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32 ノイとアルトの反撃!

 一方、事情がわからず時計台に吊された双子たちは、というと──

 時刻は十二時少し前。

 彼らは眠らされているわけでも、魔術を封じられているわけでも、この状況に悲観的になっているわけでも何でもなかった。


「なあ、この針だんだん近づいてくるぞ」


「あたりまえじゃん、動いてるんだから」


「で、十二時になったらどうなるんだ?」


「そりゃ、鐘が鳴るに決まってんだろ?」


「頭の上で鐘が鳴るのか? うるさいぞ」


「……それは勘弁だな。耳ふさげないな」


 間近に迫る時計の針を足で無理矢理押し返そうとするが、びくともせず双子たちはむぅーと唇を尖らせうなる。


「それよりも、さっきの奴」


「何か怪しいと思ったけど」


「やっぱり、怪しかったな」


 ちょうど今から約十分ほど前、学校から家へと向かう帰り道、目の前に現れた黒衣の魔道士に呼び止められ、何だ? と問い返すよりも早く相手に術をかけられ、気づいたらこの状況になってしまったというわけである。

 だから、彼らも何が何だかわからないのだ。


「だけど、敵ながら見事だったな」


「確かに。俺たちもまだまだだな」


「ちょっと悔しいけどな」


「いや、かなり悔しいぞ」


 言って、ふとアルトは気づく。


「あいつ敵だったのか?」


「兄ちゃんと何か争ってるっぽいからそうなんだろ」


 ほら見てみろ、とノイは王宮城門前にいる黒衣の魔道士と兄のイェンを目で示す。


「そもそも、兄ちゃん何でここにいるんだ?」


「イヴンもいるな。もしかして、出戻りか?」


「向こうについて早々に追い返されたのか?」


「きっと、兄ちゃんが何かやらかしたんだな」


「何かって……いったい何やらかしたんだ?」


「兄ちゃんの何かったら、アレしかないだろ」


 なるほど、女がらみか……と、アルトは納得してイヴンも気の毒だなと呟く。


「イヴンの奴、落ち込んでなきゃいいけどな。なあ、こういうときは、どうやって慰めてやるんだ?」


「そりゃあれだ。何も言わず肩を抱いて飲みに連れて行くんだ。俺たちもつきあってやるから、今日はとことん飲めってな。もちろん、お酒は飲めないけどな」


 ほお、と感心した声を上げるアルトがあれ? と首を傾げた。


「それよりもノイ見てみろよ。兄ちゃん困ってるみたいだぞ。何か、杖と剣をあいつに奪われたみたいだ」


「兄ちゃん杖なんか持ってたか?」


「空中からへんてこな杖、出した」


「何だあの杖。兄ちゃん趣味悪!」


 あはは、と笑う双子たちの目に、ヨアンがこちらに向かって指を突きつけている姿が目に入った。

 ちょうど、あれを見ても、強気でいられますか? とヨアンが勝ち誇った顔で言っている場面だ。


「なあ、もしかして俺たち、だしにされてるのか?」


「もしかしなくても、そうみたいだぞ。俺たちが捕らえられているせいで兄ちゃんどうにもできなくて困ってんだ」


「窮地ってやつか?」


「そういうことだな」


 二人の顔から笑いが消えていく。


「なあ、アルト」


 うん? とアルトが首を傾けてノイを見る。


「俺さ、うすうす感じてたんだけど、兄ちゃんって、ほんとはものすごい魔道の使い手なんじゃないかって」


「やっぱり、ノイも思ってたか? 実は俺もそう思ってたんだ。たまに兄ちゃんの〝気〟に触れると俺、身体が震える時があった」


「俺もだ。なあ、覚えてるか? ツェツイがうちに来て修行を始めた日のこと」


「もちろん覚えてるぞ。ものすごく部屋の空気がぴりぴりして、てっきり俺はツェツイが緊張してるのかと思ったけど」


「そうじゃなくて、あれは兄ちゃんの魔力だったんだ。兄ちゃんは部屋の中いっぱいに自分の魔力を満たして、ツェツイが魔術を発動させやすいよう誘っていた」


「兄ちゃんは師匠らしいことなんて何もしてないって言ってたけど、実は何もしてないわけじゃなかった」


「俺たちには突き刺さるような兄ちゃんの魔力も、兄ちゃんと魔力の相性がいいツェツイにとっては居心地のいい空間だったんだろうな……」


 やっぱり、兄ちゃんにはかなわないな……とノイはどこか切ない声を落とし、しょんぼりする。


「ノイ……」


 横で気遣わしげな目をするアルトの視線に気づき、ノイは今はそんなこと考えてる場合じゃないな! と、勢いよく首を振る。


「……なあアルト、空間移動は何度か試したことあるよな」


 もちろんだ、とアルトは答える。


「縛られた状態だとどうなるんだ? 縄から抜けられるのか? それとも縛られた状態のままか? 縄と繋がっている時計の針も一緒に移動するのか? そしたらこの時計壊してしまうのか?」


