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金と銀〜異世界に降り立った無頼伝〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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追手大虐殺

 ヒロユキが塔を出ると同時に、石の扉が閉まる。馬車を見張っていたはずの骸骨は、いつの間にか消えていた。周りの雰囲気は重苦しい。タカシやチャムでさえ黙りこんでいるのだ。世界の崩壊、魔法石、ハザマ・ヒデオ……そして、ギンジの秘密。あまりにも多くのことを知ってしまった。しかも、元の世界に帰った後……ハザマを殺さなくてはならなくなってしまったのだ。

 頭の中を、様々な思いが駆け巡る……そんな状態のまま、ヒロユキは馬車に乗ろうとしたが――

「ヒロユキくん、待ちたまえ……皆さん、どうでしょう。ここらで食事にしませんか?」

 タカシの言葉に、みんな同意せざるを得なかった。よくよく考えてみれば、まだ陽は高い。夕食の時間には早過ぎるが、いろんなことがあったせいか、みな疲れていた。空腹を満たすよりも、まずは休みたかったのだ。全員、その場に座り込む。

 するとニーナが袋から干し肉や堅パンを取り出し、全員に配り始めた。そして、先ほどチャムが捕まえたウサギをガイとタカシが解体し、鍋に放り込む。ヒロユキは森に入り、乾いた木の枝を拾ってくる。そしてカツミが火を起こし、調理を始めた。


「なんなんなんなん!」

 奇怪な声を上げながら、美味しそうにウサギのスープを食べるチャム。一行を支配していた重苦しい空気が、チャムのおかげで消え去っていく。いつしか、皆の顔が和やかなものになっていた。ヒロユキは改めて、チャムの存在の大きさに気づかされる。いつも好き勝手に動いているように見えるが、いつの間にか、皆にとってなくてはならない存在になっていた。

 ガイにとって、だけでなく……皆にとっても大切な存在だ。


 だが、突然カツミが立ち上がった。スープを一気に飲み干し、じっと森の方を見つめる。

「見張られてるな」

 カツミの声。一行に緊張が走る。ガイは低く唸り、立ち上がろうとするが――

「まあまあ、とりあえずは食べましょう。見張ってるだけなら、ほっときましょうよ」

 タカシはスープをすすりながら、のんびりした口調で言った。そのあまりにも落ち着きはらった態度を見て、ガイは森の方を睨みつけながらも座りこむ。片手にナイフ、片手にお椀を持ちながら食べる。

 そしてヒロユキは、血の気が引いていくのを感じていた。食欲が消え失せる。そう言えば、さっきダークエルフが言っていたのだ……お前たちを探している者がいる、と。一体、何者なのだろうか。やはり、先ほどのエルフの仲間か……。

「ガイ、ヒロユキ……そんなに力むな。とりあえずは様子見だ。オレの読みが正しければ……ここにいる間は仕掛けてこないだろうからな」

 タカシと同じく、落ち着きはらった態度のギンジの言葉。ヒロユキはギンジの読みを聞きたかったし、何を根拠にしたものなのか知りたかった。自分には全くわからない。今まで、いろんなことがありすぎた。多くの戦いを経験してきたのだ。しかし、わざわざ自分たちを探し出し殺す……そこまでのことをした覚えはないのだが。

 その時、ヒロユキは一つの可能性に思い当たった。だが、頭を振ってその考えを否定する。あり得ない話だ。いくら何でも、そこまではしないだろう。そんなつまらんことのために、わざわざこんな森の中にまでやって来るだろうか?

 何のメリットもない。


 一行が食事を終えてから、三十分ほどが経過した。しかし、森の中にいる何者かは、動く気配がない。ただ、じっと見張っているだけのようだ。カツミは落ち着いた様子で、ゆっくりと周りを見渡している。その手には、バトルアックスが握られていた。一方、ガイとチャムは緊張した面持ちで、投げるのに手頃な石を拾っている。その横で、タカシは馬を撫でながら優しく語りかけている。

 そしてニーナは、不安そうな表情でヒロユキのそばにいる。不安を抑えるためなのか、さっきからヒロユキの腕を掴んだままだ。ヒロユキは自分も不安だったが、それでも優しい表情を作り、声をかける。

