表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

あらすじ必読な突発短編

私の幼馴染

作者:

 私と鈴香は、私の家の病院で出会った。

 幼い頃、体が弱い鈴香が入院していたから。

 人形のように綺麗な鈴香は、その頃から朗らかで優しい人柄だった。

 けれど、一度として鈴香の母親は見舞いに訪れなかった。


 小学校入学前に退院し、その後、母親が再婚して、キッズモデルとしてスカウトされた。

 学校で見かけても疲れたような顔をしていることが多く、放課後一緒に遊ぶこともできず、次第に授業への出席も少なくなっていった。

 担任が心配して声をかけたりしたけど、無意味だったらしい。

 私の両親も、さすがにどうかと思ってやんわりと言ったりしたらしい。

 小学生なんだからもう少し遊ばせてやるべきじゃないか、と。

 本人が望んでやっているから他人は口出しするな、と言われたらしい。

 そんなやり取りが何度かあり、両親は母親に意見するのをやめて、隙を見つけては鈴香を構った。

 この頃、母親も義父も遊び歩いていて、鈴香を放置していることが分かったから。


 鈴香の成長期は早く、その美貌がさらに深みを増していく。それに並行して、モデルとしての地位も上がっていき、初めて表紙を飾ったのは小学校卒業目前だった。

 その頃、鈴香は過労で倒れた。

 病院に駆けつけて来た事務所の社長から話を聞いて、両親は怒り心頭。私も子供ながらに鈴香の母親と義父に怒りがわいた。


 随分前から、鈴香の収入を巻き上げて遊興費にあてていたらしい。繁華街では有名な話で、カモにされていた節があるとのこと。

 4年の時、義父は仕事を辞めていた。

 鈴香は、10歳になるかならないかの頃から、一家三人分の生活費と遊興費を稼ぐために過労で倒れるまで働いていた。


 社長は、鈴香の意思を尊重しつつ仕事をさばいていたらしいが、家の中の事までは手を出せない。

 おそらく、仕事上、暴力は振るわれていないものの、精神的負荷はものすごかったのではないか、と父さんや社長は分析していた。

 実際に、どう扱われていたのかは鈴香が何も言わないから分からない。

 でも、これを機に、鈴香は母親と義父を見捨てることにした。


 それを察知したのか、鈴香が中学生になって1ヶ月もしない頃、義父は元妻が引き取った息子を引き取ってきた。

 そうせざるを得ない理由があったけれど、母親と義父の思惑は明白だった。

 倒れるまで我慢し続けた鈴香だ。何も知らない、血の繋がらない義理の弟の存在を放置できるかどうか。

 できるわけがない。

 母親と義父の思惑は大当たり。

 鈴香は、中学を出て高校に行かず仕事に従事することを選んだ。そうすれば、収入的には義理の弟を養えるようになる。法的な事は分からないけれど、私の両親や社長が後見人になれば出来ない事ではない、はず…。

 最終手段として、両親は鈴香と義理の弟を養子にすることを決めていた。鈴香には言ってないけど。

 弁護士に相談して、準備は整っていた。


 けど、義理の弟はどうしてか初対面から鈴香を嫌って避けた。それだけなら、まだ許せた。

 人見知り、血の繋がらない姉、気まずくなる要素はいくらでもあるのだから、私だって気にしてなかった。

 我慢強く自己犠牲的な部分がある鈴香は尚のこと。

 声をかけて、弁当(うちの中学は給食制じゃなかった)を作って、いつだって笑っていた。

 それが気に入らなかったのか、最初は無視するだけだったのに、罵倒と嘲笑が入るようになった。


 鈴香は成績が良くない。仕事に忙殺されて、授業に半分ほど出られないから。

 私が教えていたり(これでも5番以内を維持してる)したけど、限界はあるし、学校側も色々と配慮していたけど、そもそもテストに出られないことも多かった。

 結果が張り出される学校だったけど、そのせいで名前が載らない鈴香を、誰もがバカだと思っていた。

 実際、鈴香は非常に頭が良い。全国の中学生が受けるテストでは上の下を維持し続けていたから。

 それを知りもせず、義理の弟は酷い言葉で鈴香を詰った。


「頭の軽い尻軽が人に命令してんじゃねぇよ!」


 何が理由だったのか忘れたけれど、鈴香が窘めたことに対しての返答だった。

 そこに、私がいたことを二人とも知らなかっただろう。

 両親に言われて二人を呼びに来て、声をかけようとした瞬間だったから。


 私は、あの一言で義理の弟は敵だと思った。

 家族だからこそ、打ち解けるのに時間がかかるのだと思って、私は何も言わなかった。

 だって、中学の生徒会の面々には打ち解けて、可愛がられていたから。


 鈴香はモデルである為、校長から頼まれて広報委員をやっていた。文化祭とかの催し物の実行委員会も兼ねているから、モデルである鈴香は適任だろう。一般開放とか大々的にされているから。

