美香ちゃんは本当に僕を幸せにしてくれる。でもどこに飾ろうか。壁という壁にはポスターが敷き詰められているんだけど。もちろん賃貸だからすぐに剥がせて跡もつかないように。ドライフラワー用にスペースを空けてどこかのポスターと何週間かごとに交換して貼り替えようかな。

 そう思ってると美香ちゃんが鞄からお弁当を出してくれる。


「はい、琉依さんどうぞー」

「わーい!!」


 美香ちゃんの手料理だ!!嬉しい!!

 お弁当を開けると美味しそうなオムライスが入っていた。


「わー美味しそうー!!」

「食べてくださーい」

「うん、いただきます」


 んー!!美味しい!!美香ちゃんの手料理は本当に美味しい。


「あー毎日美香ちゃんのご飯が食べたいよー」


 今は朝は基本的にいつも食べないけど美香ちゃんと結婚したら毎食美香ちゃんの手料理が食べれるんだろうなー。待ち遠しいなー。


「毎日ですか?」

「うん」


 デートのたびに次もお弁当作って?駄目?って必殺技を使ってるけどそもそも会える日が今かなり少ない。


「琉依さん、毎日は難しいですけどご飯作りましょうか?」

「え、本当?美香ちゃんから言ってくれるなんて……」

「おうち行って良いならですけど……って大丈夫ですか!?」


 思わず吹き出すと美香ちゃんがお水をくれる。


「ご、ごめん……おうちはちょっとー……」


 美香ちゃんは今も変わらず家に来たがる。家に来ちゃいろんな問題で駄目なのに。


「……やっぱり駄目ですか」

「え!?」

「え?」


 まさか策略とか!?脅しとか!?手料理を理由に家にあがらせろって?


「……なわけないか。いくら優菜の親友でも優菜とは違って美香ちゃんは純粋だし」

「琉依さん?」


 そんなブラックな美香ちゃんも可愛いけど。っていうか美香ちゃんは外で遊ぶのが好きなのになんで家にこだわるんだろう。


「あ、ううん、なんでもないよ。おうちはーそう、キッチン狭いしさ」

「むー……じゃあお料理できないですよ?琉依さん食べないでもっと痩せちゃいます」

「使命感だったか……。大丈夫だよ。自分で作れないから外で食べてるし。たまに忘れるけど」


 それに朝も食べないし。そんなにお腹空いたなって思わないんだよね。多分集中してる時にお腹が空いてて集中し終わった時にお腹空いたを通りすぎて逆にお腹いっぱいって感じなのかも。


「やっぱり忘れてるじゃないですかー。んー……じゃあ琉依さんの会社までお弁当を届けるのは良いですか?」

「え、そこまでしなくて良いよ。ごめんね、毎日じゃなくても現実的に無理だから大丈夫だよ」


 母さんには美香ちゃんにお弁当作ってもらうから心配しないでって言ったし僕も美香ちゃんの手料理が食べたいけど美香ちゃんの負担になることはしたくない。


「けどテスト返却で半日の時とか」

「んー毎回じゃなくても良いからね?」


 美香ちゃんが一生懸命になってくれるから無理しないで作ってくれるなら良いのかなって思いながらそう言う。徹夜してまでお守りを作ろうとしてくれたみたいにならないと良いけど。ああ、それは僕のせいで悩ませちゃってたからだった。今は大丈夫なはず。多分……。


「はい!!私今忙しいので!!」


 今美香ちゃんはいろいろ忙しいらしい。それなら無理しないで負担をかけちゃうこともないかも。


「ああ、お花屋さんのお手伝いとか卒業旅行とか?」

「はい!!」

「卒業旅行かー。可愛いねー」

「ほえー?可愛いですか?」


 美香ちゃんは卒業旅行で日本の伝統的な町並みを着物で散策するんだって。それはとてつもなく可愛いだろう。ついていきたいけどそれじゃせっかくのお友だちとの卒業旅行じゃなくなっちゃう。


「写真撮ったらちょうだいねー」

「えっと、良いですよー」


 卒業旅行の話を聞いている間にご飯を食べ終えた。


「そうだ、琉依さん。これも作ってきたのでおうちで食べてください」

「えー!!クッキー?ありがとう。匂袋もお弁当ももらったのにこんなにもらって良いの?」

「琉依さんのお誕生日ですからねー」

「わーありがとう!!」


 透明の袋の中にはたくさんのハート型のクッキーが入っていた。可愛い。嬉しい。家に帰ってから美香ちゃんに囲まれながら匂袋の匂いで美香ちゃんがそばにいるのを感じながら食べよう。

 立ち上がってレジャーシートを畳んだ僕たちは今度は色とりどりのお花が咲き誇ってる道を歩く。


「琉依さん琉依さん、ポピーです。花言葉はなんでしょー?」

「恋の予感だね」

「正解です!!じゃあこれはー?アザレアです!!」

「アザレア……んーと、恋の喜びだったかな?」

「正解でーす!!」


 美香ちゃんの花言葉クイズに答えるたびに美香ちゃんがすごーいって手を叩いて褒めてくれるから可愛かった。

 それから買い物をしようと近くのショッピングセンターに来た。店内を歩いてると美香ちゃんがじっとどこかを見るからなんだろうと思いながら視線の先を見るとジュエリーショップだった。美香ちゃんもジュエリーに興味を持つお年頃になったのかな。優菜は小学生の時から母さんのネックレスを盗んでたけど。まあ優菜は優菜だ。美香ちゃんもジュエリーが欲しいなら買おうかな。でも最初に渡すのはクリスマスの婚約指輪が良いよね。どんなデザインにしよう。サイズは……。


