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399話 最終決戦 4

「こりゃあ、やべえなぁおい………。」


『真祖吸血鬼』と共に『怠惰』の中へと引き釣りこまれた俺は、『唸る水流』に事情を説明しつつも、冷や汗をかいていた。

今いるのは、実質二人だ。3人いれば普通に殺せるが、二人だと厳しいことこの上ない。

『唸る水流』は、『怠惰』から魔力を引き出すからこその強さだった節がある。今は無力だ。


「主よ、これはかなり綱渡りに近いぞ。我々はどちらも低い耐久力を再生力で補っている。」


その通りだ。一撃でも喰らえば俺達は死ぬ。だがしかし。


「その代わり、俺達は攻撃力自体は高い。俺達以外のメンツが他の七罪将を殺せるとは限らねえ。

攻撃をかわし続けながら殺すしかないぞ。」


闇属性に異様に強い聖剣と、他の五大獣に比べて攻撃力が異様に高い『真祖吸血鬼』。

今までのように俺に魔力を集めてファイアー!って出来るわけでもない。

となると、だ。

空間魔法が使えるかどうかで戦いは決まる。

幸い、先程まで空間を一気に支配していたのは『暴食』と『魔王』。今なら使い放題だ。

そして、あちらも同じことを考えていたらしい。


「おい、お前が自分のタイミングで闇属性魔力を出せ。俺が合わせる。」


「了解した。事実、闇属性魔力があまり通るとも思えない。攻撃は雷属性のみを使う。闇属性魔力を纏ったらそういうことだと思って欲しい。」


「わかった。わかりやすくていいじゃねえの、空間魔法の用途は俺が決めるぜ。攻撃に集中してくれや。」


時間もないので、パッカンと『棺』を割る。


『ああ、面倒だ。実に面倒だ。』


中から現れたのは、上半身がムッキムキの悪魔。逆に下半身はめちゃくちゃ小さい。どうやら浮遊しているお陰で身体は支えられてるみたいだが。

どうやらパワータイプではあるが速度は低いっぽいな。


「いくぞ。」


俺と真祖吸血鬼は二手に別れる。『唸る水流』には棺の後ろに隠れてもらった。


初撃は真祖吸血鬼の『ズレパニ・ブロンテ(雷の鎌)』だ。

最も燃費がいいのだから使わない手はない。武器だけあってこちらの身体能力も加算されるしな。


ジリ、と『怠惰』の右肩が焼ける。

それと同時に、目で追えないスピードで『怠惰』の両腕が動いた。


「ッ!」


間一髪。空間魔法で難を逃れる。

直後、暴風と爆音で俺達は鼓膜が敗れた。


バァン!


『怠惰』の攻撃は、猫騙しだった。腕を目で追えないのだから過去形で言うしかない。

まるで、蚊を叩こうとした、とでも言いたいような選択だ。


だが、1つわかったことがある。


「攻撃は通るな。」


「倒すのは不可能ではない、ということか。」


つまり、敵は見た目通り近接攻撃に特化していることだ。

こちらに向かってくる速度を見れば、速度型ではないのは明らか。防御力も『ニーズヘッグ』の黒炎は超えられない程度。

まぁ、攻撃力はヤバイな。全力で戦えている俺と真祖吸血鬼が衝撃波だけでダメージを受けるなんてのは色々バグってる。


「つまり、作戦は簡単だ。遠距離から弾幕を張ろう。」


筋肉特化ってのは弱い。あれがどうにかなるのはゲームン中だけだって教えてやらぁ。


「『黒雷』!」


「『リュミエール・シーカー』!」


光属性のチクチク攻撃と『黒雷』の弾幕が殺到する。

本当に近接攻撃特化らしい。まともに攻撃を喰らいながら前進してくるが、勿論俺達も逃げるので全く距離が縮まらない。悲しい。

諦めたのか、『怠惰』は両手を地面について休み始めた。


『………ああ、本当に面倒だ………。』


なんか知らんがラッキーだ。このまま攻撃させてもらおう。

チクチクしていると、真祖吸血鬼が疑問を口に出す。


「………主よ、地面がおかしくないか?」


………確かに?言われてみればそんな感じもするな。ガタガタと震えている。


「地面越しになんか来るかもしれねえ。飛ぶぞ。」


俺達が羽ばたいた直後。


『――――――ああ、面倒くさい』


大地が跳ね上がった(・・・・・・)


