49話 初めての泥棒
「おーい。着いたぞー。」
「早っ!?」
ふっ!時間はできるだけ詰める!これこそニッポンジンの基本!
我ながら謎なことを考えながらも話を本題に進める。
「それは置いておこう。とりあえず、見本を見せてくれよ。」
「わかった。これからスラムから出るけど、遠くから俺を見ていてほしい。」
「了解。」
スラムから出て、フィルが露店の並んでいる通りに出た。
そのまま上手く露店の後ろを通りながら一つの果物屋の裏で待機を始めた。
因みに、俺は木から木へ渡りながら観察している。
猿っぽいとか言うな!ちょっと傷ついただろうが!
――――ヒョイ!
「あ!こら!待て!」
俺が勝手に傷ついている中、フィルは華麗に表通りへと戻り、そのまま
人ごみをうまく利用して逃げ切った。上手い。
フィルが基地の近くまで戻ってきたところで、俺は木から飛び降りた。
「すげえな。人ごみをあそこまで避けるなんて神業じゃねえか!」
少なくとも、現代日本では必須スキルだろう。今の表通りは東京の通勤ラッシュ並みに混んでいた。小柄な体格とは言え、凄かった。
「結構練習したからね。
で、今の俺の動きからわかったことはあるか?」
「物を盗るまでは極力ばれないようにして、物を取ったら全速力で逃げる。
こんぐらいしかわからなかったな。」
「それで十分。あとは、何度も何度も試行錯誤を重ねて一番トロイおっさんを判別したりすることも大事だ。要は、経験。まあ、頑張ってくれ。」
「サンキュー。じゃあ、ちょっくら行ってくるわ。」
「おう。俺は基地に戻ってるからな!」
全速力で離れていく俺に対し、フィルは大声で叫んでいた。
「さてと。」
『リフレクトハイド』をちゃっかり使い、フィルのように露店の後ろを
通っていた俺であるが、
(よくよく考えたら魔力の手でチョろっと飯盗った方が早くね!?)
石鹸作りだろうと何だろうと魔力の手を使い続けてきた俺は、この魔力の手
を本物の手のように余裕で使える。
最近は編み物を一気に4つ編めるレベルまで成長した。
しかも、伸縮自在。某ゴム人間並みのハイスペックな腕と進化している。
これならば、わざわざ表通りに出る必要はないんじゃないか!?と
思ったわけだ。
ということで、早速チャレンジ。
前の風属性おっさんのようなミスをしないためにも、『マジックサーチャー』でしっかりと魔力持ちかを判別。
一つの野菜店にターゲットを絞り、魔力の手を忍ばせる。
もともと透明なこの魔力の手なら魔力持ち以外にはバレない。
キャベツらしき物をつかんだと確信した俺は早速引き上げた。
フィィィィッシュ!なぜか友達が好きだった村○基を思い出しながら
俺は顔をほころばせながらキャベツを手に取った。
と同時に悲鳴が聞こえた。
「ぎゃああああああ!キャベツが浮いたあああああ!?」
よし、逃げよう。
――――ヒューーーン!
ロイドは、にげだした!
よし、回り込まれてはいないな、うん。
「ということがあったんだ。」
「うわ、魔力持ちってずりぃな。めっちゃ安全じゃねえか。」
基地に戻ってきた俺は、キャベツを齧りながらフィルについさっきのことを話していた。
「そういや、ギルとシュウはまだ帰ってきてないのか?」
「あの二人は俺みたいに人ごみの中を進めないからな。
多分、他の方法で盗りに行ってんだろ。もしくは、ごみだめでも漁ってんじゃないか?」
因みに、俺以外の孤児は普通にごみだめを漁る。
俺は食中毒とかに当たりたくないので、避けている。
我ながら贅沢なことだ。スラムの人は皆ごみだめに住んでいるのに。
まあ漁る必要がないのだからいいだろう、と勝手に考えてる。
「あまり体に良くないんだけどなぁ……。」
「いっつもロイドってゴミ漁るのに反対してるよな。何でだ?」
「ああいうのは小さい虫がいたりして体に悪いもんが多いんだ。
食中毒っていうのにあたったりするから大変だしな。
まあ、『アンチポイズン』があるから一応すぐ治るんだが。」
「へえ。知らなかった。「腹壊した~。」」
涙目のギルとその肩を叩いているシュウが帰ってきた。それ、言わんこっちゃない。
「だからゴミ食うなっていってるだろうが………。
『アンチポイズン』掛けるぞ。」
『アンチポイズン』を掛けるとギルは表情が笑顔に戻った。
「た、助かったぜ~。やっぱり勘が止めとけって言ってたし、
食ったのは失敗だったぜ!」
俺とフィルを顔を見合わせた。
「「……………。」」
じゃあなんで食った。
ここにいるギル以外のやつが全員そう思ったに違いない。