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積極的になる(美香視点)


 昨日の帰り、車を降りる前に優菜にこそこそ話で言われた。明日の夜電話かけてきてって。琉依さんに代わってくれるって。明日っていうのは今日。だから今日は朝から早く夜にならないかなってそわそわしてた。でも夜って何時だろうって思って16時にかけようとしたらお母さんにまだ夜じゃないと言われて、18時にかけようとしたらお父さんに夜ご飯食べてるかもしれないから少し待ったらって言われて、お兄ちゃんにはあんまり遅くにかけたら迷惑だよと言われていったいいつ電話したら良いのかわからなくて電話の前で困ってしまう。


「美香、そろそろかけてみたら?」


 そうしているとお母さんが声をかけてきた。時間は20時。そっか、20時なら良いんだ。出るのは優菜だっていうのに緊張しながら電話をかける。


『はい、佐々木です』


 優菜じゃない!!琉依さんだ!!どうしよう!!


「えっと……あの……えっとー……」

『あれ?美香ちゃん?』

「あ……はい。……美香です」

『優菜に用事?ちょっと待っててね』


 琉依さん声だけでもかっこいいなー。声もかっこいいし全部かっこいいなー。


『もしもし?美香ちゃん?聞こえてる?』

「ほえ!?」


 ぼーっとしててびっくりして変な声が出ちゃった。恥ずかしい。電話口で笑われてもっと恥ずかしくなる。


『ごめんね、優菜今父さんと喧嘩してて今それどころじゃないって。あとでかけ直させようか』

「あ、えっと、そうなんですね。んー……でも用事があるわけじゃないので大丈夫です。夜に電話してって言われたのでかけてみただけで」

『そうなの?もう、自分でお願いしたのに自分勝手でごめんね』

「いえいえ!!」


 優菜は琉依さんとお話をさせてくれるって言ってくれただけなのに。優菜ごめんね。と、昨日お買い物中に優菜にこうも言われたんだったと思い返す。時間がないんだから積極的にいかないとって。


『優菜は無茶苦茶な子だけどこれからも仲良くしてあげてね。じゃあまた』

「あ、あの!!」


 電話を切られちゃいそうで慌ててつい大きな声になってしまう。せっかくお話できるんだから積極的にならないと!!


「あ、あの……少しお話しても良いですか?」

『え?うん、良いよ』


 良かったー。でも積極的になにを話せば良いんだろう。そうだ、優菜は時間がないんだからたくさん会って話してみればって言ってた。


「あの、明日ってなにかありますか?」

『んー明日は家族で用事があるよ』

「あ、そうなんですね」

『どうかした?』

「あの、会ってお話ししたいです」

『え?あ、うん。えっと、土曜日はどう?』

「土曜日……あの、土日はお店が忙しいのでお手伝いしないと」

『お店?』

「私のおうちお花屋さんなんです」

『そうなの?じゃあ日曜も駄目だね。えっと、あ、月曜日朝から会社に行かないといけないんだけどお昼一緒にどう?』

「良いんですか?」

『うん』

「嬉しいです!!そしたら優菜にも伝えてくださいね」

『……ん?優菜に?なんて?』

「え?一緒にお昼ご飯食べに行くから待ち合わせしよって」

『え、もしかして優菜も一緒?』

「大勢でご飯楽しいですよね。琉依さんのお友達どんな人たちなんですか?」

『あれ?もしかして昇たち……あ、そういうことか』

「琉依さん?」

『ううん。なんでもないよ。うん、みんなのことは会った時にね。じゃあ優菜にあとで連絡させるよ』

「はい!!楽しみにしてますねー!!」


 次の日の夜に優菜から電話がかかってきてなぜか馬鹿って言われた。どうしてかな。







 そして月曜日、琉依さんの会社がある最寄りの駅で優菜と待ち合わせた。


「ねー優菜は琉依さんのお友達会ったことあるのー?」

「まあね。いろいろ偶然があったり」

「偶然って?」

「関さんって琉依兄の友達がいるんだけどさ、その婚約者になった人が昔から私にパーティで突っかかってくるムカつく女だったり」

「へー大変なんだね」


 優菜のおうちは昔からパーティが多いんだって聞いた。お父さんの繋がりでそういうのがあるんだって。

 そんな話をしていると前から女の子が2人歩いてきて手を振ってきた。優菜のお友達かな?


「優菜ー久しぶりー」


 やっぱり優菜のお友達だったみたい。だけど優菜は少し怖い顔をしてる。


「あいかわらず派手ね、優菜は」

「その目もあいかわらず気持ち悪いし」


 え、気持ち悪い?優菜の目は青色でとても綺麗なのに。


「学校別になって清々したわよ。どこにもあんたみたいな外人がいなくて」


 どうしよう。なんだか良くないと思って優菜を見たけどさっきと違ってすごく笑っていた。


「清々したのはこっちよ。あんたらみたいな頭の悪いろくでなし集団とさよならできて」

「なによ、外人の「あ、あの!!」あんた誰よ」


 どうにかしなきゃと思って思わず叫んだ私。


「あの、あのね、優菜は外人さんじゃなくてハーブよ。それから優菜の目はとっても綺麗なの。えっと、派手なのは褒め言葉?悪口?悪口はいけないよね。えっと、優菜は派手が似合ってるよ。あのね、これは褒めてるから」


