7
両親は信じてくれた。
きっと力を見せなくても信じてくれただろうけれど、余計に信じ、二人でぎゅっと抱きしめてくれた。
さて、これからだ。まず今日を乗り越えなければならない。
「とにかく洗礼は受けたくないのです。バレてしまえば…また……」
自分でも驚くくらい暗い声しかでなかった。
「そうだわ!代わりを立てればよいのではなくて?」
母様が名案だとばかりに得意気に言った。
「でも、誰を…?
街の娘を代わりにするにしても、10歳になれば洗礼を受けます。バレてしまうではないでしょうか?」
父の目がきらりと光る。
「当てはあるぞ。任せろ。」
夜が明け、家族で朝食を取っていると、
ーーコンコン
「準備が出来ました。入ってもよろしいですか?」
家令の声が聞こえた。
すると父様がニヤリと笑い、入室を許可した。
ーーガチャ
そこには見慣れた家令と、私のドレスを着て顔を真っ赤にした女の子が立っていた。
「ほう、いい出来じゃないか。」
「仰っていた通りに整えました。」
2人が話しているが、こんな女の子、館の中にいただろうか?
父の当てであることは確かだが、誰かの子なのだろうか?
母様と私は疑問でいっぱいになる。
すると、真っ赤な顔をした女の子と目が合った。
こちらを見て、口をぱくぱくさせている。
ぱくぱくというより、あわあわ?
ここでようやく気がついた。
庭師の息子、マイトだった。
「マイト…?!」
マイトは心底恥ずかしそうに顔を手で覆った。
急いで近づき、無遠慮にマイトを眺め回す。
「マイト!マイトなのね?!なんて可愛らしいの…?!素敵だわ!」
興奮して早口で捲し立てる。
するとマイトはゆっくりと手を離し、
「本当…?」
と聞いてきた。マイトはまだ7歳。声変わりもしていなければ、髭なんて全く生えていないつるつるだ。
そして庭師である厳つい顔の父ではなく、うちの使用人1番の美人である母によく似ているときた。
素晴らしく、可愛らしい女の子が出来上がっていた。
延々と褒めそやす私に、母様も加わり、べた褒め祭りが開催された。
父様も家令も満足そうであったが、父様はなんと言って皆を協力させているのかすごく気になった。
後で父様に聞くと、普通に全てを話したそうだった。
こんな突飛な話を信じてくれるなんて、柔軟性が高いのだなと感じた。
マイトに関しては、特殊任務だと言うとすぐに飛びつきてきたそう。
さすが男の子。アサシンに憧れてたもんね。
そして、父様と母様は女装したマイトを連れて朝一番で教会へ向かった。