50話 俺氏、赤ん坊を拾う
一年が経った。
今年で六歳。日本ならあと一年で小学生。
そんな年齢の俺だが、やっていることは盗み。我ながら何でこうなってんだ、
とよく思う。
生きるためだから仕方がないけど。
あと、今年はまだ何も作っていない。
むしろ毎年現代日本の物を作り出している方が異常なのだが、何だが非常に歯痒い。これが職人気質ってやつだろうか。
一応、マッチ用の蜂蜜が足りないから蜂を飼うってのを考えたのだが、とにかく刺されまくってそれどころじゃなかった。
『アンチポイズン』がなかったら死んでたであろう。
一ヶ月前はヤケになってメープルシロップでも作ってやらぁ!と
食の方向に走ったのだが、楓すらも見つからず、詰み状態。
現在は二酸化マンガンを使ったりして電池の作成中である。
しょっちゅう感電しかけて滅茶苦茶危ないけど。
そんなひきこもりのようになっている俺は、現在スラムの外にいる。
理由は簡単。飯のため、だ。
腹が減っては戦はできぬ!というわけである。
ぶっちゃけ、気を抜けばすぐ感電するし。おお、恐ろしい。
いつも通り魔力の手を伸ばし、「ひいい!で、出たあああ!」と悲鳴を聞き、全力逃走。
因みに、この行動が街では『食いしん坊幽霊』と呼ばれているそうだ。
まあ、食いもんがいきなり浮かんで消えていくんだからそうなるかもな。
いつも通りスラムへ戻ってきた俺は、一つ、思いがけないものを見た。
「ぉぎゃぁぁぁぁぁ。」
赤ん坊だ。しかも、痩せている。声も弱々しく、あと一日も持たないであろう。
スラムの人は皆無視している。
当たり前だ。生きるためにゴミを漁るレベルなのに、知らないやつを養うほどのお人好しはここにいるはずがない。
が、俺はこの姿が過去の自分と重なった。
あの時の俺は先生が拾ってくれなかったら死んでただろう。
俺がここでこの子を拾えば俺みたいに生き延びるかもしれない。
そう考えて、俺はその赤ん坊を魔力の手で拾い上げた。
悲しいことに俺の両手の筋力じゃこの痩せまくった赤ん坊でも落としちゃうかもしれなかったし。
そういえば、ミルクって何処で手に入るんだろう。
女子では最高14歳なので、乳は出ないような気がする。
とりあえず、この赤ん坊には衝撃を与えないくらいのスピードで帰った。
「おーい!クルト、いる?」
基地へ帰った俺は真っ先にそう叫んだ。
俺にミルクをやっていたクルトなら解るかもしれないと思ったからだ。
「ああ、クルトなら今は居ないぜ?って、お前新しい仲間を拾ってきたのか!?」
が、代わりに返事したのはここ殆ど出番のなかったガットさんだった。
因みにこの人はもう17歳。日本では高2だ。
「あれ?迷惑でしたか?」
「いんや。全然。何の問題もないぜ。むしろ大歓迎だ。
ところで、何でクルトを呼んだんだ?」
「ミルクは何処かな、と。僕の時はクルトがミルクを持ってきてたので。」
「ミルク?盗むに決まってんだろ。でも結構複雑な所で売られているぜ?
何なら場所を教えてやるよ。」
あ、盗むのか。まあ、他に手に入れる方法ないけど。
「よろしくお願いします。あ、その間この子はどうしますか?」
「ベッドに寝かせとけ。」
「了解です。」
確か、今は俺からベッドをとった双子は使っていない。
別にそこで寝かせたって誰も文句は言わないだろう。
ベッドに赤ん坊を寝かしつけた俺は、ガットさんに報告をした。
「よし、じゃいくぞ。いつものやつを頼む。」
俺はこっくりと頷いて、『ウィンド・ブースト』を掛けた。
ガットさんに連れられてきた場所は、教会だった。
「着いたぞ。」
「へ?」
何故に、教会?
いや、教会ってゲームだと蘇生用施設、ラノベだとケチクサイ奴の集団みたいなイメージがあるんだが。
どちらにせよ、権力を持っているイメージがする。
そんなのに潜んで大丈夫なのだろうか。
「さ、行くぞ。」
そんな俺の心配とは裏腹にガットさんは教会に突入して行く。
「え、ちょっと、教会はマズイんじゃあ………。」
「何言ってんだ?教会には行かねえよ。
教会の裏にある『いつまでも主婦のミカタ!』という集団から盗るんだ。」
「はひ!?」
ビビったわ。
どう考えても教会に盗みに行くとか自殺行為にしか思えなかったし。
ていうか、今言ってた集団ってどう聞いていてもボランティア的なのにしか聞こえないんだが…………。くっ、良心がうずくぜ……っ!
「ほれ、見えるか?今おばさんが大勢に向かって演説をしてるんだが。」
ガットさんが指さした方向に目を凝らすと、何やらおばさんが教会の裏で
女性を集めて何やら話していた。
「見えました。」
「じゃあ、あの裏に屋台みたいなのがあるのは見えるか?あそこに
色んな道具があるが、その中にミルクがある。それを取って来い。」
「わかりました!」
俺は『リフレクトハイド』を使い『ウィンド・ブースト』を掛けて走った。
「消えた!?」
ガットさんは知らなかったみたいだな、『リフレクトハイド』。
後で教えてあげるか。
おばさんは主婦生活のいろはを若い女性に教えていた。
ぐおお。良心がぁぁぁ。罪悪感パネェェェェ。
心に傷を負いながらも、屋台までたどり着き、ミルクを魔力の手に取った。
そして、逃走。いつも通り全力で。
「食いしん坊の…………幽霊!?」
一人の女性が身を見開いていたが、俺はできるだけ気にせず逃げた。
そのまま俺とガットさんは基地に戻り、赤ん坊にミルクを飲ませることが出来た。
ふう、大変だったぜ。