 私がそう言うと優菜が吹き出してお腹を押さえて笑いだした。そして笑いを止めて口を開けてぼんやりしてる2人に言う。


「私は外人でもハーブでもなくてハーフよ。青色の目は滅多にいなくて珍しいの。私のチャームポイントなの。華やかな見た目を活かさないでどうするのよ。あなたたちも人をいびってる暇があるなら自分を磨いたら?じゃあね」


 優菜は私の手を握って早足で歩く。


「優菜……」

「馬鹿な美香でもああいうのはわかるんだ?」

「わ、わかるよ!!酷い!!あの子たち優菜のこと悪く言った!!」


 立ち止まった優菜は笑ってたけど泣きそうで私が悲しくなる。


「さっきの2人小学校と中学が一緒だったんだ。ずっとあんな感じで苛められてた」

「そんな……どうして?」

「周りと違うからでしょ。ハーフなんてこの辺りにいないし。それに私が美人過ぎるからかな」

「優菜は美人さんだけど……」

「げ、なんで美香が泣いてるの」

「だ、だってよくわからないんだもの」

「私だって苛める方の考えなんてわからないよ。けどもう昔のことだよ。今じゃ苛めを止めさせる優菜様だもん」

「うん、優菜はすごいよね!!」

「だから泣かなくて良いの。オッケー?」

「うん」


 優菜が歩き始めるから私も隣を歩く。


「美香は馬鹿みたいにいつも笑ってな。みたいじゃなくて馬鹿だけど」

「むー!!酷い!!」

「ごめんごめん」

「絶対思ってなーい!!」

「思ってるよ」

「もー……。ねえ、優菜。ハーフだと苛められるの?」

「琉依兄のこと?琉依兄はないよ。かっこいいからね。なんだかんだかっこいいとハーフでもなんでも良いんだよ」

「そうなの?良いことなのかな……」

「でもまあ琉依兄は琉依兄でいろいろあるけどね。琉依兄はさ、すごく優しくて顔だけじゃなくて全部かっこいいんだ」

「そっか」

「だから、琉依兄には美香が良いと思うんだよね」

「どうして?」

「美香見てると元気になるから。馬鹿だなーって思ってると悩んでることどうでもよくなってくるし」

「それって褒めてるのー?」

「すごい褒めてる。私美香好きだもん」

「わー!!私も!!私も優菜大好き!!」


 そう言って優菜をぎゅーって抱き締めるとすぐに押し返されてしまって少し寂しい。


「ここ会社」

「へ?」


 首をかしげながら右を向くと琉依さんがいた。琉依さんだー。今日もかっこいい。


「遅かった?」

「ううん、そんなことないよ。美香ちゃんこっちまで来てもらっちゃってごめんね」

「いえ、全然大丈夫です!!」

「へーこの子がいらっしゃいましたちゃんですね」

「いらっしゃいましたちゃん?」


 琉依さんの隣にいた男の人の言葉になんだろう、それに距離が近いって思ってるとその隣にいた眼鏡の男の人が言う。


「こんにちは。僕たち琉依の友達で仕事仲間だよ」

「美香ちゃん、彼が小林くん、こっちが木村くんで、昇だよ」


 眼鏡をかけている男の人は小林さん、最初に喋った人が木村さん、木村さんの反対側の琉依さんの隣にいた人が昇さんだと紹介してくれた。


「初めまして。藤井美香です。よろしくお願いします。えっと、小林さん、木村さん、のぼ「加賀美!!」へ?鏡?」


 突然琉依さんがそう叫んで鞄から鏡を出す私。


「はい、どーぞ」

「じゃなくて加賀美。昇の名字。美香ちゃん男の子下の名前で呼ばないんでしょ。加賀美で良いよ。……痛っ」

「ったく、なんで今からそうなんだよこの陰気な引きこもり野郎が」


 ひぇー!!これは苛め!?加賀美さんがすごくドンって音がなるくらい琉依さんの頭を叩くのにも言葉にも驚く。琉依さんも頭を抱えてすごく痛そう。大丈夫かな……。


「別に良いじゃん。加賀美さんなんて言われたら誰のことかわからないよ」

「だよなー。僕も昇さんのこと加賀美さんって呼ぶ大学の教授と話してていつも誰のことだっけってなるし」

「それは木村っちが馬鹿なだけ。不意に言われたらわからないだけ。一緒にしないで」

「くそっ。あいかわらずムカつく」

「まあまあ、優菜ちゃんも悪気はないんだから」

「いや、大有りだろ」


 そう言ってため息をつく加賀美昇さん──結局どっちで呼べば良いんだろ──はなんだか思ったより乱暴な人ではなさそうでほっとする。琉依さんはもうへっちゃらな顔をしてるし良かった。


