383話 決戦 2
「『バルムンク』ッ!!!!」
そう叫ぶとともに、大地が蠢く。まるであらゆる力という力がそこに吸い寄せられるような感覚。世界が緑がかり、視界がぼやける。
「うッ………!」
あまりの異様さに、ギルが呻いた。
その中心である甲冑なんかはその巨大過ぎる圧によってメキメキとそのアームガードを破壊され、痣だらけの素肌が露出するほど。
(なるほど、これはどうしようもなく人類最高火力だ。)
いつか見たクソギルマスの『レーヴァテイン』とは比べ物にならない。ただ顕現するだけで息が出来なくなるような代物。全てを委ねたくなる代物。
そして、それが振り下ろされる。
「アアアアァァァァァァァァッ!!!!!」
雄叫びとともに、吸い込まれるように『勤勉なる遣い』の額へと。
空気が割り、雷が如く爆音を轟かせながらの、衝突。
――――――――――――ブワッ。
「うおおおお!!!!?????」
「シュウ、逆らうな!はぐれるぞ!」
衝撃波で三人ともぶっ飛ぶ。
荒原という何も無いような場所でありながら、俺達の周りをぶっ飛んだ草やら土やら色んなものが波の如く飛んでくる。
(くそ、目を瞑るしかねえ………なんも見えねえぞ………!)
『リュミエール・シーカー』は呆気無く『勤勉なる遣い』に弾かれる。これはさっきからずっとだ。『勤勉なる遣い』に触れた途端中断される。
「『ドラゴンクラッシュ』!!!!!」
しかし、ギルがこの波を真正面から真っ二つにした。ぶっ飛んでいた俺の身体が止まる。瞼を打ち続ける風も土も止んだ。
(『勤勉なる遣い』はどうなってる!?)
瞑っていた目を開く。
直後、俺は腹に蹴りをぶちかまされた。
「ホブゥッ!?」
再び目を瞑りながら後ろにぶっ飛び、そのままゴロゴロと大地の上を転がる。
勢いが落ちるなり立ち上がり、目を開けながら俺は悪態をつこうと口を開いた。
「くそ、いて……え………な…………ぁ?」
(………あぇ?)
舌が宙をさまよう。
俺の目の前で、巨大な光の楔が地面に沈んでいく。冒険者たちが居た場所に、俺たち三人がさっきまで居た場所に。
「な、なっ―――――」
言葉が出ない。腰が抜ける。
見た目は光の楔だ。だけど、こんなデカイものは知らない。知らない。どういうことだ。この中はどうなっている。みんなは。『勤勉なる遣い』は。
混乱する俺の目の前で、巨大な光の楔が弾ける。その先には。
「生存者1名確認。浄化します。私は『勤勉なる遣い』。」
「あ、ああああああぁ?」
無傷だ。全くの無傷。ノーダメージ。
そう、無傷。無傷。無傷。無傷無傷無傷無傷無傷ム傷無キズ無傷何で何でムキズ何で何デなンでナんでナンでナンデナンデナンデナンデナンデ――――――――
(――――――――はは。)
(ころさ、なきゃ。)
俺が、殺らないと。
(吸血鬼、力を貸せ。)
みんな封印された
(ニーズヘッグ、出番だ。)
殺せば解決する。みんなたすかる。
(おっさん、鎖を外すぞ。)
たすかる。みんなえがお。はっぴーえんど。
「うおおおおおおおおあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
両手から、力が湧き出す。
骨が軋み、喉は潰れ、視界はぼやけ、全身が震える。
「七罪将『憤怒』の力を感知。」
「う゛る゛せ゛え゛え゛え゛え゛え゛ええええええええ!!!!!!!!」
震える身体を雄叫びで誤魔化し、目を見開く。
そして、両手を前方に。
ファイア。
「ふ゛っと゛へ゛!!!!!!!」
ただただ純粋な闇属性魔力が溢れ出る。
触れたもの全てが塵ですらなくなる。反動で俺の足から大地が割れる。
だが、それでも。
「七罪将『憤怒』、浄化します。」
歩みを止めることすら叶わず。
「同時に『勤勉なる遣い』の性能調査、完了。」
全ての放射はただただ横へと流れ。
「対象の無力化を確認。」
他の冒険者同様拳で1メートルほど吹き飛び。
「71%浄化完了。浄化、続行します。」
俺の意識は暗転した。
(あぁ、くそ――――――――。)
全てを超える肉体。最優先で排除。逆に押し返される。『エクスカリバー』。撫でるだけ。全く同じ距離。速度一定。衝撃波。横に流れる。
(攻略法、わかったってえのになぁ――――――――)




