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05 群れた男が女に手を上げるとはいい度胸だな?

「なるほど、プリルさんはずっと山奥に住んでいたんですね。山奥暮らしって、色々不便だったんじゃないですか? わたしは大きい街の出なので、想像が付かないです」

「ああ……まあ、何とかなったさ」


 街に戻ったあと、話を聞きながらノーチェを元気付けようと飲食ができる酒場へと入ったのだった。

 所持金が少ないらしく入ることを渋っていたが、案内してくれた御礼だと無理矢理中へ連れ込んだ。

 実際どうやって注文すればいいのか分からなかったが、好きなモノを頼んでくれとノーチェに伝え、注文したものと同じモノを頼んだのだった。

 ノーチェは注文したスープを美味しそうに飲んでいた。入る前は表情が曇っていたが、食事で少し気分が上向いてくれたようだ。


「あの、プリルさんに訊きたいことがあるんです」

「んー? なんだ?」

「プリルさんの言葉遣いが、ずっと気になっていたんですけど……」

「…………あー」


 そう言われると答えに困る。そんなことは意識せずに会話していたので、そのまま男言葉だったからだ。


「そうだな……爺さんとふたりきりだったんだが、そのかもしれないな」

「な、なるほど……そうだったんですか」

「……そんなに変か?」


 当然ながら爺さんなど居ない。その場で思い付いたこと言っているだけである。元の世界で営業をしていても、作り話で乗り切るのはよくやった手だ。

 それはいいとして、そんなにおかしかったのか少し不安になった。


「ええと、その……お会いしたときはかなり違和感が……。初めはまた別の喋り方でしたし」

「……そうか……」


 折角の美少女にメイクしたキャラクターなのに、そこが歪なのは自分のキャラクターを汚しているような気がする。

 とはいえこのキャラクター、喋り方はどうしたらいいんだろうか。考えたこともなかったんだが。

 うーむと腕を組んで考え込み、一つの答えに辿り着く。


「そうだな、これから気を付ける……が、おかしいところがあったら指摘してもらえると助かる」

「分かりました!」


 キャラメイク時点では物静かな雰囲気、というつもりで作成したのだ。

 それをロールプレイするというのも悪くない気がした。上手く出来るかどうかはさておいて。


「ごほん、えー……もうすぐ夜になるから、宿を考えないといけない……わね」

「そうですね。えっと、この街は何軒かありますけど、その……」

「……?」

「わたしが案内できるのは安い宿です。そこまで手持ちがありませんので……」


 ノーチェは伏し目がちにそう言う。……ああ、故郷から出てきたばかりだって言ってたしな。

 そんなに金を持っているようにも見えないし、仕方が無いだろう。


「……それくらい、わ、私が出すから。お金のことは気にしないで」

「で、でも……」

「いいから。それとも、行くあてはあるの?」

「いえ……ないです」

「ならとりあえず今晩は一緒に泊まらない、かしら? 嫌じゃなければだけど」

「そ、そんなことはないです。……お願いします!」


 このままノーチェを放り出す気にはならなかったので、流れで泊めてあげることになった。まあ案内してもらえるのなら全然構わない。どうせ宿泊料なんかたかが知れているだろうし。

 しかしまあ、言葉遣いは相当意識しないと難しいなこれ。滅茶苦茶恥ずかしいんだが、このキャラが話していると全く違和感はない。これがプリル本来のあるべき姿だろう。徐々に覚えて慣れていく他ない。


☆☆☆


「それで、どの辺りなの?」

「街外れにあるので、少し歩きます」


 食事も終わって、目的の宿へと向かっている途中。何通りか宿の候補を出してもらって、結局一番高い宿へ泊まることに決めた。高いといっても、訊いたところによると何百泊したとしても手持ちがなくなることはない。

