初恋(美香視点)
藤井美香、高校1年生。私は初めて男の人をかっこいいと思った。
「おかえり優菜、また通販届いたよ。テーブルに置いてるから。あれ?お友達?いらっしゃい」
「そうそう。新色の化粧品が発売してさー」
「高校生が化粧ねえ」
高校に入って初めてできた友達の優菜の家に遊びに来た私。かっこいい人だーとぼんやりしながら目の前の人を見つめる。
「あ、琉依兄、美香よ。美香、琉依兄」
腕をぺしぺしと叩かれてハッとする。
「いらっしゃい。優菜の兄の琉依です。ゆっくりしていってね」
「は、はい!!いらっしゃいました!!」
「じゃあね琉依兄、美香はお馬鹿さんだからもう行くわー」
すぐに優菜に背中を押されて階段を上ってお部屋に入る。
「はい馬鹿ー」
「もう!!優菜の意地悪ー!!馬鹿馬鹿言わないでー!!」
お部屋に入ってすぐに優菜に言われしまって私は優菜の肩を揺する。
「わかったわかった」
「わかってくれたのー?」
「あんたは馬鹿じゃなくて大馬鹿」
「わかってなーい」
「まあまあ。それより何しよっか」
「ねえねえ優菜」
「なによ」
「お兄さんっていくつ?すごく大人っぽいね」
「大学3年。まあ大人だしね」
「そっかー。優菜ハーブだもんね。お兄さんもそうだからかっこいいねー」
「なにその体に良さそうなの。ハーブじゃなくてハーフでしょうが」
「そっかー」
「ま、私も琉依兄もママ似だからね。なに?琉依兄のこと好きになった?」
「えー!!そうなの!?」
「聞いてるのはこっちなんだけど」
「うーん……好きなのかなあ。好きってなに?」
「相手のことを知りたいって思ったりするとか」
「お友達のことも知りたいと思うわよ?」
「胸がドキドキしたり」
「かっこよくてドキドキしたけどあんなにかっこいい人見たことなくてびっくりしただけかもー」
「2人で会いたいと思うとか」
「お友達と遊びたいのとどう違うの?」
「もう!!面倒ね!!ちょっと待ってて!!」
優菜はそう言って部屋を出ると少ししてから戻ってきた。
「どうしたのー?」
「お菓子持ってきてって言ってきた」
「誰に?」
「琉依兄に決まってるでしょ」
どうしてかしらと思っているとドアがコンコンと叩かれた。
「入るよ」
そう言って入ってきたのはお兄さん。その手にはお菓子とジュースが乗ったおぼんを持っていた。
「全然忙しそうじゃないんだけどまあ良いや。持ってきたよ」
「あー待って待って。琉依兄も食べていってよ」
「良いよ」
そう言って部屋を出ていこうとするお兄さんの腕を引いて座らせる優菜。
「良いって言ったんだから食べてよ」
「そっちの良いじゃないんだけど。仕方ないね」
なんだかよくわからないけど私の隣に座るお兄さんに緊張する。
「えっと、何ちゃんだっけ?」
「美香だってば」
「あ、あの、藤井美香です」
「そう、美香ちゃんね。妹は無茶苦茶で大変でしょ」
「そ、そんなことないでふ」
か、噛んだ。なんだろう。名前を呼ばれただけでドキドキしてしまう。お兄さんに笑われてますますドキドキしてしまう。
「はい、もうオッケー。琉依兄出ていって良いよ」
「もうなんなの?」
「良いから良いから。これあげるから」
そう言ってお菓子を1つ手渡して今度はお兄さんの背中を押してお部屋から追い出してしまう優菜。
「どう?好きでしょ?」
「え、そうなのかな……」
「びっくりしてドキドキしたわけじゃなさそうでしょ」
「う、うん。隣に座って名前を呼ばれてドキドキしたわー。これって好きってこと?」
「そう!!それが好き!!」
「どうして優菜が嬉しそうなの?」
「だって面白そうだし!!」
「そうなのー?」
「そうそう!!」
「そうなんだー」
両手で両頬を触ってみると熱いような気がする。
「私好きな人できたんだー」
なんだかふわふわしてドキドキする。初めての恋に嬉しくなった私は優菜の肩を揺する。
「優菜ー!!私好きな人できちゃったー!!」
「あー揺れるー。まあ良かったね。琉依兄今彼女いないし」
「彼女!!そっかー!!お兄さんかっこいいからお付き合いしてる人いるのよね」
「だから別れたって昨日」
「昨日別れちゃったのー?」
「そう、また振られたんだって」
「えー!?あんなにかっこいいのに振っちゃうのー!?」
「琉依兄自分で告白したこともないけど自分から振ったこともないよ。全員向こうから」
「たくさんいるのー?」
「そうだね。早くしないと新しい彼女ができちゃうかも」
「えー!?どうしよー!!」
「その前に美香が彼女になれば良いじゃない」
「えー彼女にー!?できるかしらー……」
「2週間」
「2週間?」
優菜が人差し指と中指を立てて言うから私は首をかしげる。
「そ、琉依兄が別れてから次の彼女ができたのが最短で2週間後。だから2週間以内で彼女にならないと新しい彼女ができちゃったりできなかったりするかも」
