最弱最強の主人公……は、結局最弱だった件
学戦都市。
全てが戦いの実力で決まる世界。
ここで生まれた人々は、生まれながらに超能力を持つ。
そのスキルを使い、戦い、勝ち抜き、真の実力者ほど高い地位に付ける。
強者ほどが真の正義。
より能力の高い者を生み出す教育機関、それが学戦都市。
だがしかし、この世界で最弱と呼ばれたスキルがある。
その能力とは――――、
…………秘密だ。
悪いが、能力は明かせない。
俺は誰にも、それを答えてはならない。
何を隠そう、そのスキルの持ち主とは、この俺の事だからだ。
能力を明かすという事は、最弱のさらに弱点を晒すという事。
だからこそ明かしてはならない。
だが、俺は最強と呼ばれている。
いや、最弱最強。
世界で最弱と呼ばれるスキルを所持している俺だからこそ、全ての人生がスーパーハードモードの状態で経験を積んでいる。
自分のスキルの有効性。
ありとあらゆるスキル、能力性の把握。
状況の判断。
それらがヒトより、より優れているという事だ。
そして……、最弱スキルだからと、なめられている事から来る相手の自然な油断。
最弱スキルは使えないから詳しく調べすらされていない。
だからこそ、より使いこなせる者ほど優位に立ちやすい。
最弱という圧倒的不利から生まれたアドバンテージ。
それで勝つ為には、様々な考察から来る戦略が必要となる。
それを極めた俺だからこそ、最弱最強なのだ――――。
数々の強敵が俺の事を最弱だとバカにしてきた。
しかし、俺はそういった他人をナメ切った奴らの価値観を覆す。
自分の恵まれたスキルばかりに頼ってきた奴らには、本質的な実力が備わっていない。
そこからくる実力は、全てが甘い。
スキだらけだ。
――やれやれ。
今日も学戦都市が騒がしい。
自分の権力を振りかざすしか能のない、私利私欲にまみれた人間がいるようだ。
平気で人を見下し、スキルのない者の人権を踏みにじる汚い奴ら。
許すわけにはいかない。
(少し――――、お灸を据えてやらないといけないな)
俺は、事件のある場所へ颯爽と向かう。
決して興奮せず、冷静に、そしてクールに、対処していく事が必要だ。
最弱の俺だからこそ、冷静に勝利する事で相手のプライドを叩きのめす事ができる。
(さぁ、いくぜ)
――――俺は敵と対峙する。
・
・
・
「貴様の言う通り、俺のスキルは確かに最弱だ。……だがな、最弱のスキルを持ったからこそ分かる事がある。この能力で勝つ為に――様々な弱点を知り尽くしているという事だ。お前のような強力なスキルを持って生きてきた人間には分かるまい。……俺とお前には、スキルではなく明確な実力差がある。――――貴様では俺には勝てない」
相手を睨む。
拳を敵に向けつつ勝利宣言。
――――完全に決まった。
「へっ、最弱野郎が! 貴様がこの俺に勝てるものかよぉ!!」
「弱い犬ほどよく吠える……ってな」
「なっ……! その減らず口がいつまで続くかな!!」
こんな簡単な挑発に乗るなんてな、単純な奴だ。
相手は、いかにもな不良男。
真っ直ぐ突進してきて、パンチを振りかざしてくる。
実に単調。
こんな攻撃など、闘牛士がマントを振るようにかわす事ができる。
まるでパンチがスローモーションのように見え、
ない。
見えない。
速過ぎる。
(ちょっ、まっ)
「オラァッ!!」
「ぅいたぁいっ!!!!」
アゴの骨が割れたかのような脳に響く炸裂音。
車に衝突されたくらいの頭の揺れ。
相手のパンチは俺の左頬に直撃していた。
殴られた瞬間、雷で撃たれて目がくらんだと思う程、一瞬意識が白く飛んだ。
いたぁい!!!!
すっっっぅっっううっごくっ!!!!
ぅぃぃいぃたぁぁぁーーーーーーぁいっ!!!!
死ぬーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
「うオォン……」
俺は、殴られた頬をおさえ、内股になりながら呻く。
その姿はさしずめ、生まれたての小ジカか……。
頬がまだビリビリする。
いや、なんか麻痺ってる?
きっと赤く腫れている。
絶対アザになる。
あまりの痛みで俺は涙目になっていた。
うるうると目に涙を溜めて、溶けた氷のようにボタボタと零れそうになるほど。
魚のようにすぼめた唇も、小刻みにバイヴゥレェィーション……。
「あ、いや……」
殴った相手は戸惑っていた。
パンチを振り切った姿勢のまま固まっている。
「ぅいたいよぉ!」
俺は、そのままブリッジ姿勢できるくらい腰を思いっきり仰け反って叫ぶ。
うるんだ目でも悲痛を訴えた。
ボクは全身でプルプルしている。
周囲は引いていた。
だがボクは頬の痛みで全く気になっていない。
お構いなしに泣いていた。
「弱くね……?」
相手がポカンとした顔でポツンと一言。
「弱いよぉ!! 最弱だもん!! 弱いに決まってるじゃぁあああんんんんん……!! ぅぅほぉんきぃでぇ!! ぅぅほぉんきぃでぇ!! 学園最弱にィ!! やるごとないじゃああんんんん!! ウオォォォォン!! 殴ってぇぁ!! ゥオッホッホホォォーン!! ホホォォン!!」
「いや、だって、あんな豪語してたら、わりと強いと思うだろ…………? 普通」
「ハッタリでなんとかなると思ったんだよ!! うおおおおおーーーーっ!! おろろろろろr!!」
もう何がなんだか分からず、ボクは逆ギレした。
だって今までの全部作り話だもん!!
憧れてたんだよ! 最弱最強!! 最弱無敗!!
ウオォン!! まさかのデヴュー戦で敗《はい》たぁい!!
最弱×最弱!! 最弱全敗!!
嫌《いや》あ!
「なんか……ごめんな」
あれ? 謝った?
相手すげぇ申し訳なさそう。
呆気に取られている様だけど。
「ウン…………」
もう殴られなくてもいいかと思うと、安心して、少し落ち着いていた。
さっき泣き叫んだ激しいトーンも落ちていく。
「なんか……お前見てると可哀想になってきた……。まぁ……わりと悪い事控えるわ……うん」
後頭部に片手を当てつつ、軽く会釈して反省する相手さん。
(じゃあ最初からすんなよぉ!! お前ェーーーーッ!! お前ェーーーーッ!! ボクがぁ!! ボクがどんな思いでぇえ!! 勇気を出してぇ!! やられたんだよぉ!!)
「ウゥン………フゥン」
言いたいことは色々あった。
だが殴られた痛みと悲しみで思考がまとまらなかった。
鼻息が荒くなりながら、大きく頷き返事をする。
「じゃ、じゃあな……」
さよならの手を振り、ぎこちなく去っていく相手。
一難は去ったようだ……。
彼が去っていくのを少し見送った後、俺は今日の被害に遭った人の無事をたずねる事にした。
……本来の目的だったから。
「ぅっ! ぅっ! うっ! ……ぅだぁっ、だぁいじょうヴ……?」
泣いてて唇が震えてうまく喋れないが、頑張って声をかけた。
「ぁ、いや、だ、だいじょうぶです」
何でェ目逸らすのォ?
助けたのにィ、感謝ぐらいしても良くね?
(お前が一番大丈夫なのかよ……)
……周囲は、一斉にそう思っていた。
今の状況を見れば、明らかに主人公が一番無事ではない。
「ぅふぅん!! よかった……」
とりあえず無事だった事は確認できた為、俺が心配する事は何もなくなった。
これで何も思い残す事はない為、俺はヨタヨタと保健室へ向かう事にする。
まだ顔半分の感覚がない……。
(なんで本気出しちゃうのぉ?)
