77話 貴様ァ!俺に恨みでもあるのかぁ!
俺は30分の探索の末に兎のいるスポットを見つけることに成功した。
思わず喉がゴクリ、と鳴る。
グランさんが面倒い、と言っていた程だ。地球の兎とは違うのだろう。
さて、兎を狩る前に俺の現状を教える。
『リフレクトハイド』で姿は消してあり、森の中にいるために臭いはバレにくいはずだ。
そして、上空には俺の魔手が8本合体した状態でスタンバイしてある。
これを『アクア・ブースト』で強化した『ウィンド・ブースト』を掛けて
打ち出すだけ。
よし、殺ろう。
(アクア・ブースト!)(ウィンド・ブースト!)
よし、発射だ!
――――――ギュオン!
俺の最速の一撃は、寸分の狂いもなく――――――――
――――――――グサッ。
――――――地面に突き刺さった。
「!?」
何でだ!?完全に視覚外からの一撃だったはずなのに!
地面にそれなりにめり込むような速度で撃ったのに!?
何で躱された!?
俺が呆然としている間に兎は逃げていく。
俺はただただそれを眺めることしか出来なかった。
「あー。新人冒険者によくあるやつだな。
簡単そうで報酬が美味いから誰もが受けたがるんだが、まあ失敗するな。
あいつら滅茶苦茶危険察知能力高いのと、速いんだ。
誰もが受ける洗礼みたいなもんだから気にすんなって!」
俺は兎を諦めて、ギルドに帰ってきた所でグランさんにそう告げられた。
「いや、それを先に教えてくれれば失敗しなかったよな?」
「だってお前何でも規格外だしさ、凄え失敗させてみたくなったんだよ。」
「性格悪っ!?」
「落ち着け。一応兎の攻略法を教えてやる。
一人で殺る場合は罠を仕掛けておく。
複数人で殺るときは躱した所目掛けて一気に刺すんだ。
あいつらは体が脆いから殴っても死ぬ。」
あれ、複数人といえば……………。
「どうも。
ところで、ギルとシュウはどうした?」
「ああ。あいつらならお前がいなくなったことに気づいた後
『よし、ロイドがいないんだからしょうがない!家に帰ろう』て言いながら
ギルドを出て行ったな。」
おいおい、お前らは何をやってるんだ。
ってあれ?
「グランさんが俺が草原にいることを教えればよかったんじゃ………!?」
「考えてみろ。あの二人が協力したらお前が兎を狩るかもしれなかっただろ!?」
「ほんと酷いな!?」
俺に一泡吹かせるためにそこまでやるか。
「まあ落ち着け。それよりお前、受けたの兎以外にもあるだろ?
そのポケットの袋から肉の臭がするぞ。
腐る前にさっさと納品してくれ。」
「人にここまで言っといてなぁ…………。
ほい、これが豚肉2頭分、これがハツ、後、カラスはギルドカードで。」
「了解。これでひとまずクエスト完了だ。
よし、お前もう家に帰っとけ。結構疲れてるんだろ?」
む、バレたか。
「よく気づいたな。んじゃ、お言葉通り帰らせてもらうよ。」
「おう。無理すんなよ。」
そうだ。一回『サイクロプスの巣窟』に行こう。
防具の作成依頼と、チェーンメイルについて語りたいし。
「おっさん!いるーーー?」
「おお!ロイドか!さっき来たばかりなのにどうした?」
「ああ、防具がほしいのと新たな防具の案があるから聞いて欲しいんだ!」
「新たな防具!?どういうことだ!詳しく聞かせてくれ!!!」
「ちょっとどこか落ち着ける所で話したい。場所ある?」
「あるぞ。着いて来てくれ。」
おっさんに着いて行った先にあったのは椅子と机しか無い部屋だった。
「ここは依頼人と話し合うためのスペースなんだ。
で、新しい防具ってのはどういうやつだ?」
「チェーンメイルと呼ばれるものなんだが、知っているか?」
「いや、知らんな。どんな奴だ?」
「鉄のリングをいくつも繋げたものを着こむんだ。」
「うん?よくわからんな。ちょっと紙に書いてくれ。」
俺は根気よくチェーンメイルについて説明した。
柔軟性に優れていること、斬撃に強いこと、
重ね着ができるので貴族などに有用なこと、消耗しやすいこと。
ほとんどwikiと頼りにならないがネトゲの知識からの引用だったが、
言えることは全て言った。
「成る程!新しくて使える防具だな!俺ん所の専売商品にしていいか?」
「ご自由に。その代わり俺等がここを利用するときはまけてくれよ?」
「そんくらいならお安いご用だ。流石は『ウィルの弟子』だな!」
「え、知ってたの?」
「いんや、ついさっき知った。近所のおばちゃんが教えてくれてよ!
ガッハッハ!」
流石はOBACHANネットワーク。恐ろしいぜ。
「チェーンメイルの説明も終わったし、そろそろ俺の防具について
頼みたいんだが。」
「おう。で、どんなのがほしいんだ?」
「まず、優先順位としては動きが鈍化しないこと。
次に鈍器に対して強いこと。
3つ目にできるだけ早く作れて、なおかつ修理もそんなに必要ないもの。
これで防具を作ってくれないか?」
俺の強みは速いことだし、防具で動きが遅くなっても困る。
鈍器に強い方がいい、というのはどうやら『ヘイレン』は打撲に効きにくいことが判明したからだ。
最後の条件はさっさと防具がほしいのと修理が面倒いから。
我ながら堕落しているな。
「いいぜ。色の希望とかはあるか?」
色か。
ふっ。愚問すぎる。
そんなの…………………。
「黒と決まっているっ!!!!」
「お、おう。じゃあちょっと考えてみるわ。
帰っていいぜ。」
「頼んだぜ、おっさん!」
俺は家に向かって足を進めた。