シミュレーター
シミュレーター
柱の陰に身を寄せている春香の耳に、二人の会話がねばりついていた。
ウィルタのお父さんのハン博士を見つけ出し、武器購入の取引材料にしようとしている。そして明日にも、わたしたちをユルツ国に引き渡すと……。
どうすればと、考える必要もなかった。ここを逃げだし、ウィルタのお父さんを見つけて、探索の手が伸びていることを知らせなければ。
春香は急いで階段を駆け下りた。
大広間は相変わらずの熱気と混雑ぶりで、ちょうど中央の展示ブースに大きな人だかりができていた。しかしそんなことは、今の春香にとってはどうでもいいことだ。足早に人だかりの後ろを通り過ぎる。その時、誰かが春香の腕を掴んだ。階段を上がる前に話を交わした、年配の給仕だ。脇にいる初老の紳士に給仕が何やら目配せ。あっと思った時には、その紳士が給仕と入れ替わるように春香の腕を掴んでいた。
「さっき、機械の操作のことを給仕に説明したのは、お嬢さんということじゃが」
紳士の手が、がらんとした隣のブースの情報端末の器械を指している。
春香は余計なことを言ってしまったなと、ほぞを噛んだ。
「あの、それわたしじゃないんです。器械にてこずっているオジサンを見て小声で話している人がいたの、それをそのまま給仕さんに伝えたんです」
とっさに、そう言い繕う。とにかく、いま自分は急いでいる。
ところが初老の紳士は辺りを見まわし「その人の顔を覚えているかね、ぜひ話がしたい」と、しつこく迫ってきた。紳士の手が、がっしりと春香の腕を掴んで離そうとしない。
春香がどうやって紳士を説得しようかと口ごもっているところに、隣の人だかりからマイクを通した司会者の声が聞こえてきた。
「さあさあ、誰かこの疑似運転体験機に試乗してみたい方はいらっしゃいませんか」
ブースの中の機械が、人だかりの背中越しに見えていた。機械の上の看板には、自走車の運転シミュレーターと書かれてある。つい今しがた係の者が実演を含めた解説を終えて、次は誰か会場の人に試乗してもらおうと、参加を募っているところだった。
擬似運転体験機とは、運転席に座ってハンドルやアクセルを操作すると、それに合わせて運転席の前面を包み込むように設置された曲面パネルの映像が変化する、精巧な練習用のシミュレーターである。画面だけでなく運転席も連動して動くため、振動や揺れ、衝撃、音までが、実物そのままに再現できるようになっている。
誰も名乗りを上げないため、司会者が促すように安全性の説明を始めた。運転席が実際に動くといっても、あくまでも仮想の運転で、車を壁にぶつけたとしても、運転者には一定の枠内の衝撃しか加わらないと、大げさに動作を交えながら呼び掛ける。
そんなことは言われなくても分かる。再現するといっても、座席を傾けたり揺らしているだけなのだから。固定してあるシミュレーターを実際に横転させることができるはずがない。
誰も名乗りを上げないのに業を煮やしたのか、司会者が滅多にない機会ですよと、声を張り上げた。つられて酒の入った中年の男が手を挙げた。
自分が指名されるのではと、視線を下に落としていた客たちが一斉に顔を上げ、それと同時に客の輪がグッとすぼまる。
と事もあろうに、初老の紳士が春香の腕を掴んだまま、人をかき分け前に進みだした。
「ちょっと、やめてよおじさん、手が痛い」
春香の手を引っ張りながら、初老の紳士が学校の先生のように説教する。
「君は若いんだろう、これからは自走車の時代だ。こんな機会はめったにないんだから、しっかり見なくちゃならん」
年寄りのくせに馬鹿に力が強い。
「わたしは二千歳で、全然、若くなんかない」と口の中で、もごもご言い返しながらも、春香は結局一番前に引っ張り出されてしまった。
春香にとっては見慣れた装置、運転シミュレーターがそこにあった。
ちょうど酒に酔った男性が乗り込み、シートベルトを締めたところで、係の人がエンジンのキーを回し、ドゥルンと音がしてエンジンが始動した。
久しぶりに見る運転シミュレーターだが、やはり良くできていると思う。電気で動かしているのであって、本物のエンジンを搭載しているのではない。それでもエンジンが掛かると同時に、運転席が細かく振動を始め、前面の湾曲したパネルに、道の風景が浮かびあがる。係員の指示に従い、酔ったおじさんがアクセルを踏み込むと、ユルユルと車が動きだした。
後ろで見ている観客から見れば、切り取られた動く映像なのだが、運転席の人間にとっては、百八十度以上、おそらく二百度以上の角度で曲面パネルに視界が塞がれているので、振り向かない限り、その場にいるとしか思えない。