「大変!!えっと……2週間だから……カレンダー……」
今日はいつだっけ、2週間っていつまでに彼女にならないといけないのかしらって思っているとすごく笑顔の優菜が壁にあるカレンダーを指差す。
「良い?昨日の日曜日に別れてるから再来週の月曜日に新しい彼女ができるかもしれない。できないかもしれないけど」
「えっと……えっと……1234……あと13日で付き合わないといけないのね!!わかったわ!!」
「そうそう、タイムリミットは13よ。明日になったら12。馬鹿な美香に一応言うけどタイムリミットはぎりぎり大丈夫な時間ね。再来週の日曜日がゼロ。それが美香が琉依兄と付き合える可能性があるぎりぎりの日よ。再来週の月曜日には新しい彼女ができちゃうかも」
「うん!!再来週の日曜日までにお付き合いできなきゃいけないのね!!」
かっこいいとあっという間に新しい彼女ができてしまうんだ。頑張らなくちゃ。
「ま、冗談だけ「優菜!!どうやって頑張れば良いのか教えてー!!」……痛い」
優菜はこれまで何人もお付き合いしてきたし今も彼氏がいる恋愛の達人だからどうしたら良いのか聞かなくちゃ。なにか喋ってた優菜の言葉を遮ると同時に勢いよく優菜の頭にごっつんこしてしまった。優菜は頭を擦りながらそうねーと呟く。
「時間もないしたくさん会って話してみたら?アピールなんてできないと思うけど美香ならそのままでもいけるかもしれない」
「そうなのー?」
「とりあえず今からどっか行こうか」
そう言って立ち上がろうとする優菜の手を両手で握って止める。
「駄目よ。もうすぐおうちに帰らないと」
「あれ?もうこんな時間?」
外で遊んでから優菜のおうちに遊びにきた私はもうすぐ帰らないといけない時間になっていた。
「店の手伝いなんてしなくて良いんじゃない?」
「んーでもお母さんと約束してるから帰らないと」
「仕方ないなー。じゃあ明日は?」
「明日もお手伝いしなきゃ」
「……じゃあ明後日」
「うん、明後日なら元々優菜と遊ぶ予定だったから大丈夫よ」
「馬鹿なくせに真面目ねー。夏休みなんだから遊びまくれば良いのにさ」
「もう、いつもいつも馬鹿馬鹿って優菜は意地悪なんだから」
「馬鹿なんだから良いでしょ。仕方ない。じゃあ明後日買い物に行こうね」
そうしておうちに帰った私。私の家はお花屋さんをしてる。いつもはお母さんとお父さんが2人でやっているけど土日や今みたいに夏休みだったりすると朝からお兄ちゃんと一緒に手伝ったりしている。
お店はおうちと繋がっていて先に玄関からおうちに入って鞄を置いてからお店に行く。
「お母さーんただいまー」
「おかえり」
レジにいたお母さんと話しているとお父さんと話していたお客さんが振り向いた。
「あら、美香ちゃん。こんにちは」
「杉本さんいらっしゃーい」
常連さんの杉本さんだった。お店には何度も来てくれる常連さんも初めましてのお客さんもたくさんいる。そんないろいろな人たちとお喋りするのが私の楽しみ。
「せっかくだから美香ちゃんに選んでもらおうかしら」
「今日はどんなお花をお探しですかー?」
私は杉本さんのところに小走りで駆け寄って聞いてみる。
「実はね、息子が結婚することになったの」
「へー!!そうなんですか!?おめでとうございます!!」
「ありがとう。可愛らしいお嬢さんでね、何度か遊びに来てくれてるんだけど明日は結婚が決まってから初めて来てくれるのよ」
「わー!!そうなんですねー!!それならバラはどうですかー?」
「綺麗よねーバラ。でもありきたりな気がするのよね」
「そんなことないですよー。バラは組み合わせで花言葉が変わるんですよ。こうして、赤いバラの中に白いバラを入れると、打ち解けて仲が良いってなるんですー」
「あらそうなの?」
「結婚して家族になるんですもん。杉本さん優しいからお嫁さんとも仲良しになれますよー」
「まあ、美香ちゃんったら。そうね、お嫁さんに花言葉を伝えて仲良くしましょって言ってみるわね。仲良し嫁姑になれるかも」
「なれますよー!!仲良しです!!」
杉本さんは楽しそうに笑ってこれにするわと言ってくれた。どうしてそんなに笑われてるんだろうと思ったけどなんだか楽しくて一緒になって笑った。
「そういえば美香ちゃんもそろそろ彼氏できるかしらね。高校生になったんだもの」
「彼氏ですかー?あ、でも好きな人ができたんです!!」
「良かったじゃない。どんな人なの?」
「かっこよくてかっこいい人です!!」
「まあ。ふふ、そんなにかっこいい人なのね。上手くいくように私も祈ってるわね」
「ありがとうございますー!!」
そのあとも常連さんとお喋りしたあと夜ご飯を食べながらお母さんとお父さんとお兄ちゃんにも好きな人ができたのと話をした。