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09 パーティーは男厳禁

「……さっきの方とかよさそうでしたけど、どうして断っちゃったんですか?」

「なんとなく」

「は、はあ……」


 釈然としない顔をしたノーチェと、溜息を吐く俺。

 ここはギルド受付近くにある、パーティーメンバーを募集する場所。たくさんの机やら椅子が置かれており、そこかしこで話し声が聞こえる。

 ――これで六人目だ。話し掛けてくる奴は揃いも揃って男ばかり。もううんざりしている。


 MMORPGにおいて、パーティープレイというのは重要である。もちろん、AWもそれに漏れず。

 一人(ソロ)狩りでは火力や回復などを考えると狩り場が限られるため、前衛と後衛を揃えて行くというのが定石である。

 タンク役となる前衛職と火力のある後衛職、それに回復・支援役が居ることが望ましい。

 常に同じメンバーでパーティーを組んでいる連中も居るが、臨時でパーティーを組みレベルに応じた狩り場へ行くことが基本である。


 パーティーを組むに当たって、俺とノーチェは後衛職だから残りの前衛職と回復・支援役が居ないか探しているところだった。

 まあ実際のところ、全部俺一人でもできてしまうはずなのだが。後衛職だがステータス的にはほとんどの狩り場でごり押しが可能だし、回復ポーションは山のように在庫があるので回復役もこなせる。

 だがそれでは面白くない――というかノーチェのためにならないし、俺自身もちゃんとした狩りを経験しておきたいと思っていたのでパーティーを組むことになったのだった。

 ノーチェと俺とではレベルが離れすぎているだろうが、そこは仕方ない。


 それはともかくとして、パーティーに誘ってくる連中を断り続けている理由は男だからである。折角ならば可愛い女と組みたいところだ。そしてあわよくば、踏んでもらえそうな女に唾を付けるのだ。

 ――さておき俺とノーチェの外見偏差値は、かなり高い。恐らくだが、そのせいで男から目を付けられているのだと思う。周りにも、チラチラとこちらを見て様子を伺っている連中も居る。

 俺は営業で培った会話スキルで適当にあしらうことができるが、ノーチェはほっとくと変な奴に絡まれそうだし目が離せない。


「……あ、プリルさん。あそこに剣士の方がいますよ」

「……本当ね」


 プリルが指を指した方向に顔を向けると、長身の女が椅子に腰掛けていた。

 ――のだが、何か近寄りがたい雰囲気がある。おそらく表情のせいだろう。見事に仏頂面である。まるで機嫌が悪いようかのような印象、そして威圧感まで覚えるぐらい。そのせいか、周りには人が全く居ない。燃えるような赤いセミロングの髪とは、まるで対照的だ。

