表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ミモザアカシア  作者: みりん
1▽ ミモザアカシア
3/4

03

「お昼は、ごめんね」


優の謝罪に秋は目をパチクリとさせ、その意味を理解しフフッと笑った。大丈夫といったはずなのに、謝らないと気が済まなかったのだろう。優はそういう子だと、秋はわかっていた。秋が笑ったことに優はなんで笑うのと頬を膨らます。


「ごめん。だって、あんなに深刻そうな顔で放課後残ってなんて言われたと思ったら、まさかそんなことだとは思ってなくて……ふふ」

「……もー。秋も、大丈夫だとか気にしてないとか、そうじゃなくて嫌なら嫌だって言ってよ。私甘やかすの、多分秋の悪いとこだよ」


秋は優を甘やかしているつもりはなかった。ただ本当にそう思ったから言っただけなのに、優にとっては自分を甘やかしていると思われていたのだろうか。それがまたおかしくて、優がとても可愛くて、秋は堪えきれずに笑い声を漏らしてしまった。


「ねえー!私真剣なんだけどー!?」

「だって、甘やかしてるだなんて……そんなことないよ。私だって、嫌なことはハッキリ言えるわ。優ちゃん、気にしすぎ」


そうかなあ、そうなの?と眉を八の字にした優が首を傾げる。秋は何も言わずに笑顔で返せば、優は秋が言うならそうなんだよねと勝手に納得したようだ。そして、今度は恐る恐るといった様子で秋に話しかけてきた。


「ねえ、秋って好きな人いないの?」

「……どうしたの、突然」

「だって、そういう話聞かないから。どうなの?」


優は純粋に疑問だったのだ。優も思春期の女の子であるから、色恋沙汰には興味がある。当然、自分も好きになった人ぐらいいるし、それを秋にも話したことがある。しかし、秋からそんな話は聞いたことがない。しばらく秋は黙っていたが、やがて堪忍したように口を開いた。


「いるよ」


頬を染め、たった一言呟いた目の前の少女は、物語に出てくる恋する乙女そのものだった。秋の目は愛しい人を見つめているようで、染まった頬はそれをより一層際立させていた。秋のそんな表情に見つめられ、優もつられて頬が染まっていくように感じた。それを感じさせないよう、誤魔化すようにへえー!と優は声を上げた。


「秋が好きになるんだもん、きっと素敵な人だよね」

「うん。とっても。私、ずっとその人のことが好きなの」

「……ずっと片思いしてるの?」

「そうだよ。きっと気づいてくれないまま、その人は私から離れて行っちゃうかも」


えっ!?と思わず声が出てしまった。秋のような子に好かれているのに、離れて行ってしまうとは、それよりも近くにいる人間なのか、いろいろな考えが浮かび優が出した答えは、秋の気持ちに気づかないなんて、なんて野郎だ!というものだった。


「告白とか、したの?」

「ううん」

「しなよ!秋に好きですなんて言われたら、誰だって断んないよ!」

「……そうかなあ。優ちゃんは、そう思うの?」


当然じゃん、だって秋だよ。私が男だったら、絶対好きになってる。秋の問いにそう答えると、秋はふっと下を向いて、そっかと呟いた。そして、机に手をつき、優に近づく。秋の様子が変わったことに気づいた優は、秋?と彼女の名前を呼んだ。次に秋の顔が見えたと思った瞬間、優の口が何かによって塞がれた。それが秋の唇であることに気づくのは、そう長くは掛からなかった。


******


ちゅ、とわざとリップ音を立てて秋の顔が遠ざかった。自分から顔を近づけてきたくせに、離れた彼女は自分の口に手を当て辛そうに眉を下げる。優はただ、さっきまで起こったことを飲み込めずボーっと秋の顔を眺めるのだった。真っ白になった頭で考えた優の、「なんで」と言う蚊の鳴くような声で言った言葉を秋は拾ったらしい。


「なんでだろうね」


初めて見る秋の顔と、震える声が焼き付いて離れない。


「おんなのこどうし、なのにね」


それだけ言うと秋は鞄を手にして教室を去って行く。優は椅子から立ち上がることも出来ずに、深い溜息をついた。さっきのなんだったのか、私の夢なのだろうか。夢ならどれだけよかっただろう。不幸なことに、優の口にはさっきまでの感触がはっきりと残っているのだ。

きっとこれからも彼女と仲良く過ごしていくのだと思っていた。私は確かに彼女が大好きだ、でもそれは友情であって、彼女も私のことを友情で好きでいてくれると優は思っていた。だけどそれは優の一方的な勘違いであり、秋の言っていたことを考えると、秋はずっと優のことを恋愛感情で見ていたのだろう。そう考えると優に目には自然と涙が溢れていた。


優には、これから秋とどう付き合っていけばいいのかなど、考えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