親顔面
哀愁系ホラー。
母の葬儀が終わり、俺は父と二人きりとなった。
「これで俺も、一人で気ままなスローライフ、か」
そう言って笑ってみせる父だが、当然、力は入っていない。
隣にいる父の背丈が小さく見えるのは、年齢のせいだけではないだろう。
「心配するなよ。美和子と悟を連れて、いつでも戻ってくるからさ」
「別に要らねえよ、そんな歓迎。どうせ、子供の世話で手一杯だろ」
精一杯の気遣いも、今は空回りか。
だが、都合が良い。これで、実家との付き合いは年賀状程度で済みそうだ。
父も察しの通り、今は仕事や家族サービスで忙しい。来年に控えているマイホーム建築の為、金銭面もかなり厳しい状態だ。実家に戻るために、わざわざ新幹線を使うのもきつい。
そして、何より。
あまり父とは関わり合いたくないのだ。
・
俺は平凡な家庭に生まれたと自負している。
生活に苦労したという記憶もなければ、贅沢三昧したという記憶もない。
母は優しくて穏やかであった。父は力強くて少しがさつだ。
かわいい少年時代から、反抗期を経て、青年となり、上京。まったく普通の人生だ。その中でたった一つだけの異物が、父の顔だった。
父の顔だけは気に入らなかった。正確に言えば、顔の形が。
明確に意識したのは、中学生の頃だった。洗面台でひげ剃りをしている父の後姿を、何気なく見つめた時に、それに気づいた。
なんだこの、サイコロ頭。
サイコロのような立方体。どうして今まで気付かなかったのだろうと言うくらいに。
当時、若干反抗期だった俺は、父の顔の形をなじった。
「お前は母さん似だからなあ」
情けなく頭を下げる父を見るのが、たまらなく悲しかった。
あんたから遺伝したものなんて、何もねえよ。
その出来事以降、父と俺との間には見えない溝が出来た。母は専ら仲介役となっていた。悲しみに満ちた目を、両者に向けて。
・・
「それじゃあ……」
じゃあな、サイコロ頭。
見送る父を背に、車に乗り込もうとした瞬間、頭に激痛が走った。
あまりの痛みにその場にうずくまってしまう。
ギシギシという、何かがきしむ音。
手鏡代わりにスマートフォンの画面を顔に近づけてみる。
「なんだこれは」
画面に映る俺の顔は、四角になっていた。
側面も見てみるが、四角。
四角。四角。四角。
俺の顔は、綺麗な立方体となってしまったのだ。
思わずスマートフォンを落とし、茫然としている俺。
「お前の人生も、これから折り返しってとこだな」
後ろにいる四角が、にかりと笑った。
なんだかんだ言っても、子は親の性質を受け継ぐものです。