382話 決戦 1
「………計算通りだな。優秀な職員共だ。」
「いや………この場合、一瞬も速度を変えること無く飛んできた『ヤツ』に恐怖すべきだろう。」
二人のSランクは、口を噤んで上空から飛来してきた『それ』を見上げる。
「浄化対象・計54名。戦闘力の測定………想定内。」
『それ』の口から漏れるのは、酷く無機質な声。
「生物として空中における戦闘が困難である種と想定……………再び飛翔し上空からの制圧に切り替え。」
『それ』の見た目は、陶器人形が如き美しさ。
そして、『それ』の名は。
「『勤勉なる遣い』起動。愚かなるもの者共に浄化を。」
「総員、プランAで行動しろ!そして第一部隊、発射!」
『勤勉なる遣い』が光の楔が大量に展開すると同時に、後方から大量の強力な風魔法が飛ぶ。
(とりあえずは、槍と盾を持っている様子はなし………つまり、『全てを超える肉体』!)
『全てを超える肉体』ってなんだ、と思ったが、その答えはすぐに明らかとなった。
「対象、無力化。脅威足りえないと推測します。」
「なるほど、確かにまるで効いていない………第二部隊、突撃!」
威力が距離によって落ちにくい風の大魔法でも、有効なダメージは一切認められない。風魔法が選ばれたのはその視認性もある。何にせよ、俺の考え抜いた第一砲火はつるりとその肌を撫でただけのようだ。
とりあえず、『全てを超える肉体』が非常に防御力に秀でたものだとわかる。もしかしたら更に筋肉などもヤバイのかもしれないが。
第二部隊は物理攻撃の効果を見る。近接主体の奴らで全身を攻撃し、弱点を探す。神話にあるジークフリートのように、一点の弱点があるかもしれないからだ。
「「「オオオ!!!」」」
走り出した彼ら目掛けて『光の楔』が撃ち出されるが、流石はAランク、全員掠るどころか駆けるだけで勝手にかわしている。
元々、運び込まれたぐちゃぐちゃ巨人に光の楔と同じ質量、形状の物を打ち込んでめり込み具合からどれくらいの速度かは既に計測してある。正直俺でも全然躱せる、という速度だ。
「対象は小回りがきく模様。修正が必要である。」
だが、それだけならカンプーフに居た面々がやられたことに説明がつかない。
なら、その答えは『全てを超える肉体』にあるだろう。
「ぐああああッ!」
(『ヘイレン』!)
屈強なAランクが、腕の一振りでぶっ飛ばされる。即死級の威力では無いようだが、打ちどころが悪ければ万が一、ってのがある。
俺によって回復されたことにより、今しがたふっとばされた男は追撃の光の楔を躱す事に成功する。
「助かった!」
「追撃失敗。回復魔法の使い手に留意。遠距離より回復魔法が使える模様。最優先で排除。」
うーむ、だが俺に注意が向くのはあまり頂けない。出来るだけ控えめに行きたいところだが………。
あと、忘れがちだが回復魔法は対象に触れるなり何なりしないと本来は使えない。つまり、そうは言っても俺が回復しないわけには行かないのが現状だ。
「『紅槍』さん、手応えは?」
何にせよ、当たった感想を聞かねば。
「何をどうやっても弾かれる。逆に押し返されるような感覚まであるな。」
「なるほど、弾力もあるのか………。」
一点集中すれば一気に割れる類のものでは無さそうである。
「総員、下がれ!」
全身弄ってもなんもわからなかったことから、更なる被害を防ぐために『世界最強の魔法使い』は後退の指示を出す。
「ロイド、どうやらわかりやすい弱点があるほど甘くはないようだぞ。」
「みたいだな。となると、結局は『本質』ってやつを確かめる必要がありそうだ。」
一応、今ので幾つか候補は消せたと言えば消せた。防御力が高い、という時点でかなり絞れたのだ。
だが、それでも実態は掴めていない。
弾かれるのだから、受け流す類ではない。衝撃吸収系でも無さそうだ。と、なれば………
