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400話 最終決戦 5

「ロイド!早まるな!」


突撃する俺の後ろでクソギルマスが叫ぶが、俺は無視して突っ込む。

俺達は、敵の情報を何も知らない。生存能力特化の俺が走るべきだ。


空間魔法で、瞬時に魔王の背後に回る。


「『勇者ロイド』。偵察というわけですね。」


「ッ!?」


見透かされている。

それにしても、雰囲気までも変わったなこいつ。ショタ魔王と影野郎を足して二分されたような性格だ。変に丁寧な物腰なのが嫌らしい。慇懃無礼ってやつか?面倒な。


兎に角、見透かされているのに殴る馬鹿はいない。

俺はもう一度空間魔法で元の位置に戻った。


次の瞬間、魔王の背後の空間を闇属性魔力の魔腕が通過した。

俺とは比べ物にならないサイズだ。俺のほうが綿密に組めるが、魔力量が違う。


「なるほど、これが魔腕………非常に便利な魔法です。」


「おいてめえ、そいつは俺の専売特許だぞ!」


俺が叫ぶと、数が30本くらいに増えた。

それらが一斉に、俺達目掛けて飛んでくる。

当てつけか、という言葉を飲み込んで、指示を出す。


「魔腕は魔力の糸の集合体だ!なんかをぶっさして絡め取れ!『クリスタ・ルーン』!」


「「オォ!」」


グルグルグル、と俺達は走りながら魔腕を絡め取る。


「なるほど、そのような方法が………やはり本人に使うのはよろしくないですね。

では、コストパフォーマンスは一度諦めましょう。」


次に飛んできたのは闇属性魔力のマシンガン。


「『セイクリッドガード』!!」

「「『イージス』!!」」


3枚の壁が次々と破壊されていく。威力ヤバイぞ。しかも、ここにいるメンツは大体弾幕に弱い。

3人で大量に壁を展開してみるが、その隙間を縫って一発がシュウに直撃する。


「うぁぁ!」

「シュウッ!?」


シュウが、ただの一発でぶっ飛ぶ………俺が食らうとお陀仏の可能性が高いなこれ。

先生が、銃弾を全力で防ぎながら叫んだ。


「ロイド、このままじゃ攻撃すら出来ない!」

「わかってらぁ!」


俺は魔王の頭上に空間魔法で跳んだ。

しかし、やはりバレている。

再び飛んでくる魔腕を『クリスタ・ルーン』で絡め取り、そのまま『エクスカリバー』を形成。


「『聖剣開放』!」


振り下ろす直前で『エクスカリバー』を巨大化させ、防御を許さない一閃を叩き込む。


「オオオオオオ!!!!!!!」


叫びながら、全力で叩き込む。

だが。

手応えはない。


(くそがッ!)


空間魔法でもう一度退避。

恐ろしい程に、この攻防の中で魔王は一度もマシンガンの手を緩めなかった。

つまり、簡単に魔法の同時行使が行える、というわけだ。俺に匹敵し得る魔力操作だぞおい。


更に、防御力。

『聖剣開放』した『エクスカリバー』が効かないとなると、何を持ってこりゃあいいのかまるでわからん。

ついでに俺の位置がバレるのも訳がわからない。『マジックサーチャー』なら余程魔力に差がない限り俺は使われたことがわかる。『リュミエール・シーカー』で測った限りでは、そんなことはない。

空間魔法だってんならあっちはすでにこの空間を掌握していることになる。じゃあ俺が4回も跳べる訳がない。


(………待てよ?)


『リュミエール・シーカー』ならどうだ。逆探知がされにくい、『リュミエール・シーカー』なら?

奴は俺のやり方を知っている。魔腕だって真似された。じゃあ、『リュミエール・シーカー』が真似されててもおかしくはない。


「くそ、やべえなぁ………。」


ほっとんど俺の上位互換じゃねえか。魔力操作で勝ってたって他がどうしようもねえ。

絶望的だ。あまりにも力の差がありすぎる。


(………ロイド。あまり言うつもりはなかったけど、何故君が態々『勇者』の肉体に転生させられたのか。それを今説明しよう。)


『ルシファー』………いや、本来の『勇者ロイド』が頭のなかで語りだした。


(君は異常性の塊だ。まずは記憶力。人間は、10年もすれば大体のことは忘れる。覚えていてもあやふやだ。その点、君はしっかりと記憶が残っている。超人的な能力だ。)


