銭床
銭床
一通り広場から市場周辺、さらには商店の並ぶ表通りを歩き、一軒の店を見つけた。
家と家の間に挟まれた狭い空間、そこに熱い茶の飲める露天の屋台が店を出していた。手持ちの小銭では、定構えの店で茶を飲むのは無理。さりとて値段の安い雑然とした市場内の店では、とても落ち着いて今後のことを考えられない。それがここなら、狭い空き地の向こうに川は見えるし、道を挟んで対面に並ぶ商店の黒石膏の壁面も美しい。おまけに大通りの先の広場と官舎街もしっかりと遠望できる。まるで誰かが自分たちのために、あつらえてくれたような店だった。
天幕の下に小さな椅子と丸卓が並び、こじんまりとして落ち着きもいい。それに何より幟によると、お茶一杯が一ビスカ。これならお金を半分残せる。客は中年の二人組の男性がいるだけで、座席もしっかり空いている。三人はいそいそとテーブルの一つを確保すると、中身の入っていないザックを下ろし、露天の主人に苔茶を注文した。
ただし茶を注文してから分かった。この場所は建物の間を川からの風が抜けるために、凍えそうに寒いということだ。二人連れの客が着膨れした連中というのも道理だ。
お茶が出てくるのを体を寄せ合って待つ。
そのお茶が、あれっと思うほどに早く出てきた。丼のような椀に入った茶で、量はあるが限りなく味が薄い。まるでお湯のようなお茶だった。これで一ビスカ、得をしたのか損をしたのか分からない微妙な値段だ。
春香が手袋を脱いで丼の椀に両手を添えると、にっこりと微笑んだ。笑うしかなかったともいえる。腹を立てれば、余計にお茶がお湯に見えてきそうだから。
大きな丼椀からチビチビとお湯を啜っていたウィルタが、「このお椀の縁の欠け具合、ブッダの水入れに似てるんだよな」と、感想をもらした。
聞き咎めた春香が、「情けなくなるようなこと、言わないでよ」と、ウィルタを睨む。
「そうだぞ、ウィルタ。男なら、もっと豪快に飲め。そのみみっちい飲み方を見てると、こっちまで気持ちが淋しくなる」
覇気を見せるように、オバルが丼椀の中身を豪快に喉に流し込む。
「仕方ないじゃん、体だって口の大きさだって、全然違うんだからさ」
意地を張るように言い返すと、ウィルタがまた椀の縁から一口薄い茶を啜る。
屋台から、おやじのぼやきが聞こえよがしに伝わってきた。
「ここじゃ熱い湯を茶というだ。味のついた茶を欲しがるようなやつは、門構えのある店に行くだや」
オバルとウィルタが思わず顔を見合わせた。
ところが情けない顔をしている二人に挟まれるようにして、春香だけが表情を緩めて椀を手にしている。そして口に含んだ湯茶を飲み下すと、ウィルタに目配せをした。
「ねっ、ウィルタ、気がついた。この湯茶、かすかだけどメチトトのお茶の香りがするの。口に含んで、そっと鼻に香りを抜くようにすると感じる。懐かしいな、氷河の底で最後の一杯を飲んで以来だもん」
教えられて、ウィルタも湯茶を口に含み、香りを鼻に抜く。
「ほんとだ、かすかだけど……、この香りは、メチトトのお茶だ」
丼椀の湯茶をぐい飲みしていたオバルも、残りが椀の三分の一ほどになると、もったいなくなってきたのか、机の上に椀を戻し、茶の代わりに禁煙ギセルを口にくわえた。
そして「何だい、そのメチトトのお茶って」と、ウィルタに尋ねた。
ウィルタが懐かしむように目を細めた。
「シーラさんが得意にしていた苔の発酵茶なんだ。頭を爽快にしてくれるんだよ。これを飲めば、きっと、これからどうすればいいか、良い案が浮かぶさ」
それを聞いて、オバルも子供たちの真似をしてみた。ところが悔しいかな、茶を口に含んで鼻から抜いても、ぼんやりとした風味が口の中に残るだけだ。先ほど事務所から逃げ出す際に、オバルはかなりの量の煙を吸い込んでいる。身長の低い子供たちはさほどでもなかったが、背の高いオバルは煙をかい潜り切れなかったのだ。その吸い込んだ煙のせいで、鼻の奥がピリピリと引きつっていた。
それでもオバルはメチトトと聞いて、それがユカギルの診療所の分室で、レイ先生と飲んだ苔茶だったことを思い出した。匂いや味は感じなくとも、メチトトという言葉を口にするだけで、何となく良い案でも浮かんできそうな気になる。
しかし、お湯のような茶を飲み乾しても、胃の中が少し温かくなっただけで、金をどうにかしないと身動きが取れないことに変わりはない。展望の欠けらも見えない切羽詰まった気持ちに加えて、川からの風が強くなって、体が骨の芯まで冷えてきた。
寒風を避けてか、先に茶を飲んでいた着膨れの二人組が、逃げるように席を立った。
風にはためく一杯一ビスカの幟と客のいない卓が、よけいに寒さを募らせる。
