63話 家出してきたらしい
ふいーっ。終わったぜ―っ!
ここずっとシンの面倒見てたから材料があまりに余ってたんだ。
なんなら全部使っちゃおうと頑張ったのだが……………。
おかげで今俺の後ろにはマッチ、石鹸、煙玉等が山積みにされている。
かがくのちからってすげー!
あと、一応起きていたリーダーにマッチと煙玉の魔法を使わない作り方を教えておいた。当分は大丈夫だろう。石鹸は知らん。
ふぅぅぅぅ。
やっと寝れるぜ…………と思ったらもう朝じゃん!
本当に徹夜になるとは。
そういえば今日でここにいるのも最後なんだったな。
ちょっとジョギングでもして外の光景を目に焼き付けよう。
と考えて外に出てみたが、何らいつもと変わりない風景だった。
10歳にも満たない子供がゴミを懸命に漁り、大人もゴミを漁り、
死にかけの老人は何度も倒れながら懸命に食い物を探す。
さすがに後半の老人は見るに耐えないので『ヘイレン』を使うが。
スラムは基本的にゴミを中心として回っている。
もはやゴミが金のかわりだ。ふははー!ゴミが金のようだ―!
かくいう俺も何度もゴミを漁っている。
勿論漁った後は手を洗っているが。
いや、ホント日本だったらありえない光景だな。
もう慣れたけど。
けど、こんな生活とも今日でおさらばだ!と考えると案外『卒業の儀』は
してよかったのかもしれない、と思った。
さてと。もうそろそろ戻るか。
俺が作った道具の争奪戦が起きる未来しか見えないが。
まあ、その争奪戦も見てて楽しいんだよな。
あれ、なんだかんだ言って俺この生活楽しんでたんだな。
あれか、汚いけどやんちゃが出来て楽しいみたいな感じか。
男子校みたいだな。
そんなことを考えながら俺は基地に戻った。
「おい!その煙玉よこせエエエ!」「誰がやるか!」「今石鹸なんて使わないだろ!?倉庫しまっとけ!」「嫌よ!いつなくなるかわからないじゃない!」「蜂蜜舐めんなあああああ!それマッチ、それマッチ!」
「お、これなんだ?」「こんにゃくっていうらしいぜ。」
………………………。
「カオスだ。」
基地に戻った俺はそう呟いた。
いやだって混沌としまくってるだろ。
必死に全部倉庫に入れさせる為に口から泡出してるリーダーが可愛そうだ。
いや、見てて面白いのだが、これを引き起こした張本人としては逃げ出したくなる。
と、とりあえず、
「ギルー!シュウー!荷物持って一旦基地を出るぞー!」
ここから脱出することにした。
「ロイド、何で基地を出たんだ?」
「基地の中が滅茶苦茶だったろ?荷物の安全を確保したかったんだ。
まあ、そのうち収まるだろうから待ってようぜ。」
俺の作った道具であんなことになったのがちょっと見るに耐えないから、
という理由は伏せておくことにした。
「じゃあ今何する?」
「合図でも決めておこう。道中で使うだろうから。」
因みに、騒ぎが収まったのは約2時間後だった。
あれからなんやかんやで結構時間が経ち、夜になった。
それにしても酷かった。
煙玉が足りないと更に追加で作らされたのだ。
くそ、前に「煙玉って全部魔法で作れるんですよね~」みたいなこと言ったのが間違いだった。
伝家の宝刀「材料足りない」が効かないとは。
ま、そんなことはこの際どうでもいい。
これから数時間で俺はここを出るのだ。
いやー、ここの外のことを考えるとオタクとしての妄想が広がりまくる。
あれだ、俺の能力的には無理だけど、ジャイアントキリングとか
軍勢相手に無双とか。
フッフッフッフッフ。頭のギアが暴走してきたな。
が、俺は必死に自分にしがみついてこようとする妄想を引き剥がし、
北西の門に向かうことにした。
あ、そうだ、その前にシンに最後の挨拶でもしないと。
親の勝手な事情で親が居なくなるようなもんだからな。
ま、リーダーに頼めば世話くらいしてもらえるだろう。
俺は早速シンが寝てるベッドの前に立った。
おお、相変わらず安らかに眠っている。もう2歳の筈だが。
いや、まあでもちゃんと足で歩けるようになってきたし大丈夫なんだろう。
我ながらちょっとした父気分だ。
14歳+8歳をしても未だ22歳だが。
そうだ、なんか俺の形見にあげよう。
そう考えて昔狼の魔物を殺した後に手に入れた石3つ取り出した。
うん。相変わらず赤黒い。なんか禍々しいよな。
そういえば最終的に先生でもこれが何かわからなかったんだっけ。
なんか怖いし、やめとこう。
そう考えてポケットに戻そうとした瞬間、急に俺の光属性の魔力が石に
引っ張られるような感触に襲われた。
ビビってもう一度石を見てみると、そのうちひとつが白くなっていた。
「!?」
俺は目を見開く。いや、普通に驚くだろ。
でもまあ、この石なんか温かい。
これ、シンにやるか。持たせて損はないような気がする。
俺はシンに石をあげて、今度こそ北西の門に向かった。
(遅い!)
北西の門に着いた途端にリーダーに叱られた。
(す、すみません!)
こちらも速攻で謝った。
見ると、もう既に風魔法使いが全員集まっていた。
やっちまったZE☆
(んじゃ、ロイドも来たことだし、『ウィンド・ブースト』掛けてやれ。)
リーダーが合図する。
あれ、ちょっとまて、今までの『卒業の儀』は北西の門を出る前に
別れの言葉とか言う恒例の行事があったはずじゃ……………。
まさか俺基地で浮きすぎてそういうのを誰も言う気にならなかったとか!?
うおお、ショックだぁぁぁぁ。
(あ、ロイド、安心しろ、お前だけ最後の握手とかがないのは
人気すぎて時間が掛かるからだ。別に誰も嫌ってるわけじゃないぞ?)
が、リーダーは読心術でも持っているのか俺の落ち込みを一刀両断してくれた。
よく他の人の顔を見るとなにか恨めしそうな顔をしてリーダーを見ている。
あ、リーダーが指示したんですね。恨み役買ってくれて有難うございます…………………。
心のなかで合掌し、俺は(ありがとうございます)とリーダーだけに聞こえるようぼそっと呟いた。
それにしても良かった。俺は浮いてはいなかったようだ。
あ、ちょっと待てよ。
(リーダー、シンの世話お願いしていいですか?)
(シン?ああ、あの子か。お安いご用だ。任せろ!)
よし、いい気分でこの街を出れそうだ。
(ではリーダー、今度こそお願いします。)
(おう!いくぞ!3・2・1)
「「「我が風の力集いて彼の者を助けよ『ウィンド・ブースト』!」」」
同時に俺の体が突然軽くなったような感覚を覚える。
ギルとシュウも同じような感覚に襲われたようで驚いている。
よし、じゃあ俺も
(『ウィンド・ブースト』)
(シュウ、ギル、行くぞ!)
((オッケイ!))
(皆さん!さようなら!)
俺等は駆け出す。
――――――――――ビュオオオオオオ!
突風が発生し、
「「うわああああああ!なんだあああああ!?」」
居眠り門番を例のごとく叩き起こした。
もう大丈夫だろう、という所で俺は叫んだ。
「俺たちの戦いはこれからだアアア!」
いや、本当の意味でこれが始まりだからな?
終わらないからな?