途中、心の中でそう不満を繰り返した。
”やらなければ良かった”と、最終的に反省した所で、俺は気を失ったようだ。
◇ ◇ ◇
目を覚ますと、そこには真っ白い天井が広がっていた。
「ここは――――?」
うん、多分保健室だろう。
「あ、目が覚めた?」
この声は幼馴染だ。
……コイツはココの治安を守る生徒会のメンバーで、実質最強戦士の一角。
そして美女。俺とは天と地ほど違う学園の人気者。
多分、助けてくれたのもコイツだろう。
「俺、どうなった?」
「ばっかねぇーー、アンタ」
幼馴染は半笑いで呆れていた。
そのまま彼女は肩を落として話を続ける。
「何で弱いクセにハリきっちゃうのよぉ?」
「アニメ見たらできる気がしてきて……」
「バッ! バッカねぇーーーーーー!! 頭悪いんじゃない?! マジウケるんですけど! アハハハハ!!」
”アニメの知識で何かできる気がしてきて自信が付き、強い相手に挑んでみた。”
俺のそんな理由を聞いた幼馴染は、さらに笑いが加速した。
「っていうか! アンタ顔見なさいよ! ホントウケる!! ひどすぎ!! 目も真っ赤だし!! プッ。アハハハハハハハハ!! ヒッヒッ!! バッ、バカ過ぎィ!!!!」
幼馴染の笑いは止まらない。
両手をシンバルのように拍手したり、座っている椅子や机をバンバン叩いたり、お腹を押さえて爆笑している。
「これでもぉ! 勇気だしてぇ! 助けたんだぞぉ!」
またちょっと泣きそうになりつつも、我慢して必死に反論した。
「ごめん! ごめん! でも面白いんだもん! あーはははははははっ!!」
涙目になるほど笑い続ける幼馴染。
非情だ!
殴られ損になった気持ちをえぐってくる。
「はぁ……でもホントアンタ、自重しておきなさい。アンタ文系の女の子よりも非力で、おまけに無能力者なんだからさぁ。危なっかしいわ。こういう事件ごとは生徒会に任せとけばいいのよ」
笑いが収まってきた幼馴染。
身体の体重を椅子の背もたれに乗せるように再度座り、全身の力を抜いていく。
そのまま、優しく微笑みながら声をかけてくれる。
「ま、余計な仕事が増えるだけだから、今後はあまり無茶しないように。……まぁその勇気だけは認めてあげるわ」
……励まされているんだろうか?
まぁそんな事はさておき、今までの事を思い返すと恥ずかしくなった。
俺は頭をかかえて、全身にたまった悪い空気を抜くようにクソデカため息を吐く。
「まーまー、そんなに落ち込みなさんな。そういう事は――――わりとあるわよ! ……多分。アンタが世間からどう思われようとさ、アタシはいつもの幼馴染でいてあげるから安心しなさい。こんなかわいくて、親切で、やさしーーーー幼馴染もなかなかいないゾ☆」
そう言い残し、幼馴染はウィンクを送り保健室を後にする。
バイバーイと口パクをしながら手を振る姿は実にあざとい。
くそぅ! かわいい!
いや違う! 悔しい!
チクショウ! チクショウ!
なんで俺はココに生まれてノースキルなんだ!
最弱スキルですらねぇーじゃねぇーか!
何が最強だよ! くそぅ!
冒頭のは全部自称最強だよ!!
呼んでるの俺だけ! 虚しい!!
ぜってぇー、アイツと俺の立場は逆であるべきだったと思う……。
情けないな……俺は。
なんでもいいから最強主人公に……俺はなりたい――。
// 〔最弱最強の主人公……は、結局最弱だった件〕 END //
自分は面白くできたと思ってます。
どんな意見でもいいので、親切な人は、僕の作品に感想くださると嬉しいです。
しかし、〔IBSの俺が異世界でトイレマップを作る〕の息抜きで書いたのはいいのですが、そっちの方が見難い文章になっていたなって改めて思いました。
気になった部分は、改稿していって見やすい文章に直していこうと思います。
あと、気分転換に新しい作品を書くと、やはり文章の見易さとかそういった所がでてきますね。
そうすると新しく考慮すべき点が見つかってきて、今回は勉強になりました。
人気がでたら、続き書けたらいいですね。