急くようにウィルタが「この町に誰か知り合いはいないの」と、同じ質問でオバルをせっつく。するとオバルが眉をピクピクと動かし、「もしいたら、ここで、こんなお湯なんか飲んでないさ」と、怒ったように言い返した。
元来、金を手に入れる方法というのは、たくさんありそうでそれほど多くない。稼ぐ、貰う、借りる、拾う、盗む。この盗むという言葉をオバルが口にしたとき、春香が眉を吊り上げた。ただ現実的には、オバルが知り合いに為替を依頼する、その電信代さえ工面できればなんとかなる。長杭の電信館には、国家間を繋ぐ衛星通信の設備があるという説明を、オバルはバレイの電信館で聞いていた。その電信代くらいのお金なら、誰かに頼んで一寸借りるか、さもなくば着ている物でも売ればなんとかなるだろう。
実際、オバルは頭の中で、自分の外套を質に入れて金を借りる算段をしていた。
ところが、その計画が無残にも打ち砕かれてしまう。
荷物を背負った女が屋台の主人に尋ね事をする、その話し声が聞こえてきたのだ。女は電信為替を扱っている場所を聞いていた。ところが屋台の主人は申し訳なさそうに、長杭では為替は扱っていないと答えた。正確には、ここの局に一定額の預金をしている者しか、為替は換金してもらえない。送金の依頼はできても、金を受け取るのは塁京の内側の国でないとできない……、と。
女は肩を落とし、当惑した顔で広場の方に歩いていった。
もっとも当惑したのは女だけではない。オバルの視線までが宙をさ迷う。電信為替が使えないという言葉が、オバルの頭の中をグルグルと回っていた。
オバルの口から禁煙ギセルが机の上に落ちた。頼みの綱が切れたのだ。
残された方法は、とにかく何か荷物の中で金になる物を売るしかない。いや、それでできるお金くらいでは、ほんの一日か二日、この町で暮らすのが関の山だ。電信を打つことができても、塁京に入国しなければ、お金を受け取ることができない。その入国には、かなりの金が必要なのだ。ある程度のまとまった金の工面がどうしても必要だった。
黙り込んでしまったオバルに、「塁京の入域許可証を発行してもらうのって、どのくらいのお金が必要なの」と、春香が説明を求める。
オバルが腕組みをしたまま天を仰いだ。
「発行の手数料じゃない。財産のない貧乏人が塁京の内側に流れ込んでくるのを規制するための策で、申請者は、自分はこれだけのお金を持っていますよというのを、証明しなくちゃならないんだ。塁京を乞食の町にしないためにね。バレイの町で聞いたのでは、今の相場は五万ブロシュだそうだ」
「五万!」
ウィルタが、のけぞった。春香も思わず目を丸くして天を見上げる。まだこの世界のお金の価値にうとい春香にも、それが相当の額なのだということは想像できた。なにせウィルタに懸けられた懸賞金よりも高い額なのだ。とてもそんなお金が簡単に作れるとは思えない。オバルが据えた目で二人を見た。
「こうなったら、やっぱり人様のお金をいただくしかないな」
「強盗をやるの」
身を乗り出したウィルタに、オバルが盗人のような目つきになって提案する。
「もしくはユルツ国の手の者を探し出して、ウィルタを売り飛ばす。そうすればその金で、悪くても俺一人は助かる」
「ひどいよオバルさん。それなら春香をジンバ商に売ろう。そうすれば、少ないけど五千は固い。そのお金で、もうちょっといい案を練ろうよ」
春香が両手でバンと机を叩いた。
「ちょっと二人ともいい加減にして、真面目に考えてよ」
口を尖らせて二人を睨んだ春香は、すっくと立ち上がると、巾着袋をひっくり返して中のお金を机の上にぶちまけた。二ビスカ硬貨と一ビスカ硬貨がそれぞれ一枚。その二枚の小銭を握り締めると、春香は大股で屋台の方に歩いていった。
お金を、屋台の台の上に叩きつけるように置く。
居眠りをしていた茶屋のおやじが、蛙が跳ねるように跳び起きた。
屋台のおやじに、春香が真剣な眼差しで話しかけた。
「ねっ、おじさん、お茶をもう一杯ずつお願いするわ。でもね、これが最後のお金なの。もしおじさんに、お茶を売ってるって自負があるなら、あんな丼みたいなお椀じゃなくて、小っちゃなコップでいいから、もっとちゃんとしたメチトトのお茶を入れて。わたしたちこれから、お金を生み出すいいアイデアを捻り出さなきゃならないの、お願い」
必死の形相で頼み込むと、春香はクルッと体を反転させて、腕まくりをしながらテーブルに戻った。知らないうちに目が吊り上がっている。