ところが酔った男性は何を考えていたのか、次の操作はどうするのだと言いながら、後ろを振り向き、ハンドルを右に回してしまった。車が道路沿いの壁にぶつかり、にぶい音をたてて停止、その際の衝撃で大きく首を横に振られた男性は、そのままハンドルの上に突っ伏してしまった。そう、意外と車が衝突したときの衝撃は大きい。これがもし現実の場面なら、十分鞭打ち症になってしまったことだろう。
痛みなのか酔いで気持ちが悪いのか、呻き声を上げる男性が、運転席から抱きかかえられるようにして降ろされた。司会者がマイクで謝礼を述べ、パラパラと拍手をしている観衆に向かって、丁重に付け加えた。
「話し忘れましたが、自走車の運転の一番の基本は、安全運転だそうです。酒を飲んでの運転は厳禁というのが、古代の規則だったそうです」
軽い笑いが人の輪から起こった。その笑いが終わらないうちに、司会者が「さあ、誰かやってみませんか、次はぜひ、お酒を飲んでいない方」と、呼びかけた。
今度はさっと手が挙がり、こざっぱりとしたなりの中年の男性が、観客を割って出てきた。事前に打ち合せでもしていたのだろう、司会者がわざとらしく「おや、都の機械車両部の管理課長、バヤットさんですな」と、その男性を観客に紹介。どうやら誰も試乗者が出ない時には、その課長が名乗り出ることになっていたらしい。自走車に関わっている者として、次も酔っ払いのような人物が試乗したのでは、イベント自体が盛り下がると考えたのだろう。
いかにも技術畑で仕事をしていそうな実直な顔つきの男性は、取り囲んでいる人たちに一礼すると、慣れた動作で運転席に乗りこんだ。
準備ができるまでの間を繋ぐように、司会の男が擬似運転体験機の説明を続ける。
この装置は、運転者の技能に合わせて、車のスピードやコースの難易度が選べる仕組になっている。人も車もいない道を走る第一段階から始まり、上級者向けの第六段階まである。もっとも更に難易度の高いコースも設定されているらしいが、それがどのようなコースなのかは、まだ分かっていない。その段階まで行った人がいないからだ。
バヤット課長が右手を軽く挙げて準備ができたことを合図。運転席のフレームに片肘をついて話をしていた司会者が、姿勢を正すや「さあ、プロの運転手のバヤットさん、今日は何段階までクリアできるでしょう」と、観客の期待を煽るように声を張り上げた。
バヤット課長が、自然な手つきで発車を示す指示器を点滅させ、第一段階がスタート。
風景が滑るように動きだす。じっとパネルの風景だけに目を合わせていれば、後ろで見ている観客も、まるで自分が車に乗っているような気分に浸れる。スピードは早駆けの馬車ほど、郊外の平坦な道を走り終えたところでゴールとなった。
すぐに次の第二段階へ。今度は町なかの道である。対向車も走っているし、歩行者や自転車も道路を行き来している。ただスピードはそれほどでもない。車よりも、車の進行に合わせて次々と変化していく古代の町の風景が目新しいのか、装置を取り巻く人たちが、珍しそうにバヤット課長の背中越しに画面に見入る。
この段階もバヤット課長は難なくクリア。軽い拍手が起こった。さすがに実際の復元車を運転しているだけあって、そつがない。四段階までを無事トラブルもなく終了。
ところが五段階に入って、急に車のスピードが上がった。というよりも、とにかく速く走らなければならない。設定が高速道に変わったのだ。周りの風景が飛ぶように後ろに流れていく。それに、ほかの車線を走っている車が、入れ替わり立ち替わり、前に後ろにと割り込んでくる。
後ろで見ている人たちが緊張して息を呑んでいるのが、その静けさで分かる。
この時代の牧歌的な道しか走ったことのないバヤット課長にとって、百キロを超えるスピードでの運転は驚異だったようで、必死にハンドルを操作していたが、最後カーブでお尻を振って車を高速道の壁面に接触させてしまった。
ゼエゼエと荒い息を吐きながら、バヤット課長が車を下りる。
緊張の糸の切れた観客が大きく息を吸い込み、一呼吸置いて、拍手が沸き上がった。
司会者がお疲れ様とばかりに、汗を拭うバヤット課長と握手を交わすと、その場にいる人たちに向かって「最後にもう一方ぐらい」と声をかけた。
ところが高速道のチェイスを見た後なので、誰も名乗り出ない。車のスピードに当てられたように、皆シーンとしてしまった。
その腰の引けてしまった観客に、司会者が場の雰囲気を変えるように「皆さん、馬力という言葉をご存じですか」と、エンジンの出力の話を始めた。