確かに、まあそうかもしれない。他のやつが忘れっぽいだけな気もするけどな。


(それでいて、短気だ。すぐにキレる。『憤怒』と相性がいいね。)


それはこの世界が理不尽に満ち溢れているだけだと言いたい。

しかし、俺の反論は無視された。


(けれど、異様に『死』を恐れる。それ以外にも、変な所で頑固だ。普通の人は態々火薬で人を殺さない、なんて過激に躊躇したりはしないだろうね。いつも喧嘩腰で生意気だし、一見気楽に生きていそうでものすごく気難しい。)


俺がなんと思おうが勝手だろうが。


(君のそういうところが、魔王は気に入ったのさ。『見てて面白い』と。『何かを成し遂げてくれる』と。『ただ自分に踊らされて消えるタマじゃない』と。

このまま、何も出来ずに死ぬかい?)


…………。

なるほどな。どうせ死ぬんならでっかい花火でも打ち上げてから死ねと。


(いや、別にそんなことをやれとは言ってないけど………。)


いーや、やるね。


「4人共、これから『五大獣をそっちに移す』!適応するまでの時間は、俺が稼ぐ!」


ギルマスが吠えた。


「馬鹿かテメェ!?失敗したらどうするってんだ!ってか時間稼ぎってのも出来るわきゃあねえだろ!苦しすぎて頭でもおかしくなったか!?」


ギルマスの返答に、『ニーズヘッグ』が反応する。ここにいる仲間5人にも聞こえるようにされた念波だ。


(勇者、そいつは無理だ。普通の人間が一体でも我々を取り込んだらおかしくなる。5体も取り込める貴様がおかしいだけだ。一度、『真祖吸血鬼』に囚われた男を見ただろう?)


ああ、見たぜ。

完全に自我を失って暴走するだけの化物になってた。


(そうだ。馬鹿が、貴様は友人を同じ目に合わせるとでも言うのか!?)


馬鹿はてめえだ。お前らの負担が大きいのは、魔力量がやべえからだ。人間じゃその負担に耐えられなくなって、頭がおかしくなる。

今必要なのは、お前らの魔力とそれを操作するお前らの実体化。

お前らが戦う必要はない。俺に魔力を流し込みまくって負担を減らせばワンチャンある。


(机上論だ!負担を減らして彼らが耐えれるとも限らない!そもそもどうやって彼らが適合するまで持ちこたえる!?さらに言えば我々の魔力全てをあわせても元の魔王の魔力のたった2.5倍!敵はその倍は魔力があるぞ!)


その通り。言うことは最もだ。

だから言おう。


「俺と俺の仲間をみくびんじゃねぇ。」


(ッ!精神論だ!貴様がそんなものを叫ぶとは思わなかったぞ!)


「………いや、やるぜッ!そんくらい、耐えきってやらァ!」


ギルが吠えた。


「元々僕達自身頭おかしいし?ちょっとイカれる位でちょうどいいよ。」


シュウが大真面目に全員ディスった。


「ギルドマスター、考えてみれば頭おかしくなる云々は僕達の精神にかかってるわけですから、精神論で何も問題ありませんよね。もしかして、怖いんですか?」


先生が煽った。


「だ、誰がビビってるって!?ビビってねーよ!おっしゃ、どんとこい、五大獣でもなんでも持ってきやがれ!酔った俺は最強だ!」


ギルマスが自棄酒をした。いつから持ってたんだ。


(馬鹿だ!信じられんバカどもだ!くそ、やってやる!ここで引っ込むようではドラゴンの矜持に関わるのでなァ!)