春香は息を弾ませながら二人を睨むと、「使ったわよ、後があると思うから真剣になれないの。とにかくこれが勝負、考えるのよ何かいい手を」と、まるで脅迫するように二人に迫った。春香の勢いに押され、オバルとウィルタが椅子に座ったまま姿勢を正す。
もちろん春香にしても、良い考えが直ぐに浮かぶものでないことは百も承知だ。ただ、この世界のことを何も知らない春香としては、せめて意気込みだけでも見せないことには、自分の存在意義がないように思えたのだ。
そうして三人の人間が腕組みをしてウンウン唸り始めたところに、屋台のおやじが、盆にポットと小ぶりの椀を乗せてやってきた。最初に気づいたのは春香だったが、すぐにウィルタも分かったようで、屋台のおやじさんの顔を見た。ポットの湯気からは、メチトト茶特有の、かぐわしい香りが漂っていた。
茶屋のおやじが照れ臭そうに言った。
「ちゃんと入れるのは久しぶりなんでな、うまく香りが立ったかどうか自信がないが、とにかく飲んでみてくれ、わしの故郷の味じゃ」
それだけ言うと、屋台のおやじは、屋台の湯気の後ろに引き下がった。春香が軽く会釈をすると、おやじさんは早く飲みなさいとばかりに、椀を持つ仕草をした。
ウィルタが椀に張られた湯を捨て、ポットのお茶を注ぐ。今度は飲まなくても、直ぐにそれと分かる香りだ。湯気といっしょに馥郁とした香りが、口元から喉、顔の周りを包む。
オバルが鼻をくゆらせた。
「人生の最後に何を飲むかと聞かれたら、俺はこのお茶を頼むことにしよう」
「ちょっと、オバルさん、縁起でもないこと言わないでよ。まじでさ、最後の一杯になる可能性があるんだからさ」
春香がまた怖い顔で二人を睨んだ。
「ちょっと、二人ともせっかく美味しいお茶が入ったのに、何て話をしてるの。本当に最後のお金を使った一杯なんだから、もっと夢のある話をして」
悲壮な顔をしている春香に、ウィルタが咎めるような視線を投げた。
「春香ちゃんだって、最後って言葉を使ってるじゃないか」
春香が、キョトンと顔の真ん中に目を寄せた。
「あら、そうだっけ……」
リラックスするためのお茶なのだ。少し深刻になり過ぎていた自分に気づいたのか、春香はとぼけるように上を向くと、「でも、やっぱりいい香り、板碑谷のミトを思い出すな」と、しみじみとため息をもらした。
「そうだよな」と相槌を打ち、改めて鼻をヒクヒクさせたウィルタが、あることに気づいて鼻の動きを止めた。
「そうだ、さっきから気になってたんだけど、春香ちゃん、テント村でボクがお金を盗られた時に、ウロジイの石の欠けらを自分の巾着袋に入れたよね」
「うん入れたよ、二つとも」
「でも、グリビッチのやつが、割れた欠けらまで必死に捜してたのに、春香ちゃんの荷物からは、何も出てこなかった」
春香が笑って片目をつむった。
「実は、わたしね、ちゃんと持っているの、ここに」
一昨日の夜のこと、ウィルタに買ってもらった藍晶色の巾着袋を、春香は胸のポケットに入れて寝た。そして夜半、春香は胸がポカポカしていることに気づいて目を覚ました。何だろうと巾着袋を取り出してみると、中に入れていた石の欠けらが温かい。ウィルタの小物入れの中の石と同じ現象が、春香の石の欠けらにも起きていたのだ。ただ気がつくのが遅かったので石は光っていなかった。
特に危険は感じなかったので、春香は石を巾着袋に戻すと、そのまま眠った。
朝起きた時には石の欠けらは冷たくなっていたが、テントを出発する際、もしかしたらまた石の欠けらが温かくなるのではと考えて、春香はその欠けらを、ある場所に移した。
その場所が……、と説明しながら、春香が履いている靴をトントンと叩いた。
ウィルタが「あっ」と声をあげた。
「靴……の中か」
「そう、足の先って冷えるでしょ。もしかしたら、この石の欠けらを入れておけば、足が温ったまるんじゃないかと思ったの。ほら、わたしの靴って、先の方に少し隙間があるから、いつもそこに布切れを突っ込んであるんだけど、そこに押し込んだの」
春香が靴紐を解きながら、話を続けた。
「きっと衝撃を与えたり、割ったりすると、熱くなる石じゃないかな。昔、揉むと熱が出る袋があって、冬の寒い時はそれをポケットに入れておいたりしたものよ。だから、これもそういう効果のあるものじゃないかと思ったの」
春香は左右の靴から、それぞれボロ布に包まれた小指の先ほどの石の欠けらを取り出した。灰色の石である。断面は黒光りをしているが、とても宝石には見えない。何をもってあの悪徳商人のグリビッチは、この石に執着したのだろう。
渡された石の欠けらを、オバルが手に取って眺める。
「デジャフスグイで見せて貰った時には、割れてなくて気づかなかったが、この断面の黒さは普通じゃないな」
