51話 俺の女性恐怖症が訳わからん件www
「まさか俺が育てる立場になるとはなぁ。」
この前拾った赤ん坊―――愛称はシンに決まった―――に盗んできたミルクを
飲ませながら俺はぼやいていた。
シンを拾ってから3ヶ月程経ったが、ちゃんと成長している。
まさかゲームキャラくらいしか育てたことがなかった俺が人を育てる時が来るとは全く思っていなかった。
あ、そうだ。ここ3ヶ月経って、シンのことがだいぶ解ってきたので、纏める。
まず、性別は男。
てか、女だったら育てられた自信がない。
年齢は間違いなく0歳だろう。
髪はまだわからないが、目は蒼い。
体はやはり弱い。もしかしたら俺より弱いかもしれん。
但し、魔力がヤバイことになっている。
まず、魔力量は俺の10倍。
いや、俺の魔力量はめっちゃ低いから基準にならんが、
だいたい一般の魔術師の2倍て所だろうか。
属性も火、雷、土のトリプル。将来は熱血漢だろうか。火と雷だし。
とりあえず、捨てられた理由はこの魔力量だろう。
つか、何で魔力持ちは捨てられるんだろうな。
兎も角、拾って良かった。
こういう凄え奴が俺達が生き延びる可能性を引き上げてくれるし、
『卒業の儀』をして外に出れば、間違いなく大成するだろう。
あとは性格さえ曲がんなければ大丈夫だ。
さて、ミルクも飲ませたし、飯を盗りに行くとするか。
「ぎゃああああ!出たあああああ!」
いやー。今日もすざましい悲鳴だったぜ。
こんだけ毎日悲鳴を聞いていると、なんか悲鳴の専門家になれそうな気さえしてくる。おれが悲鳴マイスターだ!(キラン
うん、ただの変態だな。
さて、基地に戻って休もう。
そう考えて後を振り向いた俺は、おっさんに追いかけられる幼女を見た。
目を凝らすとその少女が俺の縫った服を着てるのがわかった。
顔を見るとその顔に見覚えがあった。
「ありゃ、昔俺と一緒にいたやつじゃねえか?」
俺がベッドで暮らしてた頃、隣のベッドで寝てたやつだ。
同じ基地に何故か居ないから、すっかり忘れていた。
女子だったのか。
「助けるか。」
そう呟いて、俺は表通りに飛び出し、
「悪いな、おっさん。」
魔力の手でぶん殴った。
滅茶苦茶混雑してる通りで殴ったので、よろめいたおっさんはすぐに人の波にもまれてしまった。
「ふう。大丈夫だった?」
今気づいたが、この展開ラノベっぽい感じがする。
特にセリフが。失敗した。
「……………うん。」
俯きながら彼女は答えた。
くう。二次元だったら俺の理性は爆発していたであろう。
が、此処は三次元。俺のトラウマが全力で女子を拒否する。
「危ないから今すぐここを出るぞ。」
そう言いながら『ウィンド・ブースト』を掛け、人混みからジャンプをして
屋台の上に乗り移り、そのまま木に登った。
が、彼女が動く気配がない。
あ、『ウィンド・ブースト』かけてるの言ってなかったな。
「大丈夫。『ウィンド・ブースト』掛けてるから早くここに来なよ。」
そう言うと彼女は屋台の上に乗り移った。
自分の身軽さに目を見開いている。
が、固まる、なんてことはなくそのまま木まで跳んで来た。
「飯、やるよ。盗れなかったんだろ?」
そう言ってついさっき盗ったりんごを差し出した。
「………いいの?」
「俺はいつでも盗れるから。」
そういって今度は野菜店から魔力の手でトマトを盗った。
「ひいいいいい!食いしん坊の幽霊いい!?」
「…………………。」
彼女は唖然としていた。
「もしかして、食いしん坊の幽霊って君のこと?」
「そうだけど?いやあ、お陰で盗んでるのがバレなくて最高だよ。」
今度が呆れたような目で見られた。お、俺のガラスのハートがッッ!!
「じゃ、じゃあ俺は基地に戻るよ。じゃあな!」
ちょっとこれ以上女子といると俺の脳味噌が拒否反応でパンクしそうだし。
「ちょっと待って。愛称、教えて。」
が、俺はこの言葉で止まった。
「ロイド。君の愛称は?」
「私は、リル。今日は、ありがとう。」
くっそおおおおおお!何で此処はリアルなんだあああああ!!!
乙女ゲーをやっている奴とは全く正反対のことを俺は考えながら
基地に戻った。