表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある大学生の飢えの話  作者: 石化
3/3

焼肉

たまには贅沢するか。俺は友達と誘い合って、焼肉に行くことにした。全てから目を背けている自信がある。⋯⋯多分これは自信ではない。後ろめたさというやつだ。




 肉は、高い。だからいつもは手が出ない。100g 200円などと書いてあっても、ちゃんと見るとそれは300gずつしか売ってなくて、600円という文字が踊っている。うん。高い。



 まあ、そんなことは気にしない。昼は抜いたし、腹は減った。減りすぎてキュルキュル言ってるのは流石に引くけど。これ、お腹壊したとかじゃないよね。なんか微妙に痛いんだけど。いやいやいや。せっかく美味しいものを食べるんだ。気のせいということにしてしまわないと、俺の腹も浮かばれない。



 久しぶりに会う友人に、痩せたねと言われてショックを受ける。⋯⋯これ、友達に会うたびに言われてるんだけど。そろそろ本気でまずいんじゃないだろうか。それはそうとお腹減った。


 だめだ。ちゃんと会話していたはずなのに、思考に腹減ったが挟まれてしまう。こんなんじゃ旧交を温めることもできない。まずは肉を焼こう。そうしよう。



 カルビに牛タン、ハラミにロース。部位についてはよくわからないけれど、運ばれた状態を見るだけで美味しそうだ。


 ヨダレがダラダラと溢れてきて、腹がノックされたように凹む。友人は呆れたように笑って、その様子をからかった。少々恥ずかしさを覚えながらも飢えには勝てずに肉を金網の上に並べる。



 肉の焼けるいい匂い。ただでさえ減りきったお腹が刺激されてさらに凹む。お腹と背中がひっつくぞって童謡のことを笑えない。


 まだ赤いけど、そろそろ大丈夫だろうと慢心して俺は箸を伸ばす。レモンだれにつけて、ひと噛み。肉汁が溢れ、酸味が絡まり、舌の上でとろける。そんなに高いお店じゃないのに、空腹のせいかとんでもなく美味しい。運よくそんなに焼かなくても大丈夫な肉だったようだ。食べ放題をいいことにすぐに次の肉を挟んでタレをつける。



  味わっていたのは最初の数口であとは味もわからないまま腹に入れて行く。合間合間にご飯を食べて一辺倒な味を中和して、三つのタレをローテーションして。変化をつけて単調にならないように。

  食べ放題には食べ放題なりの食べ方があるのだ。まあ、どんな考えてもゆっくり噛み締められない食べ方は上手な食べ方とは言えないのだけど、やっぱり俺は貧乏性でもったいないという考えが先立ってしまう。元を取らないとと思ってしまうのだ。店側も絶対に利益の出る価格設定にしているはずだから、元を取るなんてことができるはずはないのは明白なのに、食べ放題に来るたびに脇目も振らず肉を頬張ってしまう。




 それでも肉を焼く合間にはちゃんと久闊を叙することができた。近況やら愚痴やらなんやらかんやら。滅多に会えない友だが、彼がいてくれてよかったと改めて思う。




 お腹はもうそろそろ限界を訴えていて、パンパンに膨れていた。あんなに腹が減った割には肉の味はあんまり思い出せない。ただ、満足したという多幸感が俺を包んでいた。


 最後に酒でも飲むかと、まだ慣れない杯を呷あおる。苦味のある味が口の中に広がって、美味しいような、不味いような。これで俺らも大人だなって友人と笑いあった。




 家に帰って酒で乾いた喉を水で潤して、明日のためにご飯を炊飯器にセット。ついでにレトルトカレーの在庫を確認。まだある。なら、明日も飢えることはなさそうだ。




 飢えた状態で味わったものは食べ放題で詰め込む肉なんかよりよっぽどうまいということでも言おう思っていたけど、焼肉は焼肉で大切で美味しい食事だと認めざる得ない。楽しかったし。


 ●



 食事はそれだけで肯定されるべきで、美味しい食事を見て匂いを嗅いで体全てが食べたいと叫ぶのはきっと幸せだ。それがつまり生きているってことだから。深夜の飯テロ写真は、うん。やめて欲しくはあるけれど、そんな時間にツイッターを開いた俺が悪いので仕方ないなと言いながら、ジャガイモを切って湯がいてスープの素を入れて作ってみたりするのもそれはそれで楽しい。





 ご飯を作ってご飯を食べて、水を汲んで水を飲んで。毎日毎日続けていく。飢えた後のご飯は美味しいけれど不健康で、乾ききった喉を潤す水は甘露だけど、やっぱり禁じ手だ。


 適度な生活習慣とテキパキとした家事に憧れながら、無理だと諦めて。それでも欲しいと手を伸ばす。自分を律することができれば、生活はもっとよくなると信じて。



⋯⋯なんだか説教くさいな。まあ、これは俺がこれからやりたいってことの決意表明のようなものだから。誰が見てても構わない。



またお腹が減ってきた。確か今日は炊飯器にご飯を炊いてるはず。そろそろお米の在庫が尽きるから買い足しして、後一品くらい欲しい。冷凍食品でも解凍しようか。考えてたらお腹が空いてたまらないや。











評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