「ニーナ……大丈夫だよ。ガイさんやカツミさんは強いんだ。どんな奴が相手でも怖くない」

 そう、ガイとカツミの強さは超人的だ。さらに、ギンジとタカシもまた、並みの人間を圧倒する強さを持っている。全員で戦えば、どんな者たちが来ても撃退できる……。

 そう思いながら周りを見渡すと、ギンジと目が合った。ギンジは奇妙な視線を自分に向ける。ヒロユキは戸惑ったが、それは一瞬のことだった。ギンジはすぐに視線を移し、手元の拳銃をチェックし始めた。チェックしながら口を開く。

「どうやら、塔のそばにいる限りは安全なようだ。しかし、いつまでもここにいるわけにもいかない。そろそろ出発だ。滅びの山とやらにな」


 森の中に作られた道……その道に沿って、馬車はゆっくりと進む。タカシはいつものように、ヘラヘラ笑いながら馬車を操る。何者かに見張られているというのに、全く緊張した様子がない。荷台では、全員が檻の中に入り、盾代わりの遮蔽物の後ろに身を隠していた。今や、ヒロユキにもはっきりと感じられる。得体の知れない者たちが、自分を見張っているのだ。木の陰から、馬車に付いて来ている。人間のように見えるが、はっきりとはわからない。

 しかし、向こうも痺れを切らしたらしい。遂に動き始めた。まず、木の陰から姿を現した者が数人。みな革の鎧らしき物を着て、短剣を所持している。その数人が馬車の前に立ちふさがった。同時に――

「お前ら、ちょっと待て……そこにいるのはニーナだな? お前らは、白魔術師が管理する魔法少女を強奪したって嫌疑がかかってるぞ。おとなしく来てもらおうか……」


 ヒロユキは愕然となった……先ほど、馬鹿馬鹿しいと一蹴した思いつき。それが当たっていたのだ。ニーナを取り戻す、そのためだけに、白魔術師たちは追跡者たちをよこしたのだ。ニーナを取り戻して、廃棄処分にする……ただそのためだけに。


「嫌だと言ったら……どうするんです?」

 タカシの声は落ち着いたものだった。顔にはヘラヘラ笑いを浮かべている。同時にカツミとガイとチャムも立ち上がり、馬車から降りる。カツミは例によって片手にバトルアックス、片手に日本刀。ガイはナイフを、チャムは石を握りしめている。みんなで休んでいる時などに、ガイがチャムに石の投げ方を教えているのをヒロユキは見たことがある。チャムは獣人特有の腕力と勘の良さを活かし、凄まじいスピードで石を投げることができるのだ。


「嫌だと言うなら、死んでもらうだけだ。もうじき、ここに援軍が来る。腕利きの戦士が三人、それと白魔術師だ。オレたちと違い、荒事専門だぜ……お前らがどんだけの者か知らんが、奴らには勝てない」

 そう言いながら、リーダー格らしき男は短剣を抜いた。周りの男たちも、同じように武器を構える。ただのチンピラではなさそうだが、同時に訓練を受けた兵士とも違う。恐らくは……見張るためだけに召集された者たちなのだろう。

 そしてヒヅメの音を聞き、ヒロユキは後ろを見た。今さっき来た道から、何かが迫っている。馬に乗った者たち……みるみるうちにこちらに接近して来る。ヒロユキは思わず、ニーナの手を握った。そしてニーナの顔を見る。すると、ニーナの顔が蒼白になっていることに気づいた。まるで死人のようだ。

「ニーナ……しっかり……しっかりするんだ……大丈夫……大丈夫だから……」

 ニーナの手を握りしめ、声を震わせながら励まし続けるヒロユキ。いや、ニーナを励ますと同時に、自分をも奮いたたせようとしていたのだ。

 大丈夫……大丈夫だ。

 ガイさんとカツミさんは強いんだ。それにギンジさんやタカシさんにチャムもいる。あんな連中には絶対に負けない。


「あんたら、おとなしくするんだな。上手くすれば、一人……いや、二人くらいは命を助けてもらえるかもしれない。しかし、抵抗するようなら……全員、この場で死ぬ」

 リーダー格らしき男はそう言うと、短剣をちらつかせる。他の男たちも同様に、めいめいの武器――棍棒や手斧といった物――で威嚇してくる。この雰囲気から察するに、RPGで言うところの盗賊的なボジションの者たちなのだろう。だが、人を殺すことには何のためらいもなさそうだ。

