エピローグ前編 その者、勇者に非ず。
魔王を倒した俺達は、そのまま魔王城で休憩中のメンツを連れて崩壊しかかっている魔王城を脱出。
その後冒険者たちが食い止めていた暗黒大陸のモンスター共を殲滅。
向かった頃には冒険者は5人しか残ってなかったので、かなりギリギリだったようだ。なんだかんだ言って俺もノリで聖剣を魔力に変換してしまったので苦労した。勇者は聖剣に滅茶苦茶依存してたことがわかった。
ドラゴンとかを5体位屠った俺達に他のモンスターが手を出すはずもなく、そのまま海岸まで一直線。
いつの間にか完成していた蒸気船でイタルペナまで戻ってきたわけだ。
………えっ、作ったのあのおっさん?すげえなぁ。
でもって、とりあえず俺は家に帰ろうと思ったのだ。
そしたら張り込まれまくってた。
宗教関係者達と冒険者共とマスコミ共と貴族共と………etc
俺んちにはちゃんと宗教勧誘お断りって書いてるんだがなぁ。
とりあえず隠れる。見つかったらやばいやつだぞこれ。
「おーい!ロイド、ひっさしぶりー!帰ってこぅい!」
馬鹿が俺んちから大声で叫んだ。あのクソ野郎、家が俺のせいでせき止められてるからストレスのはけ口を探してたな。
ギョロリ、と全員の目が俺の方に向いた。
「南無三ッ!」
逃走開始だ。
「くそくそくそ!いいか、こういうのは然るべきアポをとってだなッ!気分良くやるんだーッ!」
俺が叫びながら逃げていると、周りが呑気そうに俺達を見ている。
冒険者たちは笑顔になった。
「ゆーうしゃくん!あーそぼっ!」
「こういう時だけ変にノリ良くなりやがって!労れ!俺を労れええええええッ!」
最終的に捕まった。
ふぁっきん。
貴族を最初に断った。名誉も金も死ぬほどある。今の俺はうぇいうぇい、下につくなんてまっぴらだい。
次に宗教を断った。俺が神になる感じのノリだった。怖いわ。
マスコミにはいい感じに話した。これからロイドコーポレーションを作るのだ。マスコミは囲いたい。
冒険者共は斜め45度で殴った。頭が直ることを願う。
そんでもって、イタルペナでどんがらがっちゃんの祭りをやることになった。金は全部俺が受け持っている。帰ってきたら出処のわからない金が増えてて怖かったのだが、気にしないことにした。
で、開祭式的な感じで俺はイタルペナの広場のステージで挨拶をしていた。
「えー、本日はお集まりいただきまして誠にありがとうございます!我々ロイドコーポレーションの設立を祝いまして、此方からこのような場を設けさせていただきました!」
野次が死ぬほど飛んでくる中、マイク的魔道具を通して全力で叫んでた所で、俺の隣に何かが飛んできた。そのままマイクが強奪される。おい。殺すぞ。
飛んできたのはなにを隠そうクソギルマスである。
「なにをごちゃごちゃ言ってるか知らねぇが要は楽しめってことだ!
乾杯行くぞ!とりあえず叫べ!いいな!」
「ごちゃごちゃじゃねえぞ!?こっちは金出して宣伝してんだよアホォッ!おらどけ!てめえが調子乗って昨日無一文になったのは知ってんだよ!貧乏人は黙りな!」
「はいばーか!ちゃんと国から報酬が来ましたー!はいばーか!
うっせえ馬鹿は置いとくぞ!かんぱぁーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「あーくそ!お前ら金出せよ!?かんぱーい!」
あれ、そういやいつの間に俺は酒なんて持ってるんだ?
まあいいや、と俺がノリで飲むと、途端に目の前がグルグルする。
俺は意識を失った。
どうやら俺は酔いまくって一日中謎テンションで暴れまわっていたらしい。覚えてないけど。
でもって、次の日、ゴミ共が俺んちの周りに集まりやがった。
「勇者様!どうかこの哀れな二日酔いに慈悲を!」
「買います買います!御社の商品買うので助けてくださぁい!」
口々に都合のいいことばっか叫んでやがる。
俺は玄関から出た。
ズモモモとゴミ共が這ってくる。
俺は笑顔で収納袋を漁る。そして叫んだ。
「みなさん!私はロイドコーポレーション代表取締役のロイドです!
この度、二日酔いに苦しむ皆さんに紹介する商品は此方になります!」
ドン、と机を取り出して瓶詰めを叩きつける。
「ヘパ○ーゼ!一個100ギル!早い者勝ちだよ!」
円で言うと1000円。お求めやすいね。
「き、きたねえぞ!回復魔法をさっさと使いやがれ!」
「昨晩は楽しく飲んでたじゃねえか!忘れたのかおい!」
「馬鹿共め!そんなもんは忘れた!そして自由ってのは金がかかるもんなのさ!さあ買えい!」
「「「チキショー――!!!!!」」」
バカどもが狂ったように手を伸ばす。
ふははははは!
俺は高笑いした。やはりこの手に限る、と。
このまま会社をでっかくしてやる。ゆくゆくは経済面でこの世界を制圧してくれようぞ!
「そうだ!俺が!俺こそが新たなる魔王だ!
ワッハッハッハッハッ!新生魔王さまの門出だぞ!祝え祝え!」
「――――――本当に飽きないなぁ、彼は!」
遠くで眺めていた少年が、笑顔で叫ぶ。
暗黒大陸ではないその空は、青かった。




