閑話1 ノーチェの疑念
ちゅんちゅんと鳥の囀りで目を覚ます。
ベッドから身体を起こし、外の方を望むとまだ明け方の薄暗い時間帯。起きるにはちょっと早すぎたかもしれない。
朝は弱い方だけど、宿のベッドが良いのかぐっすり眠れたお陰でもう頭が冴えている。早めに眠りに就いたせいもあるかもしれない。
プリルさんは――まだ寝ているみたい。目を閉じたかわいらしい顔と、規則正しい寝息が聞こえた。
プリルさんの寝顔を横目に、わたしはベッドサイドに腰掛ける。
ふう、と溜息を吐く。
――いくらわたしでも、プリルさんが普通の魔導士でないことぐらいわかる。
魔物を殴り倒す魔導士なんて、やっぱりおかしい。でも、魔法も一流の腕の持ち主であることはわかってる。
そんなひとが、どうしてこんなところに? プリルさんは山奥から来たとか言ってたけど、それは嘘だと思う。
だけど、わざわざ嘘を吐いているのはなんでだろう?
なにか、深い事情があってそうしているのかもしれない。身元を隠して……もしかして罪人……?
……いやでも、悪いひとではなさそう。
そもそもプリルさんがあの場面で助けてくれなかったら、わたしは今この場に居ないことは確か。
美味しいものを食べさせてもらって、弟子にして欲しいと無茶を言っても聞き入れてくれた。相談にも乗ってくれて、精霊術士としてわたしの背中を押してくれた。見るからに高そうな道具までくれたし、パーティーのデビューまで取り繕ってくれた。今だって、初心者なのにこんないい宿で寝泊まりさせてもらってる。
山奥に籠もっていたのが本当だとしても、あんなにお金を持っているなんてありえないはず。
きっと何か理由があって嘘を吐いているんだろうけど、絶対に言わなさそうだし。
――もしかして、どこかの国に仕えていた位の高い魔道士さま? それならお金持ちとか世間知らずっぽいところは当てはまる。けど、どこか妙に慣れているというか……。うまく説明できないけど、違うような気がする。はじめに会ったときの口調から、荒っぽいような印象を受けたからかもしれない。
でもたとえどうであれ、プリルさんは恩人だし、わたしの師匠であることに変わりはない。
いつか、プリルさんの本当のことが聞けたら嬉しいな。
……だけどわたしはもらってばかりで、何にもお礼ができてない。身の回りのお世話はしてるけど――そうだ。
お風呂のとき着るものを投げ捨てるようなズボラなプリルさんに、かわいい服とか選んであげたらいいかもしれない。
プリルさんスタイルもいいし綺麗なのに、その辺り無頓着だし。あの衣装もいいけどせっかく女の子なんだし、もっと着飾ってもいいよね。嫌がられたら諦めるけど……。うん、それがいい。プリルさんが目を覚ましたら、ちょっと相談してみよう。
そうしてわたしは、プリルさんが目を覚ますまでに身の回りのことを済ますことにしたのだった。