 そして……馬に乗った者たちが追い付いて来た。鎖かたびらを着て、腰からは剣をぶら下げている者が三人、そして白いローブを着ている者が一人。馬を降りると、三人は剣を抜き、こちらにゆっくりと近づいて来た。同時に盗賊たちも動く。全員で馬車の周りを取り囲んだ。

「ギンジさん……こいつはどうしましょうかねえ。交渉しますか?」

 タカシはこんな状況にも関わらず、ヘラヘラ笑いながら尋ねる。ヒロユキはすがるような目でギンジを見た。今回の相手は人間だ。もし話し合いで済むものなら――

「いや、これは無理だな……仕方ねえ、今回は全員殺そう」

 ギンジの冷酷な言葉。

 と同時に――

 待ってました、とばかりにガイとカツミが襲いかかり、チャムは別方向の者たちに石を投げつけながら飛びかかって行く……。


 戦い……いや、戦いと呼べるようなものではなかった。一方的な虐殺、としか表現しようがなかった。あっという間に盗賊たちは斬り殺され、死体と化していく……。

 その光景を見た白いローブの男の表情が変わった。男は石の埋め込まれた杖を振りかざし、カツミのいる方向に手をかざす。次の瞬間、光の矢のようなものが数本出現し、カツミめがけて飛んでいく――

 光の矢に貫かれ、胸を押さえて膝を付くカツミ。そこに襲いかかる、鎖かたびらの男たち……剣を振り上げ、カツミめがけて斬りつける――

 その瞬間、ガイの前転しての浴びせ蹴りが炸裂し、男はバランスを崩す。しかしガイは止まらない。倒れた状態で男の右足首を掴み、両手で捻り上げ――アンクルホールドという関節技だ――、右足首の関節を瞬時に破壊する。悲鳴を上げ倒れる男……。

 そして、残りの男たちに飛びかかっていったのはチャムだった。男が剣を振り上げた瞬間、体当たりを食らわす。バランスを失った男の体を、獣人特有の腕力で強引に引き倒す。接近戦に持ち込めば、剣の利点は大幅に失われるということをチャムは熟知している。そして獣人の闘争本能の赴くまま、兜を引き剥がして上から何度も殴りつける……それと同時に、白ローブの男に襲いかかって行ったのはタカシだった。普段のヘラヘラ笑いをそのままに、突っ込んで行って殴り倒す。白ローブの男は暴力に慣れていないのか、タカシの一撃であっけなく倒れた。だが、タカシは止まらない。ヘラヘラ笑いながら、容赦なく顔面や首を踏みつける。何度も何度も……そして何かが砕けるような音が響き、男は動かなくなった。白ローブを、己の鮮血で真っ赤に染め上げ……。

 そして残りの一人は、ギンジの銃弾を至近距離から顔に喰らい、何が起きたのかわからないまま絶命していた。


 ヒロユキは馬車の上で、じっとニーナの手を握っていた。どうすればいいのかわからなかったのだ。自分がいても足手まといになる、という思いがあったのももちろんだが、それ以前に……。

 人を殺したくなかったのだ。ヴァンパイアは人間とは違う怪物だ。だからこそ、殺すのもやむを得ないと納得できる部分はあった。しかし今回は違う。全員が人間なのだ。ニーナを守るためとはいえ、大勢の人間が死んでしまった……。

 その時、手に妙な感触。水滴のような何か……ヒロユキが横を見ると、ニーナは肩を震わせながら涙をこぼしていた。顔を歪ませ、奪われてしまったはずの声帯を振り絞り、声にならない嗚咽を洩らす……ヒロユキは何も出来なかったし、何も言えなかった。ただただ、己の無力さを呪うことしかできなかった。


「ヒロユキ、ちょっと来い……お前に話がある」

 ギンジの冷たい声。ヒロユキはニーナの手を離し、馬車から降りた。そしてノロノロと歩き出す。ギンジも黙ったまま、ヒロユキの少し先をゆっくりと歩いていた。

 歩き続け、皆の姿が見えなくなるくらいの距離に来た時、不意にギンジは足を止めた。そして口を開く。

「ヒロユキ……はっきりさせなきゃいけないことがある。お前ともここまで一緒にやってきた仲だ……お前に決めさせてやろう。ニーナをこの場で殺すか、それともニーナ一人を助けるために、死体の山を築く覚悟があるか……お前はどっちを選ぶんだ?」






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