「そんなの、試したことないからわからないよ。こんなの初めてだし、最悪、ここから抜けられないって可能性もあるかもな」


 でもさ、とアルトとノイは目を見交わしにやりと笑う。


「ここでやらなきゃ、男じゃないよな」


「だな。兄ちゃんに顔向けできないな」


「なら、あの作戦でいくけどいいな?」


 軽い口調とは裏腹に、ノイは緊張した面持ちで黒衣の魔道士に視線を据える。


「いいぞ。手加減なしでいいんだよな」


「何言ってんだ」


 当然じゃないか、とノイはにっこりと笑顔を浮かべ、そして続けて言う。


「てことで、あいつに一泡ふかせてやるぞ」


「俺たちがただの魔道士じゃないってとこ」


「敵にみせてやろうぜ!」


 威勢のいい二人の声が重なる。

 刹那、双子たちの姿がこつぜんと時計台から消えた。どこへ行ったのかと探す間もなくアルトがヨアンの前に、ノイが黒衣の魔道士の前に姿を現し、じりっと地面を踏みしめる。

 唖然とする敵の隙をつき、勢いをつけて身体を回転させ相手の剣と杖を持つ手に鋭い蹴りを放つ。

 いつも、のほほんとしている二人からは想像もつかない行動であった。

 ヨアンの手から離れた剣を、同様に黒衣の魔道士の手から杖を奪い取ると、息の合った行動でイェンとイヴンに投げ放った。


「兄ちゃん!」


「受け取れ!」


 時計台から脱出し、剣と杖を取り戻すまでにかかった時間はほんの数十秒。

 パンプーヤの杖の持つ魔力が魔道士の張った魔法陣を打ち砕き、イェンの手に戻る。


「おまえらよくやった!」


 ずしりとした杖の重みを手に受け止めイェンは目を細める。この重みは無茶をしてくれた弟たちの覚悟の重み。

 兄の賛辞に双子たちは親指を立て、満足げな笑みを浮かべた。


「コケーッ」 


 イヴンの腕の中でおとなしくおさまっていたヤンが、大きく羽を広げひょいとイェンの頭の上にのる。

 まるで一緒に戦うと言っているようだ。


「おまえはさがってろ」


 イェンの言葉にイヴンはうなずき、一歩、二歩と後退し仲間の元へと戻っていく。


「気をつけて、イェン……」 


 ああ、まかせろ。


 心の中で呟き、イェンは身の丈以上はある杖を、頭上で一回転させ手になじませる。

 一瞬、空気に違和感を感じたのは他者を巻き込まないため、イェンが別空間を作ったのだ。

 他の誰も気づいていないだろうが、みなと同じ場所に立っているようで、イェンと黒衣の魔道士は別の空間にいる。

 派手な装飾をほどこされた杖の環の宝石が耳障りな音をたてる。

 黄金に輝く杖が陽の光を受け、嫌みなほど眩しく反射する。

 イェンは杖の先端に向かってゆっくりと指を滑らせ、改めてその感触を確かめる。

 さすがは大魔道士が使っていた杖、見た目は最悪だが秘めている力は底知れない。

 さわりと風が吹く。

 とらえた好機にイェンの口許に浮かぶのは不敵な笑み。

 静寂と緊迫した空気に誰もが固唾を飲む。

 双方ともに真の実力がどれほどのものかを知る者はいない。

 ずっと側にいたイヴンでさえ、イェンの本気を知らない。

 あんな真剣な顔をするイェンは初めて見る。まるで別人、と思ったであろう。

 杖の先端を相手に突きつけ、イェンは身がまえた。


「レ、レギナルト……た、頼んだぞ……」


 ヨアンが黒衣の魔道士に向かってそう言った。

 イェンは眉を上げる。


 レギナルト?

 それが、あの黒衣の魔道士の名?

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