「プランKだ。これで更に候補は絞れる。」
「リスクを考えるとやりたくなかったがな。それが今取れる最善手のようだ。
プランKいくぞ!自分の持ち場はわかってるな!」
プランK。その作戦の要は、触れるだけであらゆる魔法と豪気を遮断する物質、アダマンチウム。
ギルドの金で世界中のアダマンチウムを集め、Aランク達に持たせたのだ。一チームに一つずつ。
無論、使ってる本人の魔法と豪気も不安定になるのでリスクが高い。しかし、その分を他のチームメイトでカバーしてもらう。攻撃然り、防御然り。
しかし、もしこれで敵を傷つけることができれば。それは即ち、敵の能力が魔法的作用だとわかり、そうなればアダマンチウムを利用した作戦で『勤勉なる遣い』を攻略出来る。
「「「うおおおおおお!!!!!!」」」
冒険者たちが雄叫びで戦意を向上させ、迫り来る光の楔を全てかわし切る。
「いけっ!!!!」
冒険者たちが次々にアダマンチウムを押し付ける。
勿論、『イレギュラーオルフェンズ』も例外ではない。
「『エクスカリバー』ッ!」
魔力と豪気全てを破壊する俺の最強魔法、『エクスカリバー』。
俺が振り下ろすと同時に、他の冒険者たちも一斉に全力を叩き込む。
――――――――――ズルッ。
(えっ…………?)
「ロイド、危ないッ!」
目の前で、シュウが拳による一撃で吹き飛ぶ。さっきふっとばされたおっさんと全く同じ距離。
そして、その拳は………俺が『エクスカリバー』を叩き込んだ筈の拳は、全くの無傷。
「ッ!」
しかし、すぐに現実に戻り広範囲に『ヘイレン』を使う。
「ぐあああッ!!」
「間に合わなかったか!」
だが、何人かは回避が間に合わず光の楔に触れてしまう。
「チッ、ロイド、4人食らったぞ!」
だが、ピンチはそれだけでは終わらない。
「大規模な回復魔法を感知。使用者、発見しました。排除します。」
(マズいぞ………ッ!)
『勤勉なる遣い』が、俺の方を向く。
「ロイド、敵は速度だけは遅い!3人で何とかかわし切れ!こちらですぐにプランZの準備をする!」
「無茶言うぜ………!シュウ、ギル、頼むぞ。」
速度は速くはないと言うが、あの巨体であの速度じゃあ俺ではかわしきれない。
完全に俺を担いでいる二人頼みだ。
「「アイアイサー!!」」
更なる問題は、プランZの中身。
それは、ただ愚直に『持ちうる全てのパワーを叩きつける』、という非常にシンプルなもの。
『勤勉なる遣い』の防御力が魔法的な効果でなければ、物理的に耐久力が高い、ということからプランK失敗用に準備していた、というよりは他に打つ手がない時のものだ。
「うおおおおお!かわせえええええ!!!!」
だが、これは色々と不安要素だらけだ。
まず、この一撃を放つのはあの甲冑一人。つまり、バリバリの近接である。だから、万が一光の楔を撃ち込まれてしまえばそこでこの作戦は終い。
さらに、叩き込む本人自体全力を出すのは久しぶり。何が起こっても不思議じゃない。
「第一、第二支援部隊、一斉に詠唱しろ!」
「「「『フレイム・ブースト』!」」」
「「「『ウィンド・ブースト』!」」」
俺が苦悩している間に、どうやら準備は整ったらしい。
「ロイド、もうちょっとそうやって惹きつけてろ!第三支援部隊、発射!」
「「「『マジッククラッシュ』!」」」
物を脆くする大量の『マジッククラッシュ』が、俺達と鬼ごっこをしている『勤勉なる遣い』の額に全弾命中する。
「いけっ!」
「指図すんなボケェ!」
そこ目掛けて、大量の筋肉増強、速度増加の支援が加わった物理世界最強が飛び上がる。
そして、『勤勉なる遣い』の頭上で全力で身体を逸らせて、咆哮。
「『バルムンク』ッ!!!!」
人類最高火力が俺の目の前で顕現する。