「うおおお!!!???」


全力で上昇しながら、何が起きていたのかを確認する。


「大地を持ち上げた………!?」


しかし、幸い持ち上げられたプレート上の大地は、自重でぽっきり半ばで折れる。そりゃそうだ。

ホッとする俺達の目の前で、『怠惰』がグッと力を込める。


『面倒だ………』


俺達を目掛けて、『怠惰』の巨体が飛んだ。


(腕だけで………ッ!)


だが、元々距離はあった。

躱しきれる。俺達が旋回での回避を選択した直後。


『怠惰』の上半身が更に肥大化した。


「ガァッ!?」


掠っただけだ。掠っただけなのに、全身がバラバラになるかのような衝撃が走る。

勢いそのままに地面に叩きつけられる。


『面倒だ………』


俺の目の前で『怠惰』を拳を振り上げる。


「なら殴るのはやめてくんねえかなぁ………ッ!」


まずい。

『真祖吸血鬼』の方もぶっ飛んだのか、使える闇属性魔力がない。

俺の防御力は紙だ。普通にミンチにされる。


(くそったれ、こんなことなら先に確認しとけば良かった!)


エセ勇者を見てた限り、こいつ(・・・)は相当に消耗が激しい。こんな空間でなきゃ使いたくない一品だ。

………そもそも使えるかどうかも知らねぇが。


『怠惰』の振り上げられた拳が止まった。

もう時間はない。俺は、ヤケクソになりながら叫んだ。


「『聖剣開放(・・・・)『エクスカリバー』ッ!あんのエセ勇者に使えて俺に使えない道理があるかっつーの!」


『怠惰』の腕が消える。


そして、再び俺の目に移ったそれ(・・)は、俺の後ろで真っ二つに割れていた。


『………。』


『怠惰』は、無言だった。

無言で俺の手元を見つめていた。

俺の手元にある『エクスカリバー』を。いつもの倍以上に巨大化したそれ(・・)を。


「………すげえな、こりゃ。」


思わず声に出てしまう。

これが『聖剣開放』。五大獣と比べても遜色無いパワーだ。


「………使えたのか。」


真祖吸血鬼が駆け寄ってくる。傷は無いようだが、全身血まみれだ。重傷だったようだけど、流石の回復力としか言いようがない。


「使えたは使えたが、消耗がやべえな。早くケリを付けたい。

今の俺は、膨大な量の光属性魔力がある。今なら特大の空間魔法が使えるはずだ。」


俺が右手を出すと、真祖吸血鬼がそこに闇属性魔力を叩き込む。


『面倒だ………』


次の瞬間、『怠惰』は完全に霧散。

その跡には、これまた巨大な門が残った。


「ふぅ………。」


元の状態に戻す。やっぱり、負担が大きすぎるな。使っていたのは30秒位だが、かなり怠い。まあ、これは精神世界の話だ。現実に戻れば治っているだろう。


『唸る水流』が門を開くと同時に、俺達の意識は現実へと戻る。
















「うおおおおおお!!!!!」


目を覚ますと、ギルマスが俺を抱えながら全力疾走していた。

そんなギルマスの周りで、バツンバツンと雷撃だの斬撃だのが飛び交う。倒れてるやつから離れて逃げ回ってる辺り流石というべきか。

魔法の発現元は『暴食』と『嫉妬』。やっぱ倒しきれなかったか。


(ごめん、あれはどうしようもなかったよ。)


