56話 対勇者 2
うおお!お気に入りが200人に!
有り難うございます!
ここらを強く包んだ光が消えていく。
その後の光景を見た俺達は、唖然とした。
「「「完治……………してる!?」」」
勇者までもが驚いている。
俺もビックリだ。
まさかガチで治るとは。
正直、魔力が足りねええ!とかなったらどうしようかとか考えてた。
そして、むっくりと何人かが起き始めた。
「あれ?俺たしか切られたはずじゃ…………。て、おい!お前確か両足消し飛ばされてなかったか?」
「え、ちょっとどうなってるの!?私の腕が治ってるんだけど!」
「僕の腹も治ってる………。服は切れてるけど。」
良かった。フィルは起きてないけど、これで逃げてもらえる。
「皆さん!早く未だ気絶している人を担いで逃げて下さい!」
「へ!?あっ!勇者!」
ポケーっとしてた勇者は、その言葉で我に返った。
ちょっともったいないな。
「いいから早く!逃げて下さい!」
「ロイド君はどうするの!?」
俺か?決まってるじゃないか。
「コイツを足止めします!早く!」
ぶっちゃけ、死ぬかもしれない。
せっかく2度めの人生を得たのに、こんなに早く命を散らすのは俺としても
避けたい事態だ。
が、俺がここで止めなければ皆死ぬだろう。勿論俺も。
だったらやってやろうじゃねえか。
一応勝てる可能性もあるし。
俺の中にいるという、ショタとおっさんだ。
何が起きるかはわからないが、何かしらアクションを起こしてくれるかも
しれない。ほら、異世界トリップ系とかであるだろ?
主人公がピンチになった時に、その身に封印されていた力が解放される!
うん。熱いシチュエーションだ。
軽く現実逃避をしている間に、皆は少し距離を取ってくれたようだ。
勇者は何やら目を輝かせて止まっている。
まあ、仮に彼らに襲いかかるものなら現実逃避をやめて勇者を止めたけど。
遂に彼らがいなくなった所で、俺と勇者の睨み合いが始まる筈の、その時。
勇者が、おもむろに口を開いた。
「す、凄いっ!凄いよ君!あんな治癒魔法見たこともない!しかも無詠唱!
離れているのに魔法を発現させているし、身体欠損までも治す!」
勇者は怖くなるほどにニコニコしながら、頷いている。
俺は、思わず張り詰めていた空気が和らいだことによって息を吐きだした。
「是非とも!是非とも僕のパーティで支援をしてくれ!お願い!
その代わり、ここの人には攻撃しないから!」
その言葉に、俺は頷きかけた。
悪く無い話だ、と思った。正直俺もそれなりに戦えるし、ちょっと冒険
してみたい。コイツが今回のように孤児を攻撃することがあったら、
俺が止める。しかも、基地の皆が助かる。
俺は頭の中でそう答えを出し、「いいよ」と言おうとした。
次の言葉が来るまでは。
「ロイドォッ!フィルが、フィルが息をしていないんだァァァッッ!!」
ギルだ。走りながら叫んでいる。シュウもついてきている。
何があったかを見た後、ギルの言葉が頭の中で変換された。
フィルが、死んだ。
「嘘だよな!?」
「いや!本当だぁ。フィルが死んだんだよぉぉぉ!!!」
ギルとシュウはその場でへたり込み、泣き始めた。
この彼らの行動から、俺は理解した。
冗談ではなく。
俺の眼の前にいるコイツがフィルを殺した。
ざけんな。
―――――ガコン。
ぶっ飛べや。
―――――ガコン。
消えろ。
――――――ガコン。
串刺しになれ。
――――――ガコン。
爆発しろ。
―――――――ガコン。
理不尽だ。
―――――――ガコン。
死ね。
――――――――ガコン。
1秒間に342回位死ね。
―――――――――ベキッ。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
死ぃねえやあああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
俺はブチ切れ、魔力の手の猛攻を始める。
全て槍の形にし、普通の成人男性の拳速の2倍はあろうかというほどの
スピードと数。それらを全て防ぎきるのは困難な筈だ。
が、勇者はその大半を躱し、防ぎ、切り落としていく。
「があああああああああああ!」
俺は叫びながらさらに魔力の手を加速させる。
久しぶりにキレた。もうかれこれ9年ぶりくらいだろう。
「くううううぅぅぅぅ!」
勇者も段々厳しそうだな。
どんどん押されていき、俺との距離が伸びていく。
今ならあれを使える。
「終わらない地獄!」
相変わらずの中二ネーム。別に無詠唱でも使えるけど。
因みに、ナトリウムに水をかけてできる例のアレである。
勇者を中心として円状に作ってやった。
「燃えつきろヤアアアアアアア!」
「何で?『マジックサーチャー』には火属性が反応してなかったのに!」
おい、いつの間に使ってたんだ。
『クレッセントスラッ(ry』と『セイクリッドガード』は詠唱してたのに。
もしかして、無詠唱で出来るものと出来ないものがあるのか?