「あ……」


 まずい。関さんは翠さんへの指輪のサイズを手を握った時にわかって買ったって言ってたけど僕にはそんな特技はない。そもそも手を握ったこともない。そんなことしたらその先何をしでかしてしまうかわからない。さっきの妄想で手をにぎにぎしてして頭を撫で撫でしてそれでその後は頭を切り替えたからなかったけど実際やってたらそのまま頭を引き寄せてキスをして……危険だ。危ない。そんなことはできないから別の方法でサイズを調べなくちゃ。


「琉依さんどうしました?」

「美香ちゃんジュエリー見ていかない?」

「え!?」


 サイズを測って美香ちゃんの好みも一緒に聞こう。美香ちゃんにはどんな指輪のデザインが似合うかなーってわくわくしながらジュエリーショップに向かう。


「わー!!綺麗ー!!」


 そばでショーケースを見た美香ちゃんが食い入るように見ていて大人になっていってるんだなって嬉しくなる。


「ねえ美香ちゃんはどんな指輪が良い?可愛いの?綺麗系?」


 指輪を指差しながら美香ちゃんに聞いてみると美香ちゃんはぼーっとしちゃう。どうしたんだろう?


「えっと、えっと、私良いですよ」

「え?」

「こんなに高いもの身に付けてたら傷付けたらどうしようとかなくしちゃったらどうしようとか思っちゃいますもん。あ、この琉依さんにもらったバッグとかにももちろん思いますけどね」


 とりあえず大切にしてくれるのは嬉しいけど婚約指輪と結婚指輪は身に付けててほしい。さっきまであんなに興奮してたのにどうして急に?美香ちゃんジュエリーが欲しいんじゃなかったのかな?とにかくここで指輪をつけてもらえないとサイズがわからなくて困るって思いながら言う。


「いや、んーえっとー……とりあえず今買うわけじゃないから好きなの選んでみてくれない?」

「ほえー?」

「これとかどう?お花の形になってるよ。可愛い」

「んー可愛いですけどー」


 いろいろこれはどうって勧めると最初のが良かったって言ってくれる。


「こっちもどう?」

「それも可愛いですねー」


 聞き続けてると美香ちゃんがどんどんこっちの方がーって言ってくれるから店員さんに頼んでサイズを測ってもらって指輪をつけさせてもらった。サイズも美香ちゃんの好みもわかって大満足だ。ジュエリーをつけてみた美香ちゃんを見てて初めて会った時と変わらないところもたくさんあるのに身長も髪の毛も伸びたしお化粧もしてるし本当に大人になってるんだなって思って感慨深くなった。高校卒業まであと少し。20才は待てないから高校卒業したら危険だと自主規制してる妄想をリアルにできる。頑張って堪えなきゃ。

 美香ちゃんをおうちまで送った僕が今年のお誕生日もすごく幸せな1日だったって言ったら美香ちゃんも幸せですって言ってくれた。バイバイって手を振って駅に向かう途中に振り返って美香ちゃんのおうちを見るとベランダに出てきた美香ちゃんが笑顔でお花に話しかけているような様子が見えた。良かった。美香ちゃんの悲しい顔は去年の10月以降1度しか見ていない。村岡くんが何か言ってくれたのかもしれない。村岡くんは僕にホットラインの内容は教えない。僕もそれで良いと思ってる。でも美香ちゃんと行ったデート先で受け取ったチケットの裏に受付の人が連絡先を書いて渡してきたことがあって、美香ちゃんが気にしてるように見えたから大丈夫だよって言いながらしまったことがあったけど次の日村岡くんがそれくださいって言いに来て財布に入れたままになってたそれをその場でマジックペンで見えないようにして持って帰った。おそらく大丈夫だよって言っただけじゃ美香ちゃんは悲しんでたままだったんだと思う。そのまた翌日での電話で美香ちゃんが村岡くんが優しいって言ってた。僕が気付かないところで美香ちゃんは傷付いてたんだなって反省してよく注意するようにした。でもそもそも気付いてなかったことだし、ああやって連絡先をもらうなんて滅多にないから他のことでは何がいけないのかわからないままなんだけど。だけどあれから美香ちゃんは笑ってベランダに出てきてくれるようになった。多分きっとまだ不安な思いはさせちゃってるのかもしれないけど。不安を口にできる場所を作ってくれた村岡くんには感謝しかないけどもうちょっとヒントをくれないかな。内容は話さなくて良いからって思う。はあ……僕無意識に何をやっちゃってるんだろう。

 そう思いながら駅について電車に乗って家に帰ってからさっそく匂袋をベッドの上の部分に置いてクッキーを食べるまさに至福のひとときを過ごした。




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