78話 狂っちゃってもハードモード
先生の家へ帰ってきた俺は目の前の光景に思わずたじろいだ。
「えいやっ!」
「甘いっ!踏み込みを深くしろ!」
「せい!」
「シュウは体重移動がなっていない!」
シュウとギルが元孤児の冒険者に剣を教えてくれていたのだ。
いや、ちょっと待て。
シュウはともかくギルまで訓練だと!?
「お前ら、熱でも出たのかっ? 」
そうだ、これは何かの頭の病気だ。
まずい、ウィルスが脳を侵食する前に『ヘイレン』を掛けねば。
「何でロイドヘイレンを掛けてんだ?」
「ギルが訓練するとかありえないだろ!
つまりこれは何かの脳を侵食する病気のはずだっ!」
「ロイドの俺に対する評価が酷ぇ!?」
「いや、これは正当な判断だよ、ギル。
ロイドがこうなるのも無理は無い………………筈。」
そろそろおふざけの『ヘイレン』もやめるか。
「で、本当にどういう成り行きだ?
真面目にギルが訓練するとか考えられないんだが。」
「いやー、ロイドに置いて行かれた後寝ようと思って家に帰ったんだがよ、
この兄ちゃんが俺等を鍛えるって庭に連れだしたんだよ。
何でも『豪気』て呼ばれるやつを使えるようにしてくれるらしいんだ!」
「え、ちょっとデニーさん、『豪気』てなんすか?」
あ、因みにこの人の名前はデニーという。
体は平凡そうだけどCランクらしい。
「あれ、お前ともあろう奴が知らんのか。
『豪気』てのは体力を元にして作られるエネルギーだ。
それを使うと剣が伸びたり身体能力が上がったり色々出来る。」
なん……………………だと!?
「ぜひとも俺にも教えてくれーーーーーーー!!!!」
遂にっ!この足以外ヘボい身体能力を克服する時が来た!!!!
「いや、済まないが身体が小さい奴は『豪気』が使えねえんだ。」
「バカなっ………………。ガクッ」
「おーい、ロイドー。どうしたー。」
なんてこの世界はハードモードなんだ。
俺は意気消沈したまんま二人の訓練を眺めていた。
すんげえ悔しい。
「すみませーん!ギル様とシュウ様はいらっしゃいますかー?」
先生を未だに勧誘してくる貴族達が諦めて家に帰っていった時間帯に
突然声が聞こえた。
ギルとシュウ?先生の勧誘じゃないのか?
飯を食っていたギルとシュウはとっさに席を経ち、ドアを開けた。
そこにはなにか書かれている紙を持ったチャンネー1がいた。
「あ、これ請求書です、では!」
彼女は玄関に紙を置くとパーッと帰っていった。
「おい。ギル、シュウ、その紙は何だ?」
「俺、字読めねえからわかんねー。」
「僕もわからない。」
「ああ、そうだったな。分かった、俺が読む。」
そう言って紙を手に取った俺はビビった。
・差出人 冒険者ギルド イタルペナ支部
・用途 Fランク冒険者 シュウ、ギルへの請求
机1脚 計200000メル
椅子2脚 計150000メル
合計350000メル
以上のお支払いを一ヶ月以内にお願いします。
「おい、これはどういうことだ。」
「こ、これはだな……………。」
「羽目をはずしてやっちゃったというかなんというか………………。」
「よし、詳しく聞かせてもらおうか。」
「「は、はいぃぃぃぃ。」」
「何故だろう、ロイドが少し大きく見える。」
「奇遇だな、俺もだ。」
「ていうかしょっぱなから35万メルか。流石だな。」
「どうする?アタイ達が払ってあげるかい?」
「いや、やめておこう。それよりこの状況を見て楽しもう。」
「「「だな!」」」
先輩方がなんかニコニコしながら話してたが、聞こえていない!
「要するに、俺がいなくなった後勢い余ってみんなで幾つか椅子と机を壊してしまったということだな?」
「う、うん。」
「マジですまねぇ………………。」
かーっ。折角真面目に訓練してたのにこれじゃ台無しだ。
「まあ、これはイレギュラーオルフェンに対する請求、ということにしておこう。俺も払ってやるよ。」
「おお!流石ロイド!太っ腹!」
「調子のんな。
んじゃ、明日はめいいっぱい稼ぐためにお前らを酷使するからな。
まさか、自分たちのせいで借金背負ったのに協力しないなんてことはないよな?」
俺は全力で二人に微笑んでやった。
「「お、お手柔らかにお願いします…………。」」
よし、これで兎狩りにこいつらを酷使できるな。
実績も上がるし、二人を酷使しても遠慮もしないで済む。
いいことづくめだ。
金はこっそり砂糖を換金して勝手に返しておこう。