こっちもヤケになった。

俺の身体に、五大獣の魔力が流れ始める。想像以上にやべえな。制御しきれるか不安だ。

だが。

あのアホ竜は、俺の制御が失敗するとは微塵も思っていなかったからな。やるしかねえ。


「ぬぉぉぉぉッ!お前ら、俺に触れろ!」


4人が触れると同時に、『真祖吸血鬼』を除いた4体が飛び出した。

『邪竜ニーズヘッグ』はギルに。

『巨人ゴーレム』はシュウに。

『神鳥フレースヴェルグ』はギルマスに。

『海王クラーケン』は先生に。


「「「ああああぁぁぁッ!」」」


そりゃぁ、苦しいはずだ。


「もっと、もっと俺の方に魔力を送れ!負担を軽くしろ!だが、威力は落とせねえぞ!」


「………面白いですね、無理矢理五大獣を実体化させよう、という魂胆ですか。自爆を待つのも面白いですが………懸念材料は排除させて頂きます。」


魔王が魔力の力場を展開する。

マシンガンは減ったが、その代わりにいくつもの光る剣が召喚された。


「『エクスカリバー』ッ!」


俺の愛用する、防御不可の絶対攻撃。その力は、空間魔法ですら止められない。


「オオオォォォォォォォ!」


俺の魔力操作は五大獣から送られる全魔力を制御するので手一杯だ。

だから、時間稼ぎに魔法は使えない。


「先に宣言しとくぞ、お前は人間じゃねえ!だから、俺が『今火薬を使おうが何も問題はない』ッ!」


収納袋の中身をぶちまけた。

俺の、数々の作品共がボロボロと出てくる。


「最初はこれッ!」


黒色火薬。俺の作った火薬で一番パワーがない。

こいつで、俺をぶっ飛ばす(・・・・・・・)。体重30キロ台なめんな。

一番身体能力の低い先生を抱きかかえ、他三人はグリセリンで転ばせる。グリセリンは石鹸を作ったときに大量に作った。変な所で役に立ったな。


ブオン、と俺達の頭上を『エクスカリバー』が掠める。

お次に飛んできたのは巨大な雷魔法。


「『キュロムニ・ハルシオン』!」


こいつ、真祖吸血鬼の最強魔法をパクりやがった。

しかし、所詮は雷。

俺は収納袋を漁る。


「おるぁッ!」


取り出したのは、ドでかいゴムの板。純度くっそ高いぜ。作るときにペタペタ踏むの楽しかったからな、寝っ転がれるくらいデカイのを作った。ゴム臭いけど。


「弾けッ!」


『キュロムニ・ハルシオン』が直撃。流石『ニーズヘッグ』にとどめを刺した魔法なだけあってクソ強力だ。だが、どこまで言っても雷は雷。


「これすら弾きますか!」


ゴムの板は衝撃でぶっ飛んでいったが、『キュロムニ・ハルシオン』もどっかに飛んでいった。

動揺する魔王に、俺は2つ爆薬を投げつける。

ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン。クソ長い名前だが、威力は絶大。


「ぶっとべぃ!」


そう言った俺が一番吹っ飛んだ。

十分距離を取っていたが、ゴロゴロと床を転がって壁に激突。


「「ぐぼッ!?」」


転がってきたギルマスが俺に衝突。つ、つぶれる………。


「どけ、でけえ図体しやがって!」


「お前がちっこいだけだろ!?」


お?


「なんだ、上手くいったのか。」


「当たり前よ。つってもな、これ身体に悪いぜ。さっさと終わらせよう!」


ギルマスは成功か。他の連中は………おお。


「ロイド、準備完了だ!」


「早く終わらせよう!結構身体に負担がかかる!」


「僕は問題なし。いくらでもいけるよ。」


全員成功。ギルマスとシュウは少し無理してるようだが………。


「………成功させましたか。やはり経験がない状況はよくありませんね。この回も失敗の(・・・・・・)可能性が出てきました(・・・・・・・・・・)。」


「何をごちゃごちゃ言っるかしらねえが、そうだ。てめえは今この場で死ぬ。いくぞ!」


俺が叫ぶと同時に、4人も叫んだ。


「『真祖吸血鬼』!」

「『邪竜ニーズヘッグ』!」

「『巨人ゴーレム』!」

「『神鳥フレースヴェルグ』!」

「『海王クラーケン』!」


五大獣が、一堂に会する。

壮観だ。俺は俺自身を見れねえが。まあ、真祖吸血鬼だけ大きさ人間だしな。いなくても変わんねえ。


(主よ、馬鹿なことを言ってる暇はないぞ。)


へーへー。

俺は両手を大きく広げた。

右手に、『火』『水』『雷』『土』『風』。

左手に、『光』『闇』。


「よっし、魔力を叩き込めぇ!」


「「「オオゥ!」」」


五大獣が、それぞれの魔力を俺の手の平に叩き込む。

同じだけの力を持つものたちが、全力で魔力を叩き込んでいる。だから、それぞれの魔力量は均等だった。

つまり、そういうことだ。

俺は右手を差し向ける。


「喰らえや!」


俺が『バールゼフォン』を打たんと念じた瞬間、脳裏に言葉がよぎる。


(この回も失敗の可能性が出てきました。)


「――――――やめだッ!てめえ、そういうことか!」


繋がった。魔族の女から引き出した情報と。

なるほど、どういう理屈かは知らねえが、この魔王の中身の影野郎は死なない。

数十年置きに蘇り、こうやって新たな魔王として蘇るって寸法のようだ。


「気づきましたか、『勇者ロイド』。それで、この私をどうします?殺すのをやめますか?」


「んなわけねえだろ。」


俺と魔王の問答に、ニーズヘッグがしびれを切らした。


「おい、勇者!何をしている!さっさと殺せ!」


「そうもいかねえ。こいつは、死んでもいずれ復活する。そして、今回のように魔王に取り付いて成り代わるらしい。あの魔族の女から聞いたことはそういうことだったってえわけだ。」


「ならどうするというのだ!なんにせよ、殺す以外の方法はないぞ!」


「いんや、あるぜ!」


俺は聖剣に命令した。

『魔力になれ』と。


闇属性魔力に比べて足りていなかった光属性魔力が、一気に充満する。

いくぞ、魔王。


「『リインカーネーション』!」


「なにィ…………ッ!?」


ずっと昔から考えてたことがある。

『リインカーネーション』の属性だ。こいつは、どの属性にも当てはまらないように見えた。

強いて言うなら闇属性か光属性だろう………と思っていたが、どうも違った。どちらも使えるようになっても、俺は『リインカーネーション』を使えない。

だがしかし。

ヒントはあった。それは、『魔王しか使えていない』こと。他に見たことがないからな。

その上で、魔王だけの優位性を考えれば、答えは想像だけは出来る。

それは、全属性複合魔法。性質は、恐らく魂に干渉するもの。


――――――流石だ、ロイド君。そこに気づくとはね………。


ショタ魔王の魂が、魔王の肉体から離れていく。

行き先はどこかって?そりゃ、フィルの死体だ。俺の人生の汚点とも言える。よくよく考えてみりゃあ俺のやったことってのは人としてどうかしている。

という訳で、こいつでなかったことにする。誰もこれ以上保存液を取り替えないですむな。

ショタ魔王の魂が、イタルペナまで飛んでいったところで、魔王が膝をつく。


「やってくれましたねぇ………!」


「ケッ、ショタ魔王がいなくなったら性格も戻るって訳か。さっきまでの紳士系強者オーラはどこに行った?」


「黙れッ!貴様はミスをした!やつがいなくなった所で魔力量自体に問題はない!貴様は奴を転生させるのに魔力を使った!そのまま踏み潰してやるゥゥゥゥゥゥッッ!!」


しょっぼい中身が漏れ出てきやがった。

俺は、魔王城の天井をぶっ壊しながら降ってきたアホみたいな魔力の塊を、空間魔法で躱す。動きが単調になったな。楽だ。

まあ、これで終わりだが。

俺は両手を前に突き出した。


「消えな、三下!永遠に俺の目の前に現れるんじゃねぇぞ!」


蓄えた全魔力を、右、左の順番で発射する。

3割は先程失ったとはいえ、それでもこいつに致命傷を与えることは可能な魔力量。

それを見て、魔王は笑った。


「は、ハハハハハハ!馬鹿め!貴様は次!ヨボヨボのジジイになった辺りで殺す!」


俺も笑った。


「おう、そうだな。多分、そいつは無理だ。」


右手から放たれた『時間』の魔力が魔王を包む。


「………?」


「今、お前は時間的に固定された。」


続いて、左手から放たれた『空間』の魔力が着弾。

魔王の姿が、一瞬で消えた。


「そして、お前は空間的に隔離される。俺らとは違う、どっかの次元にな。

未来永劫、わけの分かんねえ所で過ごしてな!そして帰ってくんなバーカ!」


反応はない。

当たり前だ。音どころか光すらこの世界に届かない所に飛ばした。

さっきショタ魔王を転生させたのはこれに巻き込まないためだ。恩を仇では返さねえ。


「………ひひ。」


勝った。完全に勝った。


「勝ったぞオオオオオオオッ!」


暗黒大陸の、明かり無き空に向かって吠える。

ああくそ、疲れた。疲れたなぁ………。


俺は、大の字になって目を閉じる。

誰かが、俺を担ぎ上げた。


「おう、よくやったロイド。クエスト『魔王討伐』完了だ!」


微睡みの中で、その誰かが言う。酒くせえぞ、バカヤロー………。



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