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13 実は美味しいシチュ

(こ、これはさすがに……)


 ノーチェたちに取っ替え引っ替えさせられて、ようやく解放された後。

 実際に着せられてみると、恥ずかしさが半端ない。

 何しろ着せられた服は、上半身が胸ぐらいしか隠されていないものだったからだ。胸元にリボンのついた布を巻いて、薄っぺらい肩掛けを羽織っているだけ。腹なんか丸出しである。幸い寒くはない気候だが、それでも頼りない服に違和感を覚える。

 冒険者の中にもこういう衣服を着る職業(ジョブ)はあれど、まさか自分が着ることになるとは思っていなかった。

 その下に穿いたスカートは着ていた衣装と変わらない丈だったが、全体的に露出度が上がったせいかそわそわして落ち着かない。

 いかにも防御力はないです、と自ら主張しているかのよう。まあ防具に頼らなくとも体力値は高いし、そこは気にしなくてもいいか。


「プリルさん、すっごく似合ってます!!」


 目をキラキラと輝かせてそう言ってくるノーチェ。

 選んでもらった手前、返すとも言えず結局そのまま購入することに。そこで俺は一つ案を思い付いた。


「折角だから、ノーチェの分も買ってあげる」

「えっ……いえ、そんなの勿体ないですよ!」


 俺の提案に対して、すぐさま断るノーチェ。道連れというわけではなく、ノーチェも替えの服はあまり持っていないとか言っていた気がしたからである。

 選んでくれたお礼に好きなものを買ってあげる、と伝えると少々迷いながらもノーチェは「それなら……」とそそくさと服を探しに行った。しばらくして戻ってきたが、ノーチェは意外なものを持ってきたのだった。


☆☆☆


「……なんだか視線を感じるんだけど」

「そうですか?」


 ノーチェは気付いていない様子だったが、通りを並んで歩く俺たちには視線が集まっていた。――ノーチェが選んだ衣装は、俺に着せたものと同じ組み合わせだった。露出度の高い衣装を着た美少女が二人並んで歩いているのだ、視線を集めても仕方が無い。声を掛けてきそうな輩は、俺が必死に睨みつけて追い払っている。

 そんな俺の苦労を余所に、ノーチェはニコニコと満面の笑みを浮かべていた。

 プリルさんとお揃いです、などと嬉しそうに呟いている。

 うーん、揃いの服でそんなに嬉しがるものなんだろうか。よく分からない。


 そんな中街を歩いていると、人だかりがある場所へと差し掛かる。

 近付いてみると、甘い匂いが漂ってきたのと同時に元気の良い物売りの声が聞こえる。

 なるほど、何かお菓子を売っている屋台か。ノーチェの方をちらっと見ると目がその方へ釘付けになっていた。

 ――衣服店で結構時間を食ったので、食事をするには良い時間だ。


「いい時間だし、お昼にしましょうか」

「あ、はい!」


 それから列に並ぶこと数分。ようやく屋台の店員前までやってこられた。適当なものを注文してノーチェとともに受け取り、近くのテーブル席へと移動する。

 そうして食事を摂りながら、何気なく隣を向く。

 パンにかじりついているノーチェの、小動物のようでかわいらしい姿があった。


「? 何かありました?」

「ううん、なんでも」


 あんまりジロジロ見すぎるのもいけないよな。俺は視線を戻して食事を続ける。

 周りに目を向けると、冒険者風情の人や町娘など様々な人たちが居る。中には仲睦まじい様子のカップルなども居た。――あれはこの姿になった俺には関係がなさそうだ。

 ムサイ男などと付き合うことなど、全く考えられない。やはり可愛い女の子とこうやって仲良く食事を……、と思ったところでふと気付く。今やっているこれ(・・)は、まさにそれではないのか。

 俺は女の身体になってしまったが、心は男である。そして、隣に居るノーチェはとびきりの可愛い女の子。とりようによっては、デートと言っても差し支えない。

 そう考えると、今の状況は非常に美味しいと言える。ヤバい、ドキドキしてきた。しかも揃いの服と来たもんだ。


「プリルさん、零れてますよ!」

「……あっ」


 そんなことを考えていると、右手に持っていたパンからクリームが左手に垂れているところだった。危ない、買ったばかりの服を汚してしまうところだった。

 ノーチェに心配されてしまったが、考え事をしていたと答えておいた。

 そうして食事が済み、食後の飲み物を飲んで談笑していたところ。


(……ん?)


 聞き慣れない音が耳に入ってきた。神経を研ぎ澄まして聞いてみると、金属を叩くような音だった。段々とそれが大きくはっきりと聞こえてきたころ、冒険者たちが慌ただしく走って行く姿が見えた。

 周りに居た人らも何が起こったのだろう、と不安げな様子だった。


「何か起こったんでしょうか」

「うーん? よく分からないわね」


 ノーチェも戸惑った表情を見せていたが、俺も状況を把握できなかった。一様にある方向へと向かっていくのだけは分かるのだが。

 その中で近くに居た冒険者の身形をしていた女性が片付けていたので、声を掛けてみることにした。


「すいません、何かあったんですか?」

「うん? ああ、街で何かが起こったことを知らせる鐘が鳴ったから、冒険者ギルドへ向かおうとしていたのよ」


 女性はそう言うと、失礼すると断ってきたあと足早に去って行った。

 うーむ、何かが起こったのか。しかも冒険者ギルドに関係のある話らしい。……AWにこんなのってあったか? 記憶の限りではなかったはずだが。

 ノーチェに心当たりがないか尋ねたが、やはり分からないとのこと。まあノーチェは冒険者ギルドに入って間もないし、あまり期待はしていなかった。


「私たちも行ってみようかしらね」

「そうですね……気になりますし」


 そう答えたノーチェに対して軽く頷いて、俺たちは席を立った。

 そして冒険者たちの後を追い、冒険者ギルドへと歩き始めたのだった。

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