自走車のエンジンの出力は馬の力に換算される。シミュレーターに出てくる第一段階の車は、普通に家庭で生活の足に使われる車として、九十馬力、九十頭の馬が牽く力に設定されている。ところが、その重さ八百キロ、九十馬力の自走車を運転するのに必要なのは、ハンドルを回す腕の力だけ。つまりこれは、非力な女性や子供でも、九十頭の馬を一人で扱うことができるということを意味している。
司会者が女性陣に向かって力説する。
「これは凄いことなんですよ、九十頭だての馬車をこの中で扱える人がいますか、男性だって無理でしょう。それを自走車なら、女子供でも簡単に扱える。自走車なら一人で一千頭の馬だって手玉に取れるのです」
誇らしげに機械を見やりながら呼びかける。
「どうですか、女性で勇気のある方、ぜひチャレンジしていただきたい」
女性陣が一斉に司会者の目を避けるように下を向いた。
やれやれといった表情で、司会者がマイクのひもを指に絡ませる。とその手がピタッと止まる。春香がしまったと思った時には、最前列にいた春香を見つけた司会者の嬉しそうな声が、ブースの中に響いた。
「お嬢さん、どうですか。二本の腕さえあれば誰にでも自走車が扱える。そのことを理解してもらうには、お嬢さんのような娘さんにやってもらうのが一番だ。ぜひチャレンジして下さい」
自分が指名されたらとビクビクしていた女性陣から、この時とばかりに一斉に拍手が起きる。男たちも合わせて拍手、まるでコンサートのアンコールだ。
おまけに腕を掴んでいた紳士が手を離し、「何でもチャレンジ、やってきなさい」と、春香の背中を押す。思ったよりも強い力に押されて、春香は司会者の前に出てしまった。
なんてことをと老人に恨み言を言う間もなく、司会者が観客を煽る。
「さあ、皆さん、この勇気ある娘さんに盛大な拍手を」
その一声で、ブースが一気に拍手で盛り上がった。
「ガンバレーッ!」という声援まで飛ぶ。
助手の人がほとんど強引に春香を運転席に誘導しながら、「何も恐いことなんてない、おじさんの言うとおりに操作していれば、大丈夫だから」と、耳元でささやく。
拍手はまだ続いている。励ましの拍手なんかではない、嫌でも少女を機械に座らせよう、逃げ出せないようにしようという意地の悪い拍手だ。結局、春香は死刑囚のように運転席に座らされ、強引にシートベルトを締められてしまった。
助手の人がいちいち足に手を添え、右のペダルを押すと走りだすだの、左のペダルを押すと停止するだのと説明する。春香はフンフンと頷きながら、その実、何も聞いていなかった。正直腹が立っていた。こう見えても、自分は一家に数台は車のある世界で育ったのだ。わざわざアクセルやブレーキの説明などされなくても、そんなことは百も承知。
胸がムカムカして、この後どうしてやろうかと思っていると、耳元で「それじゃエンジンを掛けるからね」という声がした。
「ドゥルン」と懐かしいエンジンのかかる音と、細かい振動が座面を通じて伝わってくる。「それではスタート」と司会者が、これまたご丁寧に合図を送ってきた。
「右のアクセルをゆっくりと踏み込んで……」と、耳元で助手の声。
その説明を春香は聞いていなかった。腹が立っていた。自分がむりやり引っ張り出されたことにだ。そして、二千年経っても、相変わらず権謀術数を繰り返している人間にも。
半分自棄になった春香は「ナメルなよ、こんな野原の一本道、目を瞑ってたって走れるんだから」と小さく吐き捨てると、気合を入れてアクセルを踏みこんだ。
懐かしい感覚が足を通じて伝わってくる。親の目を盗んで自動車を走らせたのは、小学五年生の夏だったろうか。ラの音が聞こえなくなって、落ち込んでいた気持ちを紛らわすように車を動かした。身長の低い自分には、道よりも、フロントガラスの向こうに、屋根の庇の裏ばかりが見えていたのを思い出す。あの時は、すぐに塀にぶつけてしまった。
ろくに前を見ていなかったが、気がつくと第一段階は終了、後ろの観客たちの拍手が聞こえてきた。
もうこれでいいだろう、やれやれとそう思って後ろを向くと、好奇の目を向けた大人たちが目に入った。嫌らしい目だ。女の子が急に変なことをやらされて不安がる様子を楽しもうという、意地汚い根性が表情に溢れている。みんな少女が怖がって運転をし損ない、塀にでもぶつけてしまうのを期待していたのだ。それが無事に運転を終えてしまった。拍手はしているが、それは人の失敗を見る楽しみが裏切られた落胆を隠す拍手だ。
司会者を見ると、こちらもマイクを手にしたまま、おざなりの拍手をしている。
別にシミュレーターの操作性を宣伝したいのではない。展示場の余興でいかに客を楽しませるか、そのためには少女が一発派手に事故でも起こしてくれると面白い。そう期待していたのに、事が筋書きどおり進まなかった、その期待外れの気持ちを誤魔化すために拍手をしているのが、見え見えだった。
春香は本当にむかっ腹が立ってきた。
立ち上がりかけてそのまま司会者に、「もう少しやってみていいですか。なんだか面白そうなので」と、手を振った。
笑顔に戻った司会者が、もちろんとばかりにマイクを握って、「みなさん、このお嬢さんが、次の段階にもチャレンジしてみると言っています。更なる激励の拍手を!」と、観客に呼びかける。その言葉が終わらないうちに、春香はアクセルを踏み込んでいた。
車は一気に加速。
何が恐がらずにチャレンジしてみて下さいだ。こちとらは、車時代、それも自動運転の車が街中を走りまわっていた時代に生きてた人間なんだ、バカにするなよ。
次のステージが始まる。さっきの課長さんのやっていたのと同じ、町なかのシーンだ。こんなものは、ゴーカートで遊んでいるようなもの。直ぐにクリアして、助手が何か言いかけたのを無視して、第三段階へ。司会者が唖然をしているのが気配で分かる。この段階は細かい路地を抜けたり、摩天楼の下の太い幹線道路を走ったり、車の洪水の中の車線変更があったりする。それも難なくクリア。
後ろの連中がざわめき始めた。なぜ年端もいかない娘に車の運転ができるのか、不思議がっている。それはそうだ、わたしはこの機械、正確にはこれと良く似た装置を、何度も扱ったことがあるからだ。なぜならこの装置は……、
第四段階もクリアして第五段階に。さっきの高速道、ごく普通の高速道路だ。速度なんか慣れてしまえばどうということはない。町なかの雑踏でカーチェイスをやる訳じゃない。交通法規のなかで、ぶっとばすだけ。それよりも問題は次のステージだ。
もう後ろの連中も何も言わない、言葉を失っているのだろう、ざまあみろだ。これが古代人の実力なのだ。第五段階も無事インターチェンジを下りて終わる。
勝負はこれから。風景が次のステージに変わると、何の変哲も無さそうな広い道、草原の中に真っすぐな一本道が伸びている。ちょっとすると第一段階に戻ったようにも見える。
が……、
わたしは一度深呼吸をすると、小さく「ハゥ」と気合いを入れ、思い切りアクセルを踏み込んだ。タイヤが猛烈な音をたてて回転、まるでバイクがウイリーするように車が走り出す。そう、このステージはサーキット場だ。
車は一気に加速、時速百八十キロ、それでも風景が単調だし、まだほかの車がいないから、どうということはない。ここで難しいのはブレーキの扱いだ。早すぎて後輪がロック状態になりやすい。そのために、前輪と後輪のブレーキバランスを調整しながら走るのだが、時速二百キロの猛スピードでそれを素早くやるのは、なかなか難しい。
その二百キロを超える。激しい振動に体が揺さぶられる。でも……、ここまで来たなら、しがみついてでも次のステージがどうなっているかを、後ろの連中に見せてやりたい。
二千年前の「ゲーム機」というものが、どうなっているかを。
そう、これはゲーセンに置いてあるアーケード型のゲーム機、だから子供のわたしでも何度も扱ったことがある。ゲーム機だからこそ、前面にスクリーンが付いている。後ろで見ている人たちを楽しませ、ゲームへの参加を促すためだ。本式のシミュレーションマシンには、スクリーンなどない。ヘッドセットで十分だ。
それはそれ、この第六ステージは、まだこのゲーム機の肩慣らしのようなもの。
時速二百キロのカーチェイスを何とかクリア、最後の直線にかかる。
遠くにチェッカーフラッグが見えてきた。そうあの旗を過ぎれば次のステージだ。いやこの直線コースから、もう次のステージは始まっている。
景色が暗転、上空が星空に変わる。
夕闇の下、チェッカーフラッグが振られ、車のスピードが自動的に上がっていく。
線を引いたような直線のコース。すでに計器の表示は自動走行だ。そうするうちにも次々と盤面の計器がひっくり返り、操作レバーが操縦席を取り囲むように出てくる。
さらに車がスピードを上げる。
時速三百キロ、新幹線並みだ。時速四百キロ……、時速五百……、
前方の道が崖となって途絶え、その向こうに何もない満天の星空が見えてきた。指を伸ばして、コクピットに代わったパネルのスイッチを入れる。表示が青に変わる。間髪を入れず、わたしは新しい段階に入った車のアクセルを踏み込んだ。ガソリンエンジンのシリンダーの振動ではない、ロケットエンジンの猛烈な加速が体を襲う。その瞬間、車、いや未来のパーソナル宇宙船は、星空のなか宇宙空間に突入した。
そう、これからが、このゲーム機の本番。
春香は奥歯を噛みしめつつ吐く。見ておけよ、このど迫力のシーンを。二千年前は、ガキのオモチャでも、この程度のものは日常茶飯だったんだから。
小型の宇宙船は、空間を切り裂くように突き進む。曲面パネルに再現されるリアルな三次元映像の中を、ジェットコースターのようにめまぐるしく軌道を変えながら突き進む。もうどちらが天か地か分からない。と前方から物凄い勢いで岩の塊が迫ってきた。小惑星帯に突入したのだ。あっ、と思った瞬間には、巨大な隕石が目の前を掠め、その刹那、右から左へと別の隕石が飛び去っていく。
それを素早くかわし、反転した瞬間、目の前の視界を巨大な岩の塊が塞いだ。
悲鳴が上がった。
あまりの映像に、後ろで見ていた婦人が失神したのだ。
春香は、ハッとなって、ゲームの停止ボタンを押した。
そして恐る恐る後ろを振り向く。係の者を含めて、皆が瞬きを止めて、何か怖いものでも見るように春香を見つめていた。
司会者がマイクを持って何か言おうとしているが、口から言葉が出てこない。
春香は素早く安全ベルトを外して運転席から降りると、ピョコンと体を折り曲げた。
「ごめんなさい」と、小さな声で謝る。
司会者のマイクに手を伸ばし、もう一度「ごめんなさい」
こんな時、どういう表情をすればいいのだろう。まったくもって難しい。自信満々なのも変だし、さらっと笑ってこの場を立ち去ればいいのだろうが、突然信じられないものを見せられて、皆この娘はいったい何者なのだという猜疑の目を向けている。まるで宇宙人を見るような目つきだ。生まれたばかりの赤ん坊がスラスラと言葉を喋りだしたら、親は嬉しいよりも、憑きものが付いているのではと気味悪がるだろう、そんな感じだ。
わたしは嘘がばれた時の照れ笑いを口元に浮かべると、言い訳をするようにマイクに向かって喋った。
「わたし、以前ユルツ国で暮らしていました。父が技術復興院に勤めてたので、これとそっくりの機械をやらせてもらったことがあるの。運転する前に言わなくてごめんなさい」
とっさの嘘としては、これが限界。
わたしは声を細めて「久しぶりにやったら、緊張して気持ち悪くなっちゃった。わたしお手洗いに行ってきます」と、そう言ってマイクを司会者に押しつけるように返すと、ブースの外に出た。観客の輪が自分を避けるように道を空けてくれる。
春香は人だかりを抜けると、会場の出口に向かった。走り出したくなる気持ちを抑えながら小走りに足を動かす。自分の背に無数の視線が突き刺さっているのが分かる。
「自走車の天才少女に拍手を」という場を繕うような司会者の呼びかけに、小さな拍手がパラパラと鳴った。
展示会場の大広間から通路に出ると、春香は走り出した。
最初の第一段階で止めておけば何の問題もなかった。きっと見ている人たちの度胆を抜いてやれという誘惑が、心の中にあったのだ。その誘惑に乗ってしまった自分が悔しかったし、情けなかった。あれだけのことをやったのだ。どうせすぐに別館に収容されている古代人の仕業だとばれるだろう。そしてどこから抜け出したのかが調べられる。せっかくの逃げ出すチャンスを棒に振ってしまうかもしれない。まったくもって自分の性格が恨めしい。どうしていつもいつも、しっかり結果を考えてから行動できないのだろう。
荷の搬入用の通路の途中に、ガラス室に入る小さな戸口が見えてきた。扉を開けてガラス室の中へ。木々の間の煉瓦道を抜け、窓の割れ目からホールへ。
ホールは何事もなかったかのように静まり返っている。
そして部屋に。
明かりがついて、ウィルタとオバルさんが、苔茶を飲みながら話をしていた。
二人はドレス姿の春香を見て、他の客が部屋に入って来たと思ったようだ。春香と分かって「どうしたの、春香ちゃんその格好」と、目を丸くした。
「格好なんかどうでもいいの、それより」
春香は急いで、展望台で大臣と薬売りが話していたことを伝えた。
自分たちがユルツ国に引き渡されるということよりも、オバルは、ハン博士の件が薬売りに知れていたことがショックだったようだ。「あの時だ、あの裏街道の崩れかけた家に泊まった時だ」と言って、呻くように両手で顔を覆った。
ウィルタもその時のことを思い出したのだろう、
「そうだ、石に座って二人で話をしていた時、確かにオバルさんは、ぼくの父さんがティムシュタット国にいるって、口にした」
「くそう俺のミスだ、まさかあれを聞かれていたとは……」
喉の詰まったような声で頷き合っている二人に、「障子に目あり壁に耳ありってことよね」と、春香が物知りげに知識を披露する。
「何だいそれ?」
「昔の諺よ。それより、とにかく早く。逃げ道は見つけてあるから」
「そうだ、とにかくこうしちゃいられない、脱出してハン博士の所に行くだけ行ってみよう、よし、三分だ」
立ち上がったオバルに、ウィルタがきょとんとした顔で、「何が三分なの」と聞く。
「分かるだろ、脱出の準備をして、部屋の前に出てくるまでの時間だ」
持っていた荷物は全てどこかに持ち去られている。もちろん、あのお金もだ。あるのは着ていた服と、靴と、ポケットに入れていたものくらい。
三人はバタバタと服を着替え、外套を羽織ると廊下に出た。右手、廊下の先には、例の見張りがいるのか人の気配がする。春香は足音を忍ばせるようにして、二人を階下のホールに誘った。さらにホールからガラスの割れ目を通って木立の中へ。春香がさっきまで着ていたドレスを小脇に抱えているのを見て、「そんなもの置いてくればよかったのに」と、ウィルタが怪訝そうな顔をする。
足を止めた春香が心外とばかりに、「女の子にとって、服の貸し借りはとても大切なことなの、ちょっとだけ待って」と言い置くと、月明かりの零れる煉瓦道を禽鳴舎に向かって走った。そしてピーノの上にドレスを置くと、ホールの方を振り返った。
「逃げたぞーっ!」と、呼び交わす声が聞こえる。
三人は急いで潜り戸を抜けると、荷の搬送用の通路へと出た。通路を本館方向とは逆方向へ。薄暗い殺風景な通路を走りながら、ウィルタが目を丸くして春香を見た。
「凄いな春香ちゃん、ぼくたちが眠っている間に、よくこんな抜け道を探したね」
「こちら側の通路はまだ通っていないから、うまく出口があってくれればいいんだけど」
春香の心配をよそに、通路は資材置場のようなだだっ広い部屋で行き止まりになった。
壁面中央に、馬車ごと荷物の搬入する、大きな跳ね上げ戸が二つ並んでいる。その右、通用門だろう小扉が、掛金を外すと開いた。
流れ込む冷気に抗うように首を突き出し、外の様子をうかがう。
思いのほか暗い。迎賓館の部屋から見えていた庭を照らす華やかな照明など、どこにもない。代わりに目の前すぐのところに、居丈高な煉瓦塀が進路を塞ぐように立っていた。迎賓館の裏手にあたるようだ。門はあるが、脇の守衛小屋に人影がある。
通路後方から、足音が近づいてきた。
扉から出ると、三人は雪の上に足跡を残さないよう、建物の廂の下を走った。
煉瓦塀を乗り越えるのに使える梯子か踏み台のようなものでもと、辺りを見透かしながら急ぐ三人の前方で、突然赤い警告灯が、サイレンの音とともに点滅を始めた。と同時に、凍った雪を踏みしだくガッガッという足音が、塀に反響しながら前方から近づいてくる。慌てて来た方向に戻ろうと振り向くと、後方の守衛室の辺りでも人の言い合う声。
「うわあ、どっちへいけばいいんだ」
立ち止まって振り子のように首を左右に振る三人に、「こちらへ」という声が背後からかかった。ウィルタが背にしていた壁の扉が開いて、白い手が手招きをしている。
「早く、人が来ます」
オバルが「行こう」と、二人の背を押した。
飛び込むように三人は中に身を滑りこませた。三人を呼び込んだ男が扉を閉め、鍵を掛けた直後、扉の外を足音が通り過ぎていった。
薄暗い中、給仕姿の青年が、じっと三人を見ていた。
いや、三人ではなく春香を見ている。
「古代人ですか?」
抑揚のない抑えた声で青年が話しかけてきた。
自分のことを聞かれたと思った春香が、「わたし……?」と、自分を指して頷く。
給仕姿の青年にとっては大切なことだったのだろう、それを確認すると、青年はホッとしたように肩の力を抜いた。そして「こちらへ来てください、安全なところに案内します」と言って、暗がりの中を先に立って歩きだした。
非常灯の明かりで青年の横顔が見えた。薄土肌、それに鼻先が赤い。
「あなたは夕食の時の……」春香が声を上げた。
「自分はジョノと言います。話はあとで、今はとにかく後ろを付いてきてください」
そのジョノと名乗った青年が、体を前がかりにしたまま足を止めた。通路の先で人の話し声がしている。「建物の中を通り抜けるのは無理か」と呟くと、ジョノは一旦後ろに引き返し、通路を左に曲がった。下に降りる階段がある。
階段を下りると、そこはボイラー室で、ゴーッと低く唸るような音が狭い空間に満ちていた。自動制御になっているのか、ボイラー室に人の姿はない。
ジョノはロッカーからカッパとゴム長靴を取り出すと、「汚れますから」と三人に着用を勧めた。カッパを羽織った三人をパイプが縦横に走るボイラー室の一角に案内、ジョノが「ここに入ります」と、濡れた床を靴のかかとで叩いた。
排水孔の鉄格子が濡れてテカテカと光っている。その鉄の格子を外すと、人一人が入れる方形の穴が口を開けた。側面に鉄のハシゴが付いている。
暗い穴の中を覗きこむ子供たちの後ろで、ジョノが白灯をオバルに渡す。
「下の排水坑で待っていてください。ぼくは、外の様子を確認してきます」
無言で頷くと三人は鉄梯子に足をかけた。汚水を流す排水管なのだろう、嬉しくない臭いが、湿った空気と共に穴の中にこもっている。
ジョノと名乗った青年が何者で、なぜ自分たちを助けようとするのか、それは分からない。が今は彼の言うとおりにするしかなさそうだった。
とにかく下に降りて五分ほどすると、ジョノが上の鉄格子を閉めて降りてきた。
荒い息を整えながらジョノが状況を説明する。
「今はこの排水坑を通るのが、一番確実に迎賓館の外に抜け出す方法です。臭いますが、我慢して付いてきて下さい」
言ってジョノが、ポケットからマスクを取り出す。渡されたマスクで口を覆う前に、オバルがジョノに問いかけた。
「君は、なぜぼくたちを助けてくれるのだ」
それは三人が三人、思っている疑問だった。今これを聞くことが良いことだとは思えない。しかしオバルは、この青年がバドゥーナ国と敵対するゴーダム国の手の者ではないかと疑っていた。聞かれて素直に話すはずもないだろうが、それでも年若い青年なら、話す素ぶりからそれを読み取れるのではないかと考えたのだ。
ところがジョノは、そんなオバルの疑問など関係なく、
「無事脱出できればその時にお話しします。とにかく今は急ぎましょう。ボイラー室の排水が行われたら大変ですから」
急いた調子で言うと、ジョノはカンテラを掲げて歩きだした。どの道今は付いていくしか手がないと諦めたのか、オバルはジョノの後ろについて歩きだした。
ボイラー室の下では、さほどでもなかった下水の臭いが、排水坑の合流点に差しかかると、喉の奥が込み上げるような悪臭に変わる。おまけに目が刺すように痛い。ジョノが渡してくれたマスクがなければ、とても息ができなかったろう。
マスクの下から、ジョノがくぐもった声をあげた。
「臭いがきついのは迎賓館の下だけで、もう少し移動すれば臭いは無くなります」
確かにその通りで、我慢してしばらく進むと、目に対する刺激が嘘のように薄らいできた。ウィルタがマスクを外して鼻をヒクヒクさせているのを見て、春香もマスクをずらす。悪臭といえるものは感じられなくなっていた。
と臭いを確かめる二人の後ろで、オバルが派手な音をたてて引っくり返った。
いつの間にか足元が汚水ではなく、氷に変わっていた。下水道の壁面も一面カチカチに凍りつき、吐く息がカンテラの明かりに白く靄る。
マスクを外したジョノが、先を歩きながら説明を始めた。
都の下を網の目のように走る排水坑のうち、常時温水が流されているのは迎賓館下の本管だけで、そこを離れればトンネル内は凍りついて、臭いはほとんどしなくなる。いま歩いている排水坑は生活排水の坑で、本当の汚物の流れる汚物坑は別にある。この生活排水の流れる排水坑には、日に一度、坑の中の凍ったゴミを川まで押し流すために、蒸気と併せて温水が流される。ただそれは深夜の定時に行われるので、まだ数時間は温水が押し寄せる心配はないとのことだ。
時々立ち止まってジョノが、排水坑の埋設図を確認、磁石で方向を確認している。どうやらジョノにとっても、この排水坑は初めての場所らしい。
排水坑から排水坑を渡り歩きながら、すでに三十分。
オバルが二度目に引っくり返った直後、ジョノが足を止め、排水坑の天井に開いた穴を見上げた。目的の出口らしい。
排水坑の縦穴を上に上がると、そこは工場のような建物の中だった。異臭ではないが、甘酸っぱい臭いが鼻につく。それに妙に空気が湿って生温かい。オバルはすぐにこの施設が何であるか分かったようだが、ウィルタと春香は、初めて嗅ぐ臭いに、ポケットにしまっていたマスクを取り出した。気づいたオバルが二人の手を止めた。
「ここは餅の製造工場。臭いは醗酵の際に出るガスに、アンモニアが含まれているからだ。いい臭いではないが、害はない」
その説明にジョノが頷く。オバルが通路の先を見透かした。
「この後どこへ」
「生産区のぼくの家に隠れてもらいます。後のことは、また情勢を見てからということで」
オバルとジョノのやり取りを聞きながら、春香は展望台の上から見た、都の反対側の風景を思い浮かべた。ここはきっと町の後方に広がる工場街だ。
ジョノの後について、工場を中央で仕切る狭い通路を行く。
常夜灯の灯がオレンジ色の明かりを投げかける薄暗い工場のなか、目が慣れてくるにつれて、通路の両側に大きな擬石製の水槽が並んでいるのが見えてきた。上にカバーが張られている。泡が弾ける際のブツブツという音が水槽の中で鳴っている。
珍しそうに工場の中をキョロキョロとよそ見をしながら歩く春香とウィルタに、オバルが小声で説明を加えた。
つまり、このずらりと並んだ水槽が、火炎樹の樹液を発酵させる発酵槽なのだ。水槽の中から聞こえてくる音は、発酵する過程で菌が放出する気体が、粘性の樹液の表面で弾ける音だ。醗酵の際には熱も出るので、工場の中はいつも生温かい。
通路を抜けて隣の工場へ。そこにはもっと強い臭いが充満していた。水槽も大きく、まるでプールだ。その覆いのないだだっぴろい水槽の上に掛けられた、橋のような通路を小走りに進む。プールを満たす粘性の黒い樹液の中に、うごめくものがいる。
プールからプールへ。工事現場の足場のような通路を進むにつれ、そのうごめくものが大きくなってきた。足を止めて確かめたい誘惑にかられるが、ジョノとオバルが急ぎ足で歩くので、春香とウィルタは付いていくのがやっとだ。
工場をいくつか通り過ぎ、臭いのしない工場に入った。
ジョノが三人の足を止めると、「様子を見てくる」と言って、一人で扉の外へ。
湿気のある生温かい工場の中を走ったので、体が火照って暑い。春香とウィルタは水槽の縁にもたれかかると、ふーっと大きな息をついた。
息を整える二人に、オバルが脇の水槽を靴先でゴンと叩いた。
「二人とも餅を作る現場を見るのは初めてだろう。ユカギルに餅の工場はないからな。水槽の中に餅の大元がいるから、蓋を開けて覗いてみるといい」
オバルは「いる」という言葉を強調したつもりだったが、息を切らせた二人は、そのことに気がつかなかった。それでも覗きたくてうずうずしていたこともあり、荒い息が落ち着くのを待ちきれないように、水槽のカバーを捲って顔を近づけた。薄暗いために、どこが水面か分からない。それでも目が慣れてくるにつれて、粘性の液体の上でモゾモゾと動く白っぽいものが見えてきた。最初、大きな泡が揺れているのかと思った。
春香が「あっ」と口を押さえた。
後ずさった春香が、オバルを見上げて「これって……」と、声を詰まらせた。
「そう、それを乾燥させて挽いて粉にしたものが、餅の原料だ」
ウィルタもようやくそれが何であるか分かったらしく、目をひんむいて唸った。
「オバルさん、これ、ウジじゃないの、それも特別でっかい」
「手尺サイズはあるかな。実際は蝿の幼虫のウジじゃなくて、巨大な微生物なんだ。火炎樹の樹液の中に餅菌の胞子を放り込めば、すぐに発芽。樹液の養分を分解しながら生長して、早ければ一週間ほどで、その大きさに育つ」
水槽の中に、樹液を食い尽くして生長した、見た目はウジそっくりの白い生きものが、上に下に絡みあいながら、うごめいていた。本当に無数、星の数ほどもいる。
かつて火炎樹の開発に携わった古代の研究者は、そのままでは食用にならない火炎樹の樹液を、食品に加工する方法も編み出した。微生物を使って、樹液を人の食べることのできる食料に変換するのだ。
それは、堅い植物の繊維を、牛を使って肉やミルクに変換するのと同じ行為で、牛が微生物に変わっただけのこと。いや牛にしてからが、腸の中にいる微生物によって繊維の消化を助けてもらっていることを考えれば、牛が微生物に変わったのではない、牛による変換の過程を、微生物の中に取り込んだといった方がいいだろう。
そしてその樹液の変換をすみやかに、かつ大量に行うために、人は発酵を司る微生物を巨大な生き物に改良した。
そうして増殖させた餅菌と呼ばれる巨大な菌を乾燥させ、粉末状にしたものが餅粉である。その粉末状の餅に水を入れて練ってブロック状に加工すれば、この時代の主食となる板餅となり、細長く引き伸ばせば腸油の中に入れる糸餅、顆粒状に加工すれば餅粥の種になる。餅粉を加工して作られる餅は、それだけで人が必要とする全ての栄養を含んでいる完全食だ。言い方を替えれば、完全食であるが故に、主食になったともいえる。そして二千年前の植物の枯死による未曽有の食料難の時だからこそ、それさえ食べていれば生き延びることのできる完全食が開発されたといえるだろう。
けれども、薄暗がりのなか無数の餅菌がもぞもぞと組みつ解れつ絡みあう姿は、腐肉に涌いたウジそのもので、見ていると不快感が喉の奥からこみ上げてくる。
春香は堪らず目を逸らした。
ジョノが扉の隙間から体を滑り込ませるようにして戻ってきた。
「大丈夫なようです、行きましょう」
次話「トゥワーニ」




