84話 人間型ATM(引き出し専用)
防具を買ってから1ヶ月が過ぎた。
最近煙玉の需要がようやく下がり始めたお陰で、俺はもう既にブラック企業
状態にはならずに済んでいる。
といっても一日30個は売れるのだが。
だんだん金銭感覚も狂ってきたぜ。
そんな俺だが、今日もいつも通り貴族やら商人やらに届け出をし
現在ギルドでグランさんに報告をしているところだ。
「ロイド。凄え言いたくないんだが、お前ら『イレギュラーオルフェン』は
もうEランク昇格試験受けられるようになったぞ。」
「ひゃい!!??」
やべえ、変な声出た。
おいこらチャンネー軍団、「かわいー」とか言うな。
誰だってビビるだろ。いくら何でも早すぎねえか!?
「ホント、お前どうなってんだ?あのクソギルマスと同じくらい昇格が
早いんだが。」
ごめん、今ちょっと傷ついた。
あのギルマス(m9(^Д^)プギャー)と俺に共通点があったとは。
「因みに昇格試験への条件って何?」
「クエストを150個達成、そのうち60回以上が討伐系であることだな。」
「あれ?ギルたちってそんなに討伐してたのか?」
「ああ。中々に凄いコンビネーションだったらしいぞ。
攻撃は全てシュウが無傷で耐え切り、ギルが全部一発で屠ってたらしい。
何でももう既に少し『豪気』が使えるって聞いたが、本当か?」
あいつらもチートだったか。
つーか前に「『豪気』使えるようになったぜーーーーー!!!!」て
叫んでたな。
「前に「『豪気』使えるようになったぜーーーーー!!!!」て叫んでたから使えるんじゃないか?」
「流石は加護持ち、てことか。
とりあえず、昇格試験は受けるか?」
「内容は?」
「模擬戦だな。まあ、勝つ必要はねえ。
Eランク相当の力があることがわかりゃあいいんだ。」
「じゃあ、受ける。その前にちょっくら武器の調達行ってきていいか?」
「ご自由にどうぞ。勿論パーティで受けるよな?」
「当たり前だ。じゃあ武器の調達が終わったらここに来ればいいんだな?」
「おう、そういうことだ。あ、『必ず』今日中に来てくれよ。」
「了解した。じゃ、行ってくる。」
何故グランさんが『必ず』と強調したのかはわからないが、とりあえず
ギルとシュウを連れて『サイクロプスの巣窟』に行こう。
「シュウ、ギル!起きろおお!!!!」
俺は家に帰るなり昼寝している二人を起こした。
勿論『アンチスリープ』で。
や、やだー。まさか暴力で起こすわけ無いじゃないですかー。
え、ギルマスを起こそうとした時(ryだって?
ふっ、あれは幻覚だ、うん。
「なに?何かあったの~?」
ああ、まだ寝ぼけてるな、こりゃ。
「聞いて驚くなよ。何となぁ、俺等はどうやらEランク昇格試験を受けていいらしいぞ!」
「「やったーーー!!!」」
よし、完全に起きたな。
「んで、どうやら昇格試験は模擬戦らしいから、武器の調達に行こうぜ。
金はたんまりあるしさ。」
2億メルくらいあるからな。
2000万円だぞ、2000万円。
「確かにこれも結構ボロいしなぁ………………。」
「僕の盾もヒビ入ってるしね。」
おいおい、よくそれで使う気になったな。
「つーことで、『サイクロプスの巣窟』に行くぞ!」
「いやー、もうちょい重い大剣がほしいな!」
「僕もなにか良い攻撃手段がほしいな。」
いや、ギル。その大剣以上の重さってどういうことだよ。
それって俺が魔手を2本使ってやっと持てるくらい重いはずなんだが。
「おっさ~ん!また来たぞ!」
「その声はロイドか!要件があれば地下に来い!」
「了解!」
俺等はいつも通り地下に行った。
ガシャン、ガシャン。
地下ではおっさんが武器防具の並べ替えをしていた。
「おう、ギル坊とシュウ坊も一緒か。どうした?」
因みにおっさんは俺以外の男子には「~坊」と呼ぶくせがあるっぽい。
何で俺は違うんだろうか。
「今日模擬戦するからよ、この二人にいい武器を見繕って欲しいんだ。」
「そういうことか。なら前回通り手にとって感じてみろ。」
ギルとシュウは言われたとおりにそれぞれ大剣、盾に触れていく。
「そういやおっさん、シュウが何かしら攻撃手段を持ちたいと言ってたんだが、何かないか?」
「確かシュウ坊は大盾一つで戦う感じか。
うーむ、大盾を叩きつけるだけじゃあ確かにキツイな………。
っ!そういえばいいのがある!ちょっくら待っててくれ!」
おっさんは良い物を思い出したのか工房に戻っていった。
流石おっさん。何でもあるんだな。
数分しておっさんは戻ってきた。
おっさんの手にあるのは真ん中にでっかい棘のついた大盾だ。
シュウがすっぽり隠れるくらいの大きさだな。
「おっさん、それは?」
「これは『槍付き大盾』名づけて『パラディンシールド』だ。
これはスイッチをいれると槍が固定されるんだが、スイッチを切ると
槍が衝撃をうける度に大盾の中に収納されるものとなっている。」
スイッチを切ると手品のナイフみたいになるのか。
あれだ、切腹をするフリでよく使う奴。
「つまり、攻撃するときはスイッチを入れて、防御するときはスイッチを切ると?」
「そういうことだ。ただ、これを使っていると使用者の負担が高すぎてな、
前にこれを使っていた奴は腕を折っちまったんだ。」
それはキツイな。
でも、そんくらいのデメリットなら。
「大丈夫、シュウは異常に頑丈だから。
前なんて剣を腕で止めたんだぜ?」
「凄えなそれは!ならコイツが使えるな。おいシュウ坊、聞いてたか?」
「聞いてました!是非とも使わせて下さい!!!」
「そんなに畏まらなくていい。まけて1000万メルで売るが、買うか?」
あー、俺が昔敬語を教えたの意味なかったなぁ。
冒険者でそんな敬語使う機会なさそうだし。
「買う!買うよ!ロイド、お金出して。」
「了解。おっさん、買いだ。」
俺はポケットから1000万メルを出した。
「流石は煙玉の開発者ってところか。金がたんまりとあらあ!」
「我ながら8歳児が持って良い金じゃ無えよな。
まあ、こうやって装備とかにどんどん金は飛んで行くんだが。」
「そうかそうか。なら俺が絞りとってやろう!」
「おっさんの装備はいいからな。すぐに絞られちまうぜ。」
「「アッハッハッハッハ。」」
「何でだろう。僕、今凄い疎外感を感じてる。」
気のせいだぞ、シュウ。