390話 勇者ロイド
「うぁ………。」
眠りから覚めるような感覚。
「おお、主が戻られた!」
「やはり、聖剣の効果は凄まじいものがある。精神世界にまでここまで影響を及ぼすとは思わなんだ。」
「いやー、上手くいった上手くいった。魔王もほんとよくやったよ。」
聞き覚えのある声が3つ。
「わおー、実際にこの目で見るのは初めて!よろしくロイド君。」
聞き覚えのない声が一つ。
「って、わけわかんねえぞこの状況!?俺は意識乗っ取られて消えたじゃん!?あとお前誰!?」
「わははは、落ち着け落ち着け。」
俺の目の前にいるのは、ちまっこい天使である。俺と同じくらいの身長………あれ?
「そういや、俺はいつからこの姿に………。精神世界じゃ前世の姿だろ………?」
「大分前からだよ。心身ともにこの世界に染まってるからね。」
「よくよく考えたらここに来る時は大体焦ってるな。だから気づかなかったのか。」
俺が納得していると、ショタは微笑を浮かべた。
「どうやら落ち着いてきたようだね。それじゃ、多分わからないことだらけだから説明しよう。
まず、ここにいるのは『寛容なる遣い』。神代における『憤怒』の天敵だった方だ。」
「よろしくぅー!君が像に触れたときに本当は来てたんだけど、『憤怒』が覚醒するまで具現化できなかったんだよね。」
俺と入れ替わり、ってことか。
「いや、ちょっと待て俺が見た像はもっとあれだったぞ、グラマーだったぞ。」
「チミ、そういうの苦手じゃなかったかね。」
「配慮されてたのか………。」
「話を進めるけど、とりあえず君が死んでいる間に人類の都市が二つ七罪将によって消し飛んだよ。その代わり、現在七罪将のうち5人が重傷を負ってる。
そして、君は『憤怒』に自我を侵食される形で死んでたんだけど、聖剣が君の身体に入ったことでこうやって最低限自我を取り戻したわけだ。」
なるほどな、だから少し調子が悪いのか。
「寧ろ二つしか飛ばなかったのが驚きだな。俺はどんくらい死んでたんだ?」
「2日とちょっとだね。あと、聖剣がここにあるから察したかもしれないけど、勇者はついさっき死んだよ。」
「あいつが死んだか………。」
いつかどこかで俺の手で殺そうとは思っていたが。
「うん?そういやなんで俺の精神世界に聖剣が飛んできてるんだ?」
「そっからが本題だ。実は僕達が共有しているこの体こそが、今代の勇者で『勇者ロイド』なんだ。君の精神が転生してきて勇者ではなくなったけどね。
あの勇者は聖剣が次点で選んだ男って訳だ。」
「はい?」
頭の中が一瞬真っ白になった。
この体が勇者?色々間逆なんだが大丈夫か。
いや、でも光属性魔力持ってるし、他に3属性持ってるからわからんでもないか………?これで勇者認定されてたら俺も平和に暮らしてて腹一杯食って身体もしっかりしてたかもしれないしな。この体の運動神経自体はとてつもなく良かったし。
しかし、納得しかけていた俺の脳みそは、更なる暴露に再び真っ白になる。
「そして、この僕は『傲慢』ルシファーにして本来生まれるはずだった『勇者ロイド』の融合した状態なんだ。」
「わっつあっぷ?」
とんでもない話を聞いてしまった気がする。
いや、確かに見た目俺だし七罪将とか言う割には『傲慢』いなかったけど。
よくよく考えたらこいつのやることなすことは色々ハイレベルだった気がしなくもない。
「な、なるほど………。」
「うわあ、割とすぐに納得したね………。そのほうが話が速くていいけど。
それで、僕達の目標は実に単純。魔王の解放だ。」
「うん?魔王の野郎、どうしたんだ?」
監禁でもされているのだろうか。
「そういや君は死んでたね。魔王は今、3人の強力な魔族によって自由を奪われている。いや、正直他二人は弱いんだけど、もう一人が魔王一人ではどうしようもない。
そこで、魔王は一つ策を練った。状況を知る僕達に聖剣を持たせ、危険な七罪将を殺させる。そのために、魔王は七罪将を瀕死にさせている。後は僕らと魔王でその魔族3人を殺す、という訳だ。」
「そういや魔族の男がそんなこと言ってたな………。そんで、どうするんだ。俺達は頭の中の人ABCD+αで指一本動かせねえぞ。念波で七罪将が殺せるならファミチキは苦労しねえ。」
「何言ってるか一部わかんないけど、余裕は戻ってきたみたいだね。
因みに、主導権をこっちに取り返す方法は至極簡単だよ。ここにいる全員で『憤怒』をぶち殺す。」
「できんのか?やっこさんはどんどんパワーを増してるぞ。」
「それどころか僕らが相手するのは精神世界における彼だから既にフルパワーさ。
だが、それ以上にこのメンツは強力だよ。『寛容』がいなければ僕も別の方法を模索したけどね、『憤怒』の天敵の彼女がいるとなれば話は別だ。」
「ふへへ、兄貴の評価凄く美味しいです。」
「言動はちょっとアレだな………。」
ここで、ニーズヘッグが口を挟んだ。
「貴様ら、呑気に話すのはいいが、時間があまりないのではなかったか?七罪将は少しずつその傷を癒やしているぞ。」
「そうだね。やるのは早いほうがいい。」
ショタ野郎は、スッと聖剣を手元に呼ぶ。
「みんな、開戦だ。」
そして、スパッと屹立する棺を叩き割った。




