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11 初パーティープレーのあとに

 そこからしばらく狩りを続け、まだ日が高いが早めに帰り支度を始める。帰り道も時間がかかるため、暗くなる前に街へ戻らなければならない。


「ラウルさんありがとう、でも退屈にさせてしまったわよね」

「そ、そんなことない、です。……はじめてのパーティー、すごく楽しかった、です」


 あのあともノーチェの補助に徹してくれたラウル。普段の狩りができなくてつまらなかったんじゃないかと思ったが、ラウル自身はパーティーとしての役割を果たしたことに満足したようだった。

 ……まあそんな俺も途中から同じことをしていたんだが。


 ノーチェに「プリルさんの動きが見えないです」と言われてから気づいたのだが、敵の動きが遅く感じられるのは俺の素早さが影響しているようだ。あの馬鹿げた補正値のおかげだろう。

 スロー再生みたいな動きに見えている限り、絶対に魔物から攻撃を受けることはない。

 あまりにぬるい状況で調子に乗り複数体の魔物を同時に相手していたら、ラウルがぽかんと口を開けこちらを見ていたのが印象的だった。


 そんな俺やラウルの協力もあり、ノーチェはそれなりにレベルが上がった……はず。魔法の扱いも少し慣れてきていたようだったし。

 ノーチェ自身も、俺たちに指示を出せるようになっていたからな。後衛としては重要なことだろう。


☆☆☆


 そして、日が傾く頃には無事に街へと戻ってきた。俺たちは早速、魔物から得た素材やアイテムなどの精算を始めた。

 俺は途中から好き勝手やっていただけなので、二人で分けるよう勧めた。のだが、均等にしないと自分も受け取らないとラウルに言われてしまい、ノーチェもそれに追従したので渋々受け取ったのだった。


「それじゃあこれで解散ね。お疲れ様」

「ありがとうございました!」

「こ、こちらこそ、ありがとう、ございました」

「ラウルさん、また機会があったら一緒に組みましょう。次はもう少し上の狩り場かしらね」

「は、はい。よろこんで」


 そうしてそこで別れようとしたのだが、ふとこれから夕飯ということで閃く。どうせなら、ラウルも誘って一緒に食べればいいんじゃないか。飯がてらラウルの話も色々訊いてみたいし。


「私たちこれから食事なのだけど、もしよかったら一緒にどうかしら」

「……ぇ、いいんですか……?」

「ええ。折角知り合ったのだし」

「そうですね、もっとラウルさんとお話したいです!」


 ラウルは少し困惑した表情で俯いていたが、少し視線を上げて両手を合わせるような素振りを見せて。


「ぇと、その……それじゃあ、お願い、します」

「決まりね。じゃあ行きましょう」


☆☆☆


「へえ、ラウルさんはそんな遠いところから来たんですね!」

「はい……色んなところを、転々としてきた、です」

「それでもずっと一人で? ……寂しくなかったんですか?」

「ずっと一人だった……ので、そう感じたことは……」

「そうなんですか……ラウルさんは強い方ですね。」

「……そんなこと、ない、です」


 適当に入った飲食店で祝勝会でもないが、初めてのパーティー活動成功と称してささやかな食事会となった。

 ラウルは大グラスの酒をぐいぐいと飲んでいた。ほんの少し顔を赤らめているが、話し方や態度などあまり変わった様子はない。本人曰く酒には強いとのことだった。

 俺も久々に飲みたいなあと思ったが、この身体で飲むとどうなるか分からないので遠慮しておいた。

 前の身体だと客と飲むことも多かったし、強い方だったんだが。……そのうち宿に持ち込んで飲んでみるのがよさそうだ。

 まあノーチェと同じジュースを飲んでいるが、普通に美味いし。前世はコーヒーばかり飲んでいたが、甘いジュースもなかなか悪くない。時折飯もつまみつつ、ふたりの話に耳を傾けていた。


「そうだプリルさん、聞きたいことがあるんですが……。パーティーは初めてって言ってましたけど、ずいぶん慣れていたような……」

「確かに、そうでした、よね……」

「……」


 そうして料理に舌鼓を打っていたところ、ノーチェからの一言で手が止まってしまう。――ヤバいな、痛いところを突っ込まれた。

 プリルでは後衛職で長い間経験してきたから、パーティープレーの概念的なものはよく分かっていた。もちろんそれはゲームの話であって、実戦の経験なんぞはなかったが。なんとなくで上手くいっていただけだしな。