 2年になって、早いけど広報委員長になっていた。だから、生徒会執行部のメンバーとして数えられる立場だった。

 ちなみに、私は副会長。


 つまり、鈴香以外には気持ち悪いくらい愛想が良かったんだよ。義理の弟は。

 私にも愛想が良かったけど、私は誰に対しても無愛想だからその通りにしてたし、嫌いだったからさりげなく避けてた。

 最初は猫みたいに威嚇してたけど、徐々に慣れたみたいにしていった。

 生徒会メンバーは鈴香と私を除けば女子は後一人だけだったし、男子との方が打ち解けやすいのは納得できた。その女子も、男子の一人と幼馴染だからその関係で慣れるのが早いんだろうと思えた。

 何より、モデル、という仕事で偏見を持っているのかもしれないと思っていた。

 実際、同級生とかにいたし。


 でも、それぞれに中々特殊な環境で育ったみんなだし、1年は付き合いがあるんだから、まさか鈴香を責めるなんて思わなかった。


 鈴香が友人と言える数少ない生徒会メンバーを、落としていった義理の弟は人を馬鹿にするだけあって、頭が良いのかもしれない。

 単純に、落ちたメンバーがバカだったのかもしれないけど。


 まぁ、結局、みんなが鈴香に偏見を持ってたってことがわかった。

 それでも、鈴香は責めずに皆の前から姿を消した。

 みんなは謝りもせず逃げたって怒ってたけど、謝る必要性はかけらもないし、逆に謝るべきなのはそっちだし、怒る前に心配するなり事情を聞こうとするなりやることはあるだろう。

 それもせずに罵詈雑言、いい加減、怒るよりも呆れる。


 中学に入る前から、病気だった。

 倒れた時の精密検査で発覚して、心労なども重なってひどく衰弱した。

 治る確率は高かった。だけど、日本では手術できる医者がいないから、鈴香の伯父さんの所に行くことが決まった。

 伯父さん? 母親の兄で、アメリカ在住の実業家。というか、名家の令嬢に一目惚れされて大恋愛をしつつ自分の力で地位を重ねて婿養子に入ったらしい。…こっちは実の兄妹なのに、この落差は何…。

駆け落ち結婚だったらしくて絶縁されてたみたいで、見つけるのに時間がかかったんだよ。

 引き取れる親戚がいないかと両親が探し回ったんだよね。ちなみに、父親の方は離婚した数年後に事故死してた。

 連絡が着いたのが、中学1年の秋頃。

 最初は訝しんでいた伯父さんだけど、自分でも調べて両親の話が本当だと分かって愕然としたらしい。実の妹が犯罪者とか信じたくないだろう。

 かなり無理をして大慌てで渡日(グリーンカード取得済みらしいから間違ってないはず)してきた伯父さんは、情に篤いのか鈴香を前にして号泣しながら謝っていた。

 …あの時は、母親とか義父とか義理の弟とかが酷すぎて、なんていい人って感動したけど、今思えば全力で引く事態だろう。良い年した大人が号泣して中学生に平謝りとか…。

 その後、お嫁さんの実家(アメリカ国籍だけど、日本人らしい)との話し合いや法的準備、そもそも帰国する為のスケジュール管理とかもあってかなり時間を食った。無理して来たしわ寄せがもの凄かったらしい。


 全ての準備が整い、鈴香の容体も安定して、事務所の方や仕事関係も片付けたのが、つい昨日。

 私は鈴香の側にいるしかなかったから役には立ってないけど。



※※※



「以上で終わります」


 静まり返った体育館。


 3年の2学期始業式の壇上で、私は全部ぶちまけた。

 鈴香と一緒にアメリカに渡るから、来月の生徒会選挙を前に引退する為、挨拶する機会を与えられた。内容は校長に話して許可をもらっているから怒られる心配はない。

 私立とはいえ、随分自由だな。ちゃんとした理由はあるけど。


「珠城…」


「何? 生徒会長様」


 振り返った先に、蒼白な顔をした生徒会長がいた。

 生徒会長は、一流企業の御曹司で文武両道、美形というチート性能を持つ。冷静沈着で有能だと思ってたけど、義理の弟にかまけて仕事の半分は私が処理せざるをえなかったほどにぐだぐだになった。