 犬人族なのだろうか、頭の上に白い耳があるほか白い尻尾も椅子の下へ垂れているのが見えた。

 少々不安に思うところがあるも、前衛職かつ女という希望の条件にはマッチしている。

 俺はそのままその机に近付いて、女剣士に声を掛ける。


「剣士さんは、パーティー募集かしら?」

「……」

「ひっ……」


 途端に女からギッと鋭い目付きで睨まれ、ノーチェは驚いて俺の後ろへ回り込んでしまった。

 俺は前世でもこういった相手にも営業で話し掛けたことがあるので、とくに驚くことはない。しばらく待っていると、目線を外した女が口を僅かに動かしていた。


「パー、ティー……募集、です」


 見た目とは裏腹に、ぼそぼそと蚊の鳴くような声で女はそう喋った。……しかも思いの外かわいい声だった。

 ――ふむ、とりあえず話を続けてみるか。


「私たち、前衛の方を探していたの。剣士さんがよかったら一緒にどうかしら」

「…………ぇ、私でも……いいんですか……?」


 少し驚いたかのようにピクッと犬耳が逆立ち、目元が緩んだ表情をこちらに向けてきた。

 仏頂面が解けると思いの外可愛い表情をするものだ。俺は頬を緩ませて女に向かって口を開いた。


「もちろん。ノーチェも、いいわよね?」

「あ、はい。お願いしたいです!」


 俺の後ろから様子を伺っていたノーチェだったが、俺の意図を察したのか、すぐに応じてくれた。

 その言葉を聞いた女はおずおずと立ち上がって、ゆっくり頭を下げた。


「よ、よろしく、お願いします……」

「よろしく。私はプリル。この子はノーチェ。貴方の名前は?」

「ゎ、私は……ラウル……です」

「ラウルさんですね! よろしくお願いします!」


 ☆☆☆


 そのあと暫く回復・支援役を探し回ったものの、なかなか見付からず。正確には居たのだが、例によって男であった。

 相談した結果、今回はお試し(・・・)ということでこの三人で比較的近場にある狩り場へ行くことになったのだった。


 そして狩り場までの道中を連れ立って歩いているところ。一歩先で先導してくれているラウルの方をちらっと見る。

 ラウルという女は、俺やノーチェよりもずっと背が高い。年齢も恐らくは俺たちよりは上だろう。レベルなどはよく分からないが、初心者というわけではなさそうな出で立ちをしている。ゴツゴツとした重鎧(じゅうがい)ではなく、軽鎧(けいがい)とよばれるタイプの防具を身に付けている。

 動きやすさを重視しているのか、鎧パーツは肩や胸などのみで必要最低限。あと腰辺りか。下半身はミニスカートでオーバーニーソックス。素早さに特化した、AWでもよく見た装備群である。

 これらの装備を見ても、少なくとも初心者のそれではない。狩り場の相談をしても、すぐに場所を答えられるしある程度は経験がありそうだった。

 コミュニケーションを取りがたいような感じがしていたが、話してみるとたどたどしいながらもきちんと受け答えができていた。恐らくはこういった性格なのだろう。外見はいいのに損をしているタイプだ、勿体ない。


 俺とノーチェは初めてパーティーを組んだがそれでもいいか、ラウルに確認を取ったのだがなんとラウルも初めてパーティーを組むらしく。全然構わないとのことだった。

 むしろ初めての相手が自分で本当によかったのか、とまで言われたぐらい。

 ――まあ、あの雰囲気だとパーティーを募集してても近寄りがたいよな。


「ラウルさんは、冒険者になってどれぐらい経つんですか?」

「……ぇと、三年ぐらい……です」

「三年間も一人で? すごいですね……」


 ノーチェとラウルの話を横目に、やはりかという思い。

 思っていた通り初心者ではなく、けっこう経験を積んできたようだ。三年という期間だと、どれぐらいのレベルになるんだろうか?


 ラウルのことはさておき、当面の目標としては、ノーチェが妖精などを使役できるスキルを身に付けることだろう。精霊術士はこのスキルが肝であり、そこまでの育成はそれなりに苦労するのである。攻撃手段として魔法を扱うことはできるが、魔法が本職の魔導士と比べると火力は劣ってしまう。


 この世界のステータスやらレベルやらの概念が気になり、ノーチェにそれとなく尋ねてみたのだが「すてーたす? れべる? ……なんですかそれ?」といった具合で全く話が通じなかった。

 ノーチェだけが知らないというわけでもなさそうだったので、あの妖精から教えてもらったステータス値は恐らく俺にしか分からないものだったのだろう。


 スキルやらもどうやって身に付けていくのか分からなかったが、教本みたいなものを読んだり講習を受けたりすることで経験を積む形のようだ。例によってノーチェからどうやってここまで来たのかと言われたが、そこは上手く返しておいた。


 街から歩くこと二時間、そんな話などをしているうちに目的の狩り場へと辿り着いた。

 山岳地帯の麓に位置する荒野である。ここは山頂へ近付くほど強力な魔物が現れるが、今回は初めてパーティーを組むこと、回復役がいないことなどを勘案し下の荒野で狩りをする。

 それでもAWで要求されていた適正レベルを考えると、ノーチェが来るには早い狩り場だ。

 本来ならばノーチェのレベルに応じた狩り場へ行くべきだが、ラウルが居る手前退屈させてしまうのもなんだかなと思ったのだ。本来の目的から少し外れるが、そこは仕方ない。


 ノーチェには前に出すぎないよう、そして指示があるまで攻撃しないように伝えてある。攻撃手段については道中で魔法を使って手本を見せ、実際に精霊術士の基本魔法を使わせてトレーニング済みである。相談員のお墨付きの通り、初めてながらうまく魔法を使いこなしていた。ノーチェ自身も驚くほどに。

 そして俺の手本が高火力な魔法になってしまったので、ラウルに驚かれてしまうことになったのだが。


 魔物を倒すと得られるはずの『経験値』の概念などもよくわからないが、ここは前線をラウルに任せてノーチェには横から適当に魔法を打ち込んでもらう形がいいだろう。

 AWと同じシステムならば、攻撃を少しでも与えればノーチェにも経験値が割り振られるはずだ。


「……あっ、ま、魔物です……!」


 ノーチェが指を指した空の方面から、鳥型の魔物がこちらへ滑空してくるのが見えた。さて、いよいよ狩りの時間だ。

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