393話 魔王城潜入 2
(この二柱はどちらもかなり体力が回復している。更に言えば『強欲』は耐久力が高いから、まともに戦うと時間を食う可能性が高い。なら僕達が万全の状態になる精神世界で戦ったほうが良いだろうね。
やり方は簡単。一気に二柱を聖剣で貫けば、僕達が二手に別れて制圧する。片方だけ刺すと片方と無防備のまま戦うことになるから気をつけて。)
今の聖剣は柄しかないけどこれどうする?
(槍にでも変形させとけば良いんじゃないかな。)
合点承知の助。
俺は、一気に空間魔法を展開し、聖剣を槍状にした。
(『リュミエール・シーカー』!)
とりあえず、近くの魔族全員の魔石に光属性魔力を注ぎ込んで殺す。今の俺は対魔族ならば誰にも負けないだろうな。
「馬鹿な………これが勇者の力だと………!?」
「ホッ!」
『色欲』が唖然としている間に『強欲』の背後に転移し、槍を突き出す。
だが、どうやら『強欲』の方はあまり動揺しなかったようだ。寧ろ、こいつは酷く冷静である。
突き出されたそれを『強欲』は引っ掴んでニヤリ、と笑った。
「貴様らの作戦など既にわかっている。片方だけが刺されていれば貴様らも精神世界には潜れまい。」
そう言って、『強欲』は自分から腕を聖剣にズブリ、と突き刺す。そして、聖剣をガッチリと掴んだ。
なるほど、それなら普通は二柱同時に刺すのは厳しいだろう。だがしかし。
「お、そうだな。隣を見てから同じことをもういっぺん言ってみろ。」
『色欲』の首には、もう既に聖剣の刃先が刺さっていた。
『強欲』が打って変わって間抜け面を晒しながら、己の腕を見た。刃先だけが、消えたようになくなっている。
「空間魔法………!」
「時間切れだぜ。」
俺の意識が、目の前の男の中に引き釣りこまれる。
意識は手放さない。全力で耐えていると、俺の精神世界と似たような空間に入った。
「お、お前は………!」
「おっすカナル、久しぶりだ。」
隣には、今しがた聖剣の影響で目を覚ましたであろうカナル。
そして、同じ空間にニーズヘッグ、フレースヴェルグがいた。
「ど、どうなっている………俺は意識を消されたはずだ。」
「この聖剣の力で一部復活したわけだ。これからお前の意識を全部取り返すぞ。協力しろ、いいな。時間がないから話は後だ。」
「言いたいことばっか言いやがって………いつも通りか。何をやるかは知らないが早くやれ。時間がないんだろう?」
「おうよ。」
先程ショタ野郎がやっていたように、巨大な棺目掛けて聖剣を振り下ろす。
パカっと割れて、中からスライムみたいなよくわからないデカイ肉塊が這い出てきた。
「おうふ………。」
「まさか、あれをやるってか………?」
カナルが不安げに聞いてくる。見た目も魔力量もとんでもないことになってるからだろうか。
「そのまさかよ。総員、俺に魔力を送ってくれ!」
「了解だ。風の五大獣、フレースヴェルグの全力を見せよう。」
「くっ、何故よりにもよってこのアホ鳥と共闘せねばならんのだ………。」
「僕は君のこと嫌いじゃないよ。」
「我は貴様が嫌いだという話をしているのだ!」
どうしてニーズヘッグとフレースヴェルグは一緒になると喧嘩が始まるんだ………。そしてどことなくBL臭さを感じるのは何故だ………。
「お前ら、喧嘩してる場合じゃねえぞ。後カナル、俺は集中するから抱えてくれ。」
「わかった。………軽いな。」
「いいだろ、その方が動きやすくて。」
米俵が如く俺が担がれる。
先程は『憤怒』相手ですらオーバーキルだったので、限界の半分くらいチャージした。
そいやっさ。
「――――――――――――!」
又もや大爆発が発生し、跡形もなく『強欲』が消え去る。
「フハハハハハハ!肉塊などドラゴンの敵ではないな!」
「うん、すごいすごい。」
「貴様はどうして一々腹の立つ言い方をするのだ!」
実際凄い魔力が双方から送られてきた。
あまりの火力に、カナルが震えた声で呟く。
「う、うそだろ………?」
「やばいだろ。俺もヤバイと思う。」
総員が絶好調で戦える精神世界だからこそとも言える。
『強欲』のいた場所に、俺の時と同じく巨大な棺の門が形成された。
「それを通れば現実世界に戻れる。いくぞカナル。」
「お、おう。あっけなかったな………。」
「俺もそう思った。」
今度は強烈な浮遊感。
視界が一瞬暗転した後、先程までの休憩室に景色が戻った。
隣には、意識が戻ったらしくアリエルが笑顔で座っていた。
「助かりました。」
「話はショタ野郎からなんか聞いたか?」
「いえ、何も。兎に角気がついたら『色欲』が倒されてましたね。」
(『寛容なる遣い』の弱体化能力が恐ろしい程強いからね。すぐに終わったよ。真祖吸血鬼は攻撃力ピカイチだし。)
「なるほどな、じゃあ走りながら説明しよう。いくぜ二人共。これから他3人も解放する。」
「「了解!」」
俺は休憩所のドアを開ける。
すると、なんと目の前に魔王がいた。
「おお、丁度いいタイミングで合流できたな。これで百人力だ。」
「………。」
しかし、何故か俯いたまま無言である。おかしい、いつもの魔王ならなんか明るい感じで返してくれるはずだ。こいつは陰キャに優しい陽キャだったはず。
「どうした?魔王、おーい!」
俺がそう言いながら触れようとした瞬間、何かがフッと動いた。
「ゴフッ………!?」
遅れて、俺は魔王が俺の腹を素手で貫いたのだと理解した。直ぐに、脳みそに念波が届く。
(ロイド、危険だ!一旦逃げろ………!)
「わかってら………捕まれ二人共!」
魔王の右手が内蔵をかき回さんと動く前に、空間魔法で魔王城から出る。
草原に膝から崩れ落ちる俺に、カナルが駆け寄った。
「大丈夫か!?」
「問題ねぇ………『ヘイレン』!」
一瞬で腹の穴が埋まる。なんだ、勇者になってから大分痛覚も鈍くなってるな。
それにしてもだ。
「いきなりなんだよ、魔王………!」
どうも、嫌な予感がする。
俺は魔王城を見上げた。