「普通じゃないって」
質問の答えを探るように、オバルは石の欠けらを摘み上げると、石の断面同士を鼻先で擦り合わせた。
「くそう、さっきの煙のせいで、まだ鼻の奥がピリピリしている」
ぼやきつつオバルが大きな鼻をうごめかせる。さらにもう一度、石を擦り合わせ……。
春香が焦れたように尋ねた。
「何か臭う?」
「春香ちゃんの足の臭いがするんじゃないかな」
茶化すウィルタの手の甲を、春香が思い切りつねった。
オバルが、ようやく石から鼻を離すと、子供たちに向き直った。
「欠ける前と違って臭いが立っている。内訳は、ズヴェルの腐敗臭に、乾いた銀苔の粉っぽい臭い、それとタール臭で、割合は五、四、一かな。おそらく表面の灰色の部分は、隕石を保護するための皮膜だろう。貴重な隕石には、コーティングを施すことがあるんだ」
春香が驚いたように石の欠けらに目を戻した。そして試すように鼻先で石を擦ってみる。
しかしどう息を吸い込んでみても、何も匂わない。
「凄いわね、オバルさん。わたしには何も匂わないけど」
目を丸くしている春香に、オバルが自身の丸くて大きな団子鼻を指で弾くと、「俺のような鼻利きは結構いるんだ」と謙遜、この時代の嗅覚事情を説明してくれた。
二千年前の災厄後の大規模な環境変動に伴い、地球上に暮らす生き物にも様々な変化が生じた。生物の進化としては異常とも思える速さでだ。
地を這う苔から草のように繁茂する麦苔が現れたこともそうだし、腸に窒素の固定菌を同居させ、ごく少量の苔を餌に生きることのできる毛長牛が誕生したこともだ。その突然変異ともいえる変化は人間にもあって、体を取り巻く電界の変化を脳のなかで視覚的に感じ取ることのできる者、つまり手灯の人たちの出現が、その好例である。
そして嗅覚。
元来人が臭いとして感じる物質の多くは、空気中に浮遊する有機化合物の分子である。その有機化合物が緑の消失によって激減。これは見方を変えれば、それ以外の粒子の占める割合が増えたということになる。災厄後、嗅覚で識別すべき人と物質の関係が変わったのだ。その結果、今まで嗅覚の対象外だった石や金属などの粒子、あるいは分子や原子そのものを嗅覚として感じ取ることのできる人間が現れた。
臭いを表現する際、つい汗のような臭いとか、柑橘のような臭いといった風に、昔ながらの表現をするので混乱するが、石は石の臭い、金属は金属の臭いである。それは分子臭、あるいは原子臭と言って良いものだ。オバルの場合は、親が金属加工の仕事をしていたこともあって、子供の頃から、石や金属、更には隕石の臭いを嗅ぎ分けることに長けていた。
丸卓に片肘を着いてオバルの話を聞いていた春香が、首をひねった。
「石や金属の臭いって……、金なら金の臭い、銀なら銀の臭いがするってことよね。でも金の臭いって、どんな臭いなんだろ。金ピカだから、ピカピカする臭いなのかな」
春香の口にした金という言葉で思い出したのだろう、ウィルタが指を鳴らした。
「もしかしたら、グリビッチのやつ、この石が金色に輝いているところを見たのかもしれない。不思議な光る石だから、自分の物にしようとしたんじゃないかな。割れて断面が見えたから言うわけじゃないけど、ウロジイがわざわざくれた石だから、特別な石に違いないと思ってたんだ」
オバルが丸卓の上に覆い被さるように身を乗り出した。
「何だい、その光るってのは、もう少し詳しく話してくれ」
直ぐには話し出さず、ウィルタが正確を期すように春香に問い直す。
「春香ちゃん、石が温かくなってた時、色はどうだった、光ってなかった」
「ううん、眠くてボーッとしてたから、よく覚えてないな」
その返事に少しがっかりしたようだが、それでもウィルタは、「もしかしたら寝ぼけての勘違いかもしれないけど」と前置きしたうえで、二日前の夜、石が光を放っていた時の状況を説明した。聞き終えたオバルが、ゆっくりと顔を上げた。
「氷の底に閉じこめられていた老人は、何をやってる人だっけ」
「確か、てん……、篆刻の仕事をしてたって言ってたわ」
「馬将譜が凄く強かったよ、木彫りの人形も上手だったな」
「篆刻か……」
何かに思いを巡らせるように、オバルは螺髪の髪と髪の分れ目に指先を這わせた。考え事をする時、オバルは癖で額の生え際の螺髪を引っ張る。髪を引っ張る時の痛みが刺激となって、頭の回転が良くなるのだそうな。
螺髪をむしるように引っ張ったまま、オバルが口を開いた。
「人形を彫っていたのは、たまたま閉じこめられた船の中に木彫りに使える材があったからだろう。篆刻の仕事をしていた老人が、灰色の石を貴重なものとして、命の恩人である君たちに授けた。そしてその石が黄金色の光を放った。ということは……」
