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初めてのお出掛け(美香視点)


 約束の水曜日、私は優菜のおうちの最寄り駅で優菜を待っている。私は馬鹿な上に方向音痴だから迎えに行くまで動かないでと言われたから改札を通ってそばのベンチに座って待っている。


「美香ーお待たせー」

「あー優菜ーおはよー」

「おはよー」


 今は10時で優菜と一緒におうちに向かった。おうちに着くと優菜はまっすぐお兄さんの部屋に行くから私は後ろからついていく。一昨日も昨日もお兄さんのことを考えてドキドキしてどうしようってなった。ノックもしないでいきなりドアを開ける優菜。


「ねー琉依兄ー出掛けよー」

「え、出掛ける?」


 こっちに背中を向けていたお兄さんが振り向く。ドキドキが早くなる。今日もかっこいいなー。


「あれ?美香ちゃん?いらっしゃい」

「い、じゃなくてお邪魔してます」

「いらっしゃいましたじゃないんだ」


 そう言って笑うお兄さんに恥ずかしくてうつ向いてしまう。一昨日は緊張してたけど今日は大丈夫なのに。でも綺麗な笑顔を見たくてすぐに顔をあげる。


「琉依兄車だしてよ」

「もう、なんなの?通販くるんじゃないの?」

「こないよ。買い物に行くから早くして」


 困った顔のお兄さんに私は慌てて言う。


「優菜、お兄さんに話しててくれたんじゃないの?」

「言ったよ。明後日は家にいてねって」

「そういうことならそうって言ってよ」


 喧嘩しちゃう2人にどうしようと思っているとお兄さんと目が合う。


「行っても良いけど優菜僕運転上手くないの知ってるでしょ」


 一瞬目が合っただけですぐに優菜を見るお兄さん。


「普通に走る分には問題ないでしょ。細い道とか小さい駐車場が苦手なだけじゃん」

「父さんがいる時に乗せていってもらえば良いと思うけど」

「今日買い物したいの。今日たくさん買い物する気でいるんだから!!ね、美香!!」

「え、う、うーん……」


 お兄さんとお出掛けするっていうために来たから買いたいものは特にないんだけど優菜の勢いに思わず頷く。


「ほら!!たまには引きこもってないで出掛けようよ!!」

「引きこもってるわけじゃないんだけどまあいっか」


 お兄さんに着替えるから部屋の外に出るように言われて待っているとすぐにお兄さんが部屋から出てきた。おうちを出て車に乗ろうとするとお兄さんがドアを開けてくれてびっくりしてしまう。


「はい、どうぞ」

「あ、あああありがとうございます」


 緊張しながら車に乗る。隣に座る優菜が面白そうに笑う。車が動き出して運転してくれるお兄さんを斜め後ろからぼーっと見ていると優菜に肩を叩かれる。


「美香、今日は数字なんでしょう」

「えっと、11でしょ」

「ば……合ってる」


 カウントダウンだと思って答えると優菜に馬鹿なのにと驚かれてしまう。


「優菜の意地悪ー!!私そんなにお馬鹿じゃないのよ!!」

「すごいすごい」

「棒読みー!!」


 若菜の肩を叩いてふと見てみる鏡越しにお兄さんと目が合って慌てて目を逸らす。


「美香、琉依兄は昨日仕事行ってたんだよ」

「お仕事ー?」

「そ、去年友達と学生起業したんだ」

「すごーい!!」

「そんなにすごいものじゃないよ。大学には他にも起業してる人いるし」

「琉依兄は国立大行ってるよ」

「わー!!そうなんですね!!かっこよくて頭も良いんですね!!」

「ありがとう」


 お兄さんはふふ、と笑って言った。私はお花屋さんのお手伝いしてるだけだからお仕事をしてるなんてすごいなあ。


「でも琉依兄は引きこもりだから基本的には家で仕事してるんだよ」

「今日も仕事してたんだよ、一応」

「え!?お仕事の邪魔しちゃってごめんなさい!!」


 大変だと思って慌てるとお兄さんは気にしないでと言ってくれた。


「そんなに急ぎの仕事じゃないから全然大丈夫。それで、今日は何を買うの?」


 優菜がお洋服とアクセサリーとってお話しして私もせっかくだから買いたかった雑貨のことを話した。そうしているとショッピングセンターについた。助手席に腕を回しながら後ろを向く顔にドキッとしてしまう。そして車を降りてショッピングセンターに入った。


