384話 決戦 3
視界が開ける。
「――――――ッ!」
「よかったよかった、やっぱり光属性魔力と親和性が高かったみたいだ。」
跳ね起きる。
俺は、確か光の楔を食らって意識を失ったはずだ。
周りをキョロキョロすると、どうやら俺は精神世界にいるらしい。
「状況は理解したかな?」
そして、目の前には俺の姿をした輩がいる。
いつぞやのショタ野郎である。
「いや、全く。俺はどうなったんだ、光の楔を打ち込まれても精神世界ってのは行けるもんなのか?」
「僕が光の楔を解除した。正確には、『吸収させた』ってのが正しいけど。自分の魔力回路を見ればわかるよ。光属性魔力だからこそ出来た芸当だね。他なら反発して無理だよ。」
………確かに、俺の魔力が大幅に増幅している。一時的なものだろうけどな。こうしているうちにもアホみたいな速度で抜けていくのをひしひしと感じる。
「ってことは、俺はみんなを治すことができるって訳か?」
「いや、偶々魔力回路に刺さってたから自分で吸収できたってだけだよ。
できるんならそこに転がってるのを全員治してるしね。」
そう言って指差したのは、光の鎖で雁字搦めにされた真祖吸血鬼、ニーズヘッグ、でっかい棺。
「俺が最後に全員引き釣りだしたからか………。」
「そうだね。でも、もうわかったんでしょ、攻略法。」
「ああ。」
やり方自体は酷く単純で、つまらない。だが。
「俺はこのために今まで生きてきたんじゃねえか、って感じがするぜ。」
「なんだそれ。」
「みてりゃあわかる。」
「そうかい。」
俺は現実世界に戻った。
「完全に余裕がなくなってるなぁ………まあ、仕方がないといえば仕方がない。元々無駄なことは好まないってのはわかっていたし。ここまで追い詰められてるし。」
一人だけの部屋に、悲しい声が響く。
「おわっ、おわっ、おわっ!ロイドさん起きましたよ!ロイドさん起きました!」
「お前流石にロイドさん信者がすぎねえか………うわっうわっでたあああぁぁぁぁぁ!!???」
「人をお化けみたいに言いやがって………。」
俺が目を覚ましたのは、城塞都市の病院。
顔なじみの医者たちに囲まれて俺は寝かされていたベッドから立ち上がった。
周りでは、大量の光の楔を打ち込まれた人々が眠っている。
その間をすり抜けるように沢山の関係者がわらわらと俺の周りに集まってきた。
「ロイドさん、どうやって戻ってきたんですか!?」
「光の楔が偶々俺の魔力回路に刺さってたお陰で吸収できた。光属性魔力のおかげみたいだな。」
「流石だ………。」
「『不死』すぎる………。」
「それ、他の患者さんにも出来ます?」
「いや、光属性魔力がないと出来ないはずだから、無理だろう。」
周りががっかりしたのを感じる。でも、そもそも俺自身の魔力回路に刺さっていなければいけないのならどう足掻いても無理だ。
「逆に一つ聞きたいんだけど、あれから何日経った?」
「丸2日ですね。」
「そうか、ありがとう。」
2日分。速度から考えて………。
(大陸一つ二つ飛ばれてるな………。)
すぐに追いかける必要がある。
「ロイドさん、どこ行くんですか!?」
「『勤勉なる遣い』を殺して、全員復活させる。」
「「「ッ!!??」」」
驚く人々を尻目に、大空に飛び立つ。
(『リュミエール・シーカー』)
王都でやっていたのと同じ、光の楔から伸びる先から現在地を特定する作業。
無数にある光の線は、簡単に俺に目的地を教えてくれる。
ものの2分で計算を終え、収納袋から取り出した地図にその地点を書き込んだ俺は、思わず笑ってしまった。
「…………ハハッ。」
なんだ、まだこの大陸にいるじゃないか。
どうやら寄り道しまくってたようだな。
「くそったれ、すぐに殺してやる。」
全力の『魔翼』を展開する。
光の楔にこめられていた魔力を全てブースター代わりに。
「発進!」
ブオン、と勢いよく魔手装甲で補強された体が呻る。
一直線に、地図上の位置へ。
山を谷を森を平地を荒野を湖を洞窟を全てを高速で超える。
不意に潮の香りがした。
「ここか。」
たどり着いたのは、魔法都市。
海に面し、知識人と海の男が集まる街。
その上空に、異様な輝きを放ちながら『勤勉なる遣い』は座していた。
「対象の魔力を測定。回復魔法使いにして七罪将『憤怒』と推測します。
浄化は失敗した模様、再度浄化に入ります。」
「………うるせえな。」
今だけは、今だけは俺の怒りを吸収するものがいない。
こいつには俺の感情全てをぶつけさせてもらおうじゃないか。俺が最も得意とする手段で。
「『ヘイレン』!」
『勤勉なる遣い』の肉体に、ヒビが入る。