焦らすように間を置いたオバルに、ウィルタが「それで」と話の先をせっつく。
「石が光ることの意味までは分からないが、篆刻の職人が貴重な石と考えていたのなら、その石は、宝石ではなく、印材用の貴石ということだろう」
春香が首を傾げながら口を挟んだ。
「貴石といってもハンコ用の石でしょ、ハンコ用の石がそんなに貴重なの」
「昔はどうだったか知らないが、今の時代、篆刻用の貴石は、宝石以上の価値があるんだ」
春香が石の烏色の断面を日の光にかざした。
改めて目を寄せじっくり眺めると、その断面は気持ちの悪い黒さをしている。どの方向にかざしても光を反射しない。それに断面が現す闇のなかに、ザワザワと何かがうごめいているように見える。
「なんだかまるで、光を呑み込んでるみたいな石よね、これ」
魅入られたように石を見つめる春香の横で、ウィルタが急くように卓を引っかく。
「もしこれが本当に貴石だとすると、どうなるんだよ」
春香がバカにしたように、ウィルタの手をパチンと叩いた。
「鈍いわね、いい値で売れるってこと。ねっオバルさん」
声をかけられ、オバルが我に返ったように「そういうことだ」と頷く。
興奮しているのか春香の頬が赤い。そして春香の目は、もう小さな石の欠けらから、大通りの先にある一軒の店へと向けられていた。さきほど、お茶の飲める場所を探していた時に、そこに銭庄、質屋の看板を掲げた店があり、店の前に『貴金属、高価買い取り』という張り紙を見つけていたのだ。
オバルとウィルタの視線も、その店に注がれる。苦況を乗り切るための方法が見つかった。この漆黒の断面をもつ石を売る、あの店でだ。
お茶を飲み乾すと、春香はポットと椀を盆に乗せて、奥の屋台へと運んだ。
肘をついて首を揺らせていた屋台のおやじが、「随分熱心に話をしていたみたいだが、上手くまとまったかね」と、人懐っこい顔で聞いてきた。
「ありがとう、おじさんの入れてくれたメチトトのお茶のおかげよ。すっごくいいアイデアが浮かんだの、ありがとう、美味しかったわ」
寒さ避けなのか鍋つかみに手を突っ込んだまま、屋台のおやじが嬉しそうに笑った。
「はは、久しぶりじゃな。茶を入れて人から美味しいなんて言われたのは。お嬢ちゃんに幸運が訪れることを、屋台の下から祈っているよ」
肩の力の抜けた声で言うと、屋台のおやじは鍋つかみの大きな手を振った。
東西に伸びる町並みを櫛ですかすように、夕日が通りに差し込む。その夕日を体の横に受けながら、春香とオバルは、高価買い取りの張紙を出している銭庄の前に立った。その二人を、ウィルタは少し離れた歩道で荷物を持って見守る。
店に入るのは春香とオバル。
長旅で服や顔がくたびれているのは仕方がない。とにかく、それぞれの役どころは、薄汚れていてもどこか高貴な出を感じさせるお嬢様と、その付き人という設定である。
春香がオバルに念を押す。オバルの猫背に関してだ。
人の身分というものは服装や言葉遣いだけに現れるのではない。姿勢や歩き方などにも、はっきりと人の身分、出自というものは透けて見える。身分を装う時、言葉や表情に気を取られていると、つい姿勢のことなど忘れて、ぎこちない印象を相手に与えてしまう。プロというものは、そういうところをいち早く察知するものだ。
店にほかの客がいないのを確認して、オバルがドアを開けると、そこに背筋を伸ばした春香が、ゆったりとした足取りで入っていった。
店の奥で、度の強そうな四角い眼鏡をかけた店主が、上目遣いにこちらに視線を走らせる。だがまだ目を合わせるのは早い。春香は軽やかに体を回転させ、店の中を見渡す。そうファッションショーのモデルが、観客に服装を披露するようにだ。入ってきた客を値踏みしている店主に、こちらは全てを曝け出しているのですよというのを、体を回しながら表現、つまり曝け出すだけの自信があるということを動作で示す。
と同時に、店の中を見回しながら、この店が自分にとって取引をするのに値する店かどうかを確認しているということを、相手に分からせる。
そして、軽くため息。
この程度の店かという感じだ。そして軽く首をかしげ、思案の素ぶり。できればそこに、ほんの少し少女らしい動きも混ぜる。卑怯かもしれないが、やはり男は女の子のかわいい仕草に弱い。それを利用しない手はない。なんたって今は非常時だ。
明らかに店主が関心を持ったのが、目つきで分かった。だがこちらの身なりを見て、それほどの客とは思っていない。それはそれでいい。
とにかく今はまだ、魚が餌に気づいた段階、勝負はこれからだ。