「ねー琉依兄こっちとこっちどっちが良いと思う?」

「そうだねー……そんなに短いスカートはいてたら父さんに怒られるよ。こっちにしたら?」

「パパ煩い琉依兄も煩い。ね、美香はどっちが良いと思う?」

「んーこっちが優菜に似合うと思うわよー」

「じゃあこっちにしよっと。美香は?洋服も買うの?」

「見てたら買いたくなっちゃうよねー」

「わかるわー」

「美香ちゃんは優菜と違って落ち着いてるよね」

「美香ももっと肩とか出したら良いのに」

「えー恥ずかしいよ」

「試しに着てみたら良いのに。試着だけしてみたら?ほらほら」


 あっという間に優菜にお洋服と一緒に試着室に押し込められてしまった私はどうしようと思いながら着替えた。


「美香ー着たー?」

「う、うん。着たよー」


 やっぱり露出が多くて落ち着かないなと思いながら目の前にいる優菜とお兄さんを見る。


「可愛いじゃん」

「そ、そうかなー?」

「琉依兄もそう思うでしょ?」

「うん、可愛いよ」

「え、可愛い……ですか?」

「それも可愛いけどこういうのも似合うと思うよ」


 そう言って手渡されたのは私好みのロングスカート。着てみますと言ってもう一度着替えて見た。


「可愛いね」

「あ、ありがとうございます」


 恥ずかしいけどお兄さんに可愛いって言ってもらえて嬉しいなと思ってロングスカートを買うことにした私。レジでお金を払って袋を受け取ろうとするとお兄さんが受け取ってくれた。


「え?え?」

「持つよ」

「はい、琉依兄私のもー」

「はいはい」


 優菜が買ったものも一緒に持つお兄さんに慌ててお礼を言う。お兄さん優しいんだなあ。

 お昼ご飯を食べようということになってレストランに入った。高校の話をしながらご飯を食べる。


「きゃっ」


 隣のテーブルにいた女の子が小さく叫んだ。スープが溢れてお洋服にかかってしまったみたい。すぐにお兄さんが立ち上がってその子のそばにいく。


「お怪我はないですか?」

「え、えっと……はい」

「これ、使ってください。少し待っていてくれますか?」

「は、はい」


 女の子にハンカチを渡して店員さんからふきんを借りてきたお兄さん。


「ごめんなさい、これ」

「大丈夫です。悲しそうな顔をしないで。せっかく可愛い顔なのに」

「え、かわ……」


 女の子は赤くなってる。それを見て私は少し胸が痛くなった。


「琉依兄はママ仕込みのレディーファーストだから女性に優しいのよ。ああやっていつも無駄に惚れる人を増やしてるんだよね」

「そ、そうなんだ。可愛いとかみんなに……そうよね」


 私だけじゃなくて女の子なら誰にでも言えるんだな、と少しモヤモヤするけどお兄さんは優しいんだな、すごいなとも思った。

 そして戻ってきたお兄さんに優菜が言う。


「琉依兄は昔からああいうのほっとけないよねー」

「隣で起きれば誰でもそうするよ」

「でもすごいです。なかなかできません」

「そうかな」

「はい。お兄さんは優しいですね」


 私が言うとなぜかお兄さんは首をかしげる。そしてふっと笑う。


「琉依で良いよ」

「え……」

「いや、優菜も琉依兄って呼ぶし名前で呼ばない人いないから。逆に不思議な感じ」

「そうよー。本人にお兄さんだなんて言わないよ」

「え、そうなの?そっか……えっと、琉依さん」


 男の人を下の名前で呼ぶなんて初めてで不思議な感じ。


「美香、ニヤニヤして気持ち悪いよ」

「ひどーい!!だってね、男の人下の名前で呼ぶの初めてで」

「え、そっち?」

「うん、お兄ちゃんはお兄ちゃんって呼ぶし今まで男の子と仲良くお喋りしたことないから下の名前で呼んだりもしたことないし」


 そう言うと優菜と琉依さんは同じ顔でぼんやりしてる。あれ?どうしちゃったんだろう。


「美香は馬鹿だったわ」

「どうして馬鹿なのー!!」

「優菜、友達に馬鹿馬鹿言ったら駄目だよ。美香ちゃんは可愛いね」

「うう……可愛いですか?」

「うん、すごく」


 みんなに言うんだとしても今は私に可愛いって言ってくれてるんだからやっぱり嬉しい。


「琉依さんはとってもかっこいいです」

「ありがとう」


 ふわふわして楽しい。恋ってこんなに楽しいんだなー。こうしてご飯を食べたあともたくさんお買い物をして琉依さんに全部持ってもらって帰りは私のおうちの近くまで送ってもらった。私の初めて好きになった人はかっこよくて頭が良くてすごくすごく優しい人。今日もお母さんとお父さんとお兄ちゃんにそうやってお話しした。


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