5話 あ!野生の狼が飛び出してきた!
やっと戦闘をします。
―――――ザッザッ。
また、足音のような音が聞こえて俺は慌てて起きた。
空を見るともう完璧なる朝であった。
(やっと二人目か?)
そう思い、足音のした方向を見る。
が、俺は後ろを向いた瞬間、固まってしまった。
なぜなら足音のした方向には―――
―――――いかにも腹をすかせている感のある狼がいたからだ。
………ぽくぽくぽくチーン。
俺の頭の中でお坊さんが木魚を叩いているよ。
もうこれ乙ったな。アッハッハッハー。
って。なんでこの状況で俺は笑っとんじゃー(内心でだけど)!
このままだったら俺死ぬだろうが。何かしないと確実に俺の2度めの人生おわる。いくら捨てられたからといっても俺は諦められないんだ。
そのためには現状を把握しなければ。
まず、目の前のいる狼。こいつは何故か少し赤黒い毛をしている。
やつれてはいるが、目がらんらんと光っている。
ここまで言うと疑問に思う人もいるだろう。何故ここまで食われてはいないのか、ということに。
が、理由は単純なもので、狼が周囲を見渡しながら歩いているのと、
衰弱し過ぎて俺のもとに来るのに時間がかかっているだけだ。
次に俺の現状。逃走不可。パンチ・キック不可能。威嚇無理。
周囲を見渡しているから理性が狼にはあるだろうって考えた場合、
俺の頭で真っ先にでた手段である脅しも口と体がうまく動かないせいで
できない。
ああ。また死ぬのかなあ。
そう考えた瞬間、前世で死ぬ時の苦しみが蘇った。
あの時はマジで辛かった。絶え間なく激痛にさらされ、徐々に呼吸困難とかになっていった。
これがもう苦しいのなんの。ああ、早く忘れたい。
でも今回は痛みの感じが違うんだろうなあ。
なんたって食われるのだ。異常な激痛と共に体から何処かが消えていくような消失感を味わう。
うん。イイ。これはなかなか無い体験だぞ。楽し―――――
いや、待て待て。俺、今動揺してドMを超えたMになりかけてたぞ。
だいたいヤバイだろ。死に方に快感を覚えるって。生命がいくらあっても
足りん。物理的な意味で。
段々危険な一人コントになって来た所で妄想を止める。
しかももうそろそろ狼が近づいてくる。
生存本能に従って俺の頭は神速で回転を始めた。
さっきは俺のできないことばかり考えていたが逆に俺にできることはなんだろうか。
1、呼吸。
2、周囲を見る。
3、考える。
4、現実逃避して寝る。
5、魔力を使う―――――
そうか。そうだ。なんで今まで忘れてたんだろう。
俺には魔力があったじゃないか。
寝る前に練習したばっかりじゃないか。
俺は鳥頭か。いや、3歩も歩いてないから違うか。
ここまで考えて思考を現実に戻す。
が、もう俺から約5mぐらいの地点に狼はいた。
まだ周囲への警戒は怠っていないが、それでもあと少しで俺を食べることが出来る位置に来る。
俺は慌てそうになったが、理性で押し込める。
そして魔力を使うために黙想を始める。多分他の人ならそんなことしなくてもいいんだろうけど、俺にはまだ必須だ。
この状況を突破するには何をすればいいか。
普通の人なら魔力を直接ぶつけるみたいに魔力自体を攻撃に使うかもしれない。が、俺は昨日、そんな事ができないことに気づいた。
実際にやろうとすると、体から離れた瞬間魔力が拡散してできないのだ。
多分俺がまだ未熟だからだろうが、要するに現状では俺が魔力自体を攻撃に使う事はできない、ということだ。
なので俺は魔力を単純に1点に集中させてパンチなどの動作と共に
打ち出すことにした。
そこで、俺が選んだ場所は額だ。理由はまだ首は動かせるからだ。
つまり、俺は今ヘッドバット(頭突き)ができる。
本当は大事な頭で攻撃したくはなかったのだが、仕方がない。
集中力が切れてきたところで俺は再度集中をし、額に魔力を集めていく。
魔力が集まってきた所で更に魔力を1点に集中させていく。
額がグワングワンするような痛みに襲われるが、なんとか我慢する。
そして集中したまま目を開ける。
この体勢、結構キツイ。が、これも我慢する。失敗したら死ぬからだ。
そのまま狼との距離を測っていく。後約1m。狼はもう目の前だ。
俺の頭はリーチが短いので、狼に当てる時はジャストミートで
当てないといけない。だから俺は待つ。狼が俺を食べようとする瞬間まで。
狼が俺の目の前に来た。そして口を開ける。犬歯が滅茶苦茶尖っているぞ。
狼の口が俺に突進してくる。それに合わせて俺も恐怖で目をつぶりながら頭突きを繰り出す。
ロイドの諸刃の頭突き!狼の噛み付く!
しかし、感覚で狼の口と頭の距離がギリ当たると感じた瞬間、
ハッハッと音を立てる狼の口、いや牙に恐怖を感じてしまった。
俺の注意が思わず散漫になる。
―――――あ、やべえ。
そう思った時にはもう遅かった。俺の額に集められていた魔力は拡散を始める。
しかし、魔力をかなり圧縮して集めていたので、拡散するたびに
額が発光している。
拡散していく魔力を見て俺は気づいた。
(あれ?これもしかしたら強烈なフラッシュで狼の目をやればいけるんじゃね?)
時間が無いから即実行。
幸い狼は発光に怯んで口を止めた。
今がチャンス!そう思い俺はまた魔力を集中させる。
しかし、今回はさっきとは違う集め方だ。魔力を額から出し球状にして
集めていく。体から離れないようにして。
もう一度目を開ける。狼はさっきと同じように口をあけている。
でもここで集中を切らせばまた徐々に発光してしまい、時間を稼ぐだけで終わってしまう。
俺が狙っているのは強烈なフラッシュなのだ。そのためには集中した魔力を
一気に拡散しなければならない。
狼が再度噛み付こうと頭に口を向けた。
その様子を見て俺も魔力を拡散させる準備を始める。いや、この場合は拡散というよりは解放か。
なんにせよ準備はもう整った。絶対にはずさない。
遂に狼も噛み付いてきた。さっきよりも速い。
ロイドのフラッシュ!狼のかみ砕く!
フラッシュが狼に炸裂する。俺は目を閉じていたが、それでも目を痛めるほどの光だ。そのまま食らったら多分失明するだろう。
そう考えて目を開ける。狼を確認する為に。
しかし、狼の攻撃は外れた!
どうやら、俺は助かったようだ。狼はうろちょろしている。
そして、体力が切れたのか、狼は倒れた。
俺はここまで見届けると意識を手放した。