こちらは軽く肘をかかえ、考える仕草をする。そうしておいて、後ろの壁際に控える長身のオバルを見やる。この長身というのがいい。なんともいい、見栄えがする。オバルは人を見下ろすことなんか気にせずに、もっと自分の背の高いことを神に感謝すべきだ。
長身のオバルに、軽く問いかけるように視線を投げかける。
付き人のオバルは、わたしの視線を微笑みをもって受け止め、頷く。お嬢さまの考えでお決め下さいという風に。
軽く間を置いて春香は呼吸を整えると、外套を脱いだ。すかさずオバルが後ろから外套を受け取る。そうして春香は、振り向きもせずに、カウンターの後ろで客を値踏みしている店主の元に歩み寄った。
しかしつくづく、バレイの宿でセーターを洗っておいて良かったと思う。いくら星草模様の美しいセーターでも、薄汚れた状態では、こんな芝居を打つ勇気は出なかっただろう。
背を伸ばし、金の亡者のような店主に視線を合わせる。
ツルツルになった頭のてっぺんに、残った左側の髪をバーコードのように被せている。色白で肉厚の頬が両側に垂れた顔、いかにも世の中は金が全てとでも言いそうな風采のおやじだ。嫌だけども、このバーコード頭のおやじに、最上の微笑みを投げかける。古い映画で見た上品な王女様役の女優のようにだ。もっともわたしの顔では、どうあがいてもああいう気品は出ない。それでも良家の子女くらいは演出できたろう。それに誰だって、かわいい女の子に微笑みかけられて嫌なはずはない。
商売をするコツは、まず絶対に相手を不快にしないこと。
店主も、普段店に入ってくる連中と毛色の違う客に、少し戸惑っているようだ。愛想笑いを浮かべ、小さく会釈を返して寄越した。
どうやら相手も、こちらのことを気に入ってくれたらしい。それにこちらが素見の客でないことも承知した様子で、立ち上がって、カウンターの前の椅子に座るように勧めてくれる。
わたしは、付き人役のオバルが椅子に手を伸ばすのを軽くいなして、自分で椅子を引き寄せ、きちんと足を揃えて座った。この時も、間違っても背もたれにもたれたりはしない。こういうことは女子中学に入ってすぐに叩き込まれた。あの頃、生活科の先生は、こういうことがいずれあなた方の将来に役に立つのよと、自信満々で言い切った。
何を時代錯誤と思っていたけど、まさか礼儀作法が二千年後に役立つとは、本当に先生に見せてあげたい。
バーコード頭の店主が、興味津々といった顔つきで口を開いた。
「どのようなご用件でしょうかな、お嬢さん」
気持ちの悪い声だった。そういえばグリビッチのやつに、少し声色が似ている。
わたしは目を真っ直ぐ相手の視線に合わせた。こちらは間違ったことなど露ほどもないのだという意志表示。そして短刀直入に言う。
「買い取ってもらいたいものがあってお伺いしました、見ていただけますか」
そう、これはビジネス、余分な話など必要ない。
店主は、いきなりで少し驚いた表情を浮かべたが、構わずわたしは、手の平を後ろに向けて軽く動かした。長身のオバルが、布の包みをカウンターの前に恭しく差し出す。布は外套の裏地の一番汚れてないところを切り取ったものだ。そのハンカチ程の大きさの布の真ん中に、小さな紙がある。これは板餅を包んでいた紙。仕方がない、あの石の欠けらを目立たせる白っぽい紙が、これしかなかったのだから……。
紙の包みを相手のほうに滑らせるように差し出し、わたしは、はっきりした口調で、「ご覧下さい」と言った。客であるわたしが包みを開けるよりも、店主が自分で折り畳んだ紙を開ける方が、感動が大きいはずとの読みだ。
店主は何が入っているのだろうと、丁寧とも無造作ともつかない手つきでその紙を開く。
その間に、こちらはさり気なく布を引き取る。置いたままで外套の裏地と見破られては困る。店主が折り畳まれた紙の、最後の折りを開く。
わたしの胸は早鐘のような音を立てていた。あの石はどこにでも転がっているただの石ではないのか、その思いが頭を過ぎる。
拡げた紙の上に、小指の先ほどの大きさの石の欠けらが現れた。上手い具合に漆黒の断面は店主の方に向いている。バーコード頭の店主が、その断面を見ている。
だいたいがこういう商売をやっている連中は、商品の鑑定の際に感情を見せない。無表情、無感動を装って買い叩く。だがもしこの石が、悪徳商人のグリビッチが執着するほどの貴石であるなら、必ずや店主の目に何らかの反応が現れるに違いない。この店主が石のことを知ってさえいれば……。
わたしは胸の動悸を抑えながら、相手の反応を細心の注意で見守った。
ところが、店主は紙の上に転がり出た石を、なんだこれはという目で見ている。
