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10 初のパーティー狩り

「グギャアアアア!!」


 ラウルの背丈ほどある鳥型の魔物が断末魔をあげ、力を失ったかのように地面へとぐしゃりと伏す。

 しばらくぴくぴくと痙攣していたが、やがて動かなくなった。それを確認したラウルは血糊を払い、剣を背中の鞘へと納めた。


「ラウルさんすごいです! あんな大きな魔物を一人で……!」

「ぁ、ありがとう……ございます……」


 傍で見ていたノーチェがラウルに近づき、ぱあっと明るい笑顔を見せた。

 そんなノーチェの言葉に、ラウルは照れたかのように頬を緩ませながらぼそぼそと返答した。


 剣を握った瞬間、ラウルは人が変わったかのように素早い動きで魔物を葬り去っていった。しかも大きな掛け声をかけたりなどと、先ほどまでとは想像もつかない姿だった。剣を納めてからは、元の状態に戻っている。……戦闘中のときだけ、様子が変わるのだろうか?


 ラウルの様子については置いといて――ここの魔物はそれほど強力な相手ではないはずなのだが、それらを翻弄する辺りある程度のレベルに達しているのは予想できる。まあ三年も一人(ソロ)狩りをしてきたらしいし、そうだとしてもおかしくはない。


 ――しかし、でかい魔物がこうやって俺の目の前に現れたときは正直怖かった。ラウルは躊躇することなく剣で斬り付けたが、魔物とはいえ生きているものを傷付けようものなら出てくるもの(・・・・・・)があるわけで。

 攻撃すると相手の頭上にダメージ数値が現れて、倒すと勝手に消えていく、そんなゲームのシステムと現実は全く違う。

 その場にアイテムだけが残るなんてことはなく、死体も一緒に残る。辺りに漂う血の臭いには、思わず気分が悪くなった。状態異常耐性があっても、こういうのは防いでくれないらしい。

 この世界で生きていく限り、これには慣れるしかないのだろう。


 それはともかくとして、一つ問題がある。ラウルの剣捌きが良すぎるあまり、ノーチェが攻撃を下す前に魔物が絶命してしまう点だ。これではノーチェが戦闘に加わることができない。


「ラウルさん、魔物を引きつけることってできないかしら」

「ぇと……どうしたら……」


 困惑した表情を見せたラウルに対し、少しだけ考え込む。AWだとタンク役に魔物からのヘイト(敵対心)を集めてもらうのだが、ラウルの素早さに特化したタイプだとそうはいかない。というか、魔物から攻撃を受け続けさせるというのはどのみち無理だろう。


「……そうね、ちょっとだけ攻撃を当てて、そのあと魔物の攻撃を躱し続ける……という具合なのだけど」

「……やって、みます」


 ラウルの戦闘タイプなら恐らくできるはず。ヤバそうだったら加勢してもいいし。回復ポーションを使う準備もしておく。

 そうしてしばらく歩いたのちにやってきた鳥型の魔物に対し、ラウルは羽の先端を剣先で傷付けた。ギャギャと吠える魔物はバランスを崩し、倒れないようバサバサと両翼を羽ばたかせている。

 傷付けられた羽先からはポタポタと血が飛び散っていて、攻撃するのもやっとという状態。鉤爪を向けて突進してきたが、ラウルはさっと身をこなして簡単に攻撃を避けた。


 その様子を確認した俺は、ノーチェに対して魔法の詠唱を指示する。

 ノーチェは杖をぎゅっと握って、ぼそぼそと詠唱を始めた。

 精霊術士の場合、魔法を扱うときは自身の魔力を使って発動させるのではなく、精霊にお願いして使ってもらうというスタイル。そのため、詠唱の長さという面では魔導士には性能的に劣る。