「美香、昇さんは名前で良いよ。どうせ竜二さんも名前で呼ぶんだから」

「竜二さん?」

「うーん、仕方ないなー」

「だからなんで今からそんなんなんだよ……」

「ところでさっきびっくりしてたのはどうしたの?」


 小林さんに聞かれて普通に答える。


「昇さんみたいにお喋りする人周りにいなくてびっくりしちゃいましたー。でも優しそうです」

「昇話し方とか乱暴だからね」

「昇、美香ちゃんと喋っちゃ駄目だよ」

「だからそれはなんなんだって。まったく、先が思いやられる」

「美香は高校女子校だし中学までも男とあんま喋ったことないんだって。でも美香、昇さんは琉依兄の高校からの友達で親友なのよ。それに周りと仲良くなるのは恋愛の常套手段の1つよ」


 最後だけコソッて教えてくれる優菜。


「あ、常套手段って意味わかる?」

「な、なんとなく」


 お勉強は苦手……。またいつもみたいに馬鹿って言われそうだったけど優菜は簡単に言うとなんだろうと考えてる。


「ま、とりあえずよくある使える手段ってことよ」

「うん、わかったー。昇さん、仲良くしましょー」

「お、おう……」


 そして琉依さんの知り合いの人が料理人さんをやっている洋食のお店があるみたいで、そのお店に来た。歩いてる時に優菜に今日の数字はって聞かれて7って答えたら面白そうに6よ馬鹿って言われた。昨日はちゃんと数えられてたのに不思議。でもちゃんとタイムリミテッドは次の日曜日ってわかってるわよ。私みんなが言うほどお馬鹿じゃないもの。


「夏休み2人で結構遊んでるの?」


 木村さんにそう聞かれる。


「んーそんなでもないかな。そもそもこの馬鹿が夏休み前半補習で学校だったし。全教科赤点って見たことも聞いたこともない」

「私はいっつも見てるわよー?自分ので」

「馬鹿ね」

「美香ちゃんは勉強苦手なんだね」

「琉依兄、これで勉強だけできたらびっくりよ」

「優菜は誰にでもキツいよな」

「美香をからかうの面白いのよ」

「もー!!優菜の意地悪ー!!」


 優菜はいつも意地悪ばっかり。でも優しくて楽しくて好き。

 頼んでいたハンバーグがきて一口食べる。


「美味しー!!今まで食べたお料理で一番美味しいです!!」

「大げさだな」

「そんなことないですよー!!こんなに美味しいお料理を作れる人とお友達なんて琉依さんはすごいですねー!!よく食べにくるんですかー?」

「え、えっと、うん、まあね」

「へー!!そうなんですねー!!」


 本当に美味しいハンバーグだなあ。そう思いながらパクパク食べている間なぜだか優菜も琉依さんも……というかみんなが笑ってて美味しいものを食べてると笑顔になれるよねーって思った。


「そうだ、夏休みの宿題琉依兄に教えてもらったら良いじゃん」

「えー?宿題なんてやらなくて良いわよー。優菜見せてー」

「嫌よ、自分でやりなさいよ」

「意地悪ー」

「さすがに宿題は自分でやらなきゃだね」

「けど琉依さん教えるの下手だからなー」

「そういうの関さんが得意なんだけどな」

「村岡も得意だよ。ねちっこいけどね」

「あいつに教わるなんて屈辱的だった」

「まー関さんでも村っちでもいっかなー」

「僕教えられるよ!!ね、任せて!!」


 琉依さんが言ってくれるけどなんだか嬉しくない。


「お勉強したくなーい……」

「ほら、琉依兄と一緒にいられるんだから良いじゃん。宿題もできて一石二鳥」

「一石二鳥って意味わからないものー」

「嘘ー。国語のテスト出てきて合ってたじゃん。そこだけ。5点」

「むしろなんでそれだけできたんだ……」

「っていうか高校の問題で出るか?」

「サービス問題だったのかもね」

「じゃあ美香ちゃん、明日は勉強しよ」

「んーわかりました。優菜も一緒に頑張ろうね」

「はあ?」

「お菓子も持っていくね。優菜なにが良い?あ、迎えに来てくれる時に駄菓子屋さんに寄っていかない?」

「なんで私もなのよ!!」

「え!?優菜もう宿題終わったのー!?」

「違うわよ!!もう馬鹿ね!!」

「どうして怒ってるのー?」

「琉依兄と2人っきりのチャンスでしょうが!!」

「えー2人きりなんて無理よーお勉強できない。あ、そっかー。お勉強しなきゃ良いのね!!」

「お、なんだか乙女な発言」

「教科書の文字を見てるだけでも眠いのに琉依さんの優しい声を聞いてたら余計に眠くなっちゃうもの。ガミガミ煩い優菜がこの前のテスト前みたいに隣でいっぱい喋っててくれないとお勉強できないわよ」

「ガミガミ煩くて悪かったわね!!良いわよ、明日はみっちり隣で違う違う全部違うって言うから!!」

「5分に1回お菓子タイムにしてねー」

「馬鹿ー!!」


 そういうことで明日は琉依さんのおうちで宿題をすることになった私。お勉強はしたくないし優菜が怒鳴ってくるのは嫌だけど琉依さんと会えるのは楽しみ。


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