ただの石ころなのか、それとも店主が思った以上の狸親父なのか、わたしは視線をそっと店主の手に移した、手の、それも指の動きに……。
人の感情は顔の表情に現れる。一方で、嘘をつくのも顔である。「一番脳味噌から遠い部分が、一番嘘をつかないの」と、子供の頃に母さんが言っていたのを思い出す。
「顔が笑っていても、握りしめた手が怒りでブルブル震えていることだってある。手は正直者、手は嘘をつかない。だからもし大きくなって、好きな男の人ができて、その人の本当の気持ちを知りたいと思ったら、手をようく観察するのよ」と、母は言っていた。
店主の指先がかすかに震えたように見えた。しかし直ぐに店主は何事もなかったかのように、石の欠けらを手の平の上で転がすと、無造作にそれを紙の上に戻した。結局、指からは何も読み取れなかった。感情を押し殺したような指、さすがプロだ。
店主が困ったような顔で私に向き直った。
「この石を売りたいっていうのかい」
「そのために、お伺いしたんですけど」
店主はため息をつきながら、「なかなか面白そうな石だね。でもお嬢さん、これは宝石ではないしね……」と、そう話しながらも、こちらの反応をさりげなく観察している。
「いったいいくら必要なんだい」
こういうところがこの商売をやっている連中の抜け目のないところだ。百万の値のつくものでも、相手の言い値が一万なら、それを基準に交渉しようという魂胆だ。とにかくこういう時は、最初に口にする金額が勝負の別れ目。それよりとにかく、必要かと聞いてきたということは、バーコード頭の店主は、この石を値段次第では買ってもいいと判断したということだ。それはつまり、この石がその辺に転がっているただの石ではないと、判断したということだろう。この店主、こちらが年端もいかない娘だということで、油断したのかもしれない。相手のミスに乗ずる、それが勝負に勝つための鉄則だ。
わたしは即座に用意してきた値段を口にした。
「六十万ブロシュで」
相手が、のけぞった。すかさず続ける。
「本来ならもっと高い値段をつけても良い石なのですが、購入するのではなく売却するとなると、それが現実的な値段かと思います」
わたしは自信をもった口ぶりで、はっきりとそう言い切った。もちろん石の値段をどうするか、迷ったあげくに決めた値段だ。法外な値段かもしれない。でも、この石にあるのは本物か偽物のどちらか。この石を本物と思う人間なら、それ相応の値段を提示しないと、逆にこちらが石のことを何も分かっていないことがばれてしまう。
あっけに取られた店主が、無い髪を掻き上げながら首をブルブルと振った。
「ちょっとお嬢さん、冗談はいけないよ。こっちは専門家なんだよ。こんなただの石に、そんな法外な値段。分かっていると思うけど、宝石だって、デザインを工夫して、カッティングに研磨を施して、初めてあれだけの価値が出るんだ」
大げさに驚いている。それも演技過剰に。もっともこれは予想していた反応、月並みな反応といっていい。芸のないおやじだ。
急に冗舌になった店主が、しきりと舌で唇を舐め始めた。
「お嬢ちゃんが、ちゃんとしたところの娘さんで、見たところお金が必要なように見えたから、相手をしてあげてるんだよ。確かに、なかなか綺麗な石だから、百ビスカくらいなら都合してあげたいけど、それ以上はどう考えても無理だよ。ほんと、その何十万ブロシュなんて法外な値段……」
店主は喋りながらも、チラチラと、わたしやオバルさんの表情を見ている。それに唇を嘗めるのは、緊張している証拠だ。これは、本当にもしかしたらもしかするかもしれない。
ここは一気に攻める時だ。
わたしは表情を変えずに、じっと店主の目を見た。禿げた頭の脳味噌の中で、いろいろな算段のネズミが走り回っているのが見える。
わたしは口元を引き締めると、テーブルに手を伸ばし、ゆっくりと石を紙に包んだ。店主に緊張が走った。服の下に隠れた腕の筋肉が動きかけて止まる。
わたしは口元にかすかに微笑みを浮かべると、
「こちらが、歳端のゆかない子供だと思って対応されたのではないことを望みます。石は石の価値の分かる人のところに行くものだと、いつも父から聞いて育ちました。残念ですが、ほかのお店を当たらせてもらいます」
相手を断罪するようにそう告げると、わたしはスクッと立ち上がり、バーコード頭の店主には眼もくれずに、店の戸口に向かった。
付き人のオバルが変わらぬ表情でドアを開けてくれる。そしてわたしがドアの敷居を跨ごうとした時、後ろから声がかかった。
「ちょっとお嬢さん、待ってくれ。もう一度、その石を見せてくれんかな」
勝った!
