86話 初敗北
『ヘカトンケイル』のメンバーは全員デカイ武器を使うようだ。
俺と一番最初に話したおっさんは両手斧。
その右にいる人は大剣。
その左のおっさんはバカでかいメイス。
一発でも喰らったら俺はKOだな。
シュウなら3発くらい耐えそうだが。
「久しぶり、おっさん。今日は宜しく頼むぜ。」
「そうだな、確かに久しぶりだな。
それにしても、お前さんの成長速度には驚かせてもらった。
凄いもんだな。
まあ、今日はお互いに頑張ろうじゃないか!」
俺とおっさんは握手をする。
うわあ、手が分厚い。武器を何年も握っている証拠だな。
「さあ!まずはお互いのリーダーが握手ぅ!
どうやらこの二人は面識があるようだぞおぉ!」
司会も喋ってる喋ってる。
ていうかこの世界にマイクがあるとは。
いや、何かの魔法で代用しているのだろう。
握手を終えた俺達は審判に促されてそれぞれのスタートラインに立つ。
よし、今のうちに。
(マジックサーチャー)
情報収集は大事だからな。
一応これはルールから外れていないので罰せられることはない。
両手斧のおっさんが水属性、大剣のおっさんが少しだけ雷属性を持っている感じか。
よし、作戦は決まった。
(シュウ、試合が始まったらメイスを持ったおっさんと勝負してくれ。
ギルは大剣を持ったおっさんと。
ただ、大剣を持ったおっさんは少し雷属性を使ってくるはずだ。
俺は両手斧を持ったおっさんとやる。いいな?)
((分かった))
ここで二人が「何で?」とは聞かない。
俺の作戦を信頼してくれているのだろう。
まあ、作戦と言っても俺が出来るだけ頑張って両手斧のおっさんを倒し、
その後すぐに二人の支援に向かうだけだが。
というかこれくらいしか思いつかない。
なんせあちらは一発当てるだけでこっちには甚大な被害が出る。
武器の破壊力が明らかにヤバそうだし。
だからこちらにとって相性が良いように組まないといけない。
大剣の人とギルが組む理由は、ギルの高い身体能力と新しい大剣が理由だ。
メイスや両手斧に比べて大剣はガードがしやすい。(モンハンより)
となると攻撃力の足りない俺やシュウじゃ禄にダメージが通らない筈。
けど、『重力魔剣』とギルの筋力ならダメージが結構行くはずなのだ。
続いて、シュウがメイスの人と組む理由。
いや、ぶっちゃけると無い。
シュウなら大抵の攻撃は防げるから、作戦が俺のための時間稼ぎである以上
誰と組ませてもいいのだ。
が、一応あのバカでかいメイスならガードが一番しにくい。
つまり、防御特化なシュウでも一撃を入れられる可能性が高い。
要するに可能性の引き上げが目的だな。
最後、俺と両手斧の人と組む理由。
単に俺が一番速いからだ。
両手斧ってのは突く、薙ぐ、潰す、叩き切る、柄で殴る、引っ掛ける、
と色んな動きができる。
ギルにそれを勘だけで躱せ、てのも酷だし、シュウに全部受けろ、てのも
キツイ。
だったら純粋なスピードが一番で『マジックガード』も使える俺が適任だと感じたからだ。
説明が長くなった。
もうそろそろ審判がホイッスルもどきを銜え始めたので俺も身構えた。
――――――――ピーーッ!!!
「試合が始まりましたぁ!」
ホイッスルもどきがなると同時に俺は全員に『ウィンド・ブースト』と
『グラウンド・ブースト』を掛ける。
「さて、今回は素晴らしい観察眼で有名なシフ氏を解説に迎えております。
どうですか、シフ氏。ここまでの感想は。」
「やはり、ロイド君の動きが素晴らしいですね。
開始と同時に無詠唱で『ウィンド・ブースト』と『グラウンド・ブースト』
を掛けている様子。」
「ほう、それは素晴らしいですね。
あーっとぉ!両チームが互いに激突したぁ!」
俺は両手斧のおっさんと接触するなり8本の魔手の連続攻撃を開始した。
まずはこれで一気に状況をこっち側に傾ける!
「なかなかエゲツねえな…………。
が、こんぐらいなら俺だって防げる!」
「な!?おっさんなんで弾けるんだ!?見えないはずだろ!?」
「だーれが教えるか。」
「うわあ、酷いな。会った当日に「冒険者として困ることがあったら俺等に言ってくれ!」と言ってたくせに。」
「何故それを今掘り返した!?」
「シフ氏。私にはどうも『斧鬼』のジグムントが我武者羅に斧を振り回しているようにしか見えないのですが?」
「いえ、違いますね。あれはロイド君の魔手ですね。」
「ほお、魔手とは?」
「魔術師の魔力訓練を極めた先にある物です。
大方彼は攻撃魔法を使えないのでそれを攻撃手段としているのでしょう。」
「彼はあの年齢にして魔力訓練を極めているのですか。成る程。」
おお、解説さんありがとう。
魔手って魔力操作の奥義みたいのだったのか。
道理で使える人が少ないわけだ。
「そろそろ俺も本気でいくかな!