「……魔導士ならこれぐらいはできないと、って祖父に叩き込まれたせいかしらね」


 表情に出さないようそう答え、何事もなかったかのように食事を再開する。

 まあよい落としどころだろう。ノーチェに会って初めて話をしたときも似たような話をしたし。世間知らずってことで話を通すしかない。


「プリルさんでこれぐらいって……。プリルさんのお爺さんは一体……」

「どういう、意味ですか……?」


 横で聞いていたラウルが不思議そうな表情で尋ねてきた。どうしたもんかと思っていたが、ノーチェが「それはですね……」と切り出して説明を始めたため、俺は黙って食事に集中することにした。


☆☆☆


「それじゃあ、今度こそ解散ね。また機会があったら一緒に組みましょう」

「は、はい。……よろしくお願いします」

「ラウルさんありがとうございました! おやすみなさい」


 ノーチェが手を振るとラウルも手を上げて、少しはにかんだような笑顔を見せてその場をあとにした。

 それを見送り俺たちも宿へ戻るべく、ゆっくりと歩き始めた。


「ラウルさん、はじめはこわい方かと思いましたけど、すごく優しい方でしたね!」

「ええ……見た目で判断したらダメね」


 実際営業でも、そういうことは数多く経験してきた。

 よくよく話を聞けば案外良い人だったりするものだし。まあ逆もよくある話だが。今回は話し掛けて正解だっただろう。


☆☆☆


 そうして宿へ戻り、未だ慣れない風呂へ入ったあと。

 髪の手入れをしてもらっているときに、ノーチェから声を掛けられた。


「プリルさん、お話があるんですが」

「何かしら」

「昼間にもお聞きしたんですけど、プリルさんは本当に魔道士なんですか?」

「……そうだけど?」

「あの、魔物を殴り飛ばす魔道士なんて見たことも聞いたこともないです……。しかも姿が目で追えないくらいの速さで動いていましたし……。」

「……」


 やばいな、ノーチェにめちゃくちゃ怪しまれてる。鏡越しに見えたノーチェはジト目でこちらを見ていた。

 表情には出さないようにしているが、内心バクバクである。……さっきと同じように切り抜けるしかないよな。


「そ、そう、山に居たときに祖父から自分の身を守ることも大切だって毎日叩き混まれたのよ。……今思い返せば厳しい特訓だったわね」

「……特訓ですか?」

「ええ。……何ならその特訓をノーチェも受けてみるかしら? 祖父の受け売りだし、上手く教えられるか分からないけどね」

「……い、いえ、遠慮しておきます」


 少し博打だったが、なんとか切り抜けられたようだ。もしやりますなどと言われたらどうしようかと思ったが。


「あの、失礼なことを尋ねてごめんなさい。プリルさんがあまりにもすごいというか、なんというか……」

「ああ……うん。こっちのことわかんなかったしそう思われても」

「こっち?」

「ううん、山奥からみたこちら側との話ね。……ふわあ、そろそろ寝ようかしらね。ノーチェも疲れたでしょう」


 口を滑らせそうになったところで、半ば強引に話を切り上げた。あまり話しているとボロが出そうな気がした。

 しかし本当のことを話そうにも話せないし、誤魔化すしかないよなあこれ。

 そもそも、本当のことを話しても信じてもらえないだろうし。


「……はい、もう眠いです」


 ノーチェもそう言い同意をした。実際ノーチェは疲れていたようで、そこからはほとんど何も話すことなく寝支度を進めたのだった。


☆☆☆


(なんだかまた会えそうな気がするなあ……)


 すでに照明を落とし、暗くなった室内。ベッドに入り枕に両手を挟み、ラウルのことを思い返す。しばらくはこの街に滞在すると言っていたし、探せばおそらく見つけられるだろう。自分からパーティーを探せばどこか拾ってくれそうだが、あれだと難しそうだ。――それよりも。


(あの娘に無言で踏まれるのも……悪くないな……)


 この身体では年上に当たるラウル。体格差もある。だがあのレベルぐらいだったら普通に打ち負かすことはできるだろうし、命令したら従ってくれるだろう。

 自分の実力もそれなりに分かったし、収穫の多い日だった。


 横のベッドからはすうすうと、ノーチェの寝息が聞こえる。ノーチェがひとりでなんとかできる状態まで持っていくのも、案外早く訪れるかもしれない。

 そんなことを考えながら、明日の計画を練り始めたのだった。

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