 やがて杖先から光が漏れ始め、詠唱が完了したと同時に杖を魔物に向ける。


 「ウンディーネさん、力を貸して!《アイスニードル》!!」

 「っ、ラウルさん、魔物から離れて!」


 俺がそう叫ぶと、ラウルは横っ飛びで魔物への道を空けた。

 次の瞬間、ノーチェの放った無数の氷針が魔物へと一直線にのびていき身体を貫く。

 突き刺さる度に悲鳴を上げていた魔物は、やがて地面へと落下し事切れた。

 横に居たラウルも剣を納め、ほんの少し頷いて終わったことを告げ知らせた。


「お疲れ様。……ラウルさんもありがとう、完璧だったわ」


 ノーチェをねぎらい、こちらへやってきたラウルにも感謝を伝える。ラウルは少し恥ずかしそうに軽く頷いていた。

 初めてにしては上出来だったのではないだろうか? レベル的にはノーチェの上を行く魔物だったが、ラウルが動きを封じてくれたお陰で魔法は直撃。杖の魔力値向上なども加わり、恐らく威力がだいぶ増していただろう。そんな攻撃を受けた魔物は、見るも無惨な姿で地面へと伏していた。

 ――これから素材剥ぎとかしないとなあ、と思っていたところで「あの」とノーチェから声を掛けられた。


「わたし、上手く出来てましたか……?」

「ええ、ばっちりね。……相談員さんが言ってたとおり、十分に才能があると思うわ」

「よ、よかったです……」


 ノーチェはそう言うと、へなへなとその場で杖を立てて座り込んでしまった。

 その光景に驚くも「あ、安心して腰が抜けちゃいました」と恥ずかしそうに言うノーチェ。手を取って立ち上がらせようとしたところで。


「っプリルさん!! 後ろ!!」


 そんな中素材剥ぎをしていたラウルから叫び声が聞こえて、驚き振り向くと別の魔物が眼前まで迫ってきていた。

 俺の身体を目がけ、真っ直ぐ向かってくる鋭い鉤爪。なぜだか分からないが、そのスピードはやけにゆっくりと感じられた。

 だがそれが近付いてくる間、頭が真っ白になってしまった。どうしよう、と、とりあえず避けるべきか。……いや、そうしたら後ろに居るノーチェがもろに攻撃を受けてしまう。俺とは違ってレベルの低いノーチェを痛い目に遭わせるわけにはいかない。魔法を使おうにも、敵が近付きすぎている。これでは自分とノーチェが巻き込まれてしまう。

 ――こうなったら、自分のダメージは覚悟の上だ。


「てやぁっ!」


 俺は手に持っていた杖を、魔物に向けて勢い良く振り下ろす。

 その瞬間に手に重い感覚とともに、ぐにゃりと何かが潰れるかのような感覚。


 「グアアアアアアアアアアア!!」


 大きな咆哮を上げた魔物はそのまま横へと吹っ飛び、近くにあった木に激突する。木が大きく揺れ軋む音とブチュッという嫌な音と共に、肉片が木の周りに散乱した。その上には大量の落ち葉が降り注ぎ、まるでそれらを覆い隠すかのような状態になった。


「うわっ、グロっ……」


 その光景を間近で見てしまった俺は、思わずそう漏らしてしまう。

 なんだってこんなことに。杖で殴っただけなのだが。プリルは全然力なんかなかったはずだが――と思ったところで、ステータスにえぐいプラス補正がされていたことを思い出した。

 魔導士らしからぬもので、力の値も相当高くなっていたはずだった。戦闘以外ではあまりそうは感じないが、こういうことになるのか。


「あの……プリルさんって、魔導士でしたよね……? 」

「……たぶん?」

「なんで疑問形なんですか……」


 そう言って怪しげな表情を向けるノーチェ。まあ、こんな魔導士が居たらおかしいよな……。

 AWに限らずMMORPG全般で言えることだが、後衛職は非力なパターンがほとんどだ。ごく一部で力重視とか体力重視とかのキャラが居るには居るが、まれである。そうであっても、ここまで極端ではないだろう。

 そしてAWに似たこの世界でもそれは恐らく同じ。ノーチェから向けられる視線が痛い。

 そんなノーチェと目線を合わせないようにしていると、ラウルから視線を向けられていることに気付く。俺が向くと、ラウルは同時に口を開いた。


「ぷ、プリルさん……その……」


 ラウルはそう言うと、キョロキョロと視線を泳がせていた。尻尾を左右に揺らしながら。……しまったな、ラウルにまでおかしいやつって思われてしまったか……?


「ぁ、ぁの……かっこ、よかった、です……」

「……あ、うん? ありがとう……?」


 俯き加減で顔を紅潮させたラウルに対し、どう返答してよいか分からず礼を言うような形になってしまった。

 ただぶん殴っただけなのになあ……まあ変に怪しまれたような感じではないし、良いことにするか。

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