喰らえロイド!『兜割り』!」
遂に『豪気』を使った技できたか。
言ってなかったが、どうも『豪気』というのは必殺技っぽいのに変換できるようなのだ。
警備兵に使われた『幻影一閃』もこれにあたるらしい。
まあ、要するに普通に切った時とかよりは格段に強い。
よって俺の魔手が全て蹴散らされる。
が、これはある意味チャンスだ。
この『豪気』を使った必殺技は使うとちょっとだけ隙ができる。
この隙を使って俺は魔手をねじ込む。
こいつで体勢を崩してくれれば必殺技を中断できるはず!
そういう俺の目論見はすぐに外れた。
弾かれたのだ。肉体に。
一応鎧で覆われていないところを狙ったのだが、『豪気』で強化された彼の
肉体は硬かった。
ここで俺は悟る。
魔手一本じゃ圧倒的に力不足………………!
が、その対抗策を考える暇は今の俺にはない。
体勢を崩せなかったせいで必殺技が中断できなかったからだ。
迫る両手斧。
喰らったら即ゲームオーバーだ。つーか間違いなくオーバーキル。
が、ここはせめてもの時間稼ぎに
(マジックガード!!)
生み出された魔力の壁は両手斧を止める。
が、それも一瞬のこと。
すぐに亀裂が走る。勿論『マジックガード』に。
けど、俺にとっては両手斧と『マジックガード』が少しでも均衡している、
という事実が大事なのだ。
力が均衡することにより、おっさんは必然的に腕を伸ばすこととなる。
流石、鍛えているだけあってその腕は太く長い。
対して、俺の体は非常に小さい。
これが何を意味するか。
簡単だ。
俺の体は両手斧とおっさんの間に滑り込める!!!
おっさんは突然滑りこんできた俺に驚き、両手斧を手元に戻そうとする。
が、この体勢でそれはキツイ。
俺は予め合体させておいた魔手と魔足を使い、
(両手背負投ェ!!)
投げ飛ばした。
本来、いくら柔道といえどそこまで体格差がある場合、投げられない。
けど、今のおっさんの体勢は非常に前のめりになっていた。
だから俺でも投げ飛ばせたのだ。
「「「オオオオオオオオオオオオオオ!!」」
周りから歓声が上がり、
「素晴らしい動き!必殺技の勢いを利用し投げ飛ばすとは!
シフ氏、今のをどう思います?」
「ふむ、ロイド君はどうやらジグムントさんの体勢を前のめりになるよう
『マジックガード』を使っていました。
鮮やかなコンボです。思考も至って冷静ですね。」
よし、ここからラストスパートだ。
一気に俺は集中し、おっさんの落下点を見極める。
一応この時間で魔手を合体させてもいいのだが、こんな短時間じゃ
せいぜい5本合体させるのが限界だ。
あ、言うの忘れていたが魔手ってのは合体するのに少々時間を使う。
いつでもどこでもトンデモな一撃が繰り出せるわけではない。
(あそこだな。)
落下点の検討をつけた俺はその場に(アース・ホール)と(アクア・ムイ)を
使う。何をするか、だって?
「終わらない地獄!!!!」
一ヶ月ぶりの降臨だ。
つーかもう「終わらない地獄」で統一するかな。微妙に気に入ったんだ。
「―――!―――!」
「―――。―――。―――。」
司会と解説が何か話しているが、今の俺にはもう聞こえていない。
おっさんがナトリウムを破壊する前に8本合体した魔手の連打で一気にとどめを刺す!
おっさんは投げられた後も意識を保っていたようで、炎を確認するなり
『アンチフレイム・ウォーター』を使う
が、そんな冷静な対応もナトリウムに対しては逆効果。
おっさん、司会、解説が何か叫んでいるがもう既に俺の耳には何も
聞こえていない。
ただ、目の前のこの人を貫くのみ!
親切にしてくれた人を容赦なく貫くとか我ながら酷い人間だとは思うが、
まあ仕方がない。これは試験なのだ。
(『ウィンド・ブースト』!いっけえええええええっっ!!!!)
魔手を思いっきり打ち出した瞬間。
視界が反転した。
「!?」
そして、気づく。
こいつぁメイスだ。俺は今、メイスに横殴りされた。
幸い、防具のお陰でそこまで痛くはない。
が、お陰で俺は現在スタジアムからフライアウェイ!しようとしている。
くぅ、メイスのおっさんに殴られたということはシュウがやられたのか。
すぐに形勢逆転のためにスタジアムの壁に受け身をとろうとした俺は
飛んできた大剣に腹を貫かれた。
「ガハッ。」
な、何が起きた!?
俺が光に包まれる中、最後に俺が見たのは何かを投げ終えたポーズをしている大剣のおっさんだった。
おい、ギルもやられたんかい……………。
そんなことを考えながら俺は控室に転送された。
今気づいたんですけど、この小説ぶっ飛ばしてスカッとするような奴がほぼいないような………………。
どうにかして出したいですね。