俺も『ヒネトヘイレン』を使う時は一応ちょっとだけ詠唱してたし。
それはともかく。
「これが!みんなの痛みだああああ!
思い知れエエエエエエエ!!!!!!!!!!」
「うわあ!『水龍』!」
慌ててバカでかい水の龍で炎を消そうとする。
が、その程度で消えるほど俺の怒りを表している炎は弱くない。
――――――――――ゴオオオオオオオオ!
「火がっ!強くなった!?ならこれでっ!『サイクロン』!」
巨大竜巻が発生する。
クックック。そいつもやっちゃいけねえぞ。
――――――――――ジュオオオオオオオオオ!
火災旋風だ。
「ウワアアアアアアア!『セイクリッドガード』!」
チッ。籠もりやがったか。
ならこれでも喰らって悶え死ね。
俺は気持ち悪いほどのニタニタした笑みと怒りで染まった顔を繰り返し
ながら、それを放った。
それ、って何かって?
クックック。ナパーム弾だよ。
前も言ってたナパーム弾だが、ナフサがないから作るのを見合わせていた。
が、前に不純物が盛り沢山ではあるが、曲がりなりにも石油が出る池があったのだ。
昔からそこは燃える水が出る、と有名だったそうで、ピンときた俺は
そこにこっそり行ってみたのだ。
そしたら石油が池のようになってた。ヤバイ。
俺はそれをありがたく汲み上げ、蒸留してナフサを作ったのだ。
因みに、このナパーム弾はお粗末ではあるが一応滅茶苦茶燃える。
お陰で酸素をかなり奪う性質もバッチリ兼ね備えている。
「息がっ!苦しいよぉ…………。そうだ!『エクス・ブリーズ』!」
くそったれ。呼吸困難、燃え盛る火炎旋風まで防ぎやがった。
まあ、動けなさそうだが。
「フィルの痛みを思い知れ。お前だけは絶対に、許さない。」
声変わりをしていないながらも、出せる限り低い声で告げる。
そして、またポケットに手を突っ込む。
取り出したのは黒色火薬。
「死ね。」
俺は、それを放り投げた。
「く、『クレッセントスラッシュ』!」
が、勇者はそれを切り裂く。
へえ。本能で危険物とでもみなしたのかな。
「も、もう嫌だ!『斬撃』『斬撃』『斬撃』!」
精神的に追い詰められたのか、勇者はでたらめに斬撃を飛ばし始めた。
まあ、この程度の攻撃力なら『マジックガード』で逸らせる。
――――――パキッパキッ。
「!?」
突然聞こえた不吉な音に慌てて顔を向けると、砕けたナトリウムがそこに広がっていた。
砕けたのは勇者の前方にあった2個だけだったが、それでも影響が出て来る。
ゆっくりと勇者の前の炎が消えていった。
慌ててナトリウムと水を作るが、もう遅い。
「死ねぇ!『クレッセントスラッシュ』!」
「しまっ!」
狙われたのはシュウとギル。
間に合わねえ!
ギルはもう既に勘のおかげか『クレッセントスラッシュ』の範囲内から出ていたが、シュウは間に合わない。
くっそ!フィルに続きシュウまで失うってのか俺は!
ぎりぎり貼った『マジックガード』もやすやすと切り裂かれ、
シュウの目の前に『クレッセントスラッシュ』が迫った瞬間!
「…………………………『フォートレス』!」
突然茶色の珠がシュウに当たり、爆発しながらシュウを取り巻く。
そのまま『クレッセントスラッシュ』はシュウの額に当たる。
「うわあああ!ってあれ?」
悲惨な残状を想像していた俺は唖然とした。シュウは耐えたのだ。
「間に合ってよかったぜ………………。」
急にシュウの後ろから人が現れた。
「「「リーダー!?」」」
つまり、あの茶色い珠は『グラウンド・フォートレス』か。
「勇者とやら。よくも俺の仲間に手ぇ出してくれたな。
俺がお前をぶっ潰してやる!」
リーダーの顔は今までにないほどに怒りで染まっていた。
「ロイド。やるぞ。」
その言葉で、今起きた勇者の行動を思い出す。
狂ったように、俺らの命を奪おうとしてくる。
もうこれは、勇者じゃない。
コイツはまさに俺らにとって―――――――
「「悪魔」」
こうなったら何としてでもぶっ飛ばす。
こんな悪魔に仲間を殺られてたまるか。
「「協力してくれ、おっさん(巨人)。」」
だから、俺は協力を求める。俺の中にいる、感情を貪る悪魔に。
『『いいだろう』』
その声とともに、俺の意識は薄れていった。
あれ?何でリーダーも俺と同じような事言ってんだ?
てか、巨人て勇者が殺ろうとしてた奴じゃ……………?
俺の意識はそこで途絶えた。