42話 ケイドロ ~8~
俺は、立ち眩みがしたような気がした。
「悪く無いだろう?儂はお前さんの能力を高く買っておる。
見たこともない魔道具の作成、4歳にしては異常な戦闘力と状況判断能力、
誰も気が付かないような発想の転換。じゃがいもの芽に毒があるなんて
普通の者じゃ思いつくはずがあるまい。煙玉にしてもな。」
「あとは意志の強さ、かの。今儂を見ている目もこの状況を打破してやる、
という目つきじゃ。要は諦めない、ということじゃの。
じゃが、この状況ではさすがに逃げ切れまい。
どうじゃ?もう一度問う。
儂らに降伏せんか?さすればお前さんには警備兵での地位を、そこの三人には
ここから逃げ切れる権利をやろう。」
なんて選択肢だ。
確かに、降伏すれば念願の安定した生活が手に入る。
逆に降伏しなければここで殺される確率は高い。
が、警備兵に入る、ということはいずれここに居る仲間を捕まえるために
動かなければならない、ということだ。
なんだかんだ言って、俺はこの環境が気に入っているぽい。
前世では全く使えないような知識が、この世界では人の命を救うのだ。
面白くないわけがない。
だから、自分のために仲間を踏み台にしてもいいのか、と迷っている。
更には、俺の選択で後ろにいる三人の命がかかっている。
ああ、頭痛がしてきた。
「さあ、どうする?」
その瞬間、前世で友だちに言われたことを思い出した。
『信夜はさ、安直に突っ込むよりも小細工仕掛けてるほうが得意だよな。』
思わず笑ってしまった。人に向かって『お前、いっつもコソコソしてるよな!』何て言うやつがどこにいるんだ。アイツは馬鹿だった。
「?」
いきなり笑い出した俺をみて、全員が変なものを見るような見てくる。
そんな中、ひとしきり笑い終えた俺は副隊長を見た。
「その提案、乗ります。」
すると、後の三人は助かって嬉しいのやらなんか複雑な思いでも抱えてるような表情になった。勿論前の独眼竜さんは笑っている。
「そうか、ならそこの三に「ただし、条件があります。」………なんだ?」
「見習いでもいいので、ここの三人も一緒に入れて下さい。」
後の三人の呆れた目線が俺に突き刺さる。痛い。凄く痛い。
「そんな、お前さん、実力のないやつはそうホイホイと入れるわけにもいかないぞ?それなら、おとなしくここで切られるんだな。」
腰の剣に手を掛ける。良かった。いきなりスパンと切られなくって。
「いいえ、三人とも実力があります。例えば、そこにいる一番小さい彼ですね。彼は防具なしで剣を防ぎます。」
「そういえば、そんなことをニールセンが言っていたな。
どれ、こっちに来てみ。少し試してやる。」
そういうと、シュウはカチンコチンになりながら歩いてきた。
俺も一応戦闘態勢にはいる。もしシュウが思い切り切られるようなら
俺が『マジックガード』で防がなければならないからな。
そんな心配も杞憂に終わり、軽く振られた剣をシュウは擦り傷で防いだ。
「ふむ、確かに。頑丈過ぎる奴じゃのう。だが、他の二人は何なのじゃ?」
「フードをかぶっている彼は、腕っ節と第六感が人間を超えてます。」
亞人だけどな、と心のなかで呟いておく。
「ほう。ならばこやつと腕相撲をしてみい。」
「お、俺っすか!?」
絶対新米だな、この人。大方この独眼竜さんの目代わりというところだろうか。まあ、ギルなら勝てるかもしれない。
結果は、ぎりぎり新米さんの勝利。さすがに大人には勝てなかったか。
「ところで、お前さんは何歳なんじゃ?」
「5歳だぜ!」
相変わらずコイツ空気読む気無いな。ホント、ヒヤヒヤするわ。
「ならば最後の一人はどんな特技がある?」
フィルが涙目だ。本人は自分に特技がないと思っているからな。
けど、彼には大事な特技があった。
「世話好きな性格と、努力する心構え、あとは逃走のレベルです。」
「そんな奴警備兵にいらんz「いいえ、彼がいることでそこの二人は実力が
発揮できます」
俺はずっと見てて気づいたのだが、シュウとギルにとってフィルは無意識のうちに頼っている存在だ。しかも、自分も誰かの役に立てるよう、努力している。筋トレのように。
「………………。よし、許す。が、ロイド以外は見習いからじゃ。」
全員を見渡すと、副隊長は満足気に頷いて、前を向いて歩き出した。
ふう。俺は心のなかで安堵した。どうやら、俺ら4人の本当の気持ちには気がついてないようだな。
俺がギルにサインを出すと、あちらもサムズ・アップして答えてくる。
よし。ならば大丈夫だ。
やっとスラムの広い場所に出た所で、俺はギルに合図する。
ギルはうなずき――――――――――
――――――――ズパン!
蹴りを副隊長のこめかみにぶちかました。
とっさに体をずらされたので、掠っただけに終わったが。
が、今の蹴りで二人が距離をとり、俺達と警備兵二人が向かい合う
体勢となった。
これで、さっきまであった壁はもう後にない。思う存分戦える。
俺はニヤリとした笑みを浮かべながら
「知能戦は、俺らの勝利だな。」
さあ、戦闘開始だ。
意外と長くなりました…………。
多分次こそラストです。