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ーーコンコン
「父様、母様、朝早くにごめんなさい。お話をさせていただけないでしょうか?」
「…アンレスタか。入りなさい。」
少し経ってから父の声がした。
どうやら父はもう起きていたようだ。
寝室に入ると心配そうな寝起きの母様と、起きて立派な肘掛け椅子に座っている父様がいた。
「父様、母様、朝早くにごめんなさい。今日は2人にお話したいことがあってきました。」
緊張した面持ちでそういうと、
「それは今でなければだめなことなんだね?」
優しい笑顔を見せ、父様が言った。
「今じゃないと、だめなんです。」
そこから起こったこと全てを話した。
勿論、信じてもらえるなんて思っていなかったけれど、両親は真剣な顔で私の話を聞いてくれた。
これから起こること、これからされる仕打ち、なぜ夢ではなかったと言えるのか。
証拠はないけれど、1人ではどうにも出来ないと思った。貴方達を頼りたい。助けて欲しい。
一生懸命に訴えた。
最後、両親は泣いていた。
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木から落ちてから、アンレスタの様子がおかしいことはずっと気にかけていたの。
だけど、こんなに大きなものを抱えていたなんて、胸が痛かった。
夢だ、安心してちょうだいと言うには現実的すぎる内容だった。
これから、わたしの娘にこんなことが起こったなら、その時に私はそばに居てやれないなら、
アンレスタは一人でそれを背負うしかない。
一生懸命に、私たちや関わる人たちを失いたくない。
助けて欲しい。洗礼には行きたくない。そう訴える娘を、抱きしめてやることしか出来なかった。
聖女降臨の件については、有り得ない話ではなかった。
先代の聖女が御隠れになって200年目の年。
200年周期前後とざっくりしたものにはなるが、ある程度の法則性を持って聖女は降臨する。
聖女が現れれば国が安定し、聖女が祈れば国は繁栄する。
これは、聖職者の間では有名な話であった。
妻になる前、私は教会でシスターをしており、夫のアルドースと恋に落ち、結婚をすることで教会から抜けなければならなかった。
最近ではそういうシスターも多いから、特に問題なく結婚をした。
ただ、一般の人は知らないことであった。
口止めはさらていないからどこかで聞いた可能性もあったけれど、10歳になる幼い娘が何故それを知っているのか。
今日まで1度も館を出たことのない娘が、何故祭りの華やかさや、教会の位置、声をかけてきた大工の男や八百屋の女将、その他大勢の領民のことを知ったのだろう。
アルドースが話せばわかるかもしれないが、ここまで一致していると信憑性は増した。
もしもこれが本当に起こった出来事なら、目の前の娘は、どんなに辛い目にあってきたのか。
想像しただけで涙が出てきた。
そしてアンレスタをぎゅっと抱きしめることしか出来なかった。