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父として私は考える。
夢だと言って娘を追い返すのことは簡単だ。
だが、最近の娘が見せた違和感の原因がこれだとしたら看過できないものであるし、
娘の話では、私たちは今日死んでしまうのだ。
現実的ではないが、現実だ。
それに、実は王都の聖職者達がここら一刻ばかり離れた小さな街に、【聖職活動】とは名ばかりのゆすり行為を行う為に来訪しているのだ。
明日は勿論、この領地へ赴くことが書簡で伝えられている。ただ飲みただ食いをして寄付をゆすりに来る。
私としてはこの連中が好きにはなれなかった。
偶に、その街のシスターを手篭めにしたり、
幼い子供を素質があると言って無理矢理王都まで連れていき
屋敷の中で飼い殺しにするということもあった。
うちの領民も父の代ではそういうことがあり頭を悩ませていたが、
私の代では、自ら祭りの中で全てを提供し、満足の行くまで好き勝手やらせることで、領民には手を出さないとことと、常日頃からの寄付を行うことによってその行為をすることを暗黙の了解で禁止していた。
1度、パン屋の娘が攫われた時、
「人攫いがでて、寄付どころではない。これだけ、神に祈りを捧げているのに、領民を危険に晒すとは。
私たちは神に見放されたのかもしれない。」
と悲観顔でそう言い、寄付を大幅に減額したことがあった。
教会は大慌てで娘を返してきた。
なんでも、【神のお告げ】で連れていかねばならなかったのだという。
何も言わずに連れ去ったのも神のお告げかららしい。
考えるに、考えなしの能無し神官が可愛い女の子を見つけ自分好みに育てようと思い帰り際に連れ去ったのだと思う。
平民であるなら、問題にならないだろうと思っていたのかもしれないが、他は大丈夫かもしれないがうちの領地に限ってそんなことは無い。
こんな事件が多発する教会を、私は好きになれなかった。
そして、タイミングが合いすぎていることや、もし本当に娘にそんな力があれば、私たちを殺してでも教会は娘を連れていくだろう。
そんな確信はあった。
「父様、母様、私の話だけでは信じられないでしょうから、祈りの力を見せたいのですが。
よろしいでしょうか?」
「あぁ…良いだろう。」
もし力が本物であれば、早急に動き出さなければならない。
娘は床に跪き、手を合わせ俯いた。
「【父様、母様の為に。】この部屋をお花でいっぱいにしてください。【全ては正しい幸せの元で。】」
最初と最後が全く聞き取れなかったが、花でいっぱいにするということは、聞こえた。
そんなこと、無理だろう。
そう思った瞬間、鈍い光で目が開けられなくなる。
次に目を開けた時、私たちが立つところ以外、全て花で覆い尽くされていた。