 ノーチェ曰く、安い宿は安全ではないらしい。鍵が壊れていたりして盗みに入られたりすることがあるとのこと。

 元の世界との違いにショックを受けたが、よくよく考えれば安ければ客層が悪くなるし、その分リスクを伴うだろう。

 寝るときは安心して眠りたい、ということで高い宿を取ることに決めたのだった。


「おっと、お嬢ちゃんたちどこへいくんだ」

「……なに?」


 外れに差し掛かったそのとき、道を塞ぐかのように男三人が立ちはだかった。

 なんだこいつら。……どこかで見たような気がしたが、ノーチェに絡んでいた連中じゃないか。


「いや、猫の嬢ちゃんに金を借りようと思ってな」

「……どういう意味?」

「もうちょっと欲しいな、と思ったんだよ。猫の嬢ちゃんは金持ち、のようだしな」

「……」


 下衆な笑みを浮かべた男共が三人。

 ――こいつら、金目当てで来やがったのか。こんなタイミングだと、ずっと後を付けていたのかもしれない。

 面倒なことになったなこれ。横で怯えていたノーチェを後ろに回ってもらい、男共の顔を睨み付けた。


「断る、と言えば?」

「そうだな……ちょっと痛い目に遭ってもらうかもしれないな」


 ねっとりとした視線を受けたノーチェがひっと声を漏らし、俺の腕を掴んできた。

 ……なるほど、これは。相手がその気なら、こちらも実力行使に出るしかないようだ。


「……ファイア・ボール」

「なっ……おわっ!?」


 男共の位置から少し離れた場所に、魔法をぶっ放した。

 地響きとともにドカンと爆音と伴い、火の柱が空高く上がる。

 地面から巻き上げられた砂埃のせいで、辺り一面の視界がほとんどなくなってしまった。

 ――この魔法、毎回これがあると使い勝手は悪い気がする。


「げほっ、げほっ……あんな風にこうなりたくなかったら、とっととここから去りなさい!」


 砂埃が舞い上がる中、かっこつけてそう言うものの何も返事がない。

 ……間違って巻き込んでないよな? それなりに離した場所へ打ち込んだから大丈夫なはずだが。

 やがて砂埃が晴れたあと、男共は忽然と姿を消していた。

 周りを見渡しても誰も居ない。どうやら既に逃げた後のようだ。逃げ足は速いな、あいつら。

 まあ、これで再び襲いかかってくるようなことはしないだろう。


「はあ、威勢だけはいい連中だったわ……ね……?」


 そう言いながら後ろを向くと、ノーチェが目を輝かせていることに気付く。

 直後、ノーチェが胸の前で両手を握って大きく口を開いた。


「す、すごいです! あんな魔法を使える魔導士さんだなんて!」

「やっぱり身形の良さだけじゃなくて腕前もよかったんですね!」

「でもあれだけの魔法を使われるのに、ギルドにも登録してなかったなんて変わって……あっ、すいません! 事情があったんですよね。また訊いてしまうところでした」

「……まあ色々とね」


 早口でそう話すプリルに少し面食らいながらも、何とか返答をする。

 そしてノーチェは暫く黙り込んでしまった。どうしたんだろうかと不思議に思っていると、顔を上げ口を開いた。


「プリルさん、お願いがあります。わたしを弟子にしてください!」

「……え? 弟子? ……私に?」

「はい! 私にできることなら……身の回りの御世話とかは得意なので任せてください! なのでお願いします!」

「……」


 突然のノーチェからの願いに動揺してしまう。……分からないことだらけだから、むしろ俺が教えを請いたいぐらいなんだが。

 しかも弟子といったって、ノーチェは剣士で俺は魔導士。教えてあげられることはない。その前に俺は、レベルはカンストしているが魔導士としては初心者だし。

 弟子を取るような力はないと説明したが、ノーチェは頑なに傍に置いてほしいと食い下がった。


 さてどうしたものか、と思い悩む。

 そもそも俺は別の目的があるのに、こんな子どもと一緒になんか――。そう考えたところで、オレはハッと気付く。

 ――別にこの子でもいいんじゃないか。

 何も知らなさそうなあどけない顔の子を、力でねじ伏せて。嫌な顔をしてもらいながら――これはこれで、ありな気がする。


「プリルさん?」


 不安そうな顔をしたノーチェが、俺の顔を覗き込んできた。

 顔に出てしまっていなかったか不安だったが、どうやら大丈夫なようだった。


 ――まあ、今すぐにそれ(・・)を実行する必要はないだろう。

 ゲームのことは知っていても、この世界のことは相変わらずよく分かっていない。

 この子と一緒に過ごして、ある程度分かってからでも遅くはない。


「……分かった。でも、私も分からないことだらけだから色々訊くことがあると思うし。だから弟子とかじゃなくて、仲間としてお願いしたいのだけど」


 弟子なんて取るような器でないし。あとのことはあとで考えればいい。

 そう思い、ノーチェに提案する。


「……私なんかがプリルさんと対等に扱われてもいいんでしょうか」

「そんなの気にしないでいいから。これからのことはまた追々考えましょう」

「……ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 そう言って深々と御辞儀をするノーチェ。そして顔を上げてにこっと笑顔を向けてきた。

 うん、この子はやはり笑った顔が一番かわいいな。ひとりで旅をするよりも、こういう子が一緒な方がきっと楽しいだろう。


「……?」


 そう思っていたところ、耳が何かを察知した。耳に集中すると、遠くから人の声がかすかに聞こえてきている。しかも複数人。こちらに向かってきているみたいだ。

 なんだろうとふと目線を下げると、地面には大きな穴。――あ、まずい。街の中にこんなものを作ってしまった。

 派手に魔法をぶっ放したから、たぶん街の人が気付いたに違いない。


「……なんだか、嫌な予感がする」

「……わたしもそう思います」

「……急いで宿へ行こう。案内して?」

「分かりました!」


 そうして、そそくさと逃げるようにその場をあとにしたのだった。

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