 …私個人は同性愛に偏見はないけど、世間的にはまだまだ風当たりは冷たいと思う。まぁ、ガンバレ。


「今、のは…」


「全部本当の事。あんた達が、知ることが出来たのに知ろうとせず、聞くことが出来たのに聞こうとせず、見ることが出来たのに見ようとしなかった事実の全て」


 知らなかった、聞いてない、なんて言わせない。

 いくらでも機会はあった。いくらでも動くことはできた。

 対象が義理の弟なら何を置いても動いた癖に、対象が鈴香になった途端放置していた。


 あまりにも悪辣な、その態度を私は間近で見て来たんだから。


「私は、あんた達が嫌いじゃなかった」


 生徒会の構成は、会長、副会長と書記が二人ずつ、会計、庶務、という形だ。


 私と同じもう一人の副会長は男子で、運動部の代表も務めるほど運動神経抜群、その代り、成績は中の中から中の下を行ったり来たりしている。

 書記の女子は男子副会長の幼馴染で、鈴香と並んで四大美少女(一人だけ誰か知らない)とか呼ばれ、頭脳明晰で家事が苦手というラノベに居そうなキャラだ。

 書記の男子は書記の女子に片思いをしている、完全なる文系で運動神経は……うん、成績は上の下あたり。

 会計は和菓子屋の末息子でおっとりしており、文武両道で愛嬌のある美形、会長に弟みたいな扱いを受けてちょっと甘ったれなところがある。

 庶務は……ずっと空席だったのに、義理の弟をねじ込んできた。


 執行部には各委員会の委員長も所属するが、その多くは義理の弟側。生徒も。

 会長の権力は強いし、実家に遠慮してしまう教師も多い上、こっちに従っていれば問題ないと言わんばかりのカリスマ性を持っている。それが、今回は悪い方向に働いた。

 会長が義理の弟側に居て、鈴香を睨むようになったから他の生徒達も右に倣えで邪険にするようになっていた。クラスメイトだけは通常通りに接してたみたいだけど。


「色々と特別視される環境で、それでも努力を欠かさないで人を見かけで判断しない。そんなところに好感が持てた」


 会長と会計は言わずもがな、男子副会長は父親が某球技のプロ選手だし、女子書記は母親が有名デザイナーで父親が元モデルだし、男子書記は父親が某文学賞

(ノーベルに非ず)を受賞したこともある純文学作家で祖父は大学教授だ。


「でも、それは上辺だけだったんだ」


「違うっ!」


「じゃぁ、どうして鈴香に何も聞かなかった?」


 叫んだ女子書記は、沈黙する。


「あんたは鈴香に言った。ちゃんと相手を見てあげて、と。そういうあんたは、鈴香をちゃんと見てた?」


「…っ、見てたよ! だって、友達だもん!」


「友達なのに、義理の弟の言い分だけを聞いて鈴香を責めて怒ったんだ?」


 義理の弟が、初めて弁当を持ってこなかった日の事だ。


 弁当を作っているのは鈴香。当然、義理の弟の分も。

 それを知らなかったのかもしれないけど、そんなことは関係ない。

 義理の弟は、夕食を作る鈴香に「お前が触った生ごみなんか食いたくない」と吐き捨てた。その頃には、鈴香は義理の弟が望むとおりに出来るだけやろうとしていたから、食べたくないというその言葉通りに、弁当も作らなかっただけの事。


「生ごみ、と言われて、それでも作り続けなきゃいけないのか? どうせ、知らないから完食してただけで、知ったら捨てるんだろう? そして、それを鈴香のせいにするんだろう? 分かりきっている結果なのに、どうして、鈴香だけが努力しないといけない?」


 虐げられ続けてもなお、罵倒され続けてもなお、嘲笑われてもなお、その相手に好かれる努力を続けるなんてよっぽどのドMじゃないと無理だろう。


「鈴香は頑張った。知ろうとした。聞こうとした。見ようとした。知ってもらおうとした。聞いてもらおうとした。見てもらおうとした。でも、全部台無しにしたのはそこのバカだ」


