08 ノーチェの適性
さてそうは言ったものの、それを探すための思い当たる節はない。
ないのだが体力が無いと本人が自覚しているのならば、比較的動きの少ない後衛職の方が定石であるとは思う。そうなると、魔法職か飛び道具を扱う職か。
恐らくは魔法職じゃないのかと思うんだけどな。あくまで直感だが。……こういうとき、ノーチェのステータスが見られれば参考になりそうなんだが。でもあれはあの女の力がないとできなさそうだし。
――そもそも、この世界において職業を決めることというのはどうするんだ? 俺はあの妖精に決めてもらったんだが。
「職業決めの方法、ですか? 職業相談所の相談員に聞くんですよ、プリルさんもそうしたんですよね?」
「…………ハロワ?」
「……はろわ? なんですかそれ?」
「ううん、こっちの話」
いや、あれは相談所じゃなくて安定所だったな。そんなことはどうでもいい、ともかくそんなところがあったのか。
そんなノーチェからの話を聞いていて、何か引っかかることが。……ああ、単純なことだった。
「……? ノーチェは一度そこへ行った……のよね?」
「…………はい」
「そのときは、なんて言われたの?」
「えっと、その……。精霊術士、が向いていると」
ノーチェの言葉を聞いて、俺はふむと
精霊術士とは後衛職の職業である。AWの世界にいる様々な精霊や妖精たちの力を借りて、魔法を扱う。魔法を扱うという点では魔導士と同じなのだが、大きな違いとしては妖精などを常に使役できる点にある。パートナーとなる妖精や精霊と契約することによって、戦闘面や生活面でサポートを受けられるのである。
AWの公式設定では、綺麗な心の持ち主でないと精霊や妖精たちが心を傾けてくれないとか、そんなことが書かれていた気がする。まあその点からいうと、ノーチェは恐らく合っているような気がする。
「精霊術士ねえ……。剣士よりはよっぽど向いていると思うけど」
「うーん、そうでしょうか……」
「……あまり乗り気じゃないのかしら」
「……」
声のトーンからそうなんじゃないかと思って尋ねてみると、途端に俯き加減に黙り込むノーチェ。まあ剣士になりたいという気持ちが強かったのだから、それ以外の職業を勧められても良い思いはしないだろう。そういう夢を諦めて別のことを始める、というのは勇気の要ることだ。
「ねえ、もう一度その職業相談所というところで相談してみたらいいんじゃないかしら」
「……そうでしょうか」
「とりあえず話を聞いてみるだけでもどうかしら」
「……そうです、ね……。話だけなら」
あまり気分は乗らないようだが、なんとか行くことを了承してくれた。朝食を摂ってからその職業相談所とやらへ向かうことになったのだった。
☆☆☆
「……やっぱり戻ってきましたか。だから精霊術士がいいと強くおすすめしたのですが」
「……そんなにですか」
「うう……」
職業相談所へとやってきたところ。年上の落ち着いた雰囲気の女性相談員からそんなことを言われてしまい、ノーチェは項垂れてしまった。
「この娘はそんなに精霊術士に向いているのでしょうか」
「はい。魔力の反応が強いので、魔法を扱う職がよいかなと。その中でもノーチェさんとお話をする中で、おそらく精霊術士が向いていると思ったのです」
そして魔力を感知する道具だ、と手渡された短い杖のようなものを片手で握ったノーチェ。直後にその杖から淡い緑の光を放ち始めた。その光景を見た相談員は、やはり十分に魔力の素質があるようですねと答えたのだった。
「……だそうよ。ノーチェは精霊術士が向いてるみたいね。……さっきも言ったけど私も剣士より精霊術士の方が向いていると思う。もちろん、最後に決めるのはノーチェだけど」
「……」
しばらく考え込んで視線を右往左往させていたノーチェだったが、やがて俺の方へ向いて口を開いた。
「わ、わかりました。精霊術士に転職します」
「……本当にいいのね?」
「はい、もう決めましたので」
あくまで決めるのはノーチェだ、とは言ったが断り辛い雰囲気にさせてしまった。とはいえ今のままではよくないだろうし、多少強引でも変えさせて正解だったと思う。
転職は俺が妖精にやってもらったときとは違い、事務的な手続きと僅かな手数料を支払うだけで完了した。
相談員から杖と精霊術士の衣装を受け取ったノーチェは、そのまま着替えに向かう。
しばらくして戻ってきたノーチェは、膝まで丈があるもこもことしたワンピースのような衣装を身に着けていた。ノーチェは片手剣と衣装を相談員へ返納し、礼を述べていた。
活発そうな剣士服から、少し地味な衣装。だがノーチェそのものが可愛いので、素朴な娘の感じがしてこれはこれで――。
「なかなか似合ってると思う」
「そ、そうでしょうか……」
そう言ったノーチェは、少し顔を赤らめていた。
今までの衣装と違って少し動きにくそうな様子だったので、ふたたび飲食店へ入って一息入れることにした。
ノーチェが温かい飲み物を奢って心を落ち着かせている中、俺はインベントリの中からモノを数点取り出して机の上へ。
「はいこれ、転職のお祝い。さっきもらったものよりもいいと思うから」
「え……い、いいんですか!?」
「うん。どうせ私が持っていても使わないから」
「そ、それならありがたく……ってこれ、なんだかすっごく高そうなんですけど……?」
「んー……まあ気にしないで」
ノーチェに渡したのは、後衛職用の汎用杖。汎用とはいえレイドボスからのドロップ品であり、能力はそこらのレア装備よりも遥かに高い。魔力値が大幅に上昇するほか、最大SP上昇のおまけつきだ。ノーチェの背丈以上の長さであるのと、見た目がかなり豪華――虹色に輝く羽根飾りが目立つ――なので少々使い辛い。
あとアクセサリとして、破邪のロザリオと癒やしのイヤリング。これも面倒な高レベルクエストをこなさないと手に入らないレア品であり、各種状態異常の耐性が備わっていたり、SP回復のパッシブスキルが自動発動したりする。
いずれにせよ自分が使うことはなく長らくインベントリ内の肥やしになっていたので、ちょうどよい。魔法を扱う職にはもってこいの装備品である。これらを装備させておけば、きっとノーチェを守ってくれるだろう。
本当は衣装もあったのだが――これは手元にないのでどうしようもない。
そんなこんなで精霊術士の清楚な基本服に、派手な模様の杖とレアアクセサリを装備したなんともアンバランスな低レベル精霊術士が誕生したのだった。
新しい装備を身に付けて顔を綻ばせるノーチェを横目に、これからどうするか考え込む。
たぶん、ノーチェのレベルは一桁台辺りだろう。精霊術士のスキルもまだほとんど持っていないはずだ。覚えさせるにはレベルを上げなければならない。
レベリングするのも一つの手だが、それをするには実際の敵の強さが全然分からないという問題がある。そもそも俺もまだ魔物とまともに戦ったことがないのだ。
あの森で遭遇したウサギぐらいでは参考にならないだろう。そしてそれなりに強い魔物がいるエリアは、ここから大分離れてしまっている。
とはいえいきなり強い魔物のところへ行っても、おそらくノーチェ自身の為にならない。
俺はステータスのお陰でたぶん問題ないが、ノーチェは初心者なのである。万が一怪我でもさせてしまったらと思うと、二の足を踏んでしまう。ゲームでは簡単に体力を回復させることができるが、これは現実なのである。なるべく痛い思いはさせたくない。
そうして考え込み出した結論は――。
「……パーティーを組みに行きましょう」