あとは、わたしの一方的な勝利だった。バーコード頭の店主は「さっきは拡大鏡でしっかり見なかったので」とかあれこれ言い訳をして、もう一度わざとらしく石を分光機にかけてみたりしていたが、それが見え透いた演技であることは明らかだ。
結局、わたしは、ウロジイの石の欠けらを、三十九万ブロシュで売ることにした。もっと高くてもいいと思ったのだが、店主が、いま手持ちの現金がそれしかないというので、仕方なく手を打つことにした。
ぎっしりと札のはいった袋を付き人のオバルさんに持たせて、来たときと同じように背筋を伸ばして店を出る。
ドアを出る時に、わたしは振り返って、バーコードの頭を赤く上気させている店主に、にっこりと微笑みかけた。感謝のプレゼントのつもりだ。すると店主もにっこりと笑い返してきた。実はその店主の笑顔を見て、もっと値段を上げても良かったと思ったのだけれど、それでも、空っけつのサイフに入り切らないほどのお金が入ったのだ。ここはバーコード頭に感謝しなきゃ罰が当たるというものだろう。
外に出ると、道端でウィルタが托鉢の僧侶と話をしていた。
道を往来する人や馬車を避けるように、ウィルタに駆け寄る。そして振り向いたウィルタに、さっきの店主にも見せなかった飛びっ切りの笑顔を披露した。
「やった、やったよウィルタ、ウロジイに感謝よ」
この世界に来て、こんなに嬉しいことは初めてだった。
「いやあ良かった。実際問題、もう打つ手はないと思っていたからな」
胸をなで下ろしているオバルの横で、袋の中の札束を見たウィルタの顔が、本当に目を丸くするという形容がぴったりの顔になった。
「手にして重いような札束なんて、見るのも触れるのも初めてだよ」
「お札の計り売りができるわ」
喜色満面で、春香は札束の入った袋を、重さでも計るように上下させた。
そのニコニコ顔の春香が、ウィルタの手にした物に気づく。焼き餅を握り締めている。
聞くと、春香たちが店から出てくるのを待っている間に、通りがかりの托鉢の僧侶が恵んでくれたのだという。道端にしゃがみこんで春香たちが出てくるのを待っている姿が、腹を空かして動けなくなっているように見えたらしい。
固くなりかけた冷たい焼き餅を見て、春香が上気した顔で言った。
「せっかく、お金が入ったんだから、お祝いに何か美味しいものでも食べようよ。焼き餅だって、焼き立てのプクプクの熱々のトロトロのやつを、百個でも千個でも食べられるわ」
「焼き餅は五個ぐらいでいいから、美味しいメチトトのお茶をもう一杯飲みたいな」
ウィルタが、先の屋台の方を見やると、すかさずオバルが提案した。
「そうしたいところだけど、今ならまだ領事館に行って、入域許可証を申請できる時間だ。できれば食事やお茶は、許可証を取って、船の乗船券も購入してからにしないか。その方が安心して寛げるだろう」
「それに……」と、オバルが辺りを見まわした。
「物騒な町だ。大金を持っての長居は無用だし、許可証と乗船券さえ手に入れておけば、この金を取られたとしても塁京には行ける」
「うん、オバルさんの言う通り」
三人は直ぐに領事館に向かった。お金はオバルが持ち、用心のために前に春香、後ろにウィルタが張りつく。歩きながら春香が独り言のように言った。
「あの石のどこにそんな値打ちがあったんだろう。本当に篆刻用の貴石だったのかな。まさか店主に聞く訳にもいかなかったし」
「物というのはそれを必要とする人にとっては、無限の価値を持つということだろう」
自分で言って頷くオバルの後ろで、ウィルタが楽しそうに口笛を吹いた。
「とにかく、お金が手に入ったんだからいいじゃない。それに石の欠けらは、まだ一個残ってるんだろう」
笑顔で「うん」と答える春香に、オバルが春香の靴を指さす。
「店のおやじが石に顔を近づけた時、この石は臭うなって言うんじゃないかと、ひやひやしたぞ」
「もう、オバルさんったら」
明るい笑いが舗道に広がる。
通りの先、広場の右手に長杭の官庁街が見えてきた。あの並びに塁京各国の領事館の入った合同庁舎がある。三人は明るい足取りで領事館に向かった。
その三人の動きを、ある人物が、じっと市場の箱のような建物の上から追っていた。
次話「外輪船」