 一瞥した先で、呆然とした表情で立ちすくむ義理の弟。


「あんたが、バカバカしい勘違いをしてるってのはつい最近知ったけど、それでもあんたは私達鈴香の味方にとって害悪でしかない」


「勘違い…」


「さっき言っただろう。鈴香とあんたに、血の繋がりはない。あんたは、血がつながっていて、父親に引き取られて幸せに暮らしてきた、と思い込んでいたみたいだけど。どうしてそう思ったのかも意味が分からなかったけど、嫌った理由を知った時はもっと意味が分からなかった」


 そう、漠然と思っていたことの事実を私は知った。

 委員長の中で、唯一私と鈴香と仲の良かった風紀委員長であり四大美少女の三人目、城崎 真弓が自身を慕う後輩に頼んでいろいろと調べてくれていた。

 ようやく、つい数日前に知ることが出来た。


「あんた、母親に捨てられたって思って、その母親の娘なら最低な女だっていう意味わかんない図式になったんだってな。全く似てないのに、どうしてそう思えた? そもそも、捨てたんじゃなくて難病が発覚したから実の父親の元が良いだろうと思った母親があんたを託したんだ。クズに成り下がっていたのは知らなかったらしく、事態を知って療養中だというのに病院を抜け出そうとして慌てる羽目になった」


 実は、私の家の病院に入院していた。

 …ちょっと、自分が情けない。

 治るかどうかわからず、後遺症が残って働けなくなるかもしれないという懸念があって、託したらしい。投薬治療で随分回復して、自宅療養に切り替えられるかもってくらいにまで回復してるけど。


「バカみたいな勘違いで罵詈雑言誹謗中傷、よくできたな。尻軽、とか言ってたけど、鈴香には高校生の恋人がいる。3歳上で、鈴香の為にアメリカの大学を受験して受かるくらいに愛してくれている人が」


 鈴香を撮影した雑誌カメラマンの息子さんで、仕事場で知り合ったそうだ。

 恋愛談義にならない限り、自己申告するような内容でもないからこいつらが知らなくて当然だけど。


「ちなみに、私がここで全部暴露したのは、明日、鈴香の母親が虐待とかで逮捕されるからだ。自動的に、あんたの父親も捕まる。あんたも事情聴取くらいはされるだろう。……日常が崩れても、周囲からどう見られてどう扱われても、自業自得だから甘んじて受け止めろ」


 理解できないのか、したくないのか、呆然としたままの義理の弟も蒼白になっている会長達も何も言わない。


「今まで、ありがとうございました」


 一礼して背を向けるとまばらな拍手が聞こえた。

 見てないけど、多分風紀委員と鈴香のクラスメイト達だろう。

 他の生徒達なんて知らない。

 この後、事態を知ることになるだろう会長達の親がどうするかなんて知らない。


 私には関係ないし…。



※※※



「ずるいっす、先輩…」


「いや、俺のせいじゃねぇし…」


「でも、ずるいっすよ! 俺もアメリカ行く!」


「あと1年我慢しろよ!」


「あぁ、もう! 何でオレは2歳差なの?!」


「親に言え」


「言ったってどうにもなんないじゃないっすか!」


「分かってんだったら黙れ! うるっせぇ!」


「彼女の為に進路変えて、越境どころか海と大陸渡る人の言う事なんて聞かないっす! ずるい! 羨ましいぃっ!!」


「おまっ、最後が本音だろ!」


「当然じゃないっすか! 美穂ちゃんと遠距離とか耐えられない!」


「んじゃ、いっそ別れろ!」


「いやっす! 美穂ちゃん以外の女なんかどうでも良い! 道端の石程度にどうでも良い!!」


「酷いなお前!」









「「うるさいよ、そこの色ボケ共」」


「「ははは……」」








語り手:珠城(たまき) 美穂(みほ)

    総合病院を経営する一族本家の一人娘(超お嬢様)で、四大美少女の最後の一人(無自覚)。


美穂が作中、鈴香の母親と義父と義理の弟を名前で呼ばないのは、呼びたくないからです。なので、母親と義父の名前を考えていません。


法律及び医療知識はないので適当に書いてます。スルーしてください。


会話文にいたのは、鈴香の彼氏と美穂の彼氏(実はいた)です。最後の二重かぎかっこは、鈴香の彼氏の女友達二人(上)と男友達二人(下)です。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