ショタ野郎からの念波だ。どうやら二柱どちらも倒せなかったらしい。さっきも言ったけど攻撃力の問題だろう。


「おお、やっと起きたかロイド!こいつらどうにかしろ!俺はもう限界だっ!」


俺は無言で『ヘイレン』した。


「よし、走れ。」


「いよっしきたああああ!!!!」


ギルマスがハッスルするのを見て、『暴食』が舌打ちした。


「下がるぞ。流石にあの二人は危険だ。」


「あ、おい!待て!」


二柱は、一気に跳躍して3階に逃げ込んだ。

それを追おうとする俺達を、少し離れたところにいるリーダーとカナルが呼び止めた。


「ロイド、『巨人』を連れて行け。」

「『フレースヴェルグ』もだ。必ず役に立つ。」


やはり、魔力が空っぽだときついか。

俺が二人に触れると、俺の両肩に紋章が浮かび上がった。

五大獣オールスターだ。

しかし、受け渡し自体も二人には負担だったらしい。俺に紋章が現れると同時に、二人は気を失った。


「ッ!」


一瞬焦ったが、大丈夫だ。ちゃんと呼吸もしているし、見た感じ問題はない。精神的に負荷がかかりすぎたのが原因かもしれない。


「ロイド、二人は私が纏めて面倒を見ましょう。」


アリエルが、そう言いながらドサッと二人の元に腰を下ろす。

こっちも限界のようだ。なんだかんだで一番きつい役割だったからな、さっきの戦い。


「頼むわ。まずいと思ったらそいつら抱えて逃げてくれよ。後は全部俺らに任せろ。」


「ええ、無理はしません。私だけ人外の力がありませんからね、ここいらが落としどころでしょう。」


そう言いながらアリエルは微笑んだ。

その横で、シュウとギルが起きる。ちゃっかり掛け布団まである。用意いいな。


「そんで、お前ら。どうだ、いけそうか?」


「任せな!完全復活だ!」


「伊達に暗黒大陸を駆け抜けてきてないよ。」


最高だ。俺と一緒に修羅場ってきただけあってタフネスさが違うね。

これで4人。

『唸る水流』は『怠惰』なしでは魔王なんて存在と張り合えるだけの戦闘能力はない。それは精神世界で話を通してあったが、彼女もアリエルに預かってもらうことにした。


(ちょっと、戦力が足りねえかもな………。)


内心俺はそう思ったが、ないものねだりをしてもどうしようもない。

俺達が3階に向けて歩き出そうとしたところで、後ろからカツ、カツと音が響いた。


「――――――!?」


先生だった。


「うぃ、ウィルさん!?下はどうしたんですか!?」


シュウが目を丸くして質問する。

見た感じ、先生に傷はない。魔力をある程度消耗しているが………。


「倒したよ。『風帝』のお爺さんは下で休憩中だ。戦いの中で『加護』を得てね、僕も協力しよう。」


想像以上に強くなっている。あの集団を突破するのは並大抵の実力じゃ出来ない。

魔力量も6割は残っているようだ。

自分の顔が、知らず知らずのうちに笑顔になってるのがわかる。


「よしきた。残ってるのはボロボロの七罪将二柱とまだ完全体じゃねえ魔王だけだぜ。」


『リュミエール・シーカー』が、まだ魔王のチャージがまだ不十分な事を教える。

つまり、賭けには勝ったってことだ。

ギルマスがニヤリ、と笑った。


「お前ら、クエストだぜ。依頼人は『人類』、内容は『打倒魔王』だ。難易度はSSランク、報酬は『世界平和』。どうだ、わるかねえだろ?」


「冒険者冥利に尽きるね!」


5人で3階への階段を登り、バン、と門を開く。


白い、何もない部屋だった。

そして、広い。フロア1つを丸々一部屋として利用しているようである。


その奥に、異様な存在が一人。

そう、一人だ。


そして、その傍らに肉塊が2つ。


「………なるほど、そういうことか。」


俺の言葉に、魔王の姿をしたそいつは粘着質な笑みを浮かべた。

弥が上にもこいつが俺の知る魔王ではないことを理解させられる。

なんだかんだで、俺の知る魔王は甘いやつだ。仲間を養分にはしない(・・・・・・・・・・)


殺す。


俺は『